第39話 アタシが最高の鎧を仕立ててやろうじゃないか!
「ここかな?」
「……ここだ」
手に持った地図を見ながらザッティと額を突き合わせる。たぶんここだね。
周りからはとんかんとんかん音が聞こえてる。ここら辺は職人街なんだって。
マヤッドさんから紹介状と地図をもらったボクたちは、革鎧専門の職人さんに会うことになったんだ。そいで地図を頼りについたのがここ。
なんか普通の家だね。石造りで白い壁で赤い三角屋根で新しくも古くもないって感じ。ちょっと変わってるのは庭の地面がむき出しだってことくらいかな。そこらの家なら花壇とか小さな畑とかにするのが普通みたいなんだけど。
「とりあえずお話だけでもしてみようよ」
「そうですね」
ボクたちを代表してシエランが扉をノックした。家とか間違ってないといいけど。
「あいよお!」
「こんにちは。パッハルさんでしょうか」
「そうだけど、アンタらは?」
「わたしたちは──」
なんか力強い感じのお姉さんがドアをばあんって開けて登場した。それでもシエランは普通に返事してる。成長したねえ……。MINを補助ステータスで上げてるだけかな。
まあいいや。とにかくボクらもあいさつだね。
「そうかいそうかい。アタシはパッハル。よろしくね!」
パッハルさんはドワーフの女の人だった。赤い髪をポニーテールにして、分厚い革でできた作業着みたいのを着てる。いかにも職人って感じの人だ。ドワーフの人は歳がわかりにくいけど、たぶん20歳くらいかな。くりくりした黒い目がボクらを行ったり来たりしてるや。
「マヤッドさんの紹介かあ。登録はしてみるもんだね! さあ入って入って」
勢いあるなあ。
◇◇◇
「へえ、素材持ち込みでオーダーメイドねえ。いいねえ、冒険者だねえ」
腕を組んだパッハルさんがうんうんって頷いてる。ボクも冒険者っぽくて、いい感じの依頼だって思ってるよ。
お店の片隅に置いてあったテーブルを囲んで、ボクたち六人とパッハルさんとでお話し中だ。
「それにしてもアンタら若いねえ。まだ駆け出しだろうに、どれどんな素材か見せてごらん」
「はい」
なんかシエランが察した顔してるよ。いいんじゃない? 別に驚かれてもさ。
「こちらです」
「……はっ?」
みんなで手分けしてインベントリに入れてた素材をドサドサって出してあげたら、パッハルさんが固まった。うぇひひ、ボクたちを新人だって甘くみてたでしょ。まあ新人だけど。
「そっか、これがベンゲルハウダーなんだね。いやぁ、来たかいがあったってもんだ!」
なんでもパッハルさんは師匠に認められて一人前になったからって、王都を離れてここに来たらしい。それも店を開いたのがつい五日前。冒険者協会に革装備の専門店ですよって登録して、初めて紹介されてきたのがボクたちだったみたい。
「いやあ、蓄えはあるけど家賃とか食費とかでさあ、客が来なかったらどうしようってひやひやしてたんだよ」
だったら王都にいればよかったのに。なんでわざわざベンゲルハウダーまで。
「だけどさ、今ベンゲルハウダーとヴィットヴェーンが熱いって聞かされたからさあ、だったらやるしかないってなるでしょ!」
「はあ」
シエラン、ちょっと呆れてるね。お金とかに厳しいからさ。でもパッハルさんみたいな思い切り、ボクは嫌いじゃないな。ほら、ボクも勢いで村を出たからさ。
「それで六人分でいいのかな? 予備とかは? あと、作る順番とか」
「……その前に、パッハルの作った鎧を見せてほしい」
なんとっ、ザッティが変なこと言いだしたよ。
「へぇ。楽しいこと言ってくれるじゃない」
「……悪いとは思ってる」
「なんも悪いことないさ。ちょっと待ってて」
ニヤって笑ったパッハルさんはお店の奥に引っ込んでった。
ザッティはただ黙ってる。つられてボクたちも黙っちゃってるよ。まさかザッティがねえ。
「待たせたね。ほれ、ブラックリザードの革鎧だよ。わかりやすくていいでしょ」
戻ってきたパッハルさんが持ってるのは黒い革鎧だ。わざわざブラックリザードのなんて、自信があるのかな? どれどれ。
「これは、いいな」
「……見事だな」
「いいですね。とてもきれい」
フォンシー、ザッティ、シエランがそれぞれ褒めてるよ。ウルとミレアは首を傾げてる。ボクとしては、つなぎ目がきれいだなあってくらいかな。
「……丁寧な仕事だ。継ぎ目もしっかりしてる。サイズ調整まで考えているな」
ザッティらしくない長いセリフだよ。ボクにはそっちが驚きだ。
「へえ、わかってるじゃない。さて、お値段は協会の規定どおりだ。どうする?」
「一領22000ゴルド。本当にいいんですか?」
シエランがちらっとザッティを見てから、ちょっと申し訳なさそうに言うけど、それって。
ザッティは黙って頷いてるね。
「規定の最高値かい。剛毅だねえ」
「……それくらいの価値はあると思う」
ザッティが言い切った。
事前にマヤッドさんから相場は聞いてたんだ。今回みたいな素材を組み合わせた革鎧の製作費。あんまりひどいことにならないように協会が決めてて、それが15000から22000ゴルドの間だって。
「気に入った! アンタらが気に入ったよ。アタシが最高の鎧を仕立ててやろうじゃないか!」
「お願いします」
シエランがちょっと笑ってお願いしちゃったよ。でもまあいいか。ところでミレア、うんうんって頷いてるけど、さっきわかってなかったよね?
◇◇◇
それからパッハルさんはボクたち全員の寸法を測った。なんかやたら細かくてびっくりしたよ。
専用のブーツを新しくしたほうがいいって勧められて、それもシエランが納得しちゃった。なんかザッティまで欲しいって言いだしてさ。
追加でひとり4000ゴルドだね。財布大丈夫!?
「じゃあ順番っていうか、とにかくまずはザッティの分だね」
「……頼む」
前衛と後衛がくるくる入れ替わるのが『おなかいっぱい』だからねえ。その中でもザッティは絶対に前衛だから、最初にするのは当たり前なんだ。
ボクたちはみんなコンプリートが目の前だから、二番目からあとは次のジョブ次第ってことになった。
「ジョブチェンジねえ。流行ってるって聞いてるけど、この中でDEXが一番高いのって誰?」
なんとなく雑談してたらパッハルさんが訊いてきた。職人さんだしDEXが気になるのかな。別に教えちゃダメってことでもないし、いいよね。いちおうみんなに目くばせはしておいた。
みんなでステータスカードを出して、それぞれ確認だ。そしたらさあ。
「73だ」
「65です」
フォンシーとシエラン。
「41ね」
「……64」
ミレアとザッティ。そして、そしてさ──。
「ウルは79だぞ!」
「……ボクは、ボクは35……」
ウルが一番なのはわかるよ。シーフが長かったし、今はDEXが上がるウィザードだしさ。
けどさ、なんでボクが一番低いの!?
「合計ステータスだから仕方ないだろ。基礎ならラルカが一番じゃないか」
フォンシーの言ってるとおりなんだけどさっ。それでも悔しいじゃない。
あれ? パッハルさんが口を開いて呆けちゃってる。どうしたの?
「……アンタらのそれって、ジョブチェンジしながらレベリングしたんだよね」
「まあ、そうです。ボクは低いですけど」
「ラルカラッハは基礎ステータスで35なんだろ? 十分すごいじゃないか!」
なんかパッハルさんが盛り上がってる。
「見ておくれよ、これ」
そう言ってパッハルさんが自分のステータスカードを取り出した。
==================
JOB:THIEF
LV :5
CON:NORMAL
HP :12+18
VIT:14+4
STR:14
AGI:13+12
DEX:19+16
INT:9+5
WIS:6
MIN:15
LEA:12
==================
へえ、シーフなんだ。最初の方でなれるジョブだとDEXが一番上がりやすいのってシーフかエンチャンターだったよね。このステータスならシーフで決まりだ。実際シーフだし。
「な。レベル5まで上げて、やっとラルカラッハと一緒なんだよ」
褒められてるんだかわかんないんだけど。
「そこで頼みがある。仕事の前にレベリングしてもらえないか? もちろん金は払う!」
「うええ!?」
ボクたちがレベリング!?
「どうせなら少しでもいいモノを作りたい。アンタらだからこそだよ」
「フォンシー、どうしよう。ボクはいいかなあって思うけど」
うん、いい鎧になるならボクたちにも悪い話じゃないし、お金ももらえるんだよね?
「ラルカがいいならいいさ。パッハル、今からの一日半でどうだ? それで、上げられるトコまで上げる」
「話が早くていいね。それでお願いするよ!」
おおう、なんかポンポン話が進んでくよ。
「お代は、そうだね……、24000ゴルドでどうだい?」
「へえ」
値段を聞いてフォンシーがニヤリって笑う。どういうことかな。
「ブーツの代金ですよ。冒険者を五人、24000ゴルドで一日半雇うなら、相場より少し高いくらいですから」
「ああ、なるほど」
シエランがこっそり教えてくれた。レベリングのお礼で六人分のブーツを作ってくれるってことかあ。ん?
「五人って?」
「なに言ってるんだラルカ。パッハルをパーティに入れるんだから当たり前だろ」
フォンシーがこっち見て呆れてるよ。まあそれはいいけど、じゃあだれが抜けるの?
あれ? フォンシー、シエラン、ミレア、なんでボクを見てるのかな?
「抜けるのはまあ、ラルカだな」
「そうですね」
「順当ね」
「うええぇぇぇ!?」
なんでっ? ボクってリーダーなんだよ? おかしくない!?
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