第17話 あばばばば




「オリヴィヤーニャさんがボクの二十倍くらい強いのはわかりました」


「そうか、われの強さをわかってくれたか」


 ちょっとやさぐれたよ。ほっぺはヒリヒリしてるし。オリヴィヤーニャさんもそういう言い方やめてください。後ろの人たちも笑わないでよ。


「あらためて、レベリングを頼んでもいいか?」


「われよりINTの高い者の申し出だ、受けざるを得まい」


「本当に勘弁してくれ」


「うわはははっ!」


 楽しそうだなあ、オリヴィヤーニャさん。あとフォンシー、近づかない方がいいと思うよ。しばらくイジられる。



「勝手に決めちゃってゴメンね」


 出発の前に謝っとかなきゃね。みんなに頭を下げた。


「いや、いい。ラルカは間違ってない」


「わたしもそう思います。こだわりを持つのは強くなってからでも十分ですから」


「レベル1で足を引っ張るウィザードが意地をはれるわけないわね」


 フォンシーたちもわかってたんだろうね。認めてくれてありがとう。先走ってごめんね。


「だけどさ、オリヴィヤーニャさんって、意地悪だよ」


「そうだな」


 しみじみとフォンシーがこぼした。


「そうなのか?」


「……わからなかった」


 そうだね。二人はそのままでいい気がするよ。



「そろそろ行くわよ」


 ポリアトンナさんが呼んでる。あれ、そういえばどうやってレベリングするんだろ。


「げえっ」


「それは、まさか……っ!」


 フォンシーがおかしな声だして、シエランは絶句してる。


「ウルは知ってるぞ。背負子しょいこだな」


「ウルはわたくしが育てたのよ」


 そういやウルのレベリングってブラウディーナさんがやったんだっけ。背負子使ったんだ。

 嬉しそうにしっぽを振って、ウルはブラウディーナさんの背中に収まった。


「紐でしばるのね」


 フォンシーとシエランは引きずられるように、ミレアとザッティは素直に格納されてく。

 なんとなくだけど、ミレアは危ない気がするよ。彼女はあっち側なんだ。



「ラルカラッハ」


「はい?」


「乗るがいい。特等席だ」


 ああ、ボクはオリヴィヤーニャさんとなんだ。絶対に前衛で大暴れだよね。無事を祈ろう、そうしよう。



 ◇◇◇



「もしあの時、断ってたらどうしてました? 冒険者の誇りが、とか言って」


「どちらでも構わん。誇りを持つもよし、使えるモノを使うもよし。冒険者は気ままに生きるものだ。そうであろう?」


 オリヴィヤーニャさんはずるいなあ。

 ボクは背負ってくれてるオリヴィヤーニャさんと雑談中だ。あっちから誘ってきたんだよ。


 ここはどこなんだろう。背負われて揺れてるからよくわかんないや。何回かゲートキーパーやっつけたり、昇降機に乗った記憶はあるけど。

 途中で何回か銀色の光を見たよ。特にミレアとザッティがピカピカしてたね。ボクも一回光ったかな。レベル14だ。


「それで、どこでレベリングするんですか? 一日でコンプリートなんて──」


「46層だ」


「はい?」


 聞き間違えかな?

 今は違うと思うけど、元レベル1のウィザードがいるんだよ?


「いいところがあるのだ。敵は物理一辺倒でな、数をこなせる」


 ああ思い出したよ。前にブラウディーナさんとホーウェンさんが46層行くとか言ってたっけ。


「……そうですか、よろしくお願いします」


「ああ、われに任せておくがいい。うわははは!」


 迷宮にオリヴィヤーニャさんの高笑いが響いた。



 ◇◇◇



「あばばばば」


「わははは! いくらでもかかってくるがいいわっ!」


 ボクの周りは巨大バッタで埋め尽くされてる。ジャイアントローカストっていうんだって。


 46層にあるモンスタートラップ、踏み込んだらモンスターがたくさん出てくる部屋でふたつのパーティが暴れまわってる。ボクたちが三人で『一家』から三人、合せてひとつのパーティだね。それがふたつ。

 みなさん速すぎて、なにをやってるのかボクには全然見えないよ。


「ここはな、モンスターを全て倒しきらないと出ることもかなわぬのだ」


「そうなんですか」


 うん、ボクとウル以外は全滅だ。みんなの首がカクカクしてる。ザッティもダメだったかあ。

 逆にウルなんかはブラウディーナさんとなんか話してる。すごく楽しそうだね。ずるいね。


「レベルはどうだ?」


「こんなですから、ちょっと確認できそうにありません」


 こんなトコでカード出したら、絶対に失くしちゃうよ。


「ならば終わった後を楽しみにしておくのだな」


 ときどきバトルフィールドが消えて、ボクたちの誰かが光ったと思ったら、すぐに次の戦闘が始まる。

 やっぱりこの人たちはすごいや。なにがすごいって、こんなに動き回って戦い続けてるのに、ボクたち新人組は誰一人怪我をしてないんだ。戦闘のたびに『ラン・タ=オディス』っていう全員が勝手に回復する魔法をかけてもらってたけど、ボクたちのレベルが上がったからもう要らないんだって。


「はははっ!」


 もっとすごいのは、みなさんが笑ってるってとこ。なんでこんな場所で笑えるんだろ。

 これくらいじゃないと強いっていえないのかな。ボクには無理かなって思うんだ。



 ◇◇◇



「起きろ、シエラン」


「は、はうう」


 ウルがみんなを起こしてる。元気だなあ。


「大丈夫?」


「ああ……、あたしはまだ生きてるんだな」


「そうだねえ」


 ボクもフォンシーをペチペチってして起こしてあげた。また泣いてたんでしょ、目が真っ赤だよ。ほっぺたに跡ついてるし。



 一セット目? っていうのが終わったんだって。一回部屋のモンスターを全滅させたみたい。一時間くらいしたらもとに戻るから、それから二セット目らしいね。みんな大丈夫かなあ。


「あ、そうだフォンシー。ボク、レベル26だよ」


「なにっ!? あたしは……、28」


 それからフォンシーは慌ててみんなのレベルを確認した。

 シエランがレベル26、ウルは29、ミレアが19で、ザッティが22だって。


「ザッティ、コンプリートしてるか?」


「……してる」


「そうか……」


 ザッティまでコンプリートしちゃったんだ。バッタレベリングってすごい。

 それでフォンシーはなんで考え込んでるのかな。



 ちょっと黙ってたフォンシーがいきなり立ち上がって、『一家』のみなさんが休んでるとこに向かった。なんか気合が入ってたし、気になったからボクもついてくね。


「レベリングの約束だけど、『ミレアがコンプリートするまで』だったな」


「ああ……、そうだ。その通りだ」


 フォンシーはなんで確認してるの?

 それを聞いたオリヴィヤーニャさん、なんでそんなに嬉しそうなの?


「次のセットでミレアは確実にコンプリートするであろうな。それまで体を休めておくがいい」


「ああ」



「なあミレア、次のジョブはどうする気だ?」


「……プリーストよ」


「そうだろうな」


 フォンシーがミレアに確認してる。元の場所に戻ってきてすぐにこんな会話を始めたんだ。


「ウルはまあ、シーフか」


「おう。ウルはシーフになるぞ」


 だよね。シーフになったらINTも上がるし、素早いウルがもっと速くなる。


「ザッティはどうする?」


「……ファイター」


「どうして?」


「……ナイトを目指すから」


「いいな」


 ナイトを簡単にいっちゃえば防御力の高いファイターだ。ファイターをマスターしてなくてもなれるけど、スキルの下地があるもんね。そこまで考えてるのかな。


「……オレはみんなを守りたい」


「最高だ」


 フォンシーは次にシエランに向き直る。


「わたしはプリーストになります」


「本当ならあたしかシエランがエンチャンターなんだろうな」


「このパーティはまだ先がありますから」


「そうか。ならあたしはウォリアーだ。まったく、力が足りてない」


 そしてフォンシーはボクを見る。



「ラルカは?」


「えっとボクは……」


 まずはステータスを確認しよう。


 ==================

  JOB:KARATEKA

  LV :26

  CON:NORMAL


  HP :23+93


  VIT:15+28

  STR:11+45

  AGI:24+48

  DEX:23+59

  INT:18

  WIS:15

  MIN:19

  LEA:15

 ==================


 こうやってみるとオリヴィヤーニャさんの強さがわかるね。むこうは平気で三桁ステータスだもん。多分『一家』のみなさんもそうなんだろうな。

 おっと、そんなこと考えてもしかたない。今は自分とパーティだ。


 VITとSTRがまだまだだなあ。だったらウォリアーかな。

 でもそれだとフォンシーと役割がかぶっちゃう。シエランも前衛プリーストだろうし、レベルが上がったらザッティとも。


「むむむ」


「そうだラルカ、考えろ」


 ニヤって笑ってフォンシーが励ましてくれた。

 ボクにできることって、得意なことってなんだろう。AGIがあるから最初に魔法をどかーんって撃って、それから敵をかっちゃくんだ。ウルはばばばって、ボクはしゅばばって。それがウチのパーティだ。うん、そうだ。


「フォンシー」


「決まったのか?」


「ボクはグラップラーだ」


「そうか」


 カラテカの上位ジョブ、グラップラーは敵をやっつけるし、動きを止められるジョブだ。

 ボクとウルがかき回して、みんながトドメを刺す。いっつもと同じだね。



 うん、こうやって休んでる途中でもジョブ談義。冒険者って感じでいいよね。ね、フォンシー。


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