第20話 いい機会だしリーダーを決めないか?




「みなさん。黒字です! ちょっとだけですけど」


 珍しくシエランが拳を握って力を込めたかと思ったら、すごく嬉しい報告だった。

 三段ベッドに座ったみんなで拍手したよ。隣から苦情がこない程度でね。


「ごはんが増えるのか!?」


「……借りる装備をちょっとだけ良くしましょう」


「へにょん」


 オリヴィヤーニャさんたちにレベリングしてもらってから十日。ついにボクらはやったんだ! だからウル、声に出してまでしっぽをだらんってさせないで。ボクもへんにょりだけどね。

 やってたことは12層を一日かけてぐるぐるしてただけ。これからだよ、これから。



「魔法の威力を上げるメイスとかないのかしら」


「そんなのが貸し出されるわけないだろう」


 ミレアはレベル10になった。フォンシー、シエラン、ウルとザッティがひとつ上がって、ボクは変わらず。ぐぬぬ。

 いいもんね、スキルトレースがんばるから。


 それにしてもミレアは上機嫌だねえ。話につきあってるフォンシーも苦笑いだよ。


「プリーストを極めて、お父様を殴り倒すわ」


「それは……、いいな」


「でしょう?」


 物騒だって。



 ◇◇◇



「よう、やってるなあ」


「あ、こんにちはー」


 通りすがりの冒険者さんたちが声をかけてくれた。いいよね、こういうのって。


 迷宮12層にいると冒険者さんとよく出会う。なんでかっていえば、ここから17層まで通じる昇降機があるからだね。

 逆にここで戦う人たちはあんまりいない。強い冒険者なら17層へ直通だし、ボクたちと同じくらいなら13層とかの方がモンスターの素材が美味しい、つまりお金になるんだって。


『ウチは魔法使いが四人もいる。数で稼ぐさ』


 っていうのがフォンシーの考えだった。

 ボクたちは三人がメイジで、ミレアがウィザードをコンプリートしてる。使い放題ってはいかないけど、全員併せたら朝から晩まで魔法を撃っても大丈夫なんだ。

 だからたくさんやっつける。素材もたくさんだし、経験値もたくさん。12層はボクらの場所だ。



「ミレアもそろそろマスターだね」


「ラルカもレベル14になれて良かったわ。ひとりだけ上がらなくてブスくれてたから」


「なんだよー」


 そうさ、ボクのレベルがやっと上がった。レベル13を14にするのに時間がかかったよ。

 適正レベルっていうのがあって、六人パーティのレベルと戦える階層はだいたい一緒なんだ。レベルアップしたかったらそれ以上潜らないと大変なんだよね。


「数をこなすか、命がけで深く潜るか。マルチジョブじゃなかった頃はキツかったんだろうな」


「そうですね。わたしたちは恵まれています」


 フォンシーとシエランが二人そろって遠い目をしてる。特にシエランの両親は冒険者だったからね。

 ボクたちは今、たくさんやっつける方を選んでる。素材で稼ぐのと、ミレアのレベルアップだ。

 だけどそろそろ。


「わたくしは明日から18層でも大丈夫よ」


「そうだな、ちょっと早いかもだけどそれもいい」


 ミレアがそう言えば、フォンシーが決断してくれた。よっし明日からはボクもレベルアップできそうだよ。



「フォンシーってリーダーだよねえ」


「ん? あたしがか?」


「だってパーティの大事なコトって、だいたいフォンシーが決めてるし」


 特にこないだの奇跡とかそうだしさ。なんかズバって決める感じでかっこいいよ。


「……そうだな。この話は戻ってからにしよう。今は稼ぐぞ」


 稼ぐのはいいけどなんだろ? わざわざ宿で話すようなことなのかな。



 ◇◇◇



「最初に言っておくぞ。あたしは自分をリーダーだなんて思ってない」


「えー!?」


 宿に戻ってすぐ、フォンシーがヘンなこと言いだした。


「確かにあたしは提案が多かったかもしれない。性分だからな。だけどリーダーは違うと思う」


「なんで?」


「あたしの想うリーダーは、みんなをまとめるヤツだ」


 フォンシーの考えること、難しいよ。


「そこでだ、いい機会だしリーダーを決めないか? ついでにパーティの名前も」


「いいわね。わたくしは賛成するわ」


 変な会話にミレアが乗っかった。まあいいけどさ。


「全員一致する……、わけないか。こうしよう。みんなが二人ずつ名前を挙げてくれ」


「なんで二人なんだ?」


 ウルが不思議そうだ。ボクもだよ。


「そっちの方が面白そうだからだ」


「そうか、わかった」


 それで納得しちゃうんだあ。


「できれば理由も言ってほしいな。そっちの方が納得しやすいだろ。もちろん自分の名前をだしても構わない」


 ええー、どうしよう。フォンシーは絶対だけどもうひとりかあ。



「言いだしっぺだ。あたしからいくぞ。ラルカかあたしだ」


「えー!? ボクなの?」


「大した理由じゃない。ラルカだったらあたしの意見を無下にしないだろ? それだけだ」


 なんかボクがフォンシーのあやつり人形みたいじゃないか。でもそんな感じあるしなあ。


「じゃあシエランでも」


「残りの四人じゃない理由は言わせるな」


 なんでさ。ああ、ダメなところみたいになっちゃうからか。

 シエランとミレアは苦笑いだ。あれ? なんかわかってるのかな?



「次はわたくしね。わたくしかラルカよ」


 またボクの名前がでたよ。どうしてなんだろ。


「これでも男爵令嬢よ。肩書の使いどころはあるわ。ラルカなのはそうね、フォンシーはずけずけいい過ぎだからよ」


「はははっ、まったくだ」


 フォンシーはなんで笑うかなあ。



「ザッティ、貴女はどう?」


「……ミレアかラルカだ」


 またボクだよ。ザッティがミレアを推すのはわかるけどさあ。


「……ミレアはかっこいい。ラルカは面白い」


 しっぽでしょ! 絶対しっぽのことでしょ!?



「ウルは、うーん、シエランかラルカだ」


「どうしてさ?」


 一応訊いてみた。なんか変な理由だろうなあ。


「シエランはごはんをくれる」


 それってお金払ってるだけだよ。それとごはんって、セリアンだから仕方ないか。ボクもその気持ち、わかる。


「ラルカはウルを励ましてくれた」


 そりゃそうかもしれないけど、それってシエランとフォンシーもでしょ。


「あたしとシエランは励まし足りなかったみたいだな」


「そうですね」


 フォンシー、シエラン、なんで笑いあってるの!?



「次はわたしですね。ラルカかフォンシーです」


 今度はボクが先にきた。シエランまでさあ。


「ラルカはみんなの話をよく聞いています。フォンシーは落ち着いているからですね。それに二人とも強い」


「それじゃわたくしが落ち着いていないみたいね」


「友達ですから」


 シエランはミレアのツッコミを受け流した。まあたしかに最近のミレアに落ち着きはね。


「ウルじゃないのか? 強いぞ?」


「ウルはみんなのリーダーになりたいんですか?」


「なりたいけど、今はなりたくない。わかった」


 ウルまで操っちゃたよ。もうさ、リーダーやるのシエランでいいんじゃない?



「ほれ。ラルカの番だぞ」


「もう、わかったよ」


 フォンシーに言われてしぶしぶだよ。


「フォンシーかシエラン。理由はたくさん答えを出してくれたから、かな」


 ボクはダメだし、ウルとザッティはちょっと向いてないと思う。三人選べって言われたらミレアも出したんだけどなあ。



「な、二人ずつって言ってよかっただろ?」


「そうですね」


「悪くなかったわ」


 フォンシーが初めて会ったときみたいに、イタズラ小僧っぽく笑った。

 シエランは優しくて、ミレアはなんか悪い顔で笑ってる。ウルとザッティは首を傾げてるね。ボクもだよ。どうしてこうなるの。


「INTが一番高いわたくしがまとめるわね」


 INTは関係ないと思うよ、ミレア。


「わたくしが二回、シエランも二回、フォンシーは三回ね。そしてラルカは五回名前を呼ばれたわ。合計十二。間違っていないわよね?」


 先に名前が出た回数、ボクは二回なんだけど。



「決まりだな。我らがリーダーはラルカラッハ。三毛猫のラルカだ」


 フォンシーって変なときにノリが良くなるんだね。奇跡のときも回りくどかったしさ。おぼえとくからね! ボクのしっぽがゆらゆらだよ。

 それと拍手もいいから。近所から怒られるよ。ウル、目をキラキラさせないで。ザッティはしっぽ見てなくていいから。あー、もう。


「ラルカ。リーダーの条件はいろいろある。頭のいいヤツ、強いヤツ、面倒見のいいヤツ。だけど一番重要なのはそうじゃないって思うんだ」


「それじゃなんなの?」


 急にマジメになったフォンシーが難しいコト言いだした。


「周りの連中が納得するかだ。手を挙げてリーダーになるのもいる。血筋でなるのもな。けどみんなが望んで、担ぎ上げられるリーダーも悪くないと思うぞ?」


「貴族なら冠が軽い方がいいなんて言われるかもしれないわね」


「今回は違う。それでいいだろミレア。ラルカはそんなに安くない。わかってて言うな」


「はいはい」


 なんか難しいこと言ってるなあ。そんなだからボクにはムリなんじゃないかって思うんだけど。


「提案ならあたしがする。金回りはシエラン。偉いさんの対応ならミレアだな。ウルが駆け回って敵を倒して、ザッティはみんなを守る。まとめるのはラルカだ」


 みんなが手伝ってくれるってことだよね。それなら、まあ。



「……リーダーするよ。それでさ、頑張るからさ……、みんなも手伝ってよね?」


「もちろんよ。貴族の対応だけじゃなくて、魔法だって最強はわたくしなのよ」


「ウルはラルカがリーダーで嬉しいぞ」


 ミレアとウルが二人っぽく言ってくれた。


「……ラルカも守れるくらいになる」


「ラルカとウルのごはん代は確保するわね」


 ザッティが真剣にボクを……、しっぽ見てるよね!? シエランはいたずらっぽく笑ってる。


「最初は二人だったんだ。支えてやるさ。フォンシーの名を賭けてやる」


「なにそれ?」


「ああいや、まあいい。とにかく手伝うさ」



 こうしてボクは、なんだかわかんないうちにリーダーになってた。自信ないなあ。


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