第44話 同じ新参として俺たちも混ぜてもらえると嬉しいですね
「『踏み込み』ぃ、からのぉ『粉微塵』。グレーの残りはまかせたよ!」
「『ド=リィハ』。……終わったわね」
20層のゲートキーパーはボクとミレアだけでやっつけた。
ボクの開幕魔法から、そのままシルバーウルフに突撃してどかん。残りはミレアが焼き払っちゃった。ブレスなんて吐かせる時間あげないよ。
「す、すごいわね」
ちょうどレベル15になったニクシィさんが、びっくりしてるよ。レッティアさん、引かないで。レベル16になったんだから喜んでよ。
「これでもウルフスレイヤーですから」
へへん。ちょっと胸張っちゃったよ。
氾濫でシルバーウルフは慣れっこになっちゃたからねえ。シーフのフォンシーでもひとりで倒せるんじゃないかな。
「レベル17までは21層でひっぱるぞ」
フォンシーがそう言って昇降機に向かってく。21層は今のボクたちに向いてるレベリング場所だ。なんでかっていうと、魔法を撃ってくるモンスターが少ないからだね。
シーフのレッティアさんはHPが低い。やっぱり怖いのは魔法だよ。
「つっ!」
「『ファ=オディス』」
「『ダ=リィハ』」
ウィザードコボルトの魔法がよりによって後衛に流れた。ほとんどザッティが受けてくれたけど、レッティアさんにダメージが入っちゃったよ。すぐにフォンシーが治してミレアが魔法で終わらせてくれたけど、レッティアさんの顔は歪んだまんまだ。
少ないっていっても出るときは出るんだよね、魔法を使うモンスター。
「……すまん、レッティア」
「ザッティが謝ることなんて」
「……がんばれるか?」
「……やるわ。王都の貧乏娘根性見せてあげる」
『夜空と焚火』はキールランターの人たちだ。孤児ってわけじゃないけど、それでも職がなくって困ってたらしい。そんな人たちがベンゲルハウダーの話を聞きつけて出てきたんだよね。
「王都も大変なんですね」
「それでも孤児たちよりはましよ。けど最近、ヴィットヴェーンが引き取ってるみたいでね。元気でやってるといいけど」
ニクシィさんが教えてくれた。そんなこともあるんだあ。
「酔狂な話だ。孤児は無事なのか?」
「さあ、そこまではわからないわよ」
フォンシーが眉をしかめてるけど、こればっかりはねえ。ヴィットヴェーンかあ、いろんな噂は聞くけどどんなトコなんだろ。
「ねえミリミレア、気持ちはわかったけど、どうしてあそこまで」
道中でレッティアさんがそんなことを言いだした。いまさらかもしれないけど、訊かずにいられないってとこかな。
「わたくしが気持ちよく冒険をしたいのは当然、それと気に入らないのはベンゲルハウダーの現状ね」
「現状?」
「しかたないのはわかってるわ。けど中途半端なのよ。ステータスはタダにした。それはいいけど、それ以外が追い付いてないわ」
ミレアがまくし立てるのはベンゲルハウダーの現実だ。少しはボクも知ってることだね。
「育成施設はすごくいい。講習会もそうだし、メンターもいいわね。けれどそれでもまだ……、足りてないと思うわ。遅れてると言った方がいいかもしれないわね」
「そりゃ街どころか領地全体の改革だからな。しかたないだろう」
フォンシーが言うこともわかるんだよね。
特に目の前にいる『夜空と焚火』みたいな人たち。『ラーンの心』なんかもそうだし、ボクたちだって一歩間違ったらこうなってたかも。
小さい子供たちなんかは育成施設が面倒みてくれるからいいけどさ、ステータスカードがタダになったって聞いて村から出てきた人たちは、けっこう多いと思うんだよ。けど、そんな人たちって冒険者になりさえすればお金が稼げるとか栄光をとか、そんなのばっかりだからねえ。
『ラーンの心』の悪口じゃないよ。ボクだって考えなしで、なんとなくここに来たんだから。
「ボクなんてお気楽に冒険者になりたいって考えてたしなあ」
「それならあたしもだ。あのときラルカとシエランに会ってなかったら、どうなってたか」
「お互い様だねえ」
「ラルカもフォンシーも、なんでそんなに緩いのよ!」
ミレアに怒られた。目がキッてしてるよ、キッて。
「ラルカはこんなもんだろ?」
どんなさ!?
「まあいろいろやってくれるだろうさ。ここの領主様はあんなだからな」
「フォンシー……、そのうち不敬で捕まるわよ?」
「おお、怖い怖い」
フォンシーはオリヴィヤーニャさんとバチバチやってたもんね。ミレアだって知ってるでしょ?
「あたしたちがこんなことをしてるのは気まぐれだ」
「わかっているわ。これでもほんとに感謝してるの」
フォンシーが釘を刺した。ニクシィさんとレッティアさんは真剣な目をしてるね。
そうだよ、今回は本当にたまたまなんだ。目についた人全員にこんなことしてたらキリがない。だからサジェリアさんたち協会には言ってるし、メンター制度とかもうちょっと見直してくれるんじゃないかな? 協会の会長さんや、それにあのオリヴィヤーニャさんが黙ってるわけないって思うんだよね。
お金とか制度って難しいねえ。装備の貸し出しも安くしてくれるといいな。
その日は22層まで行って、ニクシィさんはレベル17、レッティアさんはレベル18、ついでにボクがレベル16になってお終いだったよ。
◇◇◇
「ウルはレベル12だ!」
「わたしも12です。『夜空と焚火』のみなさんは──」
ギリーエフさんはファイターで、レベル14から15に上がった。ウォリアーのハドルさんとナティルドさん、ウィザードのラウィーさんもレベル15だね。全員一個ずつだ。
「二パーティとしての収支はギリギリ赤字です」
「すまん」
シエランの報告でギリーエフさんが頭を下げた。他の人たちも。もういちいちそんなことしなくてもいいんじゃないかなあ。
「『夜空と焚火』さん、宿代の蓄えは大丈夫でしょうか」
「ああ、二、三日なら」
本当にギリギリだね。三日以内にちゃんと稼げるようにしないと。
「大丈夫ですよ。『夜空と焚火』は明日でトントンでしょうし、ニクシィさんとレッティアさんが稼いできてくれます」
そう言ってシエランがちらっとこっちを見た。
「うん、そうだね。二人は明日中にレベル21とか22だろうし、コンプリートかもしれないね。それなりの素材も持ってこれると思うよ」
ニクシィさんはオロオロしてるけど、レッティアさんはキマった顔だ。いいねえ。
楽しく冒険者をやっていきたかったらそれだけ稼ぎが要るって、ホント思い知ったよ。
「ちょっとお邪魔してもいいかな」
「レアードさん」
横からいきなり声をかけてきたのは『ラーンの心』のレアードさんだ。横にはメンバーも一緒にいるね。なんだろ。
「いやなに、『おなかいっぱい』と仲の良さそうなパーティがいるから、俺たちにも紹介してもらおうと思ってね」
紹介ねえ。ボクは知ってるよ。昨日ボクらが騒いでたとき、近くにいたでしょ。
どうする気かな。
「俺たちの方が年少だろうし、こちらからですね。俺たちは『ラーンの心』。『おなかいっぱい』を追い越すパーティですよ」
『ラーンの心』はだいたい18歳くらいだったかな。たしかに20歳ちょっとの『夜空と焚火』よりは年下だね。ところで追い越すって、別にそれはどうでもいいんじゃないかなあ。
「そうか。俺たちは『夜空と焚火』。王都から来たばかりの駆け出しだ。『おなかいっぱい』には良くしてもらっている」
ギリーエフさんが返すけど、良くしてるって、すんごい微妙な言い方だねえ。たぶんバレてるよ?
ほら、『ラーンの心』もイスに座って、すっかり話す感じになってるし。
「『おなかいっぱい』と『夜空と焚火』が交流ですか。同じ新参として俺たちも混ぜてもらえると嬉しいですね」
あ、そうきたかあ。
「ははっ、あははは!」
フォンシーが笑っちゃったよ。実はボクもちょっと笑ってる。ギリーエフさんたちは不思議そうにしてるけどね。
「はははっ、で、レアード。そっちは誰が欲しいんだ?」
「欲しいとは失礼だね。メンバー交換だよ」
フォンシーとレアードさんの会話が始まった。
それから『夜空と焚火』のジョブとレベルを聞いて、レアードさんがちょっと考えてる。
「そちらのナティルドさんとラウィーさん、こちらからはメティハとフェウリィを交換ではどうでしょう。二人とも四ジョブ目のウォリアーで、レベルは14です」
メティハさんとフェウリィさんは『ラーンの心』の女性メンバーだ。氾濫のときは二ジョブのソルジャーとメイジだったはずなのに、今はウォリアーやってるんだ。
「いいのか?」
さすがにギリーエフさんも気付いたみたい。
「彼女たちはプリースト持ちのウォリアーです。安定した前衛ができますよ」
「……助かる」
「あたしはメイジもできるからさ、魔法にも期待してくれていいよ。です?」
ギリーエフさんが神妙にしてるのを見て、フェウリィさんが明るく言い放った。敬語があやしいのがいいねっ。
「それでなレアード、交流の後は『夜空と焚火』がメシを奢ってくれるそうだ。それも十回」
ニヤって笑ったフォンシーがレアードさんに報酬を教えてあげた。そしたらレアードさんもおんなじ感じで笑う。
「それはいいですね。期待しています」
「ああ、そうしてくれ。必ず奢ってやる」
ギリーエフさんに向き直ってそう言ったレアードさんはちょっと楽しそうだよ。こういうの好きそうだもんねえ。
「そいつらもパーティに入るのか。ウルとシエランのレベルが一番低いな。がんばるぞ」
「そうねウル。わたしたちもがんばりましょう」
こんな感じで三パーティ合同のレベリングが始まった。
遠くからサジェリアさんとマヤッドさんがこっちを見てるけど、目は温かいよ。
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