第50話 六人でがんばったからだよ
「エンチャンターになってきたぞ」
「どれどれ、みして」
「おう」
朝ごはんの前に、ステータス・ジョブ管理課からウルが帰ってきた。
今日からウルはエンチャンターだ。
==================
JOB:ENCHANTER
LV :0
CON:NORMAL
HP :55
VIT:26
STR:27
AGI:24
DEX:32
INT:26
WIS:18
MIN:15
LEA:17
==================
INTが立派になって、って言うのはもうやめよう。けど、前衛ステータスはフォンシーとあんまり変わんないんだよね。ジョブ数の違いって言ったらそこまでなんだけどさ、ウルはここからだもんね。
「じゃあやろうか。ウル、最初はザッティのうしろだからね」
「おう!」
ごはんを食べ終わったらすぐに迷宮だ。今日の目標は最低でもウルをマスターにすること。やるぞお。
「ウルのレベルを見ながらだけど、最後は19層で魔法を撃ちまくるってことで。ウチはウィザードが四人もいるんだからね」
撃ち放題だよ。
「レベル12だ!」
「やったね!」
まだ時間はあるのに、ウルがもうレベル12になった。よしよしっ、いい調子だよ。
「これだけウィザードが揃ってれば、キラーゴーストの相手をするだけでいいな。一日でマスターは確実だろうし、メンターの件は問題なさそうだ」
ボクがモンクになったときも似たようなことしたけど、結構手探りだったもんなあ。今回は経験値が美味しいトコに集中してるんだ。
「今回はウルひとりだからだよ?」
「なあに、今日は確認だけだったし、24層あたりまで行けばいい」
「じゃあ明日はそこからだね。それよりまだ時間はあるよ」
「そうだな。もう少しやるか」
フォンシーにかかったら、ウルのレベリングもメンターの練習になっちゃったよ。
一日目っていうか、初日から数えたら『ウルのコンプリート大作戦』の二日目はウルがマスターレベルになったところでおしまいだ。他にレベルが上がったのはシエランだけだね。
けど明日からはもっと深い層に行くんだし、みんなのレベルも上がると思うよ。
◇◇◇
「……ぐっ」
「これはっ、結構キッツイねっ」
ザッティが受け止めたモンスターをボクがこん棒で殴りつけた。そいつは消えたけど、まだ二匹残ってる。ミレアががんばってるけど、助けにいかなきゃ。
「ごめん」
「ウルが謝ることじゃないよ。運が悪いだけでさ」
大作戦が始まって六日目、つまり最終日なんだけど、ウルはまだコンプリートしてない。
レベルは23になったんだけどさ。それでもまだなんだよ。だからボクらは34層まで降りてきた。
「いいじゃないか。『おなかいっぱい』の最深層更新だ」
「ここの素材は高く売れます」
フォンシーとシエランが妙な励まし方をしてる。
「わたくしたちのレベルも上がるわ。どんどんやりましょう」
ミレアもだけど、ボクたち全員はとっくにコンプリートしちゃってる。
二日前にフォンシー、ミレア、ザッティ。昨日はシエランとボクだ。これはまあ、予定どおりだね。
「まだ昼前だよ。余裕余裕。だからさ、ウル」
「おう。やるぞ」
「相性もあるけど、ウチは魔法が効きにくい相手に弱いのかもしれないわね」
「まともな盾持ちがザッティだけだからな」
モンスターを探しながらミレアとフォンシーが話してる。
うーん、たしかにそうなんだ。シエランは両手剣になるんだろうし、ウルが盾持ちっていうのもあんまり想像できないや。ボクは素手が基本だしなあ。
「わたくしとフォンシーが硬くなればいいのよ」
「そりゃまたずいぶんと先の話だな」
「そうでもないわよ。ハイウィザードが終わったら、一旦ナイト系でもいいんじゃないかしらね」
「それもアリか」
二人は自分を自分で守ることを考えてるみたいだけど、ボクはちょっと悔しいかな。なんとなくほら、不甲斐ないっていうかさ。
「なにも盾だけが守りじゃありません」
シエランが割り込んできた。おおう、なんかキリってしてるよ。
「お父さんから聞いたことがあるんです。剣士は剣で守るんだって」
「……技術でってことかしら」
言ってる内容の割にはミレアが優しく笑ってる。
「そうです。わたしはまだまだです。だから魔法も磨いた。ここからです」
「シエランがこんなこと言ってるぞ。二人はいいのか?」
フォンシーがボクとウルを見てる。そりゃ、シエランにだけ言わせとくわけないじゃないか。
「じゃあボクはね、どかんってやって相手を弾き飛ばすような、そんな盾になるよ」
「ウルは足を引っかけて転ばせるぞ!」
「ははっ、行儀の悪いパーティだ」
「なにさフォンシー、ごはんを食べてるときはお行儀いいんだよ?」
その日の夜遅くになっちゃったけど、ウルがコンプリートした。レベルは25だったよ。
ボクたちがあんな遅い時間にごはんを食べてるのを見て驚いたんだろうね、なんかおじさんたちがツマミを分けてくれた。そんな珍しいもの見たって感じじゃさあ、思わず笑っちゃったよ。
◇◇◇
「では台に手を乗せて、反対の手でクナイを握っていてください」
「おう。じゃあやるぞ」
ハイパーレベリングの当日、ボクたちはステータス・ジョブ管理課の窓口にいた。せっかくだし全員でウルのジョブチェンジを見守ることにしたんだ。なんでか後ろの方にやじ馬もいるね。『ラーンの心』とか『夜空と焚火』まで混じってるし。
「ウルは……、ニンジャになる」
左手のクナイが光の粒になって消えてく。色は違うけど黒門のときみたいだ。
光が消えたときにはもう、ウルはニンジャになってた。
「ありがとう。みんなのお陰だ」
「なに言ってるのさ。六人でがんばったからだよ」
「そうだな!」
ウルがニカって笑う。『おなかいっぱい』にしかわかんない自分勝手な目標だったけど、そうさ、ボクたちはやってのけたんだ。
==================
JOB:NINJA
LV :0
CON:NORMAL
HP :62
VIT:26
STR:27
AGI:27
DEX:37
INT:33
WIS:18
MIN:15
LEA:17
==================
あのさあ、ボクのINTって23なんだけど……。
「ボクね、そのうち後衛やるからさ、そのときは頼むね、ウルっ!」
「お、おう?」
「……おちつけラルカ。オレなんて……」
あ、ごめん、ザッティ。
それにしてもいやあ、伸びたねえステータス。ここからニンジャで速くなるんでしょ?
前衛にはVITとSTRが少ないかもだけど、これでしっかり四つ魔法ジョブ持ってるし、すごいことになりそうな予感だよ。
「そろそろ時間だ。いこう」
「あ、そうだね」
フォンシーに促されてボクたちは外に出た。近くに『ラーンの心』もいるけど、いちおう話さないでおいたほうがいいかな。
『フォウスファウダー一家』と待ち合わせになってるのは、前とおんなじ3層のあの場所だ。
◇◇◇
「よくぞ参った」
いっつも思うけど、オリヴィヤーニャさんって物語に出てくる大魔王みたいだね。じゃあ残りの五人はってことになるけど、それはまあ。
「時間も惜しい。さ、乗るがいい」
でたよ、
「おう!」
逆にウルなんかは嬉しそうに走ってく。やるなあ。
あ、もうひとり前にでた。及び腰だけど、これはたぶん前に経験あるんだろうね。
「ほれ、ウルラータを見習うがいい。早くせい」
『ラーンの心』のレアードさんと残り三人も、なんか首を傾げながら背負子に収まった。知らないんだろうなあ。無事を祈るよ。
出会ってから三分もしないうちに『一家』と六人は迷宮に消えてった。
「さて、戻るか」
「あのさフォンシー、アレって大丈夫なの?」
『ラーンの心』のフェウリィさんが訊いてくるけど、フォンシーはそっと目をそらしたよ。
「ラルカ?」
「ボクはわりかし平気だったかな」
「アレはきつかった」
あ、別のパーティの人まで話しかけてきた。背負子経験がある人だね。
なんか変な感じで仲良くなった三十人で、街に戻ることになった。ウルには悪いけど、さすがに今日はお休みしよう。いやいや、ウルなら楽しんでそうな気がするよ。ブラウディーナさんの背中だったもんね。
◇◇◇
「そろそろかな」
「そうあせるな」
「でもさあ」
夕方になってボクらは事務所でウルを待ってた。あせるなって言う割には、フォンシーだって耳がピクピクしてるよ? 他のみんなも似たり寄ったりだ。いやいや、他のパーティの人たちもだね。
そんな時だよ。
「戻ったぞ!」
ババンって感じで扉をくぐったウルが叫んだ。
近くにレアードさんたち五人もいるんだけど、フラフラだねえ。激戦でも繰り広げてきたのかな?
「レベル38だ!」
「げげえ!」
どうして一日でこうなっちゃうかなあ。ボクたちの激闘六日間はなんだったんだろうね。
「報われたんです。そうに決まってます」
シエランが微妙に死んだ目でつぶやいた。
こうしてウルはすごいニンジャになったんだ。良かったけどね、嬉しいけどね。本人も喜んでるみたいだし、まあいっかあ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます