第41話 肉色がいいぞ!




「ほらっ、見ておくれよ!」


 パッハルさんがすぱぁんって感じでステータスカードを取り出した。


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  JOB:THIEF

  LV :15

  CON:NORMAL


  HP :12+56


  VIT:14+13

  STR:13

  AGI:10+44

  DEX:19+40

  INT:9+16

  WIS:9

  MIN:15

  LEA:12

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 へえ、レベル15になったんだ。二日で十も上げたんだね。

 気にしてたDEXは59かあ。元が35だったから倍とまではいかないけど、けっこう感覚変わるんじゃないかな。


「さっそく今晩から始めるよ。まずはザッティの鎧と全員分のブーツからでいいかな?」


「はい。それでお願いします」


 シエランを先頭にしてボクらは頭を下げた。いよいよ専用鎧だね。


「そうだねえ、五日後。五日後店に来ておくれ。間に合わせるさ」


「ありがとうございます」


「ああ、そうだ。色はどうするんだい? こっちはオマケしてあげるよ。協会にはナイショだぞ?」


「色?」


 ああ、シエランが固まっちゃった。



 ◇◇◇



「色、ねえ。ザッティはどう思うかな?」


「……黒だ」


「だよねえ。ミレアは? 金ピカとか?」


「わたくしをなんだと思っているのよ」


「男爵令嬢だけど」


「ラルカが貴族をどう思ってるかはわかったわ。ウチは貧乏男爵なのよ。それに派手なのはわたくしの趣味じゃないわ」


「そうなんだ」


 宿屋に戻ったボクたちは、パーティの名前を決めたとき以来の大問題を抱えてた。


「そんなに難しい話か?」


 たぶんそうなんだよ、フォンシー。



「じゃあさ、前みたいにみんなの意見を訊いてみたいかな。まずはえっと、シエランから」


「明るい色でなければ」


「明るいとマズいの?」


「汚れが目立ちますから」


 洗濯物みたいだね。


「ザッティは──」


「……黒だ」


「そうだったね。ウルは?」


「肉色がいいぞ!」


「それって赤とか茶色とか?」


「おいしそうならなんでもだ」


 革鎧は焼かないし食べないよ。高いんだから。


「フォンシーは?」


「個人的な好みなら……、緑だな」


「どして?」


「森で目立たないからな」


 狩人かあ。とってもエルフっぽいよ。


「じゃあミレア」


「色はどれでもいいわ。それより装飾にこだわりたいわね」


「貧乏男爵だったよね?」


「だからこそよ。自分で稼いだんだから、好きに使うわ」


 あのさあ、それってみんなのお金なんだけど。


「派手なのはダメね。それとなくがいいかもしれないわ」


 その話、長くなるのかなあ。



「で、ラルカは?」


 フォンシーだけじゃない、みんながこっちを見てる。けどね。


「ボクの意見はなし」


「どうしてだ?」


「適当な理由をつけてボクの言った色になりそうだもん」


 あ、みんなが目をそらした。ほら。


「発表します。『おなかいっぱい』の色は、濃い緑色に決まりました。お金に余裕ができたら、ちょっと飾りもくっつけるかもです」


「肉色がないぞ?」


「ウルは野菜も食べたほうがいいって思うんだ」


「わかったぞ!」


 よっしゃあ。


「濃緑色で野菜って、どうなんだ?」


「ボクの村にあったんだ。野菜をぎゅってしぼった飲み物。体にいいんだって」


「ああ、エルフの里にもあったな」


 なんでフォンシーは遠い目をしてるのかな。

 でもまあ決まり決まり。めでたしめでたしだよ。


「さすがはラルカですね」


「いやあ、それほどでも」


 シエランは優しいなあ。



 ◇◇◇



「じゃじゃん。モンクだよ!」


「正真正銘の殴りプリーストね。ラルカらしいわよ」


「うへへ。そうかなあ。ミレア、ありがとね」


 次の日の朝、ボクはモンクになった。プリーストになったときから狙ってたんだよね。

 そうそう、鎧の色は迷宮の帰りにでも伝えに行くつもりだよ。パッハルさんって朝早いのは苦手なんだってさ。昨日も夜になってから仕事するって言ってたし。


 ==================

  JOB:MONK

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :55


  VIT:23

  STR:24

  AGI:34

  DEX:35

  INT:23

  WIS:20

  MIN:19

  LEA:16

 ==================


 で、ステータスはこんな感じ。

 目立った不得意がないって、いいよね。ここまできたらパラメーターが低いからなれないってジョブはないみたい。あとは前提ジョブとかアイテムが要るジョブだね。


 ミレアの言ったとおりでモンクっていうのは殴りプリーストだ。カラテカみたいに前衛ステータスが伸びて、WISも増える。お得だね。けど、新しく回復魔法を覚えるわけじゃないんだ。そっちはビショップ系なんだって。

 じゃあモンクってなにって話だけど、殴ったり自己バフができるスキルがもらえるんだよね。中にはWISが高いと威力が上がるのもあるんだ。



「ここから先の近接ジョブはニンジャ系だけですね」


「ニンジャはウルが予約だしねえ。まあコンプリートしたら考えるよ。シエランこそコンプ間近でしょ?」


「考え中です」


 シエランの場合はカタナが出ないとねえ。けど、いろんなジョブを選べるだけのステータスのはずだから、いったんそっち、なんてのもできる。ボクたちも贅沢になったよ。


「みんなももう少しでコンプリートだけどさ、ちょっとの間でいいからボクのレベリングをお願いね」


「おう!」


「……ラルカを守ってやる」


 ウルとザッティが頼もしいや。



「じゃあお願いするね。目標は二日でマスターレベルかな?」


「いいや、今のあたしたちならもっと短くできる。初日は12層から始めて目的地は20層だな」


「うえぇ」


「ラルカは好きに殴ればいいさ。自分で回復しながらカラテカとグラップラーをやってればいい」


 フォンシーは自信ありげだけど大丈夫かなあ。


「二日使ってパッハルをレベリングしてわかったんだ。荷物がひとつならどうとでもできる」


「それにラルカなら基礎ステータスもあるし、スキルも使い放題でしょ。わたくしたちだってもう少しでコンプリートなんだから、明日には27層よ」


 ミレアまで、もう。



 ◇◇◇



「『ティル=トウェリア』」


「『連突き』」


 ウルの魔法とシエランの攻撃がモンスターを消しちゃった。やっつけたのはタイロン・ウッド。ここって18層なんだよね。

 ボクの体が銀色に光った。またレベルアップだよ。


「どうだ?」


 嬉しそうにしっぽを振ったウルが見つめてくる。綺麗な目だなあ。いやされるよ。


「レベル8だね」


 まともに戦闘始めたのって12層からだったからねえ。道中は最短距離で走り抜けちゃったよ。

 まだ二十回くらいしか戦闘してないけど、さすがは格上モンスターだけあってポンポンレベルが上がってく。


「HPが92、VITは34。そろそろ前に出て──」


「まだですね」


「だってシエラン、レベル上げただけ深層行くから、ずっとまだまだのままなんじゃ」


「初日ですから」


 ザッティが守って、シエランはアタッカー、魔法はウルとミレアがやってくれるから、ボクの出番がない。あれ? フォンシーは?


「エンチャントして逃げ回るさ」


「万全だねえ」


 その日、『おなかいっぱい』は20層まで潜って、ボクはレベル11になった。一日でこれってさあ。



 さらに次の日、27層でレベル15。速すぎでしょ。モンクって一応上位ジョブだよ!?


「最初のジョブをコンプリートするのにひと月かかったよね。おじさんたちに助けてもらってもだよ?」


「あれがあったからこそだろう? あのときに20層までを使って、さんざん戦い方を教えてもらったじゃないか」


「そうだね。そういうことかあ」


 フォンシーがうっすら笑う。なんかすごく嬉しそうだ。

 あのときは必死でやってただけだったけど、今になってそれがボクたちの力になったんだ。


「みんなのステータスが上がって一回の戦闘が楽になったのと、武器が良くなったのもあるわね」


「ウィザードが二人とエンチャンターがいるのも大きいですね」


「優秀な盾と怖い剣士もね」


「ミレア……」


「ちょっとシエラン、怖い顔しないでよ」


 ミレアとシエランがわちゃわちゃしてる。

 そっか、いろんな積み重ねがあって、それでレベルアップが楽になってきたんだ。



 さらにさらにその日のうちにフォンシー、シエラン、ウル、ミレアのレベルがひとつずつ上がったよ。コンプリートしちゃったのはシエランとウルだね。さて、どうしよう。



 ◇◇◇



「ボクはもうモンクになってレベリング中だけど、みんなはこれからどうしたいの?」


「そうだな。はっきり決まってるのはウルのプリーストだけ、か」


「おう!」


 ボクの話を引き継いだフォンシーに、ウルが元気よく答えた。

 いつものことだけど宿屋のベッドでお話し中だよ。


 これで五人目のプリーストだ。ウルは自己回復を考えてるみたいだけど、慣れたら他の人にもできるようになるよ。ボクだって練習中だしね。



「シエランはどうするの?」


 シエランは悩んでたみたいなんだよね。選べるジョブがたくさんでボクには想像できないや。

 シーフかソードマスターあたりな気がするけど。


「わたしは……、エンチャンターになりたいです。それからシーフを考えてます」


「へえ? どうしてだ?」


 フォンシーが笑いながら返すけど、目は真剣だね。ここでエンチャンターっていうのは正直意外だった。


「ウルがプリーストになれば、『おなかいっぱい』はプリースト五、ウィザード二、エンチャンター一になります。もう一枚エンチャンターがいてもいいかなって」


「それだけじゃないだろ?」


「好きなときに自分をバフしてみたいんです」


 そうくるかあ。自己バフだけじゃなくって魔法バフまで。ってことは。


「シーフでAGIとDEXも増やしたいって思ってます。シーフのスキルがあれば剣術に役立ちますし」


 うんうん。『跳躍』『回避』『速歩』『跳躍+1』『速歩+1』『烈風』。このあたりは足さばきがほとんどだけど、剣術と組み合わせられるね。ボクはカラテカスキルでそれをやってる。


「ふたつのジョブを挟みますけど、目標は強い剣士です」


 見たことない強い目でシエランは自分の将来を言い切った。


「エンチャンターを先にするのは、慣れておくためです。『おなかいっぱい』には三人もシーフがいますから」


「シエランが自分からはっきり言うって珍しいね。ボクはいいと思う。応援するよ」


 そうだよ。目標があって、ボクらはそれを目指せる下地があるんだ。

 周りの誰もなにも言わない。これはもうやれってみんなが後押ししてるんだよ。がんばれシエラン。


「ありがとう、ございます……。少し遠回りかもしれませんけど、よろしくお願いします」


 ちょっと涙ぐんでるね。大丈夫大丈夫。みんなが頷いてるよ。



 ジョブチェンジする二人は決まった。けれどジョブ談義の夜はまだまだ長いみたい。


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