第19話 得た力は貴様らのものだ。恥じるな
「わたくし……、レベル30なんだけど」
ステータスカードを持ったミレアの手が震えてるよ。
「これじゃ全然実戦経験がたりないわ」
「だねえ」
「わたくし背負われているだけで強くなったけど、これからがんばるわ!」
背負われたままでそれ言うんだ。
バッタレベリング二セット目が終わったところで帰り道だ。
ミレアがウィザードのレベル30になっちゃったね。
ボクはグラップラーでレベル13。フォンシーはウォリアーの16、シエランはプリーストの16、ウルがシーフで17、そいでザッティがファイターの16。これって明日には普通に15層くらいいけちゃうかもね。もちろんミレアがプリーストになるからレベリングしながらだけど。
ボクだけレベルが低いのはグラップラーが上位ジョブだからだ。経験値が重たいよ。
「どのような経緯であれ、得た力は貴様らのものだ。恥じるな。そして存分に活用するがいい」
10層まで上がってきたとこでオリヴィヤーニャさんがなんか言い始めた、劇みたいだね。一回だけ村でみたことあるよ。そのときの役者さんよりオリヴィヤーニャさんはかっこいい。迫力が違うよ。
「貴様らの活躍こそが、われらへの恩賞となるだろう。励め!」
なんかとんでもない借りを作った気がするよ。
「えこひいきとか思って気にしないでね。時々やってることだから」
ポリアトンナさんがそう言い残して『フォウスファウダー一家』のみなさんは去っていった。
ここでお別れしておかないとこっそりレベリングしたのがバレちゃうもんね。
「ボクらも帰ろっか」
「そうだな。身体も慣らしたい」
前のジョブを一気にコンプリートして次のジョブ。しかもマスター超えてるし、動いとかないとねえ。
「『ダ=ルマート』。よし、撃っていいよ、ミレア」
「わかったわ。『ティル=トウェリア』!」
ボクの氷魔法がモンスターの足をとめて、そこからミレアが撃ったのはウィザード最強魔法『ティル=トウェリア』だ。
なんでボクからかっていえば、ミレアのAGIが低いから10層だと相手に先手とられちゃうんだ。だからボクが足止めしたってこと。
「うぇひひ。これは……、快感だわ」
「よ、よかったですね」
すっごい音をたてた魔法が消えた跡にはモンスターは一匹もいなかった。
妙な顔でぷるぷるして喜んでるミレアを見てシエランが嬉しそうだよ。嬉しそうだよね?
「もっと撃ちたいわ」
「宿に戻って休んでからですよ。明日がんばりましょう」
「わかってるけど」
スキルは三時間寝ないと元に戻らない。それでもレベルアップしたときに新しく覚えたスキルは一回だけ使えるんだ。ミレアの取っておきだったってことだね。
「せっかくだからミレアは魔法を使いきれ。あたしたちが守るから、ちゃんとシエランとザッティの後ろにいるんだぞ」
「……守ってやる」
フォンシーが注意して、ザッティが盾を構える。ザッティってファイターになったのにおっきな盾のまんまなんだよね。だれも用意してないからここに剣はない。
明日からもしばらく盾だけでいくんだって。盾の専門家になりたいみたい。
地上に戻ったら、おっきな夕陽が見えた。もうこんな時間だったんだ。急いで晩ごはんを食べないと。
◇◇◇
「戦闘に参加できないのは当然だけど、目で追いかけることもできなかった。ラルカはどうだった?」
フォンシーがボクに振ったのはAGIが一番高いって理由だね。
「全然。だってオリヴィヤーニャさん、STRは400でAGIが200だよ。見えるわけない」
「そうか。上はとんでもないな。それを知れたのも収穫って考えるか」
ボクたちは宿で今日の反省会だ。別に反省することもないけどね。
「あたしも次はエンチャンターかな。そろそろ欲しい」
「シーフを通ったほうがよくないですか?」
「それもそうだけど、いやしかし」
フォンシーとシエランが次のジョブ談義をしてる。
ボクたち今朝までミレアとザッティをどうやって守ろうって、必死だったんだけどねえ。
「ウルはやるぞ!」
ボクが最初にシーフやってたのと違って、ウルは攻撃力があるシーフだからね。ズバズバやっちゃって。
「九回、明日になれば九回も『ティル=トウェリア』を撃てるわ」
「……やったな、ミレア」
……ミレアさあ。薬師のおばあちゃんから怪しい薬とかもらってないよね。あとザッティ、止めてあげるのも優しさだと思うよ。
なんでボクがツッコミ役やってるんだろ。
「みんなが自分のできることとか、他の人たちにどうやって合わせるかって考えてるね」
「そうだな。ラルカもだろう?」
「そりゃあボクだってね」
ベッドに座ってフォンシーとお話し中だ。
最初のジョブもフォンシーに背中を押してもらって決めてたけど、今はもう違うよ。ちゃんと自分で考えて、それでもってパーティの中でどんな役割するのかまで決めるんだ。
「でもフォンシー。『ラング=パシャ』はやりすぎだよ」
「あのときはああするのが一番だったろ」
「レベル二つ分、取り返さないとね」
「ああ」
◇◇◇
次の日は事務所によってまずミレアがジョブチェンジした。プリーストだね。
これでVITとSTRが上がるから少し硬くなれるよ。家から持ち出した『黒樫の杖』は封印だね。メイス持って。ボクなんて素手なんだから。
「今日はとにかくミレアのレベリングだ。そうすればあたしたちは稼げるパーティになれる」
「みんなよろしくね」
ミレアのHPが上がれば、今のボクたちなら15層はいける。
ウハウハへの道が開けるんだ。やるぞお。
「問題なさそうですね」
シエランがほっとしたみたいに言った。
四時間くらいかけて5層を回ってみた。ミレアのレベルは3。ごめんね、ボクが先に魔法を撃つからミレアの魔法は出番なしだ。これも安心安全だからさ。
迷宮でお昼ごはんを食べながら、この後の予定を相談中だよ。
「早く魔法を撃ちたいわ」
「……あせるな」
ザッティの言うとおりだよ。10層くらいになったらイヤでも活躍してもらうからさ。
「ザッティ、9層でもいけるか?」
「……やれると思う」
フォンシーがザッティに確認した。
実はザッティ、ファイターなのにまだ剣を使ってない。一応腰にぶら下げてるんだけど、両手で盾を持ってるから抜いてさえいないんだ。
そのかわりってわけじゃないだろうけど、盾の扱いは上手くなったと思う。レベルが上がって補助ステータスもよくなってるはずだから、それもあるのかな。
そんなザッティは結構嬉しそうだ。あんまり表情にでないけど、時々こうフッて感じで口元が動くんだよね。ボクは見逃してないよ。
「ゲートキーパーは、別にいいか。9層に行くでいいか?」
ボクたちは全員鍵を持ってるから、ゲートキーパーをやっつけることもないんだよね。それに多分このメンバーだったら5層のゲートキーパーなんて楽勝だし。
フォンシーがみんなに確認して、ボクたちは昇降機に向かった。
◇◇◇
「うぇひひひっ、『ティル=トウェリア』!」
「なあラルカ。ミレアが変だぞ?」
「ボクもそう思ってるよ、ウル。本人には言わないであげてね」
「わかったぞ」
「……たすかる、ウル」
ねえミレア、ウルとザッティから変だって思われてるよ? シエランとフォンシーは口に出さないだろうけどさあ。でもまあ本人が楽しそうだからいっか。
9層にもなったら前衛だけだと抜けてくるモンスターもいるんだよね。だからそいつらをザッティが抑え込んで、ボクとウルが駆けつけてやっつけるって感じになるんだ。
じゃあ奥の方にいる敵はってなったら、そこはミレアの出番。魔法でドカンだね。だけど最強魔法使うかなあ。
「効果範囲はわかっているみたいですし、いいんじゃないでしょうか」
「まあ練習にもなるな」
シエランとフォンシーがいいならいいや。がんばれミレア。
「撃ちまくって、慣れるわ」
ほどほどにね。
「やったわ、レベル5よ」
なあんて9層をうろついてたら、ミレアのレベルが上がった。
ちなみに経験値は全員一緒。魔法で活躍したからって多くもらえるわけじゃない。それだとプリーストとかエンチャンターが大変だからね。
それでもミレアが大活躍だったのは本当だし、みんなも納得してる。
この前まではボクが最初に魔法を撃って全員で突撃ーって戦法だったけど、今は一回引いてから魔法攻撃なんてのも練習中だよ。
「ギリギリを攻めるわ」
「それは止めろ」
フォンシーが注意してる。ボクとウルは速いし、シエランは硬い。ザッティは最初から後ろってことで、魔法が間違ったら一番危ないのがフォンシーなんだ。何度か火傷したし。
バトルフィールドがあるからとんでもないところで魔法がどっかんってことはないけど、中だとなんでもありだ。物語みたいに火の玉が飛んでくんじゃなくって、その場でチラって光ってから爆発だから結構簡単に避けられるんだよね。問題なのは爆発の範囲と威力がINTで変わるってくらい。
モンスターはそういうの気にしてないみたいだけど、どういうことなんだろ。
==================
JOB:PRIEST
LV :5
CON:NORMAL
HP :15+17
VIT:9+4
STR:8+5
AGI:11
DEX:14
INT:29+15
WIS:16+11
MIN:14
LEA:15
==================
そんなミレアのステータスだ。
INTは文句なしなんだけど、前衛ステータスはまだまだ。当たり前か。でもHPとVITを上げないとまだまだおっかないね。10層あたりから敵も魔法を使ってくるし。
「そろそろ夕方じゃないかな」
「そうだな。上がるか」
ミレア以外はレベル上がんなかったけど、順調だよね。さあ晩ごはんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます