第23話 アンタらが一人前になるとこをさあ!
「いよいよだな」
「ウルはやるぞ!」
ゲートキーパー部屋を目の前にしてフォンシーとウルが気合をいれた。
当然ボクやほかのみんなもだよ。
「ん?」
おっきな耳をぴくってさせてウルが横を向いた。さっきまでの気合がどっかにいって、目がキラキラしちゃってるよ。実はボクもなんだけどさ。
「よーう。なんだアンタら、ゲートキーパー狙いかい?」
「オラージェさん」
こっちに歩いてきたのは冒険者パーティ『誉れ傷』の人たちだった。
声をかけてくれたのはリーダーのオラージェさん。男の人くらい背が高くって、日に焼けた顔で笑ってる。顔にはおっきい傷があって、だけど笑ってる目はすごく優しいんだよね。村にいた農家のおばちゃんって感じ。
迷宮に潜る冒険者なのに、なんで日焼けしてるんだろ。
「……オラージェ」
わかりにくいけどザッティまで喜んでるんだよね。彼女がボクたち以外の名前を呼ぶって滅多にない。理由は簡単なんだけどさ。
「おう。ザッティも盾もって頑張ってるかい?」
「……レベル20になった」
「そうかいそうかい! じゃあごほうびだねえ」
オラージェさんがポケットに手を入れて、それを取り出した。
「ほうら、飴玉だ。ゆっくり食べるんだよ。ウルラータとラルカラッハの分もあるからね。他のみんなもだよ」
「ありがとうございます!」
「ありがとう、オラージェ!」
そうさ、ボクらはすっかり餌付けされてたんだ。飴は甘くておいしいから仕方ないよね。
ところでウル。なんでボリバリって音がしてるのかな?
「それで、やれそうなのかい?」
「あたしはやれると思ってる。みんなもだ」
オラージェさんが念押しみたいに、フォンシーと話をしてる。
ボクたち十二人は輪になって座りながら雑談中だ。もちろん『索敵』はかけてるよ。
「心配なのはミリミレアだねえ」
「わたくしは大丈夫です。ザッティが守ってくれますから」
オラージェさんを前にしたら、ミレアまで敬語になっちゃうんだよね。
「こんなにちっちゃいのに、もう一人前かい。あたしたちなんて、ねえ」
「まったくさ」
「あたいなんぞ二十二年かけて、まだ七ジョブだぜ」
「その内五つがここ半年ってのもねえ」
『誉れ傷』の人たちは迷宮でステータスが出る前からの冒険者だ。ボクたちくらいのころに田舎から出てきて、途中で十五年くらいお休みしてたけど、それでもまた冒険を始めたんだって。
全員が女の人で、子供もいる。息子さんたちは別のパーティ組んで冒険中なんだって。すごいよね。
「ウルももう少しでジョブチェンジだぞ!」
だからボクたちが一番仲のいいパーティって言われたら、『誉れ傷』って返すんだ。
特にお母さんがいないウルとザッティ、ミレアは『誉れ傷』が大好きなんだよね。
「ウルは次はウィザードになるぞ」
「そうかい、そうかい」
って、おい。
「うええええ!?」
ザッティ以外のみんなが大声だして驚いちゃったよ。
「ウル、おまえ本気で言ってるのか!?」
「そうだぞ?」
フォンシーがウルに詰め寄ってるよ。気持ちはわかる。
「どうして? ウル」
「前衛にジョブチェンジしたら、メイジにもウィザードにもなれない」
シエランが訊いたら、ウルはそう答えた。
ウルのINTは6+25だから、ジョブチェンジしたら8。たしかにメイジにもなれない。たぶんコンプリートしてもギリギリ9かな。それならまあメイジにはなれるね。
だけど合計INTが21の今なら、メイジでもウィザードでもエンチャンターでもいけるんだ。
「ねえウル。なんでウィザードなの?」
たぶんウルはすっごい考えたんだと思う。
だから訊いてみた。
「補助は難しいから、エンチャンターはムリだ」
うん。相手のステータスとか誰にかけるのか、そういうのを選ばないとなんないもんね。
「回復もたぶん、言われないとできない……。だったらメイジはもったいない」
そっか。メイジで下級魔法使うのもアリとは思うけど、本人が考えた答えは大切だと思う。
「だからウィザードだ。ミレアみたいにはできないけど、魔法でドカンだぞ!」
「うんっ、いいと思う。ウルが次になるのはウィザードだね」
「おう。ウルはミレアよりずっと速いウィザードになるぞ!」
そうだね。ウルがウィザードになったらすごく速い魔法攻撃ができるようになる。いいね!
「……がんばれ、ウル」
ザッティがウルの肩に手を置いた。いい光景だね。
だからさミレア、ライバル出現みたいな顔するのやめて。それとフォンシー顔を伏せてプルプルしないで。シエランは涙をぬぐわないで。
たしかに感動的だけど、ウルはちゃんと考えてたんだから、それでいいじゃない。
「さあさ、あたしたちが見届けてやろうじゃあないか。アンタらが一人前になるとこをさあ!」
ちょっと時間がたってから気を取り直したって感じでオラージェさんが吠えた。
そうだよボクたちはゲートキーパーをやっつけに来たんだった。いい感じの話してる場合じゃなかったよ。
「はいっ! じゃあ、いきます。みんなもいいね?」
全員が気合の入った顔で頷く。
「ボクが先頭でウルが次、フォンシー、ザッティ、ミレア、シエランの順番。いくよっ!」
ボクが扉を蹴って、みんなでゲートキーパー部屋に突入だ。
◇◇◇
「『ダ=リィハ』!」
部屋に飛び込んでちょっと、ボクたちをバトルフィールドが囲んだ。さあ、戦闘のはじまりだ。
しょっぱなはボクの火炎魔法。ウルフシリーズは大抵寒さに強い。モンスターの半分くらいが炎に包まれた隙に、ボクは敵を数えた。
「グレー、十三!」
「シエランは右。あたしは左だ。全員、自己バフ使え!」
フォンシーが叫ぶ。
バフ系スキルは戦闘中ずっと続く。だから最初にぶちかますんだ。
「『芳蕗』『察知』『パンプアップ』『烈風』『鋼のボディ』! ウル。一緒にシルバーウルフを抑えるよ!」
「おう! 『頑強』『向上』『活性化』『察知』『烈風』!」
ボクとウルは速さと硬さと力を身に付ける。負けないぞ、シルバーウルフ!
「ミレア!」
「『ティル=トウェリア』!」
メイスでグレーウルフの先頭をはね返したシエランが叫ぶのと同時に、敵の鼻先にミレアの魔法が炸裂した。
やっつけたのは三頭かな。近くにいたもう一頭にもダメージが入ったと思う。
「『ダ=リィハ』。ぐあっ。『ファ=オディス』」
魔法とこん棒の両方で攻撃してたフォンシーが横から体当たりを受けて転がった。けど自分で治して、また立ち上がる。
シエランとフォンシーはプリーストができて、メイジができて、物理攻撃もできる。そして二人とも頭がいい。魔法と武器を組み合わせて、しかも後衛のミレアまでちゃんと計算に入れて戦ってるんだ。
「があぁぁっ」
「『ファ=オディス』」
シルバーウルフを相手してるボクとウルも大変だ。ウルが怪我をしたらボクが治す。大怪我だったらフォンシーかシエランがなんとかしてくれるはずだ。
「ぐるるぅ、『速歩+1』!」
「『聴勁』『見切り』!」
ウルは飛び跳ねるみたいに行ったり来たりして敵を困らせる。ボクはへばりつくように相手を引き付ける。これがボクとウルのやり方だ。犬と猫ってね。
「……ぐっ。シエラン頼む」
「『ラ=オディス』」
前線を抜けたグレーウルフが、三頭いっぺんにミレアとザッティに襲い掛かった。けどそれはザッティの盾が跳ね返す。それでも全部は受けきれなかったみたい。
すかさずシエランが回復させた。何度も後ろは向けないので全回復だ。これは打ち合わせどおり。
「よくもっ、『ノル=リィハ』」
ミレアが単体攻撃魔法を使って、一頭ずつ目の前の敵をやっつけてく。その間、前衛四人は我慢だ。うん、これも予定通りだよ。
「残りは五……。ウル、そろそろやるよ!」
「おう!」
ボク一番の武器、それは目と耳だと思ってる。
戦闘が始まってから大体七分。ボクには全部が見えてるよ。敵の数も位置も、みんながどうしているかもだ。
周りはもう大丈夫。ここからはシルバーウルフだけを見る!
「『速歩+1』『水面蹴り』!」
一気に踏み込んで敵の足を払った。
「『跳躍』『威圧』『体当たり』!」
ジャンプしたウルが体ごとモンスターにぶつかる。ここだ。
「『無拍子』」
相手の意表をついて飛び込む。
「『崩し』『掌打』『発勁』!」
シルバーウルフの首に手のひらを叩きつけて、もっと体勢を崩してやった。
「からのぉ、うおぉぉ『ブレンバスター』!」
そのまま首を引っ掴んで、持ち上げて、反対側に頭から地面に叩き落とす。
これがボクの戦い方だ!
「ウルっ!」
「『渾身』『踏み込み』『貫通』。ぐるあぁ『爆砕』!」
逆さまになったシルバーウルフの背中に、ウル最強の一撃が決まった。
◇◇◇
「がっはははは! いやあ、凄いもんだ!」
「ほんとだねぇ、スキルの使い方なんてあたしらより上なんじゃないかい?」
後ろからオラージェさんたちの声がする。あれ?
「どうしたんだい。アンタらの勝ちさ。ほれ、気勢を上げな!」
「勝った? ボクたちが? あれ?」
そういえばもう、敵がいないや。
「……やった」
「ザッティ、大丈夫?」
ザッティが膝を突いてる。ミレアが心配そうに駆け寄った。
「やったな、あたしたち」
「そうですね」
フォンシーとシエランが近づいてきた。ああ、二人とも笑ってるよ。
「やったぞ、ラルカ!」
ウルがボクに抱き着いてきた。重いって。しっぽがすごいことになってるからさあ。
「そっかあ。ボクらは勝ったんだね」
「ああ、アンタたちは勝った。もう一人前だね。『誉れ傷』が名誉にかけて見届けた」
オラージェさんはすっごい嬉しそうに、顔の傷をなぞった。
そうさ、ボクらは初めて自分たちだけの力で20層に勝ったんだ。誰もレベル上がんなかったけどね。
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