第52話 スキル使ったときみたいに、ばばばって動ける




「さあさあジョブチェンジだよ!」


「ラルカは元気ね。昨日は迷宮探索をしなかったのに、今までで一番疲れたわ」


「忘れようよ。いいことだけを考えるんだよ」


 ミレアにめっちゃ重いため息を吐かれっちゃった。終わったことじゃない。


「そうしたいけど、肩のそれを見るとな」


 フォンシーまで。かっこいいじゃない。せっかくのパーティシンボルなんだからさ。喜ぼうよ。


「気に入ったぞ!」


「……いい」


「ほらあ、ウルとザッティは気に入ってるじゃない。もちろんボクもだよ!」


「そうですね。わたしもいいと思います。経緯を無視できればもっと」


 ボクのせいじゃないもんね。アレは向こうから押しかけてきただけだし。

 ほらほら、早くジョブチェンジしてレベルアップだよ。



「まずは打ち合わせどおり、ひとりパーティだね」


「ああ、使うスキルは最小限。待ち合わせは12層の昇降機前だ。やれるよな?」


 ボクたちは全員レベル0。当然レベリングなんだけど、今回はバラバラでやることにしたんだ。パーティでモンスターを探すより、こっちの方が経験値効率いいからね。


 ボクはパワーウォリアー、フォンシーはビショップ、シエランがシーフ。

 ウルはソルジャーなんだけど、ホントにジョブチェンジしちゃったよ。あれだけ大騒ぎしたウルのニンジャだったけど、終わってみたら一日で、しかも一回も戦わないでジョブチェンジしちゃったね。

 そいでザッティもパワーウォリアーで、ミレアはついにハイウィザードだ。


 シーフとかソルジャーのレベル0がひとりで迷宮探索なんて、普通はとんでもないことなんだけど、ボクたちならできちゃうんだよね。ふふん。

 ちなみにパワーウォリアーはウォリアーの上位ジョブ。ハイウィザードはもちろんウィザードの上だね。



「時間はだいたい三時間だよ。じゃあ始め!」


 ばばってみんなが動き出して適当に散らばっていく。ザッティだけ松明なんだよね。やっぱりメイジとプリーストだけでも取ったほうがいいんじゃない?

 さあ、ボクもやるぞお。



 ◇◇◇



「えっと、ボクが四番目?」


 ちょっとゆっくり目かなあって思ってたけど、待ち合わせ場所にいたのはミレアとザッティ、それとフォンシーだった。


「体力温存よ」


「……松明は不便だ」


 あー、ミレアって面倒になったんでしょ?

 それとザッティの理由は、まあ、しかたないねえ。


「時間には余裕を持たせないとな」


 フォンシーはね、たぶんだけどひとりで迷宮歩くの怖かったんだよね。なんとなくこうなるかなあって気がしてたよ。


「それでフォンシーはどんな感じ?」


「……レベル5だ」


 ==================

  JOB:BISHOP

  LV :5

  CON:NORMAL


  HP :68+19


  VIT:26

  STR:28

  AGI:27

  DEX:40+5

  INT:48+15

  WIS:24+19

  MIN:12

  LEA:14

 ==================


 一人歩きが怖いMINは置いといて、フォンシーはいよいよ後衛よりのステータスになってきたね。

 ビショップはINTとWISが両方伸びるから、ますます後衛って感じになるはずだ。このジョブが終わったら、INTの基礎ステータスが50以上になっちゃうよ。



 ==================

  JOB:HIGH=WIZARD

  LV :5

  CON:NORMAL


  HP :53+18


  VIT:25

  STR:32

  AGI:19

  DEX:25+12

  INT:35+16

  WIS:22+5

  MIN:14

  LEA:15

 ==================


 ミレアは念願のハイウィザードだ。レベルアップするときに、INTが最高で九も増えるんだよ。コンプリートより上まで粘ったら、フォンシーに追いつくんじゃないかな。

 ただ、本人も気にしてるんだろうけどAGIがねえ。これでもそれなりに速いんだけど、20層くらいになると危ないかも。


「ニンジャもいいわね」


「シュリケンかクナイが出てから考えようよ。その前にシーフ取っておこうね」



 ==================

  JOB:POWER=WARRIOR

  LV :5

  CON:NORMAL


  HP :61+23


  VIT:40+17

  STR:46+10

  AGI:22+7

  DEX:33+5

  INT:8

  WIS:9

  MIN:16

  LEA:14

 ==================


 ザッティはとにかくVITとSTRだね。なにげにDEXもけっこう高いや。

 ここまできたらINTとかWISはどうでもいいかなあって思わなくも無いけど、プリーストは欲しいよねえ。


「……次はどうしよう」


 ホントだよ。盾系の前衛ジョブが残ってない。とりあえずシーフやってからメイジでいいんじゃないかな。



 ==================

  JOB:POWER=WARRIOR

  LV :6

  CON:NORMAL


  HP :77+28


  VIT:33+19

  STR:36+17

  AGI:38+7

  DEX:43+9

  INT:23

  WIS:25

  MIN:19

  LEA:16

 ==================


 そしてボクだ。プリーストのできる速い前衛って感じだね。ただウルがすごいもんだから、スピード自慢の座があやしいんだよ。

 速い系のジョブだとニンジャだけど、ウルを見習ってソルジャーとかファイターもやっておいたほうがいいかも。エンチャンターかウィザードも、どっちかは欲しいんだよね。やれることがまだまだたくさんだ。



「お待たせしました」


「待ってたよー」


 なんてしてたらシエランがやってきた。


「どう?」


「レベル7ですね」


「やるねえ」


「シーフは経験値が軽いですから」


 ==================

  JOB:THIEF

  LV :7

  CON:NORMAL


  HP :70+25


  VIT:25+3

  STR:32

  AGI:17+11

  DEX:34+17

  INT:36+10

  WIS:24

  MIN:15

  LEA:14

 ==================


 しばらく後衛ジョブをやってたシエランだけど、いよいよ前衛に帰ってくる。シーフでAGIを上げたらそこからはバリッバリに剣を使うんだろうねえ。

 ついにソードマスターやるのかな。お父さんが泣いてるかもだよ? あ、それを言ったらハイウィザードのお母さんもか。



「ウルが最後か?」


「そだよ」


「待たせてごめん」


「いやいや、ウルはいっつもがんばるねえ」


「おう!」


 ==================

  JOB:SOLDIER

  LV :8

  CON:NORMAL


  HP :79+22


  VIT:30+16

  STR:29+12

  AGI:36+14

  DEX:43+13

  INT:33

  WIS:18

  MIN:19

  LEA:17

 ==================


 レベル8になっちゃってるんだね。さすがはソルジャー、経験値が軽いや。

 一日ニンジャでレベル38なんてとんでもないことをやったせいで、AGIとDEXがボクと殆ど一緒になっちゃった。

 ジョブが少ないウルだったけどさ、もう魔法も使える頼もしい前衛だね!


「ウルはここからハイニンジャがあるからな」


「カラテカとファイターをやってからだ! グラップラーもいいな」


「ウル……、お前」


 感動ってわけじゃなくて、フォンシーが引いてるよ。


「ファイターも……。マルチウェポンね」


「そうだぞ!」


 ミレアの言う『マルチウェポン』ってのは、いろんな武器を持って戦えることだ。『マルチウェポンファイター』なんて言い方もある。けど、ファイターは剣だけなんだよね。

 ジョブならソルジャーとかウォリアーがそうなるんだけど、実はニンジャもなんだ。だからニンジャは普通にロングソードを持って、ファイターのスキルで戦える。ペナルティなしでね。


 ボクもよくわかってない感じだけど、とにかくニンジャはすごいんだ。



「それと、なんか変なんだ」


「変? ウルが?」


「そうだぞ」


「どんな風に?」


「足が動く。スキル使ったときみたいに、ばばばって動ける」


「うええ!?」


 どゆこと?


「ウル……、ここでできるか?」


「おう!」


 フォンシーに言われて、ウルがすかさず動いた。

 速っ!? なにそれ?

 なんかシーフが『速歩』とか『烈風』を使ったときみたいな動きしてる。スキル使ってないのに。


「まさか、スキルトレースなの? それ」


「練習したぞ?」


 訊いたミレアだけじゃない、みんながびっくりしてるよ。もちろんボクだってだ。


「いやいやいや、トレースどこじゃないでしょ。確かにスキルほどじゃないけど、マネしたくらいでできるの? こんなのを?」


「……ブーツだ」


 ザッティ!?


「そうだ。このブーツになってから楽になった!」


「おかしいでしょ!? たしかに楽かもだけど、ボクはできないよ!?」


「……ブーツはきっかけだ。ウルの才能が目覚めた」


 だからザッティ!?


「ずっと起きてるぞ?」


 ウルもさあ。なんかもう驚き疲れたよ。



 けど帰るわけにもいかないし、騒ぎのあとはみんなで24層まで行ってきた。

 ウルなんてレベル15になっちゃったよ。


「一日で24層かあ」


「あたしたちも強くなったもんだ。ウルとシエラン以外はレベル30狙ってもいいかもな」


「だねえ」


 フォンシーもちょっとびっくりしてるみたいだね。

 でもレベル30狙いを本気でやるなら40層くらいは目指さないと。あうっ、46層を思い出してちょっと胸が。



「そういえば、35層のロックリザードとロックバイパーの素材を集めてほしいって言われました」


「なんで?」


「領主様のお達しらしいですよ」


 なんだろ。シエランの言ってる素材って石だよね。


「わたくしも聞いたわ。なんでも迷宮の入り口あたりに壁を造るそうね」


 そういやミレアって、ときどきお父さんと連絡してるんだっけ。そこからかな。


「氾濫対応ってことかな」


「かもねえ」


 フォンシーが顎に手をあてて考えてる。エルフさんってなにしてもかっこいいよね。


「それならまあいいんじゃない? 明日はムリかもだけど、明後日くらいには行けそうだし」


「そうですね」



 氾濫の話題になったら、今のレベルがちょっと不安になってきたよ。

 明日からもがんばってレベリングしないとね。


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