第2章 ベンゲルハウダーの中堅冒険者

第37話 全員お揃いの革鎧がいいなあってボクは思うんだ




「なんか慣れたと思ったら、もうレベル17だもんねえ」


「慣れたのかレベルが上がったお陰なのかわからないな」


 フォンシーが苦笑いだ。シエランとミレアもだね。


「……重い」


「ヘビーナイトは大変だね」


 ここ五日でボクはレベルが三つ上がった。けどザッティはひとつ。さすが上位二次ジョブ、経験値が重たいね。このままじゃコンプリートはボクが先になるかもだ。


 ボクがプリースト、ウルがウィザードになって十二日。今まで前衛で暴れてた二人が後ろになったから大変かなあって思ってたけど、そうでもなかったよ。

 ザッティが前でどっしり構えてくれてるのと、逃げ回りながら、おっと敵を引きつけながらエンチャントしてるフォンシー。思ったより遠慮なくモンスターを叩くミレアに、なんかこうザクザクって感じで切り裂くシエラン。


「なんかさあウル」


「どうした?」


「ウルは魔法を撃ってるからいいけどさあ、ボクはなんなんだろ」


「回復してるぞ?」


「そうなんだけどねえ」


 今の前衛でプリーストじゃないのってザッティだけなんだよね。だからボクはザッティを専門に回復してる。もちろん他の仲間から言われたらそっちもだけど。



「うー、殴りたいし、蹴っ飛ばしたい」


「物騒よラルカ」


「だってさ、ミレア」


「帰り道でやってるでしょうに」


 ボクたちは相変わらず『しゅばば作戦』で稼いでる。深い層に行って、帰り道の分を残してスキルをバンバン使って経験値を稼ぐんだ。それで帰り道で素材を集めるって感じ。作戦に名前を付けたのはボクだ。リーダーだからね。


 そいで帰り道でモンスターをやっつける係がボクなんだ。なんたって初級の魔法だけじゃなくって、シーフ、カラテカ、グラップラー、プリーストの攻撃スキルが全部使えるからね。


「素手スキルはいいですね。講習で薦められるわけです」


 シーフは動く感じのスキル、カラテカとグラップラーは攻撃と自己バフ、プリーストはメイスで殴る。全部同時にできちゃうんだ。素手になりたかったらメイスをインベントリに入れればいいだけだしねえ。

 斬ることに目覚めちゃってるシエランが言っても、あんまり説得力がないけどさ。


 そうなんだよ。ファイターも、シエランのサムライも武器が無かったらスキルが使えない。

 もしファイターがメイスを持ったらスキルが使えない上に攻撃力がガタ落ちするんだ。武器適性が合ってないからね。


「逆もそうです。プリーストが剣を持っても仕方ないですね」


「マルチジョブの怖いところだな。スキルがあっても武器適性か」


 シエラン先生の解説にフォンシーも入ってきたよ。


「サムライ経験のある現役プリーストがカタナを持ったらどうなる?」


「えっと、サムライスキルは使えるけど攻撃力は落ち、る?」


「なんで最後をボカすかな。それで正解だ」


 よかったあ。


「オリヴィヤーニャくらいのステータスがあったら問題ないんだろうけどな」


「たしかに。けど、ややこしいねえ」


「まあな」



「だからこそ素手スキルは有効なのね。素手に武器適性なんてあるわけないから」


 今度はミレアだ。


「ウルも蹴りたいぞ!」


「じゃあウルもカラテカになればいいわ」


「おう!」


 ウルがニンジャになるのはいつなんだろうねえ。


「……たくさんジョブを取って、たくさんステータスを上げればいい」


「ザッティの言うとおりだ。できることが増えて、それを使えるに越したことはない」


 最後はザッティとフォンシーがまとめてくれたよ。


 だれもレベル20になってないのにボクたちは24層でこんなことしてる。ジョブを重ねてきたからだけど、ボクらも強くなったねえ。レベリングもはかどるってもんだよ。


「さあ、そろそろ戻ろっか」



 ◇◇◇



 順調にレベルアップしてる『おなかいっぱい』だけど、悩みだってある。


「補修代が2000ゴルド。それと貸し出している鎧の在庫が少ないみたいです」


 いつもの三段ベッドでお金担当のシエランがばんって感じで言った。

 武器は全部自前になったからいいんだけど、防具がねえ。武器とか盾はそう簡単に壊れないのを使ってるし。


「やっぱり防具も自前にしたほうがいい?」


 シエランが言いたいことってそうかなあって訊いてみた。


「マヤッドさんにもそう言われました。わたしたちくらいになったらって」


 マヤッドさんっていうのは、冒険者協会の教導課の人だ。ドワーフのおじさん。

 武器とか防具の貸し出しって教導課なんだよね。ボクたちは防具をずっと借りてやってるけど、なんとなくってくらいの理由なんだ。前にせっかく仕立て直してもらった『ブラックリザードの革鎧』を壊したのが、ちょっとボクらの心に傷を作っちゃったかも。


「……すまん」


「ごめんなさい」


 ザッティとミレアが謝るけどしかたないよ。二人とも前衛でがんばってるんだから。むしろサムライのシエランがあんまり壊さないほうがボクには不思議なんだ。


「謝ることはありません。前衛なんですから」


 うわあ、シエランがそれ言うんだ。なんかフォンシーが笑いをこらえてるよ。



「……フォンシー」


「わかったわかった」


 シエランがニッコリ笑って、フォンシーは両手を上げて降参した。


「だけどどうするんだ? ミレアには大きめの革鎧を新調してもいいけど、ザッティにはフルプレートでも着てもらうのか?」


「……サイズが」


 だよねえ。ザッティに合うサイズのフルプレートなんて、それこそ特注だ。


「フォンシー、ザッティは──」


「わかってる。ザッティがジョブチェンジすることまで考えないとな」


 思わず言いかけたボクだったけど、フォンシーにあっさり流された。うん、そういうことだよ。それが言いたかったんだ。フォンシーってすぐにそうやって他の人に考えさせようってするよね。自分は答えを知ってるくせに。

 けれどボクにだって考えがあるんだ。



「あのね、できればなんだけど、全員お揃いの革鎧がいいなあってボクは思うんだ」


「どうして?」


 ニヤニヤしながらフォンシーが訊いてきた。


「装備適性だよ。ザッティにフルプレートを着てもらったまんまもしプリーストになったら、武器と同じみたいにペナルティだっけ、それが入っちゃう」


「そうだなジョブチェンジのたびに鎧の新調なんて、大手クランのやることだ」


「だからこそ、協会が装備の貸し出しをしているんです」


 フォンシーとシエランの言葉で最初に戻っちゃったよ。


「それにボクとザッティの身長だね」


 ボクが150くらいで、ザッティは145。他の四人は女性用の鎧ならなんとかなるけどさあ。


「それで揃いの革鎧っていうのは?」


 もっかいフォンシーがボクに訊いた。


「ほら革鎧なら全部のジョブでほとんどペナルティなしなんでしょ?」


「そうだな」


「だったらいっそ、みんなで丈夫な革鎧を作ったらなあって」


「素材を集めて、か」


「そうそう。それに『一家』みたいでかっこいいじゃない。お揃いの鎧。あれってワイバーンらしいよ?」


 迷宮で宝箱から鎧が出るのはすごく嬉しい。だけど、サイズがねえ。

 だったらもう作るしかないじゃないか。しかも素材を集めてって、これって冒険者らしくない?

 しかもお揃いだよ、お揃い。せっかくのパーティなんだしさ。そういうのってかっこいいじゃないか。なんてことをみんなに言いたかったんだ。



「リーダーのお達しね、わたくしは壊している側だし従うわ」


「いや、従うって」


 言い方言い方。


「賛成ってことよ。ジョブチェンジのたびに防具に悩まなくてもいいのは魅力ね」


「あたしも賛成だ。どうせウルもラルカも後衛のままじゃない。すぐに前に出て暴れるつもりなんだろ?」


 まずミレアとフォンシーがいいよって言ってくれた。


「……助かる」


「ウルもお金を気にしないで暴れたいぞ」


 ザッティとウルも。だけどウル、自前の鎧だって壊れたらお金はかかると思うな。

 そして問題は財布係のシエランだ。さあ、どうなる。



「そもそもわたしが言いたかったこともそれです。いいと思いますよ、お揃いの鎧。とても素敵です」


 そうだったんだね。素敵って部分が多めなような気もするけど、シエランも賛成してくれた。


「決まったならそうだな、まずは素材からか。候補は──」


「わたしたちが手を出せるのはリザード系でしょうか」


「部分的に硬い素材もいいと聞くわ」


 フォンシー、シエラン、ミレアが話し合いを始めた。

 ザッティとウルは……、寝てるよ。いつもどおりだね。


 ゴブリンやオークとかウルフなんかは革鎧に向かないんだって。ウルフの毛皮はマントにできるんだけどね。氾濫で手に入れたブラッドウルフの毛皮は、まだ貯め込んだまんまだよ。


「どうせ24層でも安定してるんだし。レベリングも一緒にできそうな深い層がいいと思うわ」


「……たしかにな。だけど24層で装備を壊すのを安定って言うのか?」


「フォンシーはわたくしに意地悪だわ!」


 ミレア、フォンシーが意地悪なのはみんなにだと思うよ。



 こんな感じで『おなかいっぱい』は、鎧の素材集めとレベリングを目標に深い層を目指すことになったんだ。うん、すごく冒険者だね。


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