第22話 いつでもどこでも、ずっとだからね
「よしっ、決めた!」
リーダーになって十日。ボクはついに決心した。
今日こそパーティの名前を決めようじゃないか!
いつもどおり、ベッドに六人向かい合わせでお話合いだ。やるぞお。
「へえ、気合入ってるな」
フォンシーがニヤリと笑う。そうだよ、ボクは決めたんだ。
「……適当でいいんじゃないかな。なんかこう、勢いとかノリとかで」
「どうしてそうなったのよ!」
ミレアがツッコむけどさ、ボクも色々考えたんだよ。いろんな人に訊いてみたりしてさ。
そしたらもうバラバラなんだもん。出身地とか、希望とか、考え方とかさあ。ひどいのだったらお酒飲んでたら浮かんできたって人もいた。『ピップ』だって。どうしてって訊いたら、響きがいいってさ。わけわかんないよ。
「というわけだから、みんなが思い浮かんだのを言ってみて」
「なんでそうなるかな」
「はいはい。じゃあフォンシーから」
「ふぅ」
ため息吐かない。
「じゃああたしは『ウハウハ』」
「いいね。フォンシーだね。次、シエラン」
「わたしは『素敵な冒険』です」
「すごくシエランっぽい。いい感じだよ。次はウル」
「ウルは……、『ごはんがたくさん』!」
「ウルも考えてくれてたんだね。素直でいいと思う。はいミレア」
「『剣戟と爆炎』よ」
「かっこいい方向だね。しっかり自分のことを持ち上げてるのもいいじゃない。最後はザッティ」
「……『暗黒の盾』」
「お菓子関係かと思ってたよ。そういうのが気に入ったんだねえ」
「それでどうするんだ?」
フォンシーさあ、ボクだってどうしたらいいかわかんないって。ほんとどうしよう。
「……『ごはんがたくさんウハウハで剣戟と爆炎と暗黒の盾だから素敵な冒険』?」
「ラルカの案が入っていないわよ」
「そうじゃないよ、ミレア。ここは、長いってツッコむとこでしょ」
「長いわね」
ありがと。ボクはなんか疲れたなあ。
「じゃあ聞かせなさいよ、ラルカの考えた名前」
「えーっと、『おなかいっぱい』?」
ホント、そんな気分だよ。
「いいな」
「ウルもおなかいっぱい食べたいぞ!」
「それでいいじゃない」
「大切なことですね」
「……うん」
ええっと、フォンシー? ウル? ミレア? シエラン? ザッティ? みんななんで頷いてるのかな?
「だから『おなかいっぱい』だろ? いいじゃないか。あたしたちらしい」
「フォンシー……」
なんでニヤニヤしてるのさ。
「ウルはたくさん冒険して、おなかいっぱい食べるぞ!」
「……おなかいっぱい食べたら力がつく。お菓子もいいな」
ウルとザッティの目がなんか燃えてる。
「おなかいっぱい食べるには、稼がないといけないですね」
シエランの言うとおりだけどさ。
「それに、冒険をしながらみんなで食事をするのは、とても素敵です」
まあそうだね。ボクもみんなでごはん食べるの大好きだよ。
そいでさ、そろそろみんながどうしたいのかわかってきたよ。
「ならばわたくしは敵を燃やし尽くすわ」
ミレアはそうくるかあ。
「おなかがいっぱいになるくらい、モンスターを倒すんでしょ?」
ホント、無理やりじゃないか。
みんなそろって図りやがったなー!
「わかったよ。ボクはもう、おなかいっぱいみんなの話を聞いちゃった」
これでもけっこう嬉しいんだよ。めちゃくちゃ無理やりだけど、みんなが合せてくれたんだ。
「これからボクたちは『おなかいっぱい』だよ。いつでもどこでも、ずっとだからね」
もしかしたらパーティの名前なんて、後から意味がくっつくのかもね。
◇◇◇
「……『おなかいっぱい』出陣だ」
珍しくザッティが切り出した。気を使ってくれてるのかな。それとも気に入ったのかな。どっちでもボクは嬉しいけどね。
「おう。たくさん頑張っておなかいっぱい食べるぞ!」
ウルは言葉のとおりなんだろうなあ。けど、一番『おなかいっぱい』してるのはウルかもしれないや。
「二人も気合入ってるな。さてパーティ名が決まって初冒険だ。あたしもやるか」
「負けてられません」
「今日は決戦ね」
昨日あれからなんとなく決めたんだけど、今日は20層のゲートキーパーに挑戦だ。
ボクもがんばらないとね。
『パーティ名が決まった記念だ。あたしたちの全力を試してみたくないか?』
フォンシーが言いだしたんだよね。
昨日の夜はウルとザッティが眠そうだったから、朝になって協会事務所でごはんを食べながら最後の確認だよ。
20層のゲートキーパーはボスがシルバーウルフで、取り巻きがグレーウルフだ。
20層から24層までは昇降機で上り下りできる。カースドーさんたちの時と『一家』の皆さんと一緒に通ったからオマケで鍵はもらってるんだけど、あそこって昇降機の目の前がゲートキーパー部屋だから、鍵に意味ないんだよね。
「ボクはやれると思う」
モンスターの実質レベルは23くらいだったかな。ボクの感じだとやれちゃいそうな気がするんだ。
カースドーさんたちのうしろで何回も見た敵と今のボクたちを重ねたらさ、いけるって思えちゃうんだよ。
「わたくしとザッティが一人前扱いは、ちょっと早いかもしれないわね」
ミレアは笑ってるけど、これはそういう戦いなんだ。
じつは20層の昇降機に乗れるのが大切らしいんだよね。20層を越えて24層まで行けるんなら新人はもう終わり。一人前の冒険者あつかいなんだって。
「一番の問題はわたくしよ」
そうなんだよ。ミレアが心配。レベルは16まできたけどVITがねえ。
==================
JOB:PRIEST
LV :16
CON:NORMAL
HP :15+61
VIT:9+17
STR:8+19
AGI:11
DEX:14
INT:29+41
WIS:16+39
MIN:14
LEA:15
==================
ミレアのステータスはこんな感じ。
プリーストなのにINTの方が伸びてるの、不思議だね。
そっちはいいんだけど、やっぱり前衛ステータスはまだまだだ。HPはすごく上がったけど、ザッティでも90はあるし、残り四人はほとんど100くらい。
「シルバーウルフはブレスがな」
提案したフォンシーこそわかってるじゃないか。
20層のゲートキーパー、シルバーウルフは氷のブレスを吐いてくる。
「わたしが『ピィフェン』を使えば、それなりに耐えられると思います」
真剣な目をしたシエランのWISは合計で63。同じプリーストでもミレアの55よりは上だ。
『ピフェン』はプリーストの盾魔法で、WISが高いと硬くなる。たしかにちょっとは安心できるかな。
「ザッティもいるから、わたくしは心配していないわ。ブレスひとつで倒れたりしない」
「……やる」
それにザッティの盾だ。ファイターがレベル20になったけど、ザッティは今でも盾だけで戦ってる。一度も剣を抜いたことがないけど、そのかわりずっと盾をふるってモンスターをはじき返してるんだ。『シールドチャージ』とか『シールドバッシュ』なんかもかなり使いこなしてる。
守るんだーって意思の強さだったら、パーティで一番だと思うんだよね。
「ボクとミレアがレベル16、フォンシー、ウル、シエラン、ザッティがレベル20」
レベルがミレアに追いつかれちゃったよ。
「基礎ステータスの上乗せがあるから、レベルはひとつかふたつ上だと思うんだ」
「それとスキルの組み合わせもあるからな」
「スキルの多さは継戦能力だけじゃないですね。ウルとラルカに期待しています」
前向きなボクにフォンシーとシエランも乗っかってきた。
シーフとウォリアーのスキルを組み合わせられるウル。そしてボクはシーフとカラテカ、グラップラーのスキルが使える。
しゅばばって近づいて、にゅるっと絡みついて、どかんって攻撃できるんだ。
「事前に練習しておきたいわね」
「シエラン、フォンシー、どこかいいとこある?」
ミレアの言うとおり練習はしっかりしとかないとだ。
シエランとフォンシーに確認してみるけど、これでいいと思ってる。ボクはみんなに頼るリーダーだからね。
「ボスがいて群れるモンスターなら……、16層でランニングラビットはどうでしょう」
「ボスはパンチングラビットだったっけ?」
倒して食べたことあるから覚えてる。
「二本足と四本足で速さもだいぶ違いますけど」
「肉がおいしいぞ!」
シエランとウルが情報をくれた。うん、ボクもおいしいと思う。
「じゃあまずは16層で、それから18層と19層。最後に20層だね。スキルはちゃんと残さないとだよ」
「おう!」
みんなが元気に答えてくれた。
◇◇◇
「ふしゅー……」
さっきまで激闘してたパンチングラビットが消えてく。もちろん大勝利さ。
「練習は見ていたけど、本気だとここまですごいのね」
「くやしいけど、ウルより強いぞ」
ミレアは苦笑いでウルは嬉しそうだ。悔しいんじゃなかったの?
「まあ想像どおりだったな。ウチのリーダーは『おなかいっぱい』最強だ」
「うへへ、そうかなあ」
シーフも入れればだけど、前衛が三ジョブ目なのはこの中でボクだけだ。しかも近づいて速さで攻撃する感じのジョブばっかり。
つまりさ、スキルの相性がいいんだよ。
STRならフォンシーやシエラン、ザッティの方が上だけど、ボクにはAGIとDEXがある。
「じゃあ予定通り18層と19層を回ってから、最後は20層でゲートキーパーだね」
「途中で20層のことばかり考えるなよ?」
「もうっ、フォンシーったら。わかってるって」
さあ行こう。ボクたちは新人を乗り越えてみせるんだ。
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