第9話 後衛にはいつでもなれるよ
「くどいかもしれないけどもう一回確認だ。ラルカはカラテカ、シエランがウォリアー、あたしはソルジャーってことでいいな?」
「うん」
「はい」
「おう!」
ちょっと元気が戻ったウルと一緒にボクたちは事務所に戻ってきた。
ボクらが出した結論は簡単だ。ウルが連携に慣れるまでは三足す一でやろうってこと。
「べつに損するわけでもないからな」
フォンシーの言うとおりだ。
「後衛にはいつでもなれるよ」
元々三人で前衛をやろうって話だったんだ。それが四人になったってたいして変わんない。
なによりウルは強い。もちろん連携は覚えてもらうつもりだけど、ボクたちだってウルに合せなきゃダメだ。それが仲間ってものだよ。
「わたしたちこそがんばらなくちゃですね。ウルはあんなにすごいんだから」
「ウルはすごいのか?」
「そうですよ」
シエランの言葉にあわせて、ウルのしっぽがブンブン音を立ててる。ウル完全復活だ。
「最初は回復だけかもしれないけど、そのうち動きと役割をしっかりしたいな」
うんうん、そのとおり。さすがはフォンシーだね。
◇◇◇
そんな感じのちょっと遠回りをしてから、ボクらはジョブチェンジした。
「あの子を仲間にしてくれたんですね。ありがとう」
「いえいえ」
サジェリアさんが笑って受付してくれたよ。
==================
JOB:KARATEKA
LV :0
CON:NORMAL
HP :23
VIT:15
STR:11
AGI:24
DEX:23
INT:18
WIS:15
MIN:19
LEA:15
==================
まずはボクのステータス。INTとWISが上がったよ。これなら後衛全部になれる。
おじさんの背中に三日いただけでコレだ。メイジってすごい。いや、おじさんたちがすごいのか。
==================
JOB:SOLDIER
LV :0
CON:NORMAL
HP :20
VIT:11
STR:11
AGI:11
DEX:16
INT:29
WIS:22
MIN:12
LEA:14
==================
これがフォンシー。
「INTすごいねえ」
「すごいのか?」
「ああ」
振り回されてるウルのしっぽを見て、フォンシーがちょっと笑ってる。
元々高かったINTとWISがさらに上がって見栄えがすごい。今はソルジャーだけど、いつか後衛になったときのフォンシーが楽しみだ。
==================
JOB:WARRIOR
LV :0
CON:NORMAL
HP :24
VIT:14
STR:20
AGI:13
DEX:19
INT:17
WIS:12
MIN:12
LEA:14
==================
最後にシエラン。
「ボクが動く魔法使いなら、シエランは硬い魔法使いだね」
「できるでしょうか」
「やれるやれる」
ここからレベルが上がれば、シエランはどんどん硬くて強くなる。ウルは多分暴れまわることになるから、シエランは守りの要みたいなのを期待されるんだろうなあ。
冒険者になってからひと月とちょっと。これが今のボクたちだ。
「そういえば、ウルっていつ冒険者になったの?」
ウルがまだひとつめのジョブだっていうのは知ってる。
「えっと、十日くらい前だぞ」
「それでレベル14って結構速くない?」
「そうなのか? ブラウディーナが一日でマスターにしてくれたぞ」
「一日!?」
ウルの話だとブラウディーナっていう凄く強い冒険者と二人で、30層くらいに行ったんだって。で、その日にマスターになって、そこからはずっと一人で5層から10層を駆け回ってたらしい。
なるほど、だからレベル14なんだ。そりゃ連携もあったもんじゃないか。
「なあ、ドロップとかどうしてたんだ」
「全部施設に預けた。肉はみんなで食べた」
「そういうことか」
フォンシーが納得してる。だから迷宮でも事務所でも会わなかったんだ。
さて、今度こそ出撃だ。全員借りものの革鎧で、しかもボク以外はこん棒とバックラーだよ。カースドーさんたちにレベリングしてもらったