第40話 パーティを組んでから気付くなんてことも
「なんでさっ。さっきのDEXの話から、ボクは悲しいよ」
プンプンだよ。
「あのさ、アタシなんかマズいことにしちゃったかな」
「いや、パッハルは悪くないから気にしないでくれ」
「そ、そうかい」
なんかパッハルさんがオロオロしてるけど、それどこじゃない。それにフォンシー、なんでそんな落ち着いてるのさ。これは大問題だよっ。
「まあ落ち着いて考えてみろラルカ」
「なにをさ」
「なにも意地悪じゃない。いいか、今回やるのはパッハルのレベリングだ」
それはわかってるよ。
「じゃあ、それをするのに絶対必要なのは誰だ?」
「えっと、ザッティとミレア」
ザッティは絶対の壁だし、パッハルさんを守りながら戦うんなら魔法を使えるミレアは大事。
「同じ理由でウルもだな」
「ウィザードだもんね」
「それとあたしもだ」
「どして?」
「エンチャントだ。パッハルを硬くできるし、モンスターを弱くもできる」
ううっ、たしかにその通りかも。
「じゃあなんでシエランなの?」
「今回はザッティをパッハルに張り付ける。純粋なアタッカーはラルカとシエラン、どっちだ?」
「……シエラン」
「そういうことだ」
ううっ、ボクは素手でシエランが剣なだけで、ボクら二人はあんまり変わんない。プリーストもメイジもできるもんね。
けど今の強さならシエランだ。ボクのジョブがプリーストでシエランがサムライっていうのが大きすぎるよ。
「……わかったよ」
なんか丸め込まれた気もするけど。
「ひとりの間、ラルカは暴れてくるといいさ。13層くらいまでなら平気だろ?」
「まあねえ」
そうだ。ひとりなら経験値効率もいいし、ここはみんなを出し抜くチャンスだよ。やるぞお。
「なんかひとりで13層とか物騒な話が聞こえたけど、まとまったのかい?」
「大丈夫、パッハルさん。みんながレベリングしてくれるから、安心してください」
『おなかいっぱい』はボク自慢のパーティだからね!
◇◇◇
「『ダ=ルマート』、からのぉ!」
みんながパッハルさんのレベリングを始めた次の日、今日もボクはひとりで迷宮をウロチョロしてる。昨日半日でパッハルさんはレベル10になったみたい。今日は15層から20層くらいを狙うらしいよ。
「『強打』!」
メイスでぶっ叩かれたリーンオークが消えてった。
元気に声を出しながらやってるけど、やっぱりちょっと虚しいねえ。
「でもまあ、ひとりで12層なんてボクも強くなったなあ」
でも寂しいかな。ええいもうっ、大暴れしてやる。モンスターには悪いけど憂さ晴らしだあ。
「あ」
ひとりでガンガン戦ってたらレベルアップしちゃったよ。これでレベル21。ってあれ?
「コンプリートしちゃってる!?」
おおおお。やった! そっか、暴れるのに夢中で経験値効率のこと忘れてたよ。昨日の今日なのにさ。12層のモンスターだって、ひとりでたくさんやっつけたらレベルも上がるよね。
「うひひ。これはもう帰って自慢するしかないね」
事務所でさ、みんなが戻ってくるのを待ち受けてさ、新しいジョブでステータスカードを見せつけてやるんだ。あ、でも相談しないで勝手にジョブチェンジしたら怒られそうだしなあ。悩むなあ。
「でもまあお昼を過ぎてけっこう経ってるし、戻ろっか」
時計は持ってないけど、お腹の減り具合でだいたいわかるもんね。
「ふんふんふ~ん」
9層まで戻ってきて、後は昇降機に乗れば一気に5層だ。途中で何回かモンスターと戦ったけど問題なし。やっぱりこれくらい浅いとこだとメイジの魔法は便利だねえ。
「あれ?」
なんか人の声が聞こえた気がする。しかも焦ってる感じの。
「あっちかな?」
『もうすぐで昇降機だ。がんばれ』
『あ、ああ。ニクシィ、しっかりしろ』
『ええ、わたしは大丈夫……』
『聞き耳』を使ったらはっきりした。右側の通路から聞こえてくる。
いかにもって感じで怪我人パーティだよ。急がなきゃだね。
「ボクは『おなかいっぱい』のラルカラッハです。プリーストです!」
しゅばばって走ったらすぐにパーティが見つかった。男の人と女の人が三人ずつ。20歳くらいかな、ボクより年上なのは間違いない。
不審者みたいに思われたらヤだから、いちおう自己紹介だけはしておいた。
「ひ、ひとりで迷宮に?」
「それはあとで説明します。今は怪我してる人を」
「あ、ああ、頼めるか」
「はいっ!」
ボクは回復魔法を連発した。『冒険者は見捨てない』ってね。
◇◇◇
「いやあ、助かったよ。本当にありがとう」
「何回もお礼言ってもらったし、それにごはんだって」
「夕飯を奢るだけで良かったのかい?」
「もちろんです!」
少し早めの夕ごはん、しかも奢ってもらえるなんて最高だよ。
助けたのは『夜空と焚火』って名前のパーティだった。王都のキールランターから来たんだって。
話してくれてるのはリーダーのギリーエフさんだ。
「ここに来る途中でみんなで決めたんだ。ちょうど夜営してるときにね」
かっこいいパーティ名ですねって訊いたら、なるほど。そういうのもアリだね。
「引き際を思い知ったわ」
なんて言ってるのはニクシィさん。スラっとしたかっこいい感じのお姉さんで、プリーストなんだって。
『夜空と焚火』のプリーストはニクシィさんだけ。あとはウィザードがひとりで、残りは前衛。前衛にはシーフもひとりまじってる。一ジョブ目ならしかたないね。
みなさんレベル14と15らしい。マスターまではメンターに頼んだんだって。
この人たちの悩みは長く戦えないことだ。もちろん深く潜れないのもあるんだろうけど。
「魔法を使い切るのなんて、あっという間ね。ホント」
ため息を吐いてるニクシィさんを見て、ボクも思うトコはあるよ。
やっぱりボクたちは恵まれてた。フォンシーが最初にプリーストだったのもそうだけど、なにより三人ともメイジをコンプリートしてもらえたのがおっきいよね。カースドーさんたちには何度でも感謝だ。
回復魔法は回数だよなあ。完全回復じゃなくたって、ちょっとでも治れば帰り道くらいならなんとかなりそうだし。
「──ラルカラッハはどう思う? 五ジョブなんでしょ?」
「あっ、ええっと、プリーストはムリでもメイジはどうですか?」
「メイジか。なるほどそれなら」
ギリーエフさんは納得してくれてるのかな。
講習で回復魔法こそが長く潜る基本だって教えてくれるけど、本当に迷宮に入ってみて痛い思いしないと実感できないかも。ボクたちも毎回傷だらけで戦ってるしね。
怪我してると焦るし、動きは当然悪くなるよね。痛いってつらいよ。
「とにかくコンプリートまで焦らないでがんばって、役割を増やすようなジョブチェンジしたらちょっとは楽になると思います」
「うん、そう思う」
「今日はありがとうね」
そんな感じで『夜空と焚火』の人たちは帰ってった。
偉そうなコト言っちゃったけど、パーティそれぞれだからねえ。まさかあの人たち全員メイジだーとかやらないよね?
◇◇◇
「なんてことがあったんですよ」
「そうだったんですね」
『おなかいっぱい』とパッハルさんはまだ戻ってこない。暇つぶしであっちも手が空いてたサジェリアさんとお話だよ。
なんで協会の人と話してるかっていえば、冒険してて気になったことがあったらなんでもいいから教えてほしいって言われてるからなんだよね。今後の参考とかなんとか、だって。
「ラルカラッハさんはどう思います?」
「そうですねえ、最初のジョブをコンプリートするまでが大変そうです。あと、回復魔法の回数も」
結局そこだってボクは思う。マスターレベルまでレベリングしてもらえるのはいいことだと思うけど、ちょっと中途半端な気もするし。
「実際にそうなってみないとわからないことは多いんでしょうね。パーティを組んでから気付くなんてことも」
ああ、サジェリアさんはそういう人たちをたくさん見てきたんだろうな。
「あの、どうしてマスターレベルまでなんですか?」
「メンターをしてくれる冒険者がそう多くないんです。マスターまでなら短期間ですけど、コンプリートとなると、ですね」
「うわあ」
カースドーさんたちがどれだけ優しかったか思い知ったよ。心なしサジェリアの目がジトってしてる気がする。
「そろそろ『おなかいっぱい』もメンターをできそうじゃないですか? 今日だって──」
「あばばば、ムリですよ。ウチなんてまだ借り物防具なんですから」
「パッハルさんに作ってもらうんですよね」
「そ、そりゃそうですけど。ボクたちなんて駆け出しだし、まだまだ稼がなきゃだし」
「あら、氾濫で活躍したじゃないですか」
誰か助けて!
「ふふっ、冗談です。すみません」
「い、いえ」
ふひぃ。
「ラルカラッハさんの感想ですが、上に伝えておきますね」
「そうなんですか?」
「それはもう。現場の意見は大切ですから。……みなさんお戻りですよ」
あ、ホントだ。
「ラルカ、戻ったぞ!」
「うん。お疲れウル!」
戻ってきたウルと、手をぱちーんってしてお帰りのあいさつだ。
「お互い無事でなによりだ。ラルカはどうだった?」
「それがね、聞いてよフォンシー、いろいろあってさ。あ、そうだ、レベル上がってコンプリートしたんだよ!」
「そりゃ良かった。話はメシを食べながらかな」
「そうだねっ」
あれ? ついさっきもごはん食べたような。まあいいや。みんなでごはんは楽しいからね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます