第49話 ありがとう。ウルはやるぞ!




「……話はわかった。誰を選ぶ?」


 おおう、ザッティはわかってくれてたんだ。


 フォンシーが提案した考え方は、誰かひとりを次のジョブまでコンプリートして、『フォウスファウダー一家』のハイパーレベリングに送り出すってことだ。


 最後に決めるのは誰にするかってだけ。あれ? これって最初の話題だったんじゃ。


「まず、あたしは当然、ラルカとシエランはダメだな」


「なんでだ?」


「それはなウル、ジョブの数だ」


「多くていいんじゃないか?」


「ぐぬっ」


 あ、フォンシーが押されてる。やるなあ、ウルは。


「ほらウル。ひとりだけ強くてもダメだよね? ジョブの数だってそうなんだよ」


「そうか。そうだな」


「だからボクとシエランとフォンシーは後回しでってことなんだよ」


「わかったぞ」


 ほら、これでいいでしょ?

 フォンシーの悔しい顔が見れて、ちょっと楽しいよ。



「……まあいいか。残り三人。誰にするかだけど、あたしはウルを推す」


「なんでだ?」


「ぐぬぬっ」


 なんで繰り返すかなあ。


「それはね、ウルがメイジで次はエンチャンターだからです。メイジは上げやすいし、エンチャンターもです」


「そうか。でも、ミレアとザッティが次にシーフをやったらいいんじゃないか? シーフはレベルアップしやすいぞ?」


「あうっ」


 ああ、シエランまで倒されたよ。ウルは強いねえ。しかもまっとうなコト言ってるし。



「……あなた方はまったく。いいかしら、ウル」


「なんだ?」


「わたくしたちはウルがニンジャになるのを見たいの。しかも最強のニンジャよ?」


「最強か!」


「そう、最強よ。ウルは最近ずっと後衛でがんばっていたわ。でもね、そもそもウルは前衛で暴れるのがいいんじゃないかしら」


「おう!」


「だからニンジャになって。そして強くなってモンスターを倒しまくってほしいの」


「わかったぞ。ウルはニンジャになる」


 最初っからミレアみたいに言えばよかったのにね。



「……エンチャンターを一気にコンプリート。大変だぞ、ウル」


「大変か」


「……オレはできると、信じる」


「おう。ウルはやるぞ!」


 キメはザッティだったね。でもめでたしだよ。だってさ、ウルがニンジャなんて最高じゃないか。

 ぜったい似合うし、パーティが強くなれる。やっぱり『おなかいっぱい』の前衛はザッティ、シエラン、ウル、そしてボクだよ。シエランは中衛かもしれないけどね。


 それとフォンシー、固まってないで動いてよ。



「みんな」


「どしたの? ウル」


「ありがとう。ウルはやるぞ!」


 まったくウルったら。最高にかっこいいじゃないか。



 ◇◇◇



「みんな、今までもずっと本気だったけど、今回はもっと本気だよ」


「おう!」


 リーダーだからってなんか言えってさ、そう言われたけどこれくらいしか出てこないよ。

 まあ元気な返事が聞けたからいいか。じゃあ、お揃いの鎧で出発だ。あれ? なんか忘れてる気がするけど、なんだろ。



「どりゃあ!」


 振り回した『黒骨のこん棒』がジャイアントスネークを吹き飛ばした。ふふふ、今のボクならこれくらいスキルなしでもできるんだよ。こん棒はちょっとばっちいけどね。


「次だよ次!」


「ラルカは気合が入ってるな」


「もちろんだよフォンシー。ボクたちの力、見せどこじゃない」


「ああ、やってやるさ」


『おなかいっぱい』が迷宮を駆け巡る。一番低いメンバーだってVITは25だ。並みの大人じゃついてこれない。ボクたちは冒険者なんだからね。どんどんいくよお。


「今日中にウルのコンプリート。それは絶対だからね!」


 ジョブチェンジしに地上まで戻らなきゃならないんだから、中途半端はできないよ。


「ウルはとにかく魔法よ。通じる相手は覚えたわね?」


「おう! 30層までならわかるぞ」


 ウルはメイジだし前に出せないからね。魔法はモンスターに合せなきゃだし、ウルってもしかしてボクより詳しくない?


「ラルカ、勉強しておかないとな」


「……そだね、フォンシー」



「レベル22だ。コンプリートしたぞ!」


「やったあ」


 いつもならもう帰り道の途中かなあってくらいに、ウルがコンプリートした。時間はかかったけどなんとかなったね。

 今日はメイジのレベル18だったからそうでもなかったけど、明日からが大変そうだよ。がんばらなきゃだ。



 ◇◇◇



「やあ、やってるみたいだね」


 みんなで夕ごはんを食べてたとこに声をかけてきたのは『ラーンの心』のレアードさんだ。


「そっちは決まったのかい?」


「ウルだぞ!」


 別に隠してるわけじゃないけど、ハイパーレベリングのことは『おなかいっぱい』も『ラーンの心』も濁してる。ペルセネータさんが頭を下げたってのがね。


「ウルラータか。こっちは俺だよ」


 レアードさんは苦笑いだ。

 別にリーダーだからってワケじゃないんだし、いいんじゃない? レアードさんは元々ジョブがひとつ少なかったし、ナイトだったから余計に大変だったんだ。今回はいい機会だよ。


「プリーストをコンプリートして、ロードになるつもりなんだ。せっかくだし経験値が、ね」


「へえ、すごいですね」


 ロードはヘビーナイトと一緒でナイトの上位二次ジョブだね。WISが要るからザッティは諦めたんだ。なんか悔しいぞ。さっきまでいいねって思ってたけど、なんかふーんって感じになったよ。

 でもね、こっちのウルはすごいコト考えてるんだよ。その日になったらびっくりすると思うから覚悟しといてね。



「あいかわらずそっちの鎧はいいね」


 横から顔を出したのはフェウリィさん。『ラーンの心』のメンバーで、今はカラテカだったかな。ジョブがボクと似てて、たまにスキルのお話なんかもするんだよね。


「レアード、あたしたちも今回のレベリングが終わったら、いいんじゃない?」


「鎧の新調か。そうだな、そうしたいな」


「『ラーンの心』も専用鎧ですか。職人さんなら紹介しますよ?」


 パッハルさんは凄腕だからね。自信を持っておすすめできるよ。


「ありがとう、そのうち頼むよ。そういえば前に言ってた紋章はどうなったんだい?」


「あっ!」


 それだ。なんか忘れてると思ったんだ。紋章のことだったよ。ほら『夜空と焚火』の件があったから、すっかりねえ。

 だからミレア、睨まないで? 怖いって。


「ちょっと用事ができたから、ボクはこれで」


「そ、そうかい」


 ボクはあわてて教導課の窓口に駆けだした。目指す相手はマヤッドさんだ。



 ◇◇◇



「わたしが請け負いましょう」


「いえ、その、ペルセネータさんにお願いするのは、ちょっと」


「構いません。当然お金もいただきますので、贔屓には当たりませんよ」


「高い、ですよね?」


「適正価格です」


 公爵令嬢の適正って、平民には十分高いんじゃないのかなあ。



 どうしてこうなったんだろう。

 マヤッドさんのトコに行って、紋章を作ってくれそうな人を紹介して欲しいって言ったら、なんでかペルセネータさんが出てきたんだ。そういえば教導課の課長さんだったっけ。それから奥の部屋、課長室に連れてかれちゃったんだよ。ボクひとりだけでさ。

 ペルセネータさんと向かい合って座るなんて、いいのかなあ。そんなペルセネータさんなんだけど。


『趣味なんです』


 だってさ。紋章を作るのが趣味って、どうなんだろうねえ。

 なんでも『フォウスファウダー一家』の紋章、『六つの背中』もペルセネータさんが作ったんだって。



「べつに恩を着せようという話ではありません。それに──」


「それに?」


 ごくり。


「わたしのDEXは342です」


 すっごいねー。三桁どころか三百だよ。


「そうですね。一枚1000ゴルドでどうでしょう」


 六人で6000ゴルドかあ。高い気もするけど、ペルセネータさんにここまで言われて断ったら……、ボクの命が危ないね! うん。


「わかりました。お願いします」


「では早速デザインを。紙は用意してありますよ」


「うえええ!?」


 デザインなんてなんも考えてなかったんだけど! どうしよう。これはもう……。適当にやるしかないね。



 ◇◇◇



「ずいぶん遅かったですね」


「シエラン、ボクは疲れたよ」


 ホントにさあ。


「職人さんは紹介してもらえたんですか?」


「うん。で、ね」


「なにか問題でも」


「もうお願いしちゃったんだ。一枚1000ゴルド」


「……わたしもちょっと調べてたんですけど、それって相場の倍ですよ?」


 ああっ、シエランの背中に炎が見える。地上なのに攻撃魔法!?

 ちょっとみんな、なんで目を背けてるの? ウルまでっ!?


「どこの職人さんですか? なんならわたしが直接お値段を──」


「ペルセネータさん」


「……はい?」


「だってさ、相手は公爵令嬢だよ!? 嫌がるボクをムリヤリさあ」


 ボクは目元をぬぐった。全然泣いてないけどね。


「で、本当のところは?」


 ダメだったよ。


「断りきれなくって、お願いしちゃった」


 そのあとけっこう怒られたけど、ペルセネータさん相手で倍ならしかたないって許してくれた。

 でもさ、あんな状況で断れる人っているのかなあ。


「ラルカのデザイン、楽しみにしてるぞ」


 フォンシーはニヤニヤしない!


「……盾がいい」


 ザッティもさあ。



 さあ明日にはウルがエンチャンターだよ。五日でコンプリートしてもらうんだから、みんなでがんばらないとだからね!


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