第24話 お祝いの晩ごはんだね




「お、コンプリートだ」


 レベルアップの光が消えたあと、フォンシーがなんでもないように言った。

 レベルは22。けっこう早い方かな。ウルはレベル23なのにまだだからねえ。こないだのウィザード宣言はまだ達成されてないんだよ。


 ゲートキーパーをやっつけてから大体十日。ボクたちは18層で素材を集めてから、25層でレベリングって感じで冒険してる。

 フォンシーとザッティ、シエランがレベル22、ウルがレベル23、ミレアが20で、ボクは残念、レベル18だ。グラップラーはつらいねえ。


「フォンシーは次、どうするの?」


「そうだな。やっぱりエンチャンターだろ」


 ウルがウィザードを予約したからかな、フォンシーはエンチャンターになるみたいだ。

『おなかいっぱい』に今までいなかったバフ、デバフができるジョブだね。そういえばウォムドさんにモンスターをデバフしてもらったっけ。懐かしいなあ、ってまだメンター終わってから二か月もたってないんだけどさ。



「ただレベリングがな。もう一人くらいコンプしてからの方が」


「経験値がもったいないわ。今のわたくしたちならお荷物を抱えても19層に行けるでしょ」


「お荷物あつかいか」


 たしかにそっか。レベル0になっちゃったら25層ってわけにいかないもんね。


 ==================

  JOB:WARRIOR

  LV :22

  CON:NORMAL


  HP :27+83


  VIT:15+54

  STR:14+74

  AGI:15+13

  DEX:20+23

  INT:29

  WIS:22

  MIN:12

  LEA:14

 ==================


 今のフォンシーはこうだから、ジョブチェンジしたらHPが35になっちゃう。エンチャンターはHPの伸びが良くないし、レベル10くらいまでは浅いところでかな。19層はいくらなんでも怖いよ。


「わたくしをザッティが守って、フォンシーにはシエランがつけばいいわ。後ろから三人で魔法をうちまくるわよ」


「たしかに。ボクとウルが前でかき回すんだね」


 それならまあ。


「ウルはもうすぐウィザードだぞ?」


「ええっと、わたしはモンクはまだちょっと怖いから、シーフを考えてます」


「……ナイトだ」


 あ、ウルに言われて気付いたよ。そしたら前衛どうしよう。

 シエランとザッティだってコンプリートが目の前だよ。えっとザッティはナイトだから硬いジョブのままだよね? シエランはシーフ? あばばばば。



「わかったわかった。やっぱりもう一人だ。もう一人コンプしたら考えよう」


「そうね。悔しいけどフォンシーの言うとおりかもしれないわ」


「ミレアはなんであたしにきついんだ?」


 仲いいくせに。

 でもさ、贅沢かもだけどジョブチェンジでわいわいできるのって、冒険者っぽくて楽しいよね。



「……あ!」


「どしたの!?」


 その日の夜、本を読んでたザッティがいきなり大声だした。ホントに珍しくってみんなも驚いてるよ。


「……INTが8になった」


「やったわね! ザッティ」


「……おう」


 ミレアがザッティに抱き着いて喜んでる。自分のレベルアップより嬉しそうだなあ。もちろんボクも嬉しいよ。

 ザッティって前にSTRも上がったよね、やっぱりずるいかも。



 ◇◇◇



「……コンプリートした」


 三日後、ザッティがレベル23になってファイターをコンプリートした。ザッティばっかりずるいよ!


「先をこされました」


 シエランが軽く笑ってる。そうそう、ボクも笑わなきゃ。

 この三日でボク以外が全員レベルアップしたんだよね。シエランは23、ウルは24、ミレアが21だけど残念、コンプしてないんだ。


「じゃあ予定通り、ザッティは──」


「……ナイトだ」


 おおっとザッティが食いぎみだよ。よっぽどだったんだね。


 ナイトはファイターの上位ジョブだ。他にはソードマスター、シエランのお父さんがそうだね。それとサムライがあるんだって。

 固いファイターがナイト、剣が得意で盾を使わないのがソードマスター、なんかすごいのがサムライなんだって。すごいってなんなんだろ。



「ラルカ、どうする?」


「ちょっと早いけど今日は戻ろっか。そいで二人にジョブチェンジしてもらって、お祝いの晩ごはんだね」


「ラルカは食べたいだけだろ」


 そうだよフォンシー。でもボクはリーダーなんだからね。



 ◇◇◇



「ジョブチェンジしてきたぞ」


「……ナイトだ」


 テーブルで待ってたら、フォンシーとザッティがジョブチェンジして戻ってきた。


「どれどれ、みして?」


「ああ」


 ==================

  JOB:ENCHANTER

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :35


  VIT:20

  STR:21

  AGI:16

  DEX:22

  INT:29

  WIS:22

  MIN:12

  LEA:14

 ==================


 フォンシーはこんな感じ。


 VITとSTRが20になった。最初って10くらいだったよね。強くなったよなあ。

 ここからはいよいよフォンシー得意の後衛だ。『おなかいっぱい』にいままでいなかったエンチャンター。これで前衛がもっと活躍できるはずだね。

 少しだけどAGIも上がるからそっちにも期待かな。


「レベリングを頼むぞ」


「任せといて!」


 逆にエンチャンターはVITとSTRが上がらない。フォンシーがコンプリートするまでは、ずっと後衛だ。みんなで守ってあげないとね。


「フォンシー、これを使って」


「いいのか?」


「杖しか持てないんでしょう。それと柔らかいんだから、当然よ」


 ミレアがフォンシーに手渡したのは『黒樫の杖』と『魔導師のローブ』だった。家から持ち出したやつだね。

 ちゃんとフォンシーの心配してるってわかって嬉しいよ。いい光景だよねえ。



「……ん」


 ==================

  JOB:KNIGHT

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :25


  VIT:20

  STR:19

  AGI:16

  DEX:22

  INT:8

  WIS:9

  MIN:16

  LEA:14

 ==================


 そしてザッティ。


 念願のナイトだよ。実はザッティって前衛ステータスはフォンシーとあんまり変わんない。INTとWISが全然違うけど、そこはフォンシーが四ジョブ、ザッティが二ジョブだったからってことだね。

 ナイトはとにかくVITとSTRが上がる。レベルが上がればザッティもいよいよ前線だよ。


「わたくしのことは気にしなくていいわ。今度はザッティ、フォンシーを守ってあげて」


「……ああ、フォンシーだけじゃない。みんなを守る」


 ミレアがザッティを励ましてる。ザッティはついにミレアの盾じゃなくって、パーティの盾になるんだね。



 ◇◇◇



「さあ、明日もがんばろうかあ」


「ウルはやるぞ!」


 陣形とか連携とかをみんなで相談してたら、晩ごはんも食べ終わった。そろそろ宿に戻って明日に備えないとね。ウルももうちょっとでウィザードだ。


「『黒門』だあ! また『黒門』が出やがった!」


 顔は憶えてるけど名前は知らない人たちが駆け込んできて、なんか叫んでる。黒門? って黒門!?


「会長だ。会長に伝えてくれ! 7層だ。地図よこせっ!」


「わ、わかりました!」


 協会の職員さんが、慌てて走り回り始めた。飛び込んできた冒険者たちも一緒に奥にいく。



「どうしよう」


「どうしようもないな。しばらくはここで待つしかない」


「だね」


 フォンシーは落ち着いてる顔してるけど、ボクの心臓はバクバク言ってる。いや、フォンシーも頬っぺたに汗かいてる。そうだよね、フォンシーだって不安なんだ。みんなだって。

 ウルはキョロキョロしているし、ザッティも顔をしかめてるよ。困ったなあ。


「まずいわね」


「……そうですね」


 ミレアとシエランがヒソヒソしてる。まずいってなにが?


「どゆこと?」


「『おなかいっぱい』のメンバー、二人がレベル0なのよ」


「あっ!?」


 そうだった。そうだったよ!

 迷宮異変に立ち向かうにしたって、待機するのだってどっちもまずい。

 おまえらは役立たずだーって言われちゃったら、またお金が稼げなくなっちゃう。だけど、レベル0のフォンシーとザッティがいるんだから、無理やり戦うなんてダメだよ。


「落ち着けラルカ。まだどんな異変かもわかってないんだ」


「そうだね。そうだよね」


 うん、フォンシーの言うとおりだ。まだなんにもわかってない。

 あせるのはわかったあとでもいいんだ。けど、考えることはたくさんあるぞ。


「ねえシエラン、黒門って迷宮異変だったよね」


「そうです。黒い門が現れて、そこから下層のモンスターが出てきます」


 うん、一応確認したけど、黒門っていうのはそういうのらしい。


「前回は五か月くらい前かしら。あの時はヘルハウンドが主体だったって聞いてるわ」


「ヘルハウンドって?」


「大きい狼型のモンスターね。レベルは70層相当」


「げっ!」


 教えてくれてありがとうだけど、ミレア、それってボクたちじゃムリだよ!?



「ほれえ、大の大人どもがぴいぴいと騒がしいねえ。ちっとは落ち着きなあ!」


 どうしようってみんなで考え込んでたら、大きな声が事務所に響き渡った。

 あ、会長だ。会長のバーヴィリアさんが叫んだんだ。すごいなあ、テーブルの上に立ってるよ。


「それにすぐ来るさ。出迎えの準備をしときなあ!」


 来るってなにが?

 なあんて考えた瞬間だ。事務所の扉から誰かが飛び込んできた。ああ、来るってそういうことかあ。

 その場にいた全員がいっせいに膝を突いた。ボクらも思わずそうしたよ。


「われはベンゲルハウダー迷宮総督である。面を上げよ。待たせはしなかったであろう?」



 オリヴィヤーニャさんたち『フォウスファウダー一家』の六人がそこにいたんだ。


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