第21話 できればお昼寝もいいなあ




「じゃあラルカ、次はパーティの名前だな。仕切ってくれ」


「うええぇ」


 いきなりかあ。パーティの名前って、どうやって決めたらいいんだろ。


『パーティ名はその者らの在りようだ』


 ぽこんってオリヴィヤーニャさんの言葉が浮かんだ。背負子しょいこの思い出も浮かんだけどそっちは無視。


「在りよう、ってなにかな?」


「オリヴィヤーニャか?」


 フォンシーは察しいいねえ。

 うむむむ。在りよう。ボクたちはどんな冒険者なんだろうってことかな。それとも。


「みんなはさ、色んな理由で冒険者になったよね。それとどんな冒険者になりたいのかっていうのも、あるよね?」


 そうさ、それくらいならボクにもある。思ったことをぶわーって言えばいいだけだ。

 在りようなんて今はよくわかんない。答えもわかんないような難しいことを考えて悩んでるのって、時間がもったいないよ。



「わたしはみんなと一緒に冒険者ができて楽しいです。これからもみんなで冒険者をしたいです」


「そうだよシエラン。そんな感じでいいと思う。みんなも言ってみて」


「ウルはごはんをいっぱい食べたいぞ!」


 うん、ウルはそれでいいと思う。


「わたくしは仲間のみんなといろんな冒険をしてみたいわ」


 ミレアは最初にあったとき、なんでも全部やるんだーって言ってたもんね。


「あたしはウハウハするのが目標だな」


 ぶれないねえ、フォンシー。


「……もっと強くなりたい。お菓子も食べたい」


 ザッティは欲張りなのかそうじゃないのか、よくわかんないね。両方が目標ってことでいいのかな。


「ボクはもちろん、おなかいっぱいごはんを食べて、できればお昼寝もいいなあ」


 そうさ。最初っからそうで、今でもボクのしたいことはこれなんだ。


「……迷宮で昼寝するのか?」


「ラルカはすごいな!」


「休みの日だけだよ!」


 ザッティ、ウル……。ボクをなんだと思ってるのさ。



「ラルカが言いたいことはわかったわ。みんなのどうしたいかをパーティ名にするのね。それで、どうやってまとめるの?」


「どうしよう、ミレア」


「貴女ねえ」


 呆れないでよ。


「まあいいじゃないか。パーティ名の決め方はそれでいいと思う。別に急ぐことでもないから、みんなで考えておくってことにしよう」


 ほら、やっぱりフォンシーの方がリーダーじゃん。



 ◇◇◇



「あだっ!」


「ラルカっ! 『ファ=オディス』」


「ありがと、シエラン」


「迷宮で考えごとはだめですよ?」


「うん、ごめん」


 バレてたか。ちょっとパーティ名のこと考えてたんだよね。反省反省。

 シエランに回復してもらってたら戦闘が終わっちゃってるし。


 ここは18層だし気を引き締めないとね。

 予定通りボクらは稼ぎ場所を深くした。ここと19層の両方だ。18層は素材で19層は経験値って感じになるみたい。


「狙いの区画までもう少しだ。気合を入れろ」


 フォンシーに促されてボクたちは進む。

 今のボクたちなら20層だってやれるはず。ミレアはまだレベル12だけど、ザッティがついててくれるしね。



「おおう、けっこう冒険者さんがいるねえ」


「前までと違って、ここらは稼げるらしいからな」


「えっと、ジャンピングピッグとタイロン・ウッドだったっけ」


 それぞれ素材はお肉と木材なんだって。たしかにいくらあってもいいもんねえ。


「肉が食べたいぞ」


「いいねえ。今日は用意してないけど、今度お皿とか持ってこようか」


 おおう、ウルのしっぽがぶるんぶるんだ。美味しいもんね、迷宮ごはん。



「よう。嬢ちゃん方もここまできたか」


「こんにちはー」


 何回か戦闘してみて、そろそろお昼ごはんかなってときに声をかけられた。

 おじさんたちが、なんと焼肉の準備中だ。さっきからいい匂いしてたんだよね。えーっと。


「『なみだ酒』の『赤ワイン』ですよ」


 シエランがこっそり教えてくれる。『なみだ酒』は知ってたよ。パーティ名が出てこなかっただけ。お酒の名前ばっかりなんだもん。


「せっかくだ。食ってかないか?」


「いいのか!?」


「いいんですか!?」


 ウルと一緒に詰め寄っちゃったよ。


「あの、お代を」


「かまわんかまわん。若手に奢るのも古参だってな」


「ありがとうございます」


 シエランがお金を払おうとしたけど断られちゃった。うん、この人たちいい人だ。ウルみたいな考え方だね。ボクもそっち側だよ。



「へえ、パーティ名なあ」


「考えてるとこなんですよ。『なみだ酒』ってどういう意味なんですか?」


『なみだ酒』はベンゲルハウダーにあるクランでもけっこう大きかったはず。


「……しょっぱい話だが、まあいいか」


 あれ? なんか重たいの?


「ウチは古参でなあ。もう十五年くらいだ」


「そんなに前からあるんですか」


「俺はここ三年だから直接は知らないんだが、以前は『盃を掲げろ』って名前だったらしい」


 あ、いやな予感。シエランが悲しい顔してる。もしかして知ってた。


「五年くらい前か、当時のクランリーダーが層転移に巻き込まれてそれっきりだとさ。一番手のパーティとリーダーがいきなり消えて大混乱だったってよ」


 層転移。迷宮の階層が別の層と入れ替わっちゃうことだ。しかも中身ごと。モンスターはどうでもいいけど、冒険者がいたらその人たちまで。


「間の悪いことに深層アタック中でな」


 深いところからもっと深い階層に飛ばされちゃったんだ。



「それ以来、ウチは『なみだ酒』だ」


「……ごめんなさい」


「いいさ。おっさんたちの昔話なんて若いのに聞かせたのは久しぶりだ。嬢ちゃんたちはせいぜい楽しいパーティ名をつけてくれ。言われなくてもそうするんだろ?」


 そう言って『赤ワイン』のリーダー、ザッカスさんは笑った。


「ほれ、食え食え。犬セリアンの嬢ちゃんも食え」


「おう!」


 ザッカスさんの差し出したお肉にウルがかぶりついた。


 そうかあ、悲しい出来事も名前になるんだ。でもおじさんの言うとおり。ウチは明るい名前がいいな。



 ◇◇◇



 それからも出会ったパーティに名前を訊いてみた。


 たとえば『山嵐』『錨を上げろ』。山とか海とかから来たらしい。遠くから集まってきたパーティだと出身地にあやかることもあるんだって。そういや講習で一緒だった『ラーンの心』もそうだね。

 他には『誉れ傷』なんてのもあった。リーダーが40歳くらいのおばちゃんで、まだステータスもスキルもないころに迷宮で怪我したんだって。がはははって豪快に笑ってたよ。



「素材はそろそろいいですね」


「じゃあ19層だね」


 シエランがそう言うからには稼ぎは足りたってことだね。

 じゃあ次はミレアの出番だ。


「『ティル=トウェリア』は温存しておいたから、任せておいて」


「もともとそういう作戦だよ?」


「我慢してたのよ。はやく行きましょう」


 ミレアはミレアだね。



「『ティル=トウェリア』!」


 ごわって炎が上がってモンスターを巻き込んだ。やっつけたのはキラーゴーストっていう名前で、魔法しか効かないんだ。物理無効っていうんだって。魔法が無かったら逃げるしかない。そのぶん経験値が多いらしいよ。

 そりゃもうミレアの出番だよ。楽しそうだねえ。あ、光った。


「レベル13よ! マスターしたわ!」


「……やったなミレア」


「やったな!」


 ザッティとウルに囲まれて、ミレアはホントに嬉しそう。プリーストもいっぱしになれたね。



「レベルアップか。いつ見てもいいな」


「あ、こんにちは」


 声をかけてきたのは、これまた大手クラン『ナイトストーカーズ』の冒険者だ。ベンゲルハウダー最強のクランなんて言われてる。ボクでも知ってるくらいだし。

 それにたしかこの人、クランリーダーだったはず。


「えっと、その」


「ふっ、俺は『ファーストライド』のディスティス。一応クランリーダーもやっているかな」


 それってホントに本名? あと言い方がちょっと。

 ちなみに『ファーストライド』って『ナイトストーカーズ』で一番強いパーティだって。



「ほう? 『ナイトストーカーズ』の由来か」


「はい。できればでいいですけど」


 ボクとディスティスは会話中。だけど面と向かってじゃないよ。ウチは戦闘中でミレアが魔法を撃ちまくってる。ディスティスさんはバトルフィールドの向こう側だ。


「俺たちが冒険者だから、だな」


「それってどういう」


 訊いておいてあれだけど、回りくどいなあ。


「冒険者は迷宮の闇を歩くのさ。ただひたすらに夜の迷宮をな」


 迷宮に昼も夜もないと思うけど、結局この人たちは迷宮が大好きだってことかな? それを皮肉ってるみたいな感じ?


「俺たちはいつも迷宮にいる。なにかあれば言えばいい」


「あ、えと、ありがとうございます?」


「お前たちも鍛え上げろ。迷宮はいつ牙をむくかもしれん」


「はい、その、がんばります」


 そんな感じで『ナイトストーカーズ』はどっかに消えてった。いつも迷宮にいるって言ってたけど、住んでるのかな。でも事務所で会ったことあるんだけど。


「……あの人たち」


「ん? どしたのザッティ」


「……格好よかったな」



 ザッティってああいうの好きなの!?


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