第53話 ヴィットヴェーンの『サワノサキ・オーファンズ』。わたしたちの仲間です
「いやあ、上位ジョブになると重たいねえ。マスターレベルまで行きたかったのに」
「まだ初日でしょ。今日は慣らしで本番は明日から」
「だけどさミレア、今のボクたちだったらさ」
ウルがすごいって改めて思い知ったジョブチェンジ初日だけど、ボクのレベルは11だ。もうちょっといけるかなあって思ってたんだけどね。
まあいいか。ごはんごはん。
「ん?」
「どしたの、フォンシー」
「あれ、見てみろ」
フォンシーが見てるのは、ええっとステータス・ジョブ管理課の窓口あたりかな。
「なんだろ、あの人たち」
見たことない人たちだ。えっと、全部で二十人くらいかな。全員濃い目の灰色なお揃いの革鎧を着てる。ひとりだけほとんど黒みたいな色だけど、形は一緒だね。
「若いな。他の迷宮からか?」
「そう思う、けど……」
ヒューマンが多いけど、エルフもセリアンもドワーフもいる。そしてみんな若いんだ。ヒューマン基準だと15歳くらいかな。たぶんボクたちと同世代って感じだ。男の子もいれば女の子もいるね。
フォンシーが他の迷宮かなって疑ったのは、革鎧だよね。村から出てきたとかなら、あんな装備をしてるわけない。
「なあ、ラルカ」
「あ、ウルにもわかる?」
「そうなのか?」
「うん」
ウルのしっぽがぺたんってなってる。ボクのしっぽはブワってしてるよ。
あの人たちが他の迷宮から来たんじゃないかって理由なんだけど、フォンシーと違ってボクにはもうひとつあるんだよ。あの人たち、いや冒険者だね。あの冒険者たち、全員強いんだ。たぶん今の『おなかいっぱい』と同じくらい……。
でもそれだけじゃ、ウルがこんなになるわけない。
「ではよろしくお願いいたします」
「はい。後日面会を」
「それは、この子たちに任せます。代表は──」
そう、受付のサジェリアさんと話してる黒髪の人。ひとりだけ黒い革鎧の女の人。ヒューマンで、見た目はボクたちと同い年くらいなのに。
「ではわたしは行きます。がんばってくださいね」
「うん、ありがとう。メンヘイラ」
メンヘイラって呼ばれたその人は仲間? に声をかけたあと、くるって向き直って出口に歩きだした。けれど途中で止まって、なんでかこっちを見てる。あ、近づいてきたよ。うええ、どういうこと?
「こんにちは」
「……ああ」
彼女はなんか普通に挨拶してきて、フォンシーがあいまいに返事した。ボクはそれどこじゃない。
「わたしはメンヘイラと申します」
「そうか。あたしはフォンシーだ」
「……フォンシー、フォンシーですか。良いお名前ですね」
「そりゃどうも」
なんだ、このやり取り。
目の前にいるこの人、濃い灰色の革鎧の両肩にあるワッペンが気になるのは、ボクたちが最近シンボルを作ったばっかりだからなのかな。
両方とも丸くて、右肩のは白地に灰色でドレスを着た女の人。左肩には銀の縁取りで、これまた銀色の棒みたいなのが描かれてる。これってサジェリアさんたちが使ってる、万年筆ってやつだっけ。
「お願いがあるのです。あの子たちはベンゲルハウダーに着いたばかりなので、頼られたときだけでかまいません、よろしくしてあげてほしいのです。新人としては十分だと思いますので」
新人としてはって、あの子たちはけっこう強いと思うんだけど。
「……かまわないが、なんであたしたちなんだ?」
「こちらの事務所で、同世代があなた方だけだったので。金銭でと言いたいところですが、それは冒険者の流儀ではありませんね」
「そりゃそうだ。だったら聞かせてくれよ。あいつらは何なんだ? ドコから来た?」
フォンシーにそう言われて、メンヘイラさんは黒い瞳で初めて笑った。誇らしげに笑ったんだ。
その顔は、なんかを自慢するみたいな表情だったよ。
「ヴィットヴェーンの『サワノサキ・オーファンズ』。わたしたちの仲間です。では、わたしはこれで」
それだけを言い残してメンヘイラさんは事務所を出てった。ヴィットヴェーンって……。
「で? ウル、ラルカ。あたしにはわからなかったけど、どうなんだ?」
「強くておっかない」
ウルの声がちょっと震えてる。こんなの初めてだよ。
「強いと思う。たぶん、ブラウディーナさんとかポリアトンナさんと同じくらい。もしかしたらオリヴィヤーニャさんと互角かも」
ガタガタってイスを鳴らしてみんなが立ち上がったよ。メンヘイラさんが出てった先を見てるけど、もう彼女はいないね。
だって扉を出たとたん消えたんだもん、あの人。これでもAGIは40超えてるんだけど、それでも全然見えなかったんだ。
「強いと思うとか、たぶんなんて、……ラルカらしくない言い方ね」
