第28話 これは命令などという安いものではない




「……やったぞ」


「やったどころじゃないよ! すごいよザッティ」


 あれから13層で『センターガーデン』にお世話になってから、ボクたちはまたがんばった。勢いで17層まで来ちゃったよ。


 最後の方はザッティまで普通に前線に立ってたくらいだ。しかも盾だけで。

 ファイターやナイトで覚える『シールドバッシュ』っていう盾で攻撃するスキルがあるんだけど、前から練習してたザッティはもう使い手って言ってもいいくらいなんだ。


「ああ、ザッティのお陰で後ろで楽できた」


「……うむ」


 あ、フォンシーに褒められて、ちょっと照れてるね。

 でもザッティが前に出てタンクをやってくれたおかげで、前衛が楽になったのはホントだからねえ。シエランとミレアがフォンシーを守って、ボクとウルは攻撃に専念できたんだ。


 そんなわけで四時間残してフォンシーはレベル13、ザッティはレベル12になった。


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  JOB:ENCHANTER

  LV :13

  CON:NORMAL


  HP :35+35


  VIT:20

  STR:21

  AGI:16+19

  DEX:22+34

  INT:29+39

  WIS:22

  MIN:12

  LEA:14

 ==================


 これがフォンシーのスタータスだ。

 エンチャンターはちょっとだけどAGIが伸びる。それだけ素早くバフ、デバフができるってことだね。

 今回みたいに異変がなかったら、このあとウィザードかビショップだよねえ。火力のウィザードか、同じスキルを重ねられるから長く戦えるようになるビショップか。どっちにしても『おなかいっぱい』が強くなるのは間違いない。


 ==================

  JOB:KNIGHT

  LV :12

  CON:NORMAL


  HP :25+54


  VIT:20+21

  STR:19+36

  AGI:16+14

  DEX:22+22

  INT:8

  WIS:9

  MIN:16

  LEA:14

 ==================


 こっちがザッティ。うん、前衛って感じ。INTとWISは見ないようにしよう。

 なんと合計VITだとウルとフォンシーを追い抜いて、三番手なんだ。ボクが44でシエランが42だから、ほとんど一緒だね。つまりバリバリの前衛タンクだってこと。


 レベル10以上っていうのを達成して、ボクたちは意気揚々と地上を目指す。

 三時間眠ってスキルを回復させる。そしたらいよいよ黒門に挑戦だ。



 ◇◇◇



「あ、レベルアップしたぞ」


 最短経路で地上を目指していたって、どうしても戦闘になることはある。9層にある昇降機の目の前で戦闘になったボクたちは、すぐに敵をやっつけた。それはいいし、ウルのレベルアップだって大歓迎だ。


「レベル25だ。コンプリートだぞ!」


 そりゃ25になったらコンプするよね。


「ウル、あのね」


「わかってる。ジョブチェンジはしないぞ」


 わかってくれてたんだ。

 もう異変は目の前だ。こっからのジョブチェンジはありえないし、そもそもレベル10を達成できるワケない。


「異変が終わったらだ。ウィザードになる!」


「そうだね。ならガツンとがんばらなきゃだね」


「おう!」


 ==================

  JOB:THIEF

  LV :25

  CON:NORMAL


  HP :22+95


  VIT:22+13

  STR:25

  AGI:15+62

  DEX:14+74

  INT:6+30

  WIS:7

  MIN:15

  LEA:17

 ==================


 そんなウルのステータスはこう。

 合計AGIとDEXはウチで一番だね。二番目はボクだよ。STRがそうでもないから攻撃力はそこそこ。けれど反応の良さと器用さがあるから、スキルと組み合わせて敵を削るのが一番上手なのが今のウルだ。



「シエランとミレアのコンプリートも目の前だね」


「ウルが上がったし、わたくしもそろそろね」


 ミレアがぐっと手を握る。


「次はどうするの?」


「考え中よ。多分ウォリアー。パーティに余裕があればソルジャーね」


「おお、ついに前衛だあ」


「硬くも速くもないウィザードなんて、ね」


 勢いで最初にウィザードを選んだミレアだけど、もっとすごくなる気だね。うんうん、

 地上に向かいながら、ボクたちはジョブ談義だ。


「シエランは? ああ、前にシーフって言ってたっけ」


「そうですね。講習でもシーフは取っておいた方がいいって言われました」


「だったねえ」


 講習を持ち出されるとボクはつらい。ウォリアーは取っておけって話だったのに、カラテカ上位のグラップラーだもんね。まあ、そのうちそのうち。ボクの場合、ウォリアーより先に後衛ジョブだろうしさ。


