第11話 こうやってちょっとずつ装備も強くなっていくって、いいね




「買い物? 食べ物か?」


「今日は装備だよ」


「食べられないけど楽しそうだぞ!」


 今日はみんなでお買い物だ。狙いは武器や防具だよ。

 ウルが仲間になって二十日くらい。ボクたちの装備事情といえば──。


 まずは防具、借り物の革鎧が四つ。一番安いやつだね。協会はいろんなサイズのがあって、ボクみたいな小さいのも用意されてた。

 茶色で肩に剣と杖が交差した紋章が入ってる。ベンゲルハウダーの印だ。なぜか扇型なんだよね。

 つまり借り物だっていうのが一目でわかっちゃうんだ。


 ところが三日前、13層で宝箱を開けたら『ブラックリザードの革鎧』が出てきたんだ。じゃあ誰が装備するのかって話になったらサイズが合わなかった。大人用だったんだよね。ボクらには大きかった。

 それをボルタークラリス商店に預けて、サイズ調整を依頼したんだ。それのできあがりが今日ってわけ。



「やっぱりラルカの方がよかったんじゃ」


「もーフォンシー。決まった話でしょ」


「だけどな」


 その革鎧なんだけど、誰のサイズに合わせるかでモメた。

 背の低い順だと、ボクが150、シエランが155、フォンシーとウルが160って感じだ。なのでボクに合せると専用になっちゃう。


『着まわす、か』


 そのときまでだれも気付いていなかったんだ。別に装備は誰か専用じゃなくたっていい。鎧なら着まわせばいいし、武器なら手渡せばいい。借り物ばっかりだったからね。

 ウチで一番柔らかいのはフォンシーだ。次にボク。だからボクはフォンシーのサイズにすればいいって宣言してやった。これからのジョブチェンジでウルが後衛になったときにも使えるからねって。ちょっとムリすればシエランも装備できるし。

 ボク? ぶかぶかだよ。


 結局ボクとフォンシーの対決になった。ウルは棄権。シエランの判定はフォンシーに合せる、だった。

 交換すること考えたら当たり前だよ。ボクだってこれから背が伸びるかもしれないんだからさ。



 ◇◇◇



「ど、どうだ」


 着替え室から出てきたフォンシーがちょっときょどってる。

 ブラックリザードの素材だから鎧も当然真っ黒だ。追加料金で色を変えることもできるらしいけど、そんなのもったいないからね。


「かっこいいぞ!」


 ウルが無条件で無責任に褒めた。それでもフォンシーはちょっと嬉しそう。

 元々エルフでかっこいいフォンシーだからよく似合ってる。金髪ポニテと白い肌に黒い鎧。うん、いいね。物語にでてくる暗黒騎士って感じだ。ソルジャーだけどね。



「ボクのもできてますか?」


「ええ、もちろん」


 店員さんが朗らかに返事してくれた。

 実はボクの専用装備も注文してたんだよね。


「じゃあ装備するね」


 というわけでボクが装備したのは手甲と脚甲だ。こっちは迷宮産じゃなくってボルタークラリスお手製だ。グレーウルフの毛皮を下地に鉄板が張り付けてある。

 ボクって今まで素手だったんだよね。スキルを使えばいけるんだけど、ちょっと攻撃力不足だったんだ。だけどボクのサイズにあった装備は協会にもなくって、オーダーメイドすることになった。フォンシーの仕立て直しよりこっちのほうがお高いんだよ。


「似合ってるじゃないか」


 フォンシーが作るって押し切ったくせに。

 まあちょっと大きめにしてあるから、調整したらシエランも使えるように注文したんだけどね。


「値段分がんばるよ」


「あたしもだな」


 腕を組んでるフォンシーと、かっこいいカラテカポーズするボクが向き合う。シエランは拍手して、ウルのしっぽはぶんぶんだ。

 ちょっと店員さんが困った顔だった。



 ◇◇◇



「がるあぁぁ!」


「えいっ」


 おっかない声がウルで、ちょっと気弱なのはシエランだ。

 新しい装備を手に入れた次の日、ボクたちはいつもみたいに迷宮に潜ってる。今は15層だね。


「せいやっ!」


「とう!」


 ボクとフォンシーの叫びもこだまする。ウチは四人全員前衛だからね。


 装備の話の続きだけど、借り物がちょっとだけ減った。

 ひとつはフォンシーの武器で、『硬い木のこん棒+1』。シエランとウルは借り物の『硬い木のこん棒』なので、フォンシーのがちょっと強い。これまた宝箱から出たんだ。

 鎧も新調したからフォンシーは遠慮してるけど、攻撃力が一番低いって理由で無理やり持たされてる。うひひ。


 もうひとつはシエランが装備してる『勇敢なアダルガ』。腕が全部隠れちゃうくらいの盾で、表は牛革でできてる。これも宝箱から出たけど詳しい素材はわかんない。

 ウルは駆け回るから、どっしり戦うシエランが使うってことになった。



「こうやってちょっとずつ装備も強くなっていくって、いいね」


「ウルも欲しいぞ!」


 戦闘が終わって一息だ。

 これだけ付き合えばウルの動きにも慣れてくる。最初こそバラバラだったり、お互いにぶつかって危ない目にもあったけど、今は大丈夫。

 フォンシーとシエランは諦めて、ウルに任せるようになった。素早いウルが二人を勝手に避けるって感じ。ボクはウルより遅いけど、反射神経で避けるように気を付けてるけどね。


 最近はウルが急成長っていうか楽しいから覚えたのか、シエランかフォンシーが敵の攻撃を受け止めてるところに、ばばばって感じで横から攻撃するようになった。

 まさに講習で習ったタンクとアタッカーだよ。ボクもしゅばばってして横から蹴るけどね。


 これじゃボクとウルが争ってるみたいじゃないか。そんなことないからね。



「やっぱりレベルアップが速いな」


「そうですね。魔法が使えるのは助かります」


 20層くらいまでは極端に魔法が効かないモンスターはほとんどいない。だからボクたちは魔法と殴るのを組み合わせて戦ってる。ウルは別だけど、残り三人はいろいろ試してるんだ。盾で抑え込んでから魔法をドカンとかね。

 メイジコンプしてくれたおじさんたちに再び感謝だよ。


 さて今のレベルといえば、ボクとシエランがレベル13、フォンシーはレベル15、ウルはレベル17。

 ついに全員がマスターレベルを超えた。二十日でコレだから、多分すごく速い。


 ==================

  JOB:WARRIOR

  LV :17

  CON:NORMAL


  HP :12+61


  VIT:15+38

  STR:16+48

  AGI:13+10

  DEX:11+22

  INT:6

  WIS:7

  MIN:15

  LEA:17

 ==================


 これがウルのステータス。

 VITとSTRは文句無しだけどINTとWISがね。ウチはもうメイジは絶対ってノリだから、ウルにはこの後シーフでINTを上げなきゃねって話してある。本人も魔法を使いたいって言ってるからね。

 だけど勉強とかしてINT上げるのは嫌なんだって。育成施設で習ったから字は読めるんだけどねえ。



「ウルはステータスが上がるんだぞ?」


 自慢げだけど、そうなんだよ。注目はウルのLEAだ。


 LEAが高いとレベルアップのときに補正? オマケがつくらしいんだ。本当なら2上がるところで3になったりするんだって。ウルの17っていうのはかなり高いらしい。

 ボクが15でフォンシーが14、シエランも14。これでも高い方だ。受付のサジェリアさんもみんなすごいって言ってたからね。


「才能集団ってことだ。ウルはとびっきりだな」


「むふん!」


 ニヤニヤしながらフォンシーがおだてたら、ウルが嬉しそうに鼻を鳴らす。


「がんばってお父さんに勝ちます」


「次のジョブくらいで超えるんじゃないかな」


 そういえばシエランって次のジョブどうするんだろう。



 ◇◇◇



「今日もたくさん食べたねえ」


「毎日肉が食べれるのは嬉しいぞ!」


 いやあ今日もがんばったよ。がんばった後のごはんも美味しかった。ウルもたくさん食べたもんね。


「ん?」


「どしたの?」


 フォンシーが眉をしかめてる。なんかあったのかな。


「『冒険パン屋さん』の前に人がいる」


『冒険パン屋さん』っていうのは、まあシエランの実家のことだ。店の前に人?


「なにかあったのかな」


 シエランが不安そうだ。あわててみんなで駆けだす。


「やあ、おかえり。待っていたよ」


「ただいまお父さん。ミレア、……ザッティまで」



 店の前にいたのはシエランのご両親、フィルドさんとシェリーラさんと知らない女の子が二人。どなた?


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