ミレアがちょっと青い顔してこっちを見てた。だよねえ、地元で貴族のミレアだったら領主様たちと同じくらいって言われたら気になるよね。それと言い方なんだけどさ。
「あの人がすごく強いのは間違いないと思うんだよ。けど、なんかわかんないの」
「わからない?」
「うん、よくわかんない強さが混じってる? っていうのかな。ボクはそこがおっかないんだよ」
「そう……」
いつの間にか窓口にいた子たちはいなくなってた。足音が聞こえたからたぶん二階に行ったのかな。
その日の夕ごはんは、なんか微妙な味がしたよ。あーあ。
◇◇◇
「あの……、お話いいですか?」
「あ、ああ」
次の日の夕方、食堂で話しかけてきたのは『サワノサキ・オーファンズ』の子だった。ボクたちと同じくらいでヒューマンの女の子。
フォンシーがちょっとビビってるね。
「わたしたちは『サワノサキ・オーファンズ』の『メニューは十五個』っていいます」
なんだそれ。
「あっ、パーティの名前です!」
それはわかってるけどね。変わった名前だねえ。
どれ、ここはボクの出番かな。
「メンヘイラさんからよろしくって言われてるからさ、とりあえず座ろっか」
「そうだったんですね! ありがとうございます。おじゃまします」
てな感じで彼女たちは同じ席に座ることになったよ。どんな話を聞かせてくれるのかな。
「へえ、『おなかいっぱい』っていうんだ。素敵な名前だね」
「うぇへへ、そうかな? そっちこそいい名前じゃない」
「そうだよ! お気に入りなんだ」
ボクたちと向かい合わせに座ってる子たち、全員女の子なんだけど、敬語はお互いにヤメってことで話が盛り上がってるよ。
こっちにしたって女の子だけの、しかも年が近いパーティなんて初めてだしね。
あっちもこっちも六人だから、それぞれ適当にお話し中だ。ボクがたくさん話してるのはヒューマンのシャレイヤっていう子で、『メニューは十五個』の部隊長? なんだって。しかもなんと、ベンゲルハウダーに来た三つのパーティまでまとめてるらしい。ボクより偉い。
残り二つのパーティは『十九の夜』と『二十三の瞳』っていうんだって、面白いよね。
「今日は一日、街を見て回ってたの」
「へえ、ベンゲルハウダーはどうだったかな」
「うーん、ヴィットヴェーンとあんまり変わらないかな」
なあんて雑談状態になっちゃった。
「それでね、お願いがあるの」
ん?
「明日から潜るつもりなんだけど、一緒にってどうかな?」
「ええっと、ボクは別にいいけど……。みんなはどう?」
「ウルはかまわないぞ!」
「……うん」
真っ先にウルとザッティが賛成してくれたね。他の三人は?
いつの間にか雑談がなくなって、みんながこの話に集まっちゃった。当たり前だね。
「シャレイヤだったっけ、強さを教えてもらえるかな」
フォンシーのツッコミは当然かな。確認しもしないでいいよって言ったボクの方が問題だったよ。
「ごめんね。先に言っておかなきゃダメだよね」
シャレイヤが軽く頭を下げちゃった。ボクこそなんかごめん。
「わたしは八ジョブ目で、今はファイター。レベルは15よ」
「へえ」
フォンシーの顔つきが変わったね。ボクたちと同じくらい強いって伝えてあったけど、わざと確認したのかな。
「ここまで全部コンプリートしてるわ。ほかの子もそうよ」
詳しく訊いたら、シャレイヤはメイジ、プリースト、エンチャンター、ソルジャー、シーフ、カラテカ、ウォリアーをコンプリートしてた。
びっくりなのは、ほかの子も同じ感じで、エンチャンターかウィザードかってくらいしか違わないってこと。すごくない?
「報酬はこっちの素材を半分。途中で足手まといだと思ったら、言ってくれていいから」
「なんでそこまでして」
「メンヘイラに言われてるの。最初の内は赤字でもかまわないから、現地の人たちに教わりなさいって」
フォンシーも不思議そうにしてるね。たしかにずいぶん真面目で慎重だなあって思うよ。ちょっと『センターガーデン』を思い出すかな。
「いいんじゃないかしら。こっちは三人がレベル14なんだし、お互い助け合えばいいわ」
「わたしもいいと思います」
ミレアとシエランも賛成って感じで手を挙げた。
「ま、あたしも文句はないよ。いやむしろ、面白そうだ」
相変わらずフォンシーはひねくれた言い方するねえ。
「じゃあ決まりだね。明日の朝、ここに集合。朝ごはんを食べてから出発だよ」
「うん。よろしくね」
そんなで『おなかいっぱい』と『メニューは十五個』の合同探索が決まった。
あれ? レベリング以外で他のパーティと一緒に潜るのって、初めてじゃないかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます