第43話 なあに、パーティの親睦だ
「それで、どうしておんなじセリフを二回も聞かされるわけですか」
「……すまない」
前回はボクと向かいの六人だったけど、今回は十二人だ。『おなかいっぱい』と『夜空と焚火』はテーブルを挟んで座ってるとこ。
あれから『夜空と焚火』を回復して、それから事務所の食堂でお話し合いだ。なんでこうなっちゃうの?
「あの、この場くらいは払わせて──」
「それはいいですよ。こんなこと言ったら申し訳ないかもですけど、余裕ないんですよね?」
「まあ、なあ」
というわけで食事代は別ってことで、お互いに夕ごはんだ。向かいに沈んでる人がいると、ちょっとごはんの味が変わっちゃうね。ウルも微妙な表情だし。
「そうですよね。わかります」
シエランの目が潤んでるよ。
前回は相手のおサイフ事情なんて訊かなかった。なんとなく想像はしてたけどさ。で、そのとおりだったってことだ。
キールランターからここに来たはいいけど、宿代、食事代、ついでに装備を借りるのにかかるお金。最初にあったお金はメンターでほとんどなくなったみたい。
「シエランと会ってなかったら、あたしとラルカもそうだったかもしれないな。ウルも……」
フォンシーに言われてハッとした。そうだよ。そうなんだ。
シエランに会えたから宿代は半分ですんだし、カースドーさんたちにも会えた。ウルにしたってあのときボクたち三人と会えてなかったら、たぶんこの人たちみたいにギリギリの生活になってたはずだよね。
「ボクたちは恵まれてたんだね」
「おいおい、やめてくれ。こんなこと言えた立場じゃないのはわかってる。けどな、がんばって強くなったあんたらがそんな顔しないでくれよ」
ギリーエフさんこそ泣きそうな顔じゃない。ニクシィさんたちも。
「話にならないわね」
「ミレア?」
「話にならないって言ってるのよ!」
「おいおいミレア、それはさすがに」
立ち上がって怒った顔してるミレアに、ボクとフォンシーがツッコんじゃったよ。
あれ? だけどミレアってそんなこと言うはず? だけど今、目の前で。あーあ、ギリーエフさんたちも俯いちゃってるし、どうしたらいいのさ。
「二日待ってもらえますか? なんとかする方法を考えてみます」
「それよ。シエラン」
なんでかミレアが怒ったまま誇らしげだ。難しいことするね。
「けどね、わたくしたちだけじゃないわ。あなた方もどうしたらいいのか考えなさい」
ミレア、相手年上だからね?
「気に入らないのよ。たしかにわたくしは幸運だったわ。パーティに入れてもらったときにはもう、四人は強かった。わたくしとザッティは助けられたわ。今だからこそよくわかるの」
十一人の視線がミレアに集まった。『夜空と焚火』の人たちまで、いつの間にか顔を上げてミレアを見てる。
「わたくしは全部を叶えるために冒険者になったわ。嬉しく楽しく冒険者をするの。それがなによ、こんな重たい空気なんて、わたくしの求める冒険者じゃないわ」
「いや、しかしだな」
ギリーエフさんが困ってる。そりゃあねえ。
けど『おなかいっぱい』は逆だ。ボクたちはミレアを知ってる。だからわかるんだ。
「ミレアはこいつらを助けたいんだな? だったらウルは手伝うぞ」
「……やるぞ」
ほらね。
「鎧のお金は報奨金もあわせて払えます。少しだけど余裕はありますから大丈夫です」
「リーダー、わかってるよな?」
シエランとフォンシーがボクを見た。
うん。目の前にいる人たちは冒険者だ。ちょっと間の悪かったボクたちだ。だったらどうする?