 なあんて話をしてたらやっと地上だ。空は真っ暗。夜中に出かけて丸一日迷宮だったからねえ。

 それでも松明は燃えてるし、人が動いてる。まだ黒門は開いてないからね。本当の戦いはこれからなんだ。



 ◇◇◇



「よくぞ集まってくれた。わが勇士たち、いや、貴様らは自由な冒険者たちであったな。であるからこそ、われは感謝に堪えん」


 迷宮前の広場にはたくさんの冒険者が集まってる。そんな場所でオリヴィヤーニャさんが演説中だ。

 三時間だけ眠って起きたら朝だった。長い一日の始まりだね。


「今日のわれは迷宮総督などではないぞ。わが夫は領主でもない。われらは冒険者パーティ『フォウスファウダー一家』である。貴様らと同じ冒険者であり、そして常に先頭を往く最強だ!」


 歓声があがる。すごいなあ。のんびり屋のボクだって気合がはいっちゃうような、そんなしゃべりかただよ。


「われはこれより迷宮に入る。迷宮異変が終息するまで地上に戻ることはないであろう。それ故だ」


 ああ、オリヴィヤーニャさんの視線がみんなに刺さってる。


「これは命令などという安いものではない。ひとりひとり、皆が持つべき誓いである。死ぬな。『冒険者は諦めない』!」


『冒険者は諦めない』!!


 ボクだけじゃない。みんなだ。いつもはこういうノリが苦手なフォンシーまで、叫んでた。

 さあ、やるぞお。



「29層組が先発。三十分後に7層組。みんなの健闘を祈っているわ」


 オリヴィヤーニャさんから引き継いだポリアトンナさんが、改めて29層組と7層組を発表した。


 29層は『一家』と『フォウスファウダー・エクスプローラー』。『ナイトストーカーズ』『なみだ酒』『センターガーデン』なんかの大手クラン。それと『山嵐』『錨を上げろ』『誉れ傷』『傷跡』みたいな一流パーティで、合せて十七パーティ。

 7層は『エクスプローラー』から一隊と大手クランの三番手以降のパーティ、それと一人前って認められてる冒険者とその手前の人たちだ。ボクたち『おなかいっぱい』や『ラーンの心』なんかもだね。変な名前の『ピップ』もこっちだって。全部で三十三パーティ。


 合計なんと五十パーティ、三百人だ。これってほとんどベンゲルハウダーの全力だね。

 他にも冒険者協会の職員さんや新人冒険者たちが、荷持ち運びなんかのお手伝いで1層から6層までを駆け回る予定らしい。それもあわせたら五百人以上が関わっちゃうことになるんだって。


「いやはや、ミレアじゃないが祭りだな」


「そうだねえ。村のみんなに見せてあげたいくらいだよ」


「ははっ、あたしもだ。頭の固いエルフも少しは、な」


 たしかにエルフってそんな印象あるよね。森の中でひっそり暮らしてます、みたいな。

 フォンシーってどうしてここに来たんだろ。いつか訊いてもいいかなあ。



 ◇◇◇



 迷宮7層北西に現れた黒門が目の前にある。言われてたみたいにほとんど真っ黒だ。これがそうなんだ。


 なんでか黒門っていうのは広間に出やすいらしい。そりゃあ狭いところは窮屈だからね。心地いいんだけどなあ。

 今回もそうだった。7層は東西南北にそれぞれ大広間があって、そこから通路が伸びてる感じだ。ここも北側が壁になってて、東西と南に三本ずつ通路がある。そんな北側の壁にどどんと黒門があったりする。


「黒門からたくさんモンスターが出てきて通路に流れたら、7層全部が敵だらけですね」


「だね。そうなったら大騒ぎだよ」


 シエランが心配そうに悪い未来を想像してる。


「そうないようにボクたちがいるんだよ」


「そうですね」


 そんな話をしてたら一組のパーティが進み出てこっちを向いた。よりによって黒門を背中にしてだよ。度胸あるなあ。



「私は迷宮総督閣下より7層組総指揮を預かった、イェラント・シュタッツアだ。いちおう士爵だが気にしなくていいぞ」


 濃紺の革鎧を着たいかにもな冒険者って感じの人だね。貴族様なんだろうけど、士爵って?

 あとで訊いたら実家を継げなかった人が、騎士とか事務とかの役職について士爵になるんだって。半分貴族? みたいな感じらしい。


「『フォウスファウダー・エクスプローラー』一番隊、『白の探索者』の隊長と言った方が早いだろうな。実態は閣下に迷宮を引きずり回された哀れな被害者だ。お前たちにも似たようなのがいるんじゃないか?」


 イェラントさんは公爵家お抱えの兵隊さんで部隊長ってことかあ。

 そしてボクたちの仲間だね。オリヴィヤーニャさんたちは酷いから、親近感わくよ。笑ってる人もいる。大抵苦笑いだ。


「半年前までヘビーナイトだったんだぞ? それが今じゃ十二ジョブ持ちでパワーウォリアーだ。公爵家の騎士ってなんなんだろうな」


「グチってんじゃねーぞー!」


 くだけた人だなあ。ヤジも楽しそうだ。


「わかったわかった。さて本番だ。私たちが為すべきことは、たったひとつだ。モンスターを殲滅するぞ」



 イェラントさんの後ろにある黒門は、名前のとおりもう真っ黒だった。


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