第12話 ウチのパーティには大切な決まりがある




「彼女はお友達のミリミレア様……、わたしはミレアって呼んでいますけど、えっと」


「シエランの仲間ならわたくしのお友達よ。わたくしのことはミレアでいいわ」


 ずばっと男前なコトを言い放った目の前にいる女の子、ミレアさんはミリミレアって名前だった。

 なんと男爵様の娘さんなんだって。きれいな白金色の髪の毛をすらりって伸ばして、お肌は真っ白だ。そして瞳は紅色。かっこいい。

 たしかに貴族のお嬢さまって感じだね。高そうな濃紺のローブを着てる。


「そしてこちらは、ミレアの幼馴染でわたしのお友達、ザッティ」


「……ん。よろしく」


 ドワーフのザッティさん。短い黒髪と褐色の肌。背がボクより小さいから色んな意味でミレアさんと対照的だ。ところでなんでボクを見てるんだろ。視線が微妙に揺れてる?

 ビビっときた。試しにちょっと揺らしてみる。視線が動く。ザッティさん、ボクのしっぽを見てたんだ。ふふん、かっこいいからね。しょうがないなあ。


 ちなみに二人とも15歳らしいよ。



 ◇◇◇



 店の前で騒ぐのもアレなので、食堂を借りてまずは自己紹介だ。

 口調は気にしなくていいんだって。助かるよ。


「ところでラルカラッハ」


「ん? ボク?」


「耳が可愛いわ。触ってもいいかしら」


「ええ? 構わないけど……」


 ボクが返事したらミレアさんがテーブル越しに身を乗りだしてきた。だけどすごくゆっくり。この人わかってる。

 ん、耳に指が振れた。最初は先っちょを軽く撫でて、だんだん付け根に降りてくる。それからふにふにされちゃった。ミレアさん、上手い。


「ウルラータだったわね」


「ウルでいいぞ!」


 いつの間にかウルが目をキラキラさせてこっちを見てた。


「あなたも撫でていいかしら」


「おう!」


 今度はミレアさん、ボクの時より力を入れて耳をいじってから、ウルの頭をわしゃわしゃ撫でてる。すごい、この人はやり手だ。もしかしてウチのパーティに必要な人材なんじゃ。


 それでなんでシエランとフォンシーは静かなのかな。ボクとしては大満足なんだけど。



 ◇◇◇



「話を戻すわよ。シエラン、わたくしに黙って冒険者になるなんてズルいわ」


 ボクとウルをぞんぶんに楽しんでから、ミレアさんが話を戻した。


「ミレア……。相変わらず切り替えがはやいですね」


 シエランが呆れてる。すごいねミレアさん、シエランのあんな顔初めて見たよ。


「わたくしたちはお友達でしょ!」


「それは、そうですけど」


 シエランはもうタジタジだ。

 フォンシーなんか目をつむって瞑想してるし、ウルは撫でられ疲れたのかな、しっぽをだらんってさせて眠そうだ。


「だからわたくしも冒険者になるの」


「えっ!?」


 シエランが驚いてるけど普通じゃない? だってここの領主様たち冒険者だよね。別にいいんじゃ?



「それって男爵様のお許しでてるんですか?」


「くっ!」


 許可なしだったんだー。シエランに指摘されたミレアさんがすごく悔しそうだ。


「だってシエランが冒険者になって仲間も作って、ズルいわ」


「ザッティはどうなの?」


「……オレはミレアの友達だから」


 ザッティさんはザッティさんで男前だった。おっきな目にある黒い瞳から決意が伝わってくる。ついでに今度はウルのしっぽを見てた。


「……それに冒険者になってみたかった」


「そうよ。わたくしも前から憧れていたの」


 仲良しか。じゃあ問題は男爵様の許可だけなのかな。



「口を挟んで悪いんだけど、二人は冒険者になってあたしたちとパーティを組みたいのか?」


「そうよ」


 目を開いたフォンシーの質問にミレアさんがすぐに返事する。フォンシーが次になにを言うかわかっちゃった。


「二人は冒険者になってどうしたいんだ?」


「……全部よ。お金を稼ぐのも、街を守るのも、格好良くなるのも。あと、お父様を助けるのもあるわ。全部やりたい」


 ミレアさんが目を輝かせる。うん、多分この人本気だ。


「……オレはお菓子が好きだ。あれは高い」


 そしてザッティさんは甘党だったかあ。それじゃボクとウルと変わんない。



「そうか。変に重たい理由じゃなくてよかった。それとウチのパーティには大切な決まりがある」


「え?」


 シエランがびっくりしてる。ボクもだよ。そんなのあったっけ?


「金を稼いできっちりメシを食べる。それだけだ」


「フォンシーさあ」


「なんだラルカ。ウルもだろ?」


「ウルは肉が好きだぞ」


 そうだねフォンシー、いいこと言うじゃん。ボクはいつでもおなかいっぱい食べたいよ。



「はぁ」


 シエランがため息を吐いた。これは諦めたかな。


「フォンシーの言うとおりです。ミレア、ザッティ、がんばってお金を稼いで、ちゃんと食べますか?」


 自分たちでちゃんと稼いでごはんを食べる。冒険者の当たり前がボクたちの目標だね。


「やるわ。好きなものを好きな時に食べられるくらい、やってみせる」


「……お菓子も食べたい」


 なんか普通にごはんを食べるのがすっごく大切なことみたいになってる。いやいや大事だ。すごく重要だよ。


「ボクは賛成」


「ああ、あたしも言うことないな」


「ミレアたちを仲間にするのか? ウルはいいぞ。こいつらいい奴だ」


 ウルはなでなで基準だね。ボクも嫌じゃなかったよ。


「わたしも賛成します。お友達で仲間ですね」


 最後にシエランが賛成して決まりだ。



「みんな……、ありがとう。お世話になるわ」


「……よろしくたのむ」


 ミレアさん、もうミレアでいいか、彼女が涙ぐんでる。ザッティも軽く頭を下げた。


「ただし、男爵様の許可をもらってください」


「えっ? もう仲間じゃない。そういう空気だったわ!」


 容赦ないシエランのつっこみに、ミレアが椅子ごと後ずさる。


「仲間だからです。男爵様に逆らうなんて、わたしたちまで巻き込む気ですか」


「はうっ!」


 今度は胸を押さえて前かがみになった。ミレアって面白い人だなあ。全然動じてないザッティも楽しい。


「わかったわ。絶対に許可をもらうから、そうしたらパーティに入れてもらうわ」



 ◇◇◇



 なんとなくまとまった後で、ミレアとザッティ、それとシエランの話になった。


 ザッティのお爺さんはミレアのお屋敷で庭師をやってるんだって。両親は死んじゃったらしい。

 同世代だから昔から仲良しで、いつも二人で遊んでるみたい。


「わたくしは街を歩くのが好きなの。それで『冒険パン屋さん』にたまに寄っていたわ」


「店番をしてるときに会ったんです」


 なるほどなあ。物語の貴族様って平民なんか知ったことかーって感じだけど、ミレアはそんなんじゃない。ポリアトンナさんとかブラウディーナさん、ホーウェンさんも優しいし。


「ラルカの想像する貴族みたいなのが大多数よ。わたくしとか『一家』の人たちが変なの」


 いつの間にかラルカ呼びになってた。それと公爵家の皆さんを変って言うのはどうなんだろう。


「わかった。気をつけるよ、ミレア」


「ベンゲルハウダーはマシね。王都、キールランターは酷かったわ」


 やり返してボクはミレアって呼んでみた。だけど多分貴族様なんてそうそう会わないから大丈夫じゃないかな。



「そうそう忘れていたわ。これがわたくしのステータスよ」


 ミレアがステータスカードを取り出した。どれどれ。


 ==================

  JOB:WIZARD

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :7


  VIT:9

  STR:8

  AGI:11

  DEX:10

  INT:14

  WIS:13

  MIN:14

  LEA:15

 ==================


「こりゃまた」


 思わずなんだろうね、フォンシーが唸る。


「わたくしはウィザードよ」


「そ、そうね」


 誇らしげなミレアと困ったシエランが対照的だ。

 だってねえ、低いんだもん。MIN以外、最初のフォンシーが全部上じゃなかったかな。


 これって攻撃くらったらマズいよね。なんでウィザードかなあ。せめてプリーストならよかったんだけど。



「……ん」


 ザッティもカードをみんなに見せた。


 ==================

  JOB:SOLDIER

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :11


  VIT:13

  STR:11

  AGI:10

  DEX:15

  INT:7

  WIS:9

  MIN:16

  LEA:14

 ==================


「……ソルジャーだ」


 そうは言うけど、ドワーフにしちゃSTRが低いような。これってギリギリソルジャーだよね。


「……」


「……」


 もはやフォンシーとシエランは言葉がない。


「ソルジャーか。フォンシーと一緒だな」


 元気なのはウルくらいだ。

 ザッティはレベリングすればなんとかなるとは思うけど、どうしよう。



「ミレア、必ずだ。必ず父親を説得しろ」


「も、もちろんよ」


「あたしは二人を仲間だと認めた。シエランもウルもラルカもだ」


 フォンシーの目が、かなり怖い。


「だから絶対に守る。いいか、間違っても二人だけで迷宮とかは止めろ」


「そうですね。ミレア、ザッティ。わたしたちとがんばりましょう」


 フォンシーの圧力にシエランも乗っかった。ボクも同じ気分だよ。

 正直いってカースドーさんたちを捕まえて、メンターお願いしたいくらいだ。



「……もう夜だけど、二人は歩いて帰るんですよね?」


「え、ええ。絶対説得してみせるわ」


 多分シエランは説得と別の心配してるよ。

 カードを持ってなかったら気にしなかったんだろうけど、数字は残酷だよ。


「お父さんを呼んできます。五人で送り届けましょう」


 フィルドさんはレベル25のソードマスターだ。十分戦力になる。


「ああ、そうだな」


「ウルはやるぞ」


「ボクも行く」


 ボクらの心はひとつだった。


「あ、ありがとう?」


「……助かる」



 こうでもしないとボクたちの心臓が危ないんだよ。


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