ごはんを奢ってあげるんじゃダメだ。自分たちで稼げるようになってもらうしかない。じゃなきゃ冒険者じゃなくなっちゃうよ。
「さっきさ、シエランが言った二日って?」
「先走ってごめんなさい。二日あればウルとわたしはレベルを上げられるし、ザッティの鎧も手に入るって、そう思ったんです」
なるほど、そういうことだったんだ。
けれど二日はもったいないなあ。こういうときは、ちらっ。
「わかったわかった。そっちにシーフがひとりいたよな?」
「あ、ああ。わたしね」
女の人がおずおずって返事した。たしか名前はレッティアさんだっけ。
「それとプリーストはニクシィ、だったか? 明日からウチだ」
「え?」
ニクシィさんがポカンってしてるし。フォンシーは物言いがねえ。
「なあに、パーティの親睦だ。もちろんこっちからも二人、そちらに入れてもらう」
それが誰かはまだ決まってないんだろうなあ。
それにしてもプリーストのニクシィさんとシーフのレッティアさんねえ、狙いがわかったよ。
「まかり間違って恩義を感じるなら、そうだな、稼げるようになったらメシでも奢ってくれ。十回だ」
「ウチは大食いですよ? 特にボクとウル。それでもいいですか?」
当然注意しておかなきゃね。あとでこんなに食べるのかって言われても困るから。
だから黙ってないでなんか言ってよ。
「ミレア、こんなもんでどうだ? 勝手に進めて悪かったな」
「いいんじゃないかしら!」
◇◇◇
「ラルカラッハ、……ギリーエフ。これは──」
「親睦です」
「あ、ああ、そういうことなん、です」
歯切れ悪いですよ、ギリーエフさん。もっと胸を張って。
それとマヤッドさん、笑いをこらえなくてもいいから。ボクたちは装備を借りに来ただけです。
ミレアが爆発した次の日、ボクとギリーエフさんは教導課の窓口にいる。
「パーティメンバーを交換なんてなぁ、クランなんかじゃよくあることだ。気張りな」
「は、はいっ」
おっきな声で返事したギリーエフさんを見て、マヤッドさんが反笑いでいつもの盾と革鎧を渡してくれた。『夜空と焚火』の分も防具だけ。
「ラルカラッハ、鎧はいつできるんだ?」
「ザッティの分が明日の夜です」
「そうか。……頼んだぞ」
「なんのことかわかりませんけどわかりました。それと」
「上には言っとく」
「お願いします」
よしっ、協会のお許しっていうかお目こぼしはもらった。黙認? っていうんだっけ。
『タダでメンターなんて、あとになってゴタゴタはごめんだ。それとなく協会に伝えといてくれ』
昨日の夜に言われたフォンシーからのご命令だ。成し遂げたよ。
ついでに大変だろうけど、協会には制度の改革だっけ、それをお願いしますね。
「じゃあパーティメンバーを発表します」
事務所だと目立ちそうだったから迷宮に行く途中でメンバー交代だ。
『おなかいっぱい』はボクとザッティ、フォンシーとミレア。それとニクシィさんとレッティアさん。
『夜空と焚火』の方はファイターのギリーエフさん、ウォリアーのハドルさんとナティルドさん、ウィザードのラウィーさん。そこにシエランとウルだね。
「『おなかいっぱい』は20層から24層を目指します。『夜空と焚火』はウルとシエランをレベリングしながら、とりあえずは15層です」
「ら、ラルカラッハ。24層って、ホントに?」
「本気です」
ニクシィさんが青い顔してるね。レッティアさんは小刻みに震えてるし。だけどやってもらうよ。
「ではこちらを」
シエランがインベントリから武器と盾を取り出した。
因縁の『黒骨のこん棒』『ヘビーボーンメイス+1』『ブラックロングソード+1』『黒きショートソード』そして『闇のヒーターシールド』。相変わらず真っ黒だね。
「どれも40層クラスの装備です。お使いください」
にこって笑うシエランがとっても怖い。『夜空と焚火』が後ずさってるよ。
結局ギリーエフさんが『黒きショートソード』、ハドルさんとナティルドさんが『黒骨のこん棒』。三人はそれと『闇のヒーターシールド』だ。大人の体格だから普通にサイズが合うんだよね。ザッティ、仲間ができたよ。あとはプリーストのニクシィさんが『ヘビーボーンメイス+1』だ。
ボクたちもそれぞれ武器を持つ。ってもウルとザッティだけだけどね。だれにも使ってもらえなかった『ブラックロングソード+1』は残念、しまっちゃおう。
「装備の貸し出し金は、メシ二回分だな。合計十二回に変更だ」
フォンシーは酷いなあ。
「約束どおり取り分は人数割りです」
本物のメンターだったら、契約書を作って教導課に提出なんだけどね。
だけどこれは単なるメンバー交換だ。だから取り分は人数割りで当たり前。シエランに言わせると、怒られないギリギリのやり方なんだってさ。
「本当にいいのか?」
ギリーエフさんが情けない顔で訊いてきた。
「そりゃもうですよ。けど約束ですからね」
「ああ、こっちはシエランの指示に従う、だな。必ず守る」
まあ『夜空と焚火』は大丈夫だと思う。シエランがプリーストとエンチャンターで、ウルはプリーストとウィザードだ。二人四役ってね。
「それに俺がニクシィとレッティアよりレベルが低くても、そんなのは問題にもならない」
もうひとつの心配も大丈夫だね。リーダーが一番じゃなきゃダメだって話も聞くからねえ。
「ウチはフォンシーに任せていいかな?」
「ああ。思う存分暴れろ」
『おなかいっぱい』はレベル14のプリースト、レベル15のシーフがいる。それを守るのは当然ザッティで、フォンシーがエンチャントとシーフの動きでそれを助けるんだ。
だったら前衛はっていえば、レベル21のウォリアー、ミレアとモンクのボク。レベルは14だ。ミレアがタンクでボクがアタッカー。
だから指示出しはフォンシーに任せるよ。エンチャントと魔法援護があっても、それでも大変そうだなあ。
「こっちは深層なので魔法も飛んできます。痛い思いもするかもですけど──」
「ど、どうするの?」
怯えないでくださいよ。
「我慢して、治して、そして戦うんです」
ああ、なんかボクも染まってきた気がするよ。冒険者だもんねえ。
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