第36話 だからボクなんて、まだまだ新人冒険者です




「いいことも悪い事もあったわね……。どちらかといえば悪い方が多いけど」


 教導課で装備を借りたボクらは迷宮を目指してる。

 ミレアがしみじみ言ってるけど、武器と防具のことだからね。大冒険の最後の方みたいなセリフだけどさ。


 まず悪いことって、防具についてだ。氾濫の激闘でボクたちの防具は、もうズタボロになっちゃったんだよね。借り物がほとんどだったから、弁償だーって言われたらどうしようって思ってたんだけど、今回は氾濫だったから見逃してくれた。ホッとしたよ。


「せっかく寸法合せたのに、残念だったね」


「ごめん」


「ウルのせいじゃないよ。みんなでボロボロだったんだからさ」


 借りものじゃなかった『ブラックリザードの革鎧』はウルが着てたんだけど、それもぐちゃぐちゃになっちゃった。捨てるのはもったいなかったから、さっきボルタークラリス商店に寄って、ボクの手甲と脚甲にしてもらうことにしたよ。生まれ変わってボクの役にたってもらえたら嬉しいな。


 なのでボクらは全員、借り物の茶色い革鎧を着てる。

 ザッティやボクなんかはチェインメイルって話もあったけど、重たいのはちょっとねえ。革鎧に慣れちゃったっていうのもあるし。



「まあまあ、武器は良くなったじゃないか。レベル40相当のドロップだ」


「でもねえフォンシー。真っ黒だよ? それに素材がさあ」


 こっちは一応いい話。

 なんと手持ちの武器が自前になったんだ。


 サムライのシエランは『切り裂きのサーベル』。シーフのフォンシーは『鋭い短剣』。両方宝箱から出たやつだよ。ウィザードになったウルはお馴染みの『黒樫の杖』と皮鎧の上から『魔導師のローブ』だね。


 ここまではいいんだよ、ここまでは。問題なのはミレアとザッティとボク。

 ザッティの盾は『闇のヒーターシールド』になった。ダークスケルトンファイターのドロップで、もう真っ黒。そして剣は『黒きショートソード』。こっちも真っ黒け。どうせ使わないんだろうけどさあ。


「……いい」


 真っ黒だけどザッティはすごく気に入ったみたい。よ、よかったね。


「わたくしには、ちょっと似合わないわね。しかたないけど」


 ウォリアーのミレアは借り物のバックラーで、武器は『黒骨のこん棒』だ。ダークスケルトンからドロップしたやつなんだけど、真っ黒で骨そのものなんだよね。骨だよ、骨。色白でお嬢様ーって感じのミレアが持ってるのが骨。


「骨だもんねえ」


 それでボクはバックラーと『ヘビーボーンメイス+1』。真っ黒で骨。ボクにはこん棒と見分けつかないんだけど。


 一応『黒骨のこん棒』と『ヘビーボーンメイス+1』は予備を入れて十二本ずつインベントリに入れてある。

 他にもこれまた真っ黒の『ブラックロングソード+1』なんてのもあるけど、長いんだよ。一メートルくらいあるから、ボクとザッティだと絶対引きずることになる。もしかしたら将来誰かがって話になるかもしれないし、あまった『黒きショートソード』と『闇のヒーターシールド』もあわせて適当に残しておいた。


「いざとなったらお金に換えます」


 シエランが笑って言ったよ。


 なんか微妙な気分だけど、装備はすごく良くなったんだ、うん。氾濫も終わったし、気を取り直して普段通りに冒険だよ。



 ◇◇◇



「やっぱりしょぼい」


 ウルが言葉どおりにしょんぼりしてる。魔法の威力、いまいちだもんねえ。

 昨日の一晩でスキルを回復させたボクたちは10層に来てる。そこでウルに魔法を撃ちまくってもらおうって話だったんだ。


「INTがね」


「うう」


 そこのミレア、わたくしの方が上ねって顔しない。ウルが落ち込んでるでしょっ!


「でもウルの方が速いぞ」


「ぐぬぬ」


 そりゃまあシーフ経験が長かったから、ウルの方がAGIは上だもんねえ。ミレアも本気で悔しがらなくってもいいじゃない。


「速いウルと強いミレアですね」


「そうそう、シエランの言うとおり」


 レベルが上がればウルのINTが高くなるし、ミレアのAGIだってそう。だから張り合うことないんだよ。そもそもパーティの仲間でしょ。


「まあ、身内で争うのもアリかもな。お互いを高めあうってこともある。あたしもMINをなんとか……」


 ねえフォンシー、本気でサムライ狙ってない?


「ウルとミレアは大丈夫だ。あれで仲がいいだろ」


「ウルは撫でられて嬉しいだけかもだよ」


 ミレアのナデナデ技術は今でも威力がすごいんだ。ボクも時々誤魔化されるくらい。


「さあみんな、とにかくレベリングだよ。こないだみたいのはゴメンだからね」


 ボクたちは迷宮を進む。急いでレベルを上げないとね。



 ◇◇◇



「しっ!」


 シエランの剣がシルバーウルフを切り裂いた。なんか掛け声もあわせてかっこいいね。シエランってそうだったっけ。前までえいっ、とか、やあっ、だったような。


「片刃剣にも慣れてきた気がします」


 チャキンって剣を鞘に納めたシエランがこっちを向く。うんうん、すごくサムライっぽいね。


 ここは20層のゲートキーパー部屋だ。最初に挑戦したときから何人もジョブチェンジしてけっこう陣形が変わっちゃったけど、全然問題なかった。

 むしろあのときより楽勝って感じ。むむむっ、早くプリーストを卒業して前に出たいよ。


「ボク、もうちょっとレベルが上がったら、殴りプリーストをやるんだ」


「ウルは殴りウィザードをやりたいぞ!」


「わかったわかった、ほら昇降機乗るぞ」


 フォンシーはわかってないなあ。こういうのをアレだ、たしかロマンって言うはずだよ。

 氾濫が終わってから七日。ボクたちの行き先は24層だ。



「いいな」


「うん、いいねっ!」


 なにがいいって、安定してるんだよ。みんな危なげなく戦えてる。

 ジョブが増えたからスキルも増える。特にボクが四人目のプリーストになったから回復魔法の回数が増えて、そのぶん深く長く潜れるようになったんだ。けれど『おなかいっぱい』は深くても、あんまり長く潜らない。


「ばばっと倒して、ばばっと帰るだな!」


「ウルの言うとおり!」


 わかってるじゃん。

 レベリングと稼ぎを両方やるには深いところで粘るのが一番。特にレベル上げはね。けれどもさ。


「『ナイトストーカーズ』みたいになるのは、ちょっと……」


「……なりたい」


 ミレアとザッティが逆なコト言ってるけど、『ナイトストーカーズ』みたいにずっと迷宮っていうのも、なんかねえって話になったんだ。

 もちろんいざってときは別だよ。こないだの氾濫みたいになったら、そのときはそのときで必死になるからさ、だけど普段はのんびりっていうのも大事だなって思うんだ。


 なのでボクたちは深い層では強いスキルをバンバン使って、帰り道は素材が美味しい場所をつまみ食いするって戦法を考えた。これなら短いときで六時間、長くても十時間くらいで地上に戻れるよ。



「そのうち、迷宮で一泊っていうのもアリかもな」


「VITも上がったし、それもいいかもだね。眠いのは眠いけど」


 エルフのフォンシーが焚火の前に座って迷宮で一泊かあ。なんか絵になる気がするね。

 いや別にフォンシー一人でってわけじゃなくって、六人でだよ。誰が見張りをするんだよって話だし。


「二時間を二人ずつで三交代ですか。いいかもしれません」


 なんかシエランは具体的だねえ。


「迷宮ごはんか!?」


「そうだねえ。ボクもそれが楽しみだよ」


「……甘いのを持ち込みたい」


 ウルとボク、ザッティはこんなノリだ。いいじゃない。


「いいわね。迷宮に泊まるなんてしたことないもの」


 そういやこの中で迷宮泊したのって、ボクとフォンシーとシエランだけだ。メイジになったとき、ハイパーレベリングやったよねえ。


「カースドーさんたちはどうしてるかなあ」


「あのときのレベリングは思い出したくないな」


 フォンシー泣いてたもんね。ああっ、睨まないでよっ!



 ◇◇◇



「よう。大活躍だったそうじゃないか」


「へへっ、あっしらも鼻が高いってもんすよ」


「がんばったみたいだなあ」


 夕方、事務所に戻ったら噂のおじさんたちがいた。なんでさ。


「あ、あの、みなさんはなぜ」


 代表してシエランが訊いてくれたよ。


「総督閣下がキールランターに連絡したのさ。救援要請じゃなく一応の報告だったみたいだけどな」


「それを聞きつけたもんで、戻ってみれば終わってたってわけっす」


 アシーラさんは相変わらずの喋り方だね。

 そっか戻ってきてくれたんだ。



「七ジョブか。すごいな」


「それほどでも」


 ウォムドさんがフォンシーと話してる。最初のころにビビってたフォンシーはもういないんだね。


「で、ウルラータはどうなんだ」


「ウルはがんばってるぞ。今はウィザードだ!」


「ほう! そりゃすごい。そうか……、ウルラータがウィザードか」


 反対側でカースドーさんとウルもしゃべってる。なんかカースドーさん感動してない?


 おじさんたちってウルのメンターじゃないけど、ボクたちの繋がりで顔見知りなんだよね。もちろんミレアとザッティも。

 たまに奢ってくれたりしてたから、ウルなんかはおじさんたちが大好きだったりするんだよ。ボクもだけどさ。


「そうすか。ラルカラッハたちは、もう一人前の冒険者っすね」


「そう言われるし、そうかなあって思いたいんですけどねえ」


「どうしたっす?」


 アシーラさんはそう言うけど、だってボクはベンゲルハウダーに来て、まだ三か月くらいだしねえ。


「ボクなんて全然これからです。ここに来て、たくさん強い冒険者さんたちに会いましたから」


「そうっすか。へへっ」


「だからボクなんて、まだまだ新人冒険者です」



 そうなんだよね。まだ三か月ぽっちなんだ。


 旅の途中でフォンシーと出会って、街にきたらシエランが仲間になった。それからウル。その後でミレアとザッティも。

 六人パーティになって、レベル上げたりお金を稼いだりしてがんばってたら、黒門なんてのが現れて大騒ぎになっちゃった。そういやリーダー決めやパーティ名でも苦労したっけ。

 あっという間だったなあ。楽しいな。



 おなかいっぱい食べたいって目標はそのままだけど、今はほかにもやりたいことがたくさんだ。

 うん、ボクは冒険者になってよかった。これからもみんなで冒険だね。



 ◇◇◇



 これにて第1章はおしまいです。閑話をふたつ挟んで、続けて第2章になります。

 章立てをするかは未定です。


 第1話の冒頭にシーンを追加してみました。よろしければそちらもどうぞ。


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