第10話 わたくしたちは備えなければならないの




「じゃあ行くか」


「うん」


「はい」


「おう!」


 フォンシーの声に、ボク、シエラン、ウルが答える。

 ボクたちは迷宮5層、ゲートキーパー部屋の前にいた。フォンシーがレベル4でボクとシエランはレベル3。いよいよゲートキーパーに挑むことにしたんだ。


 四人パーティでその内三人がレベル5以下って聞くと無謀かもしれない。

 けどウチは三人が魔法使いだし、ウルはレベル14だ。イケるってみんなで決めた。



「いいかウル。行けって言ったら行け。引けって言ったら引け。狙いはいちばん大きいのだけだ」


「わかったぞ!」


 フォンシーがウルに指示をだした。

 ゲートキーパーは出てくるモンスターがほぼ固定なのがいいんだよね。魔法で削ってから取り巻きはボクとフォンシー、ボスはウルとシエランだ。


「行くぞ」


 扉係はウルだ。幅二メートル、高さは五メートルくらいの大扉をウルが蹴飛ばすように開けた。突撃だ。



「左ソルジャー2、メイジ2。右ソルジャー2、メイジ1。ボスはいつも通り。『ダ=リィハ』!」


「わかりました。『ダ=リィハ』」


 ゲートキーパーは太っちょのラージゴブリン。取り巻きもゴブリンシリーズだ。

 ボクとシエランは左右に分かれた取り巻きモンスターに魔法を放った。特にゴブリンメイジは絶対に倒す。


「『ノル=リィハ』。ウル、行け!」


「おうっ!」


 当然その分、ボクらの一歩目は遅れる。ラージゴブリンが突撃してきた。そいつに飛びかかるのがウチのエースアタッカー、ウルだ。

 フォンシーが撃ったメイジ最強の単体攻撃魔法がラージゴブリンを炎に包む。そこにウルが突っ込んだ。


「よしっ。ラルカは右、あたしは左だ。シエランも行け!」


 五分もしない内に戦いは終わった。もちろんボクらの大勝利だ。



 ◇◇◇



「『オディス』」


 シエランがボクの傷を治してくれる。フォンシーもちょっとだけ怪我したけど、そっちは自分で治してた。

 ラージゴブリンに突撃したシエランとウルは無傷だよ。なんでさ。


「わたしは盾を使ってただけです。攻撃は全部ウルがやってくれたから」


 たしかラージゴブリンはレベル7相当だから、レベル14のウルが暴れたらそうなるか。

 今回の戦いで自信はついた。誰もレベルアップしなかったのは残念だけど、一日一回くらいはココに通ってもいいかもね。



「ん?」


「むむっ!?」


 先に気付いたのはボクとウルだ。しっぽがブワってなる。

 すぐあとに手を叩く音が聞こえた。拍手するモンスターなんているわけない。冒険者だ。ボクの知ってる最強、ポリアトンナさんと同じくらい強い人が二人も。


「ブラウディーナ!」


 ウルが嬉しそうに声をあげる。

 ボクたちが入ってきた扉の向こう側にいたのは、紫の革鎧を装備した男女二人組だった。


「わたくしはブラウディーナよ」


 茶色の髪に青い目をした女の人はポリアトンナさんによく似てた。


「僕はホーウェン」


 赤毛の男の人も自己紹介してくれる。二人とも20歳ちょっとくらいかな。



 お二人はフォウスファウダー公爵家の人たちだった。

 ブラウディーナさんは公爵令嬢でポリアトンナさんのお姉さん。ホーウェンさんはその旦那さんなんだって。二人ともベンゲルハウダー最強のパーティ『フォウスファウダー一家』のメンバーだ。


 そりゃ強いよね。冒険者のみんながこんなに強かったらどうしようって思ったよ。

 食事処で見てたから、そんなことないってわかってるけどね。強い人たちだけが集まる秘密の食堂とかあるかもしれないし。


「ウルラータ、仲間ができたのね」


「おうっ!」


 そしてブラウディーナさんはウルをレベリングした人だ。


「中々いい戦いだったじゃないか。役割分担がしっかりしていた」


 ホーウェンさんはそう言ってほほ笑んだ。

 ボクたちみたいなヒヨッコと違ってそっちは十倍以上強いんだろうなあ。聞いたらホーウェンさん、今十八ジョブ目なんだって。とんでもないじゃないか! スヴィプダグってなにっ!?


「ソードマスターの上位三次ジョブだ」


 フォンシーもフォンシーで、なんで一回聞いただけの講習憶えてるの!?

 なんか疲れたよ。ブラウディーナさんは十七ジョブでホーリーナイトらしいしさ。


「ナイトの上位三次ジョブだな」


「フォンシーはよく勉強しているのね」


 わかったって。ボクは実戦派なの!



 ◇◇◇



「最近は氾濫の後始末や育成に忙しくて、全員が揃わないのよ」


 みんなで歩きながら雑談してたらブラウディーナさんがボヤいた。横で旦那さんがうんうんって頷いてるね。

 ここは13層。今のボクたちだとかなりキツい。

 強い二人と一緒に六人パーティだけどパワーレベリングってわけじゃないんだ。


『本当にイザという時だけ助けるから、限界までやってみて』


 ブラウディーナさんがそう言うもんだから、話し合ってやってみることになったんだ。用心棒みたいだね。


 さっき上がってボクとシエランがレベル4、フォンシーは5、ウルは変わらず14だ。

 かなり深めだけど知識と魔法とウルの力でゴリ押しした。実際助っ人二人はまだ手出ししてないよ。経験値がちょっともったいないけど、心の安心は大切だ。



「うん、よく勉強しているね」


「そうか」


 ホーウェンさんに褒められてフォンシーがちょっとテレくさそうだ。

 ウチのパーティはフォンシーが指示出しする。知識もそうだけど、判断もしっかりしてるからね。ボクとシエランは彼女を完全に信頼してるし、ウルは簡単な指示なら喜んでやってくれる。そういうのが上手いんだよね。


 今はまだ名前も決まってないけど、六人になったらリーダーはフォンシーがいいなあってボクは思ってる。



「『ト=ルマート』。とうっ!」


 ボクの飛び蹴りがブラウンコボルトに直撃した。近づいてから『ト=ルマート』、単体氷魔法で足止めしてからの攻撃だ。こういうのをコンボっていうんだって。


「いいわね、その感じよ」


「距離感とタイミングだからね」


 助っ人二人は手を出さないけど口は出す。

 カースドーさんたちと一緒の時は魔法使えなかったけど、今は違う。開幕で強い魔法をブッパしてから近づいて、弱い魔法で牽制しながら攻撃やスキルを当てるんだ。



「そうね、ソルジャーとメイジ。それからシーフ、カラテカ、ウォリアー。後衛からどれかふたつ。できればプリーストで、ソルジャーの代わりにファイターでもいいかしら。これからは冒険者全員が取ってもらいたいって考えているの」


「うわぁ」


 ブラウディーナさんの壮大な言葉に思わず声が出ちゃったよ。だってそのとおりなら七ジョブだよ? しかもそれが最低限で、そこから個性をだすんだって。


「なにを驚いているんだい。君たちがまさにその途中じゃないか」


 ホーウェンさんは笑ってるけど、それをやるのは大変そうだ。ボクたちはたしかにそういうジョブチェンジをしてる途中だけど、将来かあ。


「ま、また迷宮異変が起きるかもしれないってことですか」


「そうよ、シエラン。わたくしたちは備えなければならないの。しかも急いで」


「ウルはがんばるぞ!」


 迷宮異変かあ。他人事みたいに思ってたけど、イザってときを考えとかないと。

 ボクはもちろん立ち向かいたいって思っちゃってる。まだちょっとだけどベンゲルハウダーに愛着みたいのがあるんだよね。シエランのパン屋さん、宿屋や武器屋さん、協会の受付さんたち、冒険者のみんな。多分これからも守りたい、手助けしたい人が増えてくんだろうなあ。


「あんたらみたいな、凄く強いパーティだけじゃダメだってことか」


 フォンシー、いくら普段通りって言われてても、相手はすごく偉い貴族様なんだからねっ!


「そうだね。最強ではなくても、僕たちが任せられると思えるパーティが欲しいんだよ。たくさんね」


「あたしたちはまだまだだな。だけど、強くなれば氾濫とやらにも付き合えるし、勝てばウハウハだな」


 ウハウハよりボクはフォンシーの強心臓がおっかないよ。

 けどまあ、ホーウェンさんもブラウディーナさんも笑ってるから、いいか。いつの間にか仲間たちも笑ってるし。



 ◇◇◇



「じゃあ僕たちはここで。これから二人で46層だ」


「お気をつけて」


「ありがとう」


 ボクたちはシエランを先頭にして二人を見送った。

 46層にすごくレベリングがはかどる場所があるんだって。いつかはボクらもって言ってたけど、いつになるのやら。


「あたしたちは戻ろうか。スキルもカツカツだ」


「ごはんだな!」



 ボクとシエランがレベル7、フォンシーはレベル8、ウルはレベル15になって今日の冒険はおしまいだ。さあ帰ってごはんにしよう。


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