第38話 結局がんばって30層に行ってこいってだけじゃないか?




「なるほどな。革鎧の素材か」


「はい。今のボクたちでオススメってありますか?」


「むう」


 ボクたち六人の向かいに腕を組んで座ってるのは教導課のマヤッドさんだ。ドワーフのおじさんってみんなおひげ生やしてるねえ。

 窓口で声を掛けたら奥の部屋に入れてくれたんだよね。いっつも思うんだけど、ここの冒険者協会って冒険者に優しすぎない? こんなものなのかなあ。


「無理せずオーダーメイドじゃダメなのか?」


「お値段もありますし、パーティとしてがんばってみたいんです」


 シエランが胸の前で両手握りこぶしだ。お金がからむお話だけにボクは最初だけで、ここからはシエランに任せるよ。


「今のわたしたちなら30層はなんとかなると思います」


「ステータスを確認させてもらっていいか?」


「はい」


 マヤッドさんに言われてボクたちはステータスカードを差し出した。



「なるほど悪くない。お前たち、ここまで強くなっていたか。ロールは?」


「全員が前衛をできます。タンク専属が一、シーフは三。今の前衛アタッカーはラルカ、ミレア、わたしの三人ですね」


「ほう」


「後衛はプリーストが四、ウィザードが二、エンチャンターはひとりです」


 ポンポンとシエランが説明してるけど、強くなったよねえ。全部の役割を足したら倍以上だよ。


「30層まで行けば楽にコンプリートも狙えるな。いいじゃないか!」


 マヤッドさんの声が大きくなってく。すっごく楽しそうだ。


「教導課冥利に尽きるってもんだ。マルチジョブの申し子たちってなあ」


 そっか、協会の教導課からしたら、冒険者が育つのは大歓迎だってことだね。

 講習もそうだし、装備も貸してくれたもんね。こっちこそ感謝だよ。


「スライム……、いやブルースライムか。基本はブラックリザードで、あとは強化素材……」


 ぶつぶつ始めたマヤッドさんをボクたちは黙って見てる。ドキドキだよ。



「よしっ! 30から32層でブラックリザード。26か27層でブルースライム。27層から30層でアーマーツリーだ。これなら順番にやれるだろう!?」


「は、はあ」


 勢いにシエランがちょっと引いてるよ。

 ええっと、26層から30層、できれば32層まで狩りまくればいいのかな?


「強靭なブラックリザードを基本に、ブルースライムで耐衝撃。アーマーツリーで部位を補うついでに耐魔法だ」


「は、はあ」


 シエラン……。


「素材を集めてきたら鎧屋を紹介してやる。がんばれよ!」



 ◇◇◇



「結局がんばって30層に行ってこいってだけじゃないか?」


「台無しだよフォンシー。ここはほら、目標ができたってことでさあ」


「レベリングもはかどる、か」


「そうそう」


 フォンシーがうんうんって首を縦に振ってくれた。みんなもまあ、それぞれ納得してくれてるかな?


「今日は26層まで行ってみよう」


「そうね。一気に30層はムリよ。少しずつでいいと思うわ」


「前衛ミレアに期待してるからね」


 昇降機は20層から24層、27層から31層だ。今ボクたちがいるのは24層。27層までは歩きだね。



「『ティル=トウェリア』!」


 ウルの魔法が迷宮26層で炸裂した。ウィザード最強魔法だからってやりすぎでもないね。このあたりのモンスターを一気に全滅させるなら、これくらいしないと。

 それにほら、スライムってあんまり触りたくないしさ。


「いいわね、ウル」


「そうか!」


「慣れた?」


「大体狙ったとこに当たるぞ。大きさもなんとなくできる」


「DEXかしらね。わたくしもいよいよシーフを考えないと」


 ミレアとウルがウィザード会議だ。

 ふむふむ、補正ステータスがあるから、レベルが上がったら現役ウィザードが強いんだね。


「この先を考えたら、もうひとりずつウィザードとエンチャンターが欲しいな」


 フォンシーも考え込んでる。しかも言ってることがすごく贅沢だね。けどまあわかる。


「物理に強いモンスター、魔法に強いモンスター。どちらも相手にしないとならないもんね」


「だな。魔法の数は増やしたいし、エンチャントで前衛の攻撃力も上げたい」


 これくらいの階層になると、魔法の効かないモンスターだって出てくる。逆に剣が刺さらないモンスターも。両方を相手にするなら手数だよねえ。

 けど、ザッティとウルとボクって前衛だよなあ。最近だとシエランも。そっか、自分でエンチャントしながらってのもアリかも。



「先のことはコンプリートしてからだな。今は目の前のアレだ」


「そだね」


 フォンシーが目を向けたのはべちゃっとした青いなんかだ。なんかとしか言いようがないんだよ。ブルースライムのドロップで、革鎧の緩衝材? とかいうのに使うんだって。

 インベントリに入れちゃうから手で触らなくってもいいんだけどね。


「ここならみんなのレベルも上がるだろうし、『目指せ30層しゅばば作戦』でいってみよう」


「おう!」


「……おう」


 ウルが元気に、ザッティが静かに返事してくれた。他のみんなは? ちゃんとやってよ。



「ブルースライムは残して、それ以外の素材は卸してしまいましょう」


「どれくらい要るかって考えてなかったけど、どうなんだろうね」


「そうですね。余れば後で売ればいいですし、レベリングのついでだと思ってたくさん集めましょう」


 そういうとこ、シエランってしっかりしてるよね。


 26層からの帰り道はボクとシエランが大暴れして、他のみんなは魔法を適当に撃ってただけだった。ザッティは見てるだけだね。



 ◇◇◇



「だいぶ貯まったねえ」


「そうね。そろそろマヤッドさんに相談してみない?」


 ミレアがちょっとお疲れっぽい。魔法担当だったんだから、そんなでもないんじゃない?

 いつもみたいにベッドに座ってみんなでお話し合いだ。


 あれから十日くらいかな、ボクたちはがんばった。

 ブルースライムをがんがん燃やして、アーマーツリーには魔法が効かないから、ばしばし斬った。ボクも一緒に殴ったよ。


 ブラックリザードには苦労したよ。炎魔法があんまり効かないから氷魔法で足止めしてみんなで攻撃したんだ。本当はシエランにがんばってもらうつもりだったんだけど、カタナを持ってないからサムライスキルが使えなくって、普通にファイターとかウォリアーのスキルで戦うことにしてたんだ。最初っからわかってたんだけどね。


 そこで大活躍したのがザッティだ。『ラージシールド』っていうスキルで三人をいっぺんに守ってから、『シールドバッシュ』でどかーんって感じ。吹き飛ばされたブラックリザードに、みんなで寄ってたかって攻撃して倒したんだ。お陰でボクらは傷だらけだし、通りかかった冒険者さんがぎょってしてたよ。


 そんな感じでボクたちはブルースライムゼリー、アーマーツリーの皮、ブラックリザードの皮なんかをたくさん集めたんだ。


「ほら、ラルカだって遠い目してるじゃない」


「いやあ、思い出すとねえ」


「そうね」


「……ふむ」


 ミレアと二人でしみじみしちゃったよ。ザッティは微妙に自慢げだけどね。しっぽ見てなくていいよ?


「お陰でコンプリート目前だ。いいじゃないか」


「フォンシーの言うとおりですよ。素材も集まりましたし、そろそろマヤッドさんのところに行ってみましょう」


 フォンシーとシエランは前向きだねえ。


「この十日で借り物の修理代がまたかさみました。新しい鎧で取り返さないと」


 ああ、シエランの目が燃えてるよ。

 急いで鎧を作ってもらおう。そうしよう。



「ウルも早くコンプリートしたいぞ。次はプリーストだ!」


「ええっ!?」


 あれ? これって前にもあったような。


「で、でもウル、前にプリーストは難しいからって」


「練習する。それに自分をヒールするなら簡単だぞ。ラルカだってそうしてる」


「まあ、そうだけどさ」


 他の人に回復魔法を使うのって結構大変なんだ。ヒールしてって言われたらそうするんだけど、ボク以外でプリースト持ちの三人、フォンシー、ミレア、シエランなんかは言われる前に他の人を見て魔法を使っちゃうんだよね。しかも初級、中級、上級を使い分けてだよ。ボクにできるわけない!


 だから開き直ったんだ。ウチには四人もプリーストがいるんだし、ボクは言われたら回復する係ってね。もちろん自分にかけるときだけは自由自在だしさ。


「ヒールは思い切りなのよ。そろそろ声をかけられそうかな、っていうくらいで使えばいいの」


「それが難しいんだけどね」


「練習なさいな」


「はぁい」


 ミレアは厳しいねえ。



「それにウルは今しかプリーストになれない」


 これまた前に聞いたのと一緒だね。

 ウルのWISは『7+18』。ジョブチェンジしたら8ってことだ。今はレベル20だから、コンプリートしてもプリーストの条件、WISが10にはなれない。けれど基礎と補正を合せて25の今ならってことだね。


「ビショップも考えた。けど、自分をしっかり治せるようにプリーストだ」


「……ウル、お前ってやつは」


「どうした?」


「いや……、なんでもない」


 フォンシーが天井を向いてふるふるしてるよ。あ、ほほに光るモノが。シエランとミレアも似たり寄ったりだ。

 あのさあ。ウルはもう立派に考えてるから、いちいちそんなにならなくてもいいんじゃないかな? ボクだってちゃんと考えてるんだからね。褒めてくれてもいいんだよ?


「……それで明日はマヤッドのとこか?」


「そうだね、ザッティ。そうしよう」



 ウルの将来は明るいとしてさ、目標は鎧の新調なんだからね。ボクはそろそろ寝ちゃってもいいかな。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る