第42話 せっかく理解してるリーダーみたいな感じだしてたのに!




「今後もある。残り三人もどうしたいか話しておいた方がよさそうだな」


 真面目くさった顔でフォンシーが提案したよ。まあたしかに、今後のこともあるしね。


「じゃあフォンシーは?」


「わがままを言わせてもらおうかな」


 フォンシーがふっと笑った。視線の先にいるのはミレアだね。どういう意味かな。


「ウィザードだ」


「三人目ね。歓迎するわよ」


 ミレアがフォンシーを見ながら返事する。こっちも笑ってるけど、どういうことなのかな。


「前衛三つにシーフも取った。一旦うしろでもいいだろう?」


「もちろんよ。フォンシーがうしろの間、わたくしは前衛ステータスを稼がせてもらうわね」


 あ、やっとわかった。フォンシーがウィザードになったら、後衛がウルとシエランとで三人決まっちゃうんだ。じゃあミレアはどうするってことかあ。



「その後はビショップだ。ハイウィザードはミレアにとっとくさ」


「お気遣いありがとう。けれどもっと先は別だとわたくしは考えているわ」


「へえ?」


 フォンシーの笑い方が悪くなってるよ。こういうときのフォンシーって黒くて楽しそうだなあ。


「ハイウィザードが当たり前。そんなのがたくさんいるパーティよ。アイテム無しで就けるジョブなんだから」


「ならない手はないってことだな」


「そうね」


 うわわ。二人がなんかすごいこと言いだしたよ。ハイウィザードが当たり前?


「強いパーティ……。わたしたちは今、色々なことができるようにがんばっています。その先ですね」


 シエランまで……。でも、いいね。どんな将来があるかなんてさ、冒険者になってみんなでお話してるのって夢みたいだよ。


 けど、だから忘れちゃダメなことだってあるんじゃないかな。ふっと浮かんできたんだ。『夜空と焚火』を見たせいかなあ。



「こないだパーティを助けたって話、したでしょ」


「ああ、そうだったな」


「ボクたちは強くなったと思うんだ。迷宮で誰かを助けるなんて考えてもなかったからさ」


 うん、そうなんだ。けど大切なことは憶えてる。


「だからってなんにも変わらないよ。調子に乗って転んだら痛いのは変わんない」


「子供のころに、か」


「そうだよフォンシー。天気がいいからって上ばっかりみてたら、足元に穴があって転んじゃうんだ」


 大事なことだからね。みんなにだってあるんじゃない?


「いいこと言うじゃないか。そういやあたしも考え事してて転んだことがあるな」


「ウルもあるぞ。ずざざって転んだ」


「……木から落ちた」


 ウルとザッティのは普通に失敗しただけじゃないかなあ。


「わたしも考え事をしててパンを焦がしたことがあります」


「わたくしはこれといってないわよ」


「……よそ見しながら人にぶつかって、串焼きを落として泣いていた」


「ザッティっ!」


 ははっ、そうだよね。



「話の途中だったのにごめんね。なんか思い出しちゃったからさ」


「……いや、足元を見て歩くのは大事だ」


「ザッティの言うとおりよ。ラルカもやるじゃない」


 リーダーだもんね。当然さっ。


「じゃあ続けましょう。ザッティはどうするの?」


 ミレアが真面目な顔でザッティを見た。キリってしてるよ、キリって。串焼きの話、気にしてるんでしょ。


「……ウォリアーだ。すまん」


「どうして謝るのよ」


「……シーフも考えた。だけどまだ早い。……『おなかいっぱい』にはまだ盾が必要だ」


 うん、そうだよ。まだまだザッティの盾は要ると思う。


「……ロードにはWISが足りない。ソードマスターとサムライは盾が持てない」


「そうね」


「……だからウォリアーだ」


 そっか。すっごく考えたんだろうね。だったらボクたちはどうしたらいいのかな。



「考えたならそれでいいわ。けど、もう少しすれば悩むこともなくなるわよ」


 ミレア?


「フォンシーがジョブチェンジをしたらウチはウィザードが三人よ。ならタンクが三人でもいいじゃない」


「……ミレア」


「なんならわたくしがやるわよ。ウルやラルカの方が上手にやるでしょうけどね」


「ウルが盾を持って暴れるのか? いいぞ!」


「……ウル」


 ザッティが感動してるっぽいけどさあ。あれ? これってボクも盾持ちやる流れ?


「だからザッティ、今はそれでいいけど後で頼ってちょうだい。わたくしたちにはそれができるし、できるようになるから」


 なんかいい話になってるし。

 それとミレア、盛り上がるのはいいけど足元の話も忘れないでね。



「そんなミレアはどうするんだ?」


 フォンシーがミレアに振った。本当ならシーフなんだろうけど、でもミレアのことだから多分。


「ファイターよ」


「へえ、シーフじゃないんだな」


「そのうちシーフも取るわ。けどわたくしはまだVITもSTRも低いし、AGIは全然。だからファイターよ」


 なるほど、全部を上げるんだ。

 けどボクにはわかってるよ。ミレアがシーフになったら前衛が二人だけになっちゃうもんね。フォンシーがウィザードでシエランがエンチャンターになるって聞いたからでしょ。


「あのなラルカ」


「ん? なに?」


「ふんふんって頷いてるけど、あたしたちだってミレアがなに考えてるかってことくらい、わかってるからな?」


「せっかく理解してるリーダーみたいな感じだしてたのに!」


 ひどいよフォンシー。


「ウルはもう眠いから寝ていいか?」


 こうして冒険者の夜が更けていった、ってやつだね。ボクも眠いかな。



 ◇◇◇



「あの、ジョブチェンジしてきました……」


「あれ? どしたの、シエラン」


 なんかおどおどしてない?


「それが……、MINの補助ステータスがなくなったって思うと……」


 なんだかなあ。


 ==================

  JOB:ENCHANTER

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :56


  VIT:25

  STR:32

  AGI:15

  DEX:25

  INT:23

  WIS:21

  MIN:15

  LEA:14

 ==================


 15もあるじゃん。普通でしょ。シエランってたしか最初10くらいだっけ。


「それは慣れるんじゃないかなあ。エンチャンターってAGI伸びるよね。狙ってた?」


 話題を変えよう。そうしよう。


「はい。一応は頭にありました。でも伸びが少ないから、やっぱりシーフは欲しいですね」


「シーフはスキルも便利だもんね」


「はい」


 エンチャンターはDEXとINTの伸びがいいから、シエランはすごくなるだろうね。こうなるとウィザード取らないのがもったいない気がするよ。



「ウルはプリーストだぞ!」


「やったわね」


 近くでミレアがウルを撫でてた。いいなあ。

 ステータス見せて見せて。


 ==================

  JOB:PRIEST

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :41


  VIT:24

  STR:25

  AGI:24

  DEX:29

  INT:16

  WIS:8

  MIN:15

  LEA:17

 ==================


 ウィザードのときもそうだったけど、WISが8のプリーストってどうなんだろうねえ。INTも補正が消えて16だし。

 けど、ウルの本命って前線で走り回ることだし、魔法は補助ってくらいでいいのかな。多分ボクもそうなるし。そうなるとやっぱりシエランもウィザードやってほしいなあ。うーん、難しいね。


「レベルが上がるまで、うしろで魔法を撃つぞ」


「ウルはわかってるねえ」


「おう!」


 さて今日はボクとザッティ、ミレアで前衛、ウルとシエランが後衛だ。フォンシーはシーフだから走り回ってエンチャントね。

 早いとこレベルを上げて安定させないと。



 ◇◇◇



 シエランが後衛になっちゃったし、初日は13層までってことにした。


「『神撃』ぃ!」


 ボーリングビートルが二匹同時に吹っ飛んで、バトルフィールドにぶつかってから消えてったよ。


「ラルカ、やりすぎだ」


「だってさフォンシー」


 せっかくモンクになったのに昨日一昨日って前に出してもらえなかったしさあ。ちょっといいとこ見せたいじゃない。


 それにしてもさすがはモンク最強スキル。ただのおもいっきりパンチなんだけどね。全力猫パンチだよ。これは強いや。

 けどこれ踏み込みとか、体の動かし方とか勉強になるね。これはもうスキルトレースがんばるしかない! 打つべし打つべし。



「『粉微塵』んんんっ!」


「ラルカ、スライムにやること?」


「だってさあ、ミレア」


 うん、楽しい。モンクでよかった。


「ほら、もうそろそろ昇降機よ」


「はぁい」


 今日の探索でシエランとウルはレベル7になった。ボクは残念、上がらなかったよ。

 そんなで9層の昇降機を目指してる帰り道なんだ。せっかくだしモンクのスキルを使いまくったんだけど、いいねえ。明日もたくさんスキルを使おっと。



「ん?」


 ウルがピクって耳を動かした。


「なんか困ってる声がするぞ」


 え? 慌ててボクも『聞き耳』を使って探ってみる。


『もうすぐで昇降機だ。がんばれ』


『あ、ああ。ニクシィ、しっかりしろ』


『ええ、わたしは大丈夫……』


「……」


「ラルカ?」


 ウルがどうするんだって顔でこっち見てるけどさあ。ボクはこめかみを抑えたよ。



「あの人たちはぁぁぁ!」


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