第18話 『ラング=パシャ』




「ええー!?」


 驚いた声をだしたのはボクだ。だってフォンシーがとんでもないこと言いだすからさ。


「ラルカ、意地とかを放り出して、ここに来た理由はなんだ」


「レベリング。ボクたちは強くなって稼げるようにならなきゃだから」


「だったらその機会を逃すわけにいかない。そうだな」


「そうだけどさあ……、わかったよ」


 しぶしぶだよ。ホントにしぶしぶだよ。

 まったくフォンシーはムチャなこと思いつくんだから。


「みんなも、いいな」


「おう!」


 ウルが元気に、他は黙って頷いた。


「わたくしだけ仲間外れで悲しいわ」


「また機会があるさ」


 シブいねえ、フォンシー。



「見物にきてやったぞ。さて、なにをやらかす」


 いつの間にかすぐそばにオリヴィヤーニャさんを先頭にして『一家』のみなさんが立ってた。

 煽ったくせに。わかってるくせに。


「フォンシー、みなさん、それでいいの。ちゃんと考えて機会は逃がさない。46層で疲れているのによく思いついたわ。さすがはわたしの教え子たちね」


 そう言ってポリアトンナさんが笑った。だけどその笑みは全然優しくない。まるで襲いかかる直前みたいな、そんなおっかない笑い方だ。しかもそれが六人。



「見物客が多いが、やるぞ。ミレア、いったんパーティ抜けてくれ」


「わかったわ」


 パーティの組み直しはみんなの意思で決まる。だれだれとパーティになりたいなって全員がそう決意したら、あとは迷宮が勝手に判断するんだって。あんまり離れてると、たとえばバトルフィールドの外とかだとパーティ扱いされないみたい。不思議だね。


「存分にやれ。意地を見せてみろ。われたちが貴様らの覚悟、見届けてやるわ!」


 オリヴィヤーニャさんが吠える。この人、仕切りたがりかな。



「そうするさ。『ラング=パシャ』」


 フォンシーがなんてことないように魔法を使った。

 プリーストが覚える最後の魔法。効果は小さな奇跡だ。使えば本人のレベルが二つ減る。

 フォンシーはそれをわかった上で使った。それが今の彼女にできることだからって。


「あたしの望みは、パーティメンバーのジョブチェンジ!」


 フォンシーの願った小さな奇跡はジョブチェンジだった。

 事務所のステータス・ジョブ管理課にあるジョブチェンジの台だけど、ジョブチェンジアーティファクトっていわれてて、すっごく貴重なものなんだって。王国に四つある迷宮にそれぞれひとつずつしかない。


 それと同じコトをフォンシーがやった。


「みんな、念じろ。次のジョブだ」


 フォンシーの声に背中を押されて、ボクは念じる。ボクは……、グラップラーになりたい。



 レベルアップの時と違って、別に銀色に光ったわけじゃない。ボクたちのジョブチェンジはあっという間に終わった。みんなが握りしめてたステータスカードをそれぞれ見せあう。


 ==================

  JOB:WARRIOR

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :27


  VIT:15

  STR:14

  AGI:15

  DEX:20

  INT:29

  WIS:22

  MIN:12

  LEA:14

 ==================


 これがフォンシー。INTとWISが高いけど、VIT、STR、AGIがちょっと低いね。これだと攻撃が当たったら危ない。だからエンチャンターを諦めたんだ。でもウォリアーは前衛の鬼だ。フォンシーもだいぶ前衛に慣れてきたし。しばらくはアタッカーだね。

 次にジョブチェンジするときは、エンチャンターを選ぶのかな。


 ==================

  JOB:PRIEST

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :33


  VIT:20

  STR:26

  AGI:14

  DEX:21

  INT:17

  WIS:12

  MIN:12

  LEA:14

 ==================


 次がシエラン。前衛ステータスが上がったね。AGIが低くて一歩目は遅いかもしれないけど、十分前衛ができる。メイスで殴りながら回復魔法も使える心強い仲間だ。

 生粋のプリーストはこれで二人目。パーティが安定するよ。


 ==================

  JOB:THIEF

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :22


  VIT:22

  STR:25

  AGI:15

  DEX:14

  INT:6

  WIS:7

  MIN:15

  LEA:17

 ==================


 そしてウル。WISもだけど、INT低すぎ。シーフで稼いでね。VITとSTRが高いから、たくさん駆け回って短剣を振るう姿が今から楽しみだ。


 ==================

  JOB:FIGHTER

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :17


  VIT:16

  STR:15

  AGI:14

  DEX:19

  INT:7

  WIS:9

  MIN:16

  LEA:14

 ==================


 ザッティはこんな感じ。ウルもそうだったけどINTがねえ。だけど二人とも一ジョブ目をコンプリートしただけだから仕方ない。ファイターは平均的に前衛パラが伸びるから、頼れるタンクに期待しよう。


 ==================

  JOB:GRAPPLER

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :32


  VIT:17

  STR:15

  AGI:28

  DEX:28

  INT:18

  WIS:15

  MIN:19

  LEA:15

 ==================


 そしてボク。じゃじゃん、グラップラーだよ。

 グラップラーは殴って蹴って、敵に絡みついてナンボ。高いAGIとDEXで組み技なら任せといて。だけどモンスターに組みつくってどうなんだろ。

 グラップラーもまんべんなく前衛パラが伸びるから、ボクはこのまま前線で大暴れだ。


 ==================

  JOB:WIZARD

  LV :19

  CON:NORMAL


  HP :7+52


  VIT:9

  STR:8

  AGI:11

  DEX:10+30

  INT:14+121

  WIS:13+21

  MIN:14

  LEA:15

 ==================


 オマケみたいだけど、ミレアはこんな感じ。

 コンプリート直前だけど、こんなにINTが伸びるんだ。魔法攻撃力はINTで決まるから、ボクたちのメイジ魔法よりずっとすごい攻撃ができるんだろうね。今は背負子の上だけど、明日からがんばろう。早くミレアの大魔法を見たいな。



「ところでミレア。謝らなきゃならないな」


「どうしたの?」


 フォンシーがミレアに謝る? なにをさ。


「『ラング=パシャ』でジョブチェンジするときな、関係なくても一緒のパーティにいていいみたいなんだ」


「なによそれ! わたくしだけ仲間外れみたいじゃない」


「初めて使ったんだ。それまでわからなかった。ごめん」


 ああ、あるよね。使ってみてやっと細かいことがわかるスキルって。

 だけどそこの二人、いつまでもきゃいきゃいやらない。『一家』のみなさんがこっち見てるよ。



「茶番は終わったか? ならば言おう。見事な選択であったぞ。納得はできたか?」


「ああ」


 オリヴィヤーニャさんとフォンシーがにらみ合うように笑ってる。火花でてないよね?


「それでミレア以外、あたしたちはレベル0だ。それでも約束は続いているか?」


「無論だ。次の一セットでミリミレアはコンプリートするだろう。さてそのとき貴様らはどうなっているかな」


「あんたら次第だろ」


「ぬかしおる!」


 わかりあってるなあ。



 ◇◇◇



「そういえば貴様ら、パーティ名を名乗らなかったな」


「ないんです、まだ」


 背中越しにオリヴィヤーニャさんが訊いてきた。


「それはいかんな。パーティ名はその者らの在りようだ」


『フォウスファウダー一家』ってそうなんだ。意味わかんないんだけど。


「皆でよく話し合うがいい。世の中には堂々と『狂気』を名乗る者もいるのだぞ」


 なんか笑いながらモンスターをやっつける集団が目に浮かんだ。怖いよ。



 二セット目のモンスタートラップも終盤だ。

 ミレアが魔法を撃ちたがっていたけど、ダメだって言われてた。連携がとれないだろって。


 そうなんだよね。『一家』は個人の強さもものすごいんだけど、連携も上手いんだ。オリヴィヤーニャさんに訊いたら、お互いのことをよく知って、それこそ性格まで考えて連携するんだって。さすがは家族だね。

 ウチの場合ウルが動き回るから、合せるのが大変。これからはミレアの魔法がばんばん飛んでくるだろうし、しばらくは練習かな。


 そんなことを考えてる間でも、ボクのレベルはぎゅんぎゅん上がってる。


 ああバッタがバッタバッタ倒されてるよ。

 オリヴィヤーニャさんたちが剣を振り回したら、一匹、多いと三匹がいっぺんに倒れてく。緑色した血みたいのが、ぶわしゃあってなるけどボクたちにはかからない。それも避けてるんだ。


「スキルを使っても同じことだ。馬鹿馬鹿しいな」


 なんでスキルを使わないのかなって訊いたら、とんでもない返事だった。


「それにな──」


「『マル=ティル=トウェリア』」


「範囲攻撃は魔法で十分だ」


 なんかすごい魔法がばんばん使われてるし。これまた技なんだろうけど、魔法がボクたちギリギリで爆発してるんだよね。威力とかはINTで変わるから、それをしっかり調整してるんだ。あっつい風が吹いてくるけどダメージはやってこない。魔法のたんびにいったん攻撃中止してるボクたちとは大違いだ。


「終わりだな。みなご苦労であった」



 全部のモンスターが消えたところでオリヴィヤーニャさんがそう宣言した。


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