第34話 それを引っさげて、これからも潜ってみせるといいさ




「そういえばシエラン、『切り裂きのサーベル』の調子はどうだ?」


「片刃剣は初めてですから、まだ慣れません」


 帰り道でちょっとした装備話だ。フォンシーがシエランの腰にある剣をちらっと見た。

『切り裂きのサーベル』は19層の宝箱から出てきた片手持ちの片刃剣だ。


 それぞれのジョブには合った武器があって、たとえば『切り裂きのサーベル』を使えるのは今のジョブだとサムライのシエラン、ウォリアーのミレア、ヘビーナイトのザッティってことになる。プリーストのボクも持てないことはないんだけど、ジョブのせいで威力がガタ落ちするんだって。こういうのを武器適性っていうらしい。

 だからボクはメイス、フォンシーは短剣、ウルはミレアから借りた『黒樫の杖』を装備してるんだ。


「早くカタナが出るといいねえ」


「そうですね」


 シエランが軽く笑ったけど、ボクは信じてるんだ。いつかカタナを持ったシエランが大暴れするってね。

 サムライは剣ならなんでも扱えるけど、カタナじゃないと使えないスキルが多い。サムライの上のジョブになるときだってカタナが要るんだ。氾濫で偶然クナイが出たけど、あれは敵がレベル40くらいだったからね。


「ボクたちもいつか行くよ。カタナが手に入るくらいの深さまで潜るんだ」


 そこまで行ったらたくさん素材も手に入って、それを売ればごはんがたくさんってことだよ!



 ◇◇◇



「……冒険者がいっぱいだな」


 思わずって感じでザッティが目を丸くしてる。


「氾濫に参加しただけでも三百人。お手伝いや街の人を入れたら五百はいるかしら」


 ミレアも綺麗な紅い目を大きくしちゃってるよ。ボクもだけどね。

 迷宮から出てすぐの広場、氾濫のときには天幕が並んでた場所だね。そこに敷物がたくさん敷かれてて、すっごい数の人たちが座って騒いでた。


「自由にって話だし、ボクたちも座ろう!」


「いい場所とかあるのか?」


「さあ、ごはんの近くがいいのかな」


「いくぞ!」


 ウルも気合が入ってるねえ。



「あ、オラージェさん!」


「よう。座れ。こっち座れ」


 どこに座ろうかって迷ってたら『誉れ傷』のみなさんを見つけた。

 となりも空いてるし、お邪魔しよう。みんなもいいよね?


「お父さん! お母さんも」


 シエランがびっくりしてる。そりゃねえ。シエランの両親、フィルドさんとシェリーラさんまでそこにいたんだ。


「フィルドとシェリーラは昔馴染みさ」


「オラージェの方が冒険者としては先輩だけど、まあ同年代だからね」


 オラージェさんとフィルドさんって、そうか、ステータスが現れた頃、みんな冒険者だったもんね。

 どころでさあ、もうお酒入ってない?



「こないだは世話になった。お陰で氾濫鎮圧に参加できた」


「いいんだよ。僕らが勝手にしたことさ」


 フォンシーが神妙にお礼を言ってる。あのときのフォンシーってエンチャンターのレベル0だったから、ホントに危なかったんだ。フィルドさんとシェリーラさんには感謝しきれないよ。


「シエラン、ステータスを見せてもらえる? どれくらい強くなったのかしら」


「ええ、ちょっとお母さん」


 お酒のせいかちょっとほっぺたが赤くなったシェリーラさんが、なんかこうおねだりするみたいにシエランに迫ってる。シエランがちょっと困り顔だね。あ、わかった気がする。


「もうっ、はい」


 ==================

  JOB:SAMURAI

  LV :8

  CON:NORMAL


  HP :46+38


  VIT:23+8

  STR:29+10

  AGI:14+7

  DEX:21+15

  INT:23

  WIS:21

  MIN:12+11

  LEA:14

 ==================


「サムライ!? なんでソードマスターじゃないんだ!?」


「お父さん、……だから見せたくなかったのに」


「シエラン、ウィザードは? ウィザードはいいジョブなのよ?」


「お母さん……」


 ソードマスターのお父さんとハイウィザードのお母さんだもんね。シエランに一緒のジョブ、やってもらいたかったんだろうなあ。だけどフィルドさん、シェリーラさん。なんか口調がおかしいよ?


「それよりあなた、シエランの基礎ステータス……」


「うわっ、すごいじゃないか!」


 STRが29なんて、大人の人の倍くらいだもんねえ。ジョブチェンジのお陰ってわかってても、そりゃ驚くよ。


「ウチの娘が……、これじゃあ力自慢の男みたいじゃないかっ!」


「なんてコト言うの、お父さんっ!」


「それがマルチジョブってもさんさあ。がはははっ」


 シエランが切れて、オラージェさんが大笑いしてるよ。どうするの、コレ。

 フォンシーとミレアは目をそらして、ザッティはじっとオラージェさんを見つめてる。飴が欲しいのかな。ウルは『誉れ傷』の人からお肉もらって食べてるよ。ボクにもちょうだい!


「ラルカラッハさん」


「なんです?」


「それとなくでいいから、シエランをソードマスターにしてもらえないかな」


「はあ」


 そんなこと言われてもフィルドさん、ウチはみんなが自分で決めるパーティなんですけど。それとさ、MINを上げたいからサムライやってますなんて、言えるワケないよ。



 ◇◇◇



「ああ、めんどくさいから、いちいち立ったりしなくていいからねえ!」


 なんか大人の人たちがいい感じで酔っぱらって、みんなでごはんを食べて楽しんでるときに、大声が響いた。

 広場のはじっこに木でできた舞台みたいのがあって、そこに登場してたのは想像どおりの人だった。ひょろりと背の高いおばあちゃん、ベンゲルハウダー冒険者協会会長のバーヴィリア女男爵様だ。実はちゃんとした名前、憶えてないんだよね。


「これからあんたら冒険者どもに、いいものをくれてやろうって寸法さ。もちろん報奨金とは別モノだよ。さあ受けとんな!」


 会長がそんなことを言ったらすぐ、職員さんたちがボクたちのとこにやってきた。他の冒険者さんたちの方にもだね。


「はい、みなさんどうぞ」


 受付のサジェリアさんから受け取ったのは、ペンダント? 革ひもに飾りが二つぶら下がってる。牙っぽいのが白くて、細くて短い棒みたいのが黒い。両方とも小さな穴が空いてて、それにひもが通してある。



「行き渡ったかい? それが今回の記念品さ。シルバーウルフの牙とダークスケルトンの指だ。前回の反乱に付き合った連中は、これで三つになるねえ」


 げげっ、黒いのってスケルトンの指の骨だったんだ。なんかやだなあ。


「ほれ、首にぶら下げな。それであんたらはウルフスレイヤーでスケルトンキラーだ。気分はどうだい!?」


 おおおおうって感じの声が広場に響いた。ボクたちもそうさ。ウルなんか遠吠えみたいな声になってる。


「それを引っさげて、これからも潜ってみせるといいさ。集めた素材は協会事務所できっちり換金するんだよ」


 こんどは大笑いだ。うーん、このノリについてくのは大変そうだよ。吠えたり笑ったり忙しい。

 でも、楽しいからいいかな。


「じゃあ、あたしの出番はここまでだ。ゆっくり飲ませてもらおうかねえ」


 へえ、これだけなんだ。バーヴィリアさんは背中を向けて階段を降りようとした。

 けど立ち止まってこっちに向き直る。そしてイタズラっぽく笑った。


「おっとお、大事なコトを言い忘れてたよ。さあさ冒険者ども、我らが迷宮閣下のお出ましだ!」


 忘れてたって絶対ウソでしょ。


「膝なんて突いて頭を下げてみろ、どやしつけられるから気をつけなあ」


 そう言って今度こそ会長は階段を降りてった。

 広場が静まり返ってるよ。だってねえ。



 そしてあの人たちがやってきた。お揃いの紫色の革鎧で、腰には剣とかいろんな武器をぶら下げてる。まるでこのまま迷宮に突入しちゃうんじゃないかって、そんな雰囲気だよ。

 そんな『一家』が重たい音を立てて階段を登ってきた。


「われを目の前にして座ったままで飲み食いか。実に冒険者であるな! うわはははは!」


 そんなことを言いだしたのはもちろんベンゲルハウダー迷宮総督、オリヴィヤーニャさんだ。とっても嬉しそうに笑ってる。

 だってそうしろって言われたばっかりだからだよ。


「迷宮を背にし、雑然と座り飲み食らう冒険者たち。くだらん壇上からではあるが、良き光景であるな」


 そしてオリヴィヤーニャさんは胸から革ひもを引きずり出して、それをみんなに見せつけるみたいにかざした。

 くっついてる飾りは三つ、ボクたちと同じ白い牙と黒い指の骨。そして白と黒の間にちょっと大きな濃い紫色の牙みたいの。もしかしてアレが二次氾濫で出たっていうヘルハウンドのなのかな。


「むさくるしい冒険者どもと揃いの飾りモノよ。まったく、われは王族にして公爵夫人のはずなのだがな」


 え? オリヴィヤーニャさんって王族なの? そういや名乗ったときにキールランティアって混じってたような。


「だがそれが良い!」


 広場を震わせるような大声だ。ビリビリきちゃって耳がぺたんってなっちゃった。


「迷宮の産物に頼りこの国は栄えている。それを為さしめているのは何者か。迷宮が牙をむいたとき、それに対峙するは何者か!?」


『冒険者だ』!


 うわっ、周りのみんなが叫び返した。ボクたちは置いてきぼりで、ちょっと恥ずかしいかも。


「そうだ。富を集めるも冒険、困難に立ち向かうのも、また冒険である。誇れ!」


『おう』!


 今度もついてけない。うーん、次回までには覚えよう。じゃないと仲間外れみたいでちょっとヤダもんね。


「さあ冒険者たちよ。勝利の宴だ、存分に飲み交わすがいい。そしてまた明日からはまた冒険の日々だ。心ゆくまでに暴れてくるがいい。もちろん一番は、われら『フォウスファウダー一家』が譲らんがな」


 そうやって煽るわけだね。ホント、オリヴィヤーニャさんはそういうのが好きだよねえ。


「ベンゲルハウダー最強の冒険者が前口上はここまでだ。さあ宴を続けるがいい!」


 言うだけ言ってオリヴィヤーニャさんは舞台を降りてった。

 あれ? ベンゲルハウダー最強って言ったけど、王国最強って言わないんだね。


 あらためて周りの冒険者たちが騒ぎ始めた。ボクらも『誉れ傷』や色んな人たちに囲まれてる。



 そんな感じでどんちゃん騒ぎが始まったんだ。


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