第35話 いつの間にか強くなったもんだ




「がっはははは!」


「うふふ」


 オラージェさんとシェリーラさんが笑ってる。なんか飲み比べみたいな勢いだね。


「ラルカラッハさん聞いておくれよ。シエランは昔ね、お父さんみたいなソードマスターになるんだって言ってくれてね、それなのにサムライなんだよ──」


 そしてフィルドさんは同じことをボクにグチり続けてた。その話、四回目だよ?

 村でもそうだったけど、酔っぱらった大人ってめんどくさいね。


 なんでフィルドさんがボクに絡んでるかっていうと、他のメンバーが全員逃げちゃったから。ぐわー。どういうことさ!

 まずシエランがウルと一緒にどっか行った。ウルが先導してたから食べ物目当てかもね。そのあとにミレアとザッティも。男爵令嬢だから『フォウスファウダー・エクスプローラー』にも知り合いがいるみたい。ザッティは護衛ってかお供だね。

 フォンシーはいつのまにか消えてたよ。


「だからね、ラルカラッハさん、僕はねぇ」


 ぐわー。



 それからもいろんな人と話をしたよ。

『なみだ酒』のザッカスさんは、泣きながらボクを褒めてくれた。がんばったなあって。

『センターガーデン』のリーカルドさんも話しかけてくれた。『ヴィランダー』は全員レベル30の後半になったから、みんなでジョブチェンジなんだって。

 他にも『ナイトストーカーズ』や『ピップ』、そして『金の瞳』の人たちなんかともね。


「すごかったじゃねーか」


「あ、ありがとうございます」


「ラルカラッハは猫セリアンの誇りね」


「あ、はい、いえ、そんな。それでもありがとうございます」


『金の瞳』は全員が猫セリアンのパーティだ。全員30歳くらいで、男の人が三人、女の人が三人。黒猫、白猫、トラ猫、キジ猫、ブチ猫、錆猫。なんていうか色とりどり。


「ラルカラッハの出身は?」


 リーダーの黒猫セリアン、ミャードルさんが訊いてきた。金色の瞳がかっこいい。


「コクラ村です。こことヴィットヴェーンの間ですね」


「あら、あたしもそうよ」


「ええっ!?」


 こんなところで同郷だよ。でもそのお姉さん、ボクが生まれた頃にはもう村を出ちゃってたんだって。お互い初対面だね。

 コクラ村の人って冒険者になるんだーって言って、出てく人が多いんだよ。ステータスが現れたころに冒険者で成功した人がいたみたいで、その人が村に色々、お金とか本とかをくれたんだ。お陰で村の人たちはほとんど読み書きができる。もちろんボクもそうさ。


「仕送りはしてるけど、たまには顔を見せるのもいいかもね」


「ボクもそうしたいです」


 うん、こうやって同じ村の人と話をできたのはすごく嬉しいや。

 父さん、母さん、村のみんなは元気かなあ。



「ふいー」


 ちょっと話し疲れちゃって宴会の輪から外に出たら、そこにフォンシーが一人で座ってた。夜空を見上げてジョッキを傾けてる。中身はお酒かな。


「どしたの?」


「いや、騒がしいのは得意じゃなくてな」


 フォンシーはこっちを見ないでボソってこぼす。ボクはその横に座った。


「そうなんだ」


「『おなかいっぱい』で騒ぐのはいいんだけどな」


 そうだよね。フォンシーってみんなとごはん食べてるとき、楽しそうだもんね。



「二人で始めて、いやシエランも最初からか。いつの間にか強くなったもんだ」


「そだねえ。フォンシーなんて七ジョブ目だもんねえ」


「根に持つなよ」


「だってさあ」


「グラップラーを取ったのはラルカだろ?『おなかいっぱい』最強のアタッカーさん」


「それが聞いてよフォンシー、最近シエランがすごいんだよ。最強の座が危ないよ」


「ああ、確かに雰囲気が違う。あれがMINの力なのかな」


「それがね、サムライになる前、氾濫の途中からなんだよ」


 こうやってフォンシーと二人きりなのは、ベンゲルハウダーにくる途中以来かもね。

 とりとめない言葉が勝手に出てくるよ。



「なんかさフォンシー、ボクはここにきて、冒険者になってよかったよ」


「ああ、あたしもそう思ってる」



 ◇◇◇



「そろそろわたくしたちも戻りましょう」


 眠そうに目をしぱしぱしてるザッティを見て、ミレアが帰ろうって言いだした。


「そうだね。ボクももうおなかいっぱいだよ」


 ちらっと見渡したら、広場にいる人たちはもう半分くらいになってた。別にこれでおしまいって言葉があるわけじゃないみたい。


 六人でそろって歩きだす。行き先はもちろん、冒険者の宿『フェイルート』の四号館だ。



「待ってくれ」


 男の人の声が聞こえて、ボクたちはふり返った。

 そこにいたのは『ラーンの心』の六人。声をかけてきたのはレアードさんだ。どうしたんだろ?


「俺たち六人がそろってればいくらでも強くなれるって思ってた」


 なんか語り始めたよ。


「それでもキミたちの方が早く強くなった。そのときはメンター頼りの力なんてって思った」


 ボクたちは黙ってる。なんか、彼の言葉を聞いてあげなきゃって思ったんだ。


「悔しくて『センターガーデン』に頼った。これで追いつけるって考えてた。そしたら氾濫だ」


 たしか二ジョブ目をマスターしたくらいでだったかな。


「キミたちが『ヴィランダー』と並んで前で、俺たちは後ろだ」


「でも、強くなったんですよね?」


 なんとシエランが話に入った。すごいや。やっぱりMINって効果あるのかな。


「そうさ、今の俺らは三ジョブが二人、二ジョブが四人で全員コンプリートだ」


「わたしたちも強くなりましたよ?」


「知ってるよ。だけどな、俺たちはもっと強くなるぞ」


 ああ、目の前のレアードさんからは全然敵意を感じないよ。前に勧誘してきたときみたいな、根拠なしの自信もない。


「俺たちは明日全員ジョブチェンジだ」


 シエランだけじゃなくって、ボクら全員が『ラーンの心』を見てる。ちょっとだけ目が燃えてるのが自分でもわかるよ。


「俺たちは強くなる。そっちも強くなってくれ」


 物語で読んだことあるよ。これってアレだよね、ライバルってやつだ。


「それだけだよ。時間を取らせて悪かったね。『おなかいっぱい』か。力が抜けるけどキミたちらしくていい名前だと思うよ」


 勝手に言いたいこと言って彼らは去ってった。最後だけ口調が柔らかかったけど、そっちが素なのかなあ。そういや勧誘って言わなかったね。



「なんだかよくわからなかったけど、ウルはやるぞ!」


 いやいや、わかってないのにわかってるあたり、ウルはすごいって思うよ。


「べつに仲たがいってわけでもないし、ほっといていいんじゃないか」


 フォンシー、ちょっとビビってたくせにぃ。いなくなったとたんそれだもんね。


「貴女方、『ラーンの心』に因縁あったのね」


「いやいやミレアにも話したことあったでしょ。三人でやってたときのこと」


「そうだったかしら」


 ミレアがちょこんと首を傾げた。まさかどうでもいいとか思ってないよね?


「あの人たちから覚悟を感じました。負けてられませんね」


「シエラン、ホントになんか変わってない!?」


「そうですか?」


 だってほら、なんかうっすら笑ってるじゃん。



「報奨金っていうのがでるんでしょ? どれくらいなのかなあ」


 宿屋に戻って寝る前の雑談だ。あ、ザッティとウルがもう寝てるね。


「さあ、どうなんでしょうね」


「いい機会だし装備をなんとかしたいわね」


 お金担当のシエランにミレアがちらっと目線を送ってる。

 ボクとしては記念に豪勢な食事がいいかな。


「武器はドロップがあります」


「でもわたくし、アレはすこし」


「武器は武器ですよ」


 ボクもアレはちょっとなあって思うな。



 ◇◇◇



「こちらが報奨金についての書類になります。受け取りサインを」


「はい」


 ボクが代表して書類にサインした。


「預かっておいてください。あとこれも」


「はい。わかりました」


 協会事務所の財務課っていう窓口はお金のやり取りをするところだ。

 宴会の次の日、ボクたちは氾濫に参加したっていうことで報奨金を受け取ったんだ。なんと100000ゴルド。十万だよ十万! もちろんそのまま協会に預けたよ。


 それと素材を売ったお金もだね。

 シルバーウルフの毛皮を全部お金に換えたんだ。シエランの話だと値段が落ちてるけど仕方ないんだって。ブラックウルフとブラッドウルフのは一応とってある。今度おそろいのマントとかどうだろうってなってね。


「なんに使おうかなあ」


「ラルカだけの金じゃないぞ?」


「そうは言うけどさあフォンシー、夢くらいいいじゃない。ほら」


 ボクの指さした先には、朝っぱらから酔っぱらって騒いでる冒険者のみなさんがいる。普段はあんまり見ないから報奨金だろうねえ。


「昨日の夜、宴会だったんだけどな」


 フォンシーは呆れてため息だよ。


「ああいうのはほっといて、さてと次は教導課か。装備を借りてさっさと潜ろう」


 もうっ。ホントはお酒が好きなくせに。



 冒険者やってるんだから、大金持ちになったらもっと喜ばなきゃダメだよ。それが冒険者っぽいんだから。特にフォンシーなんかウハウハが目標なんでしょ?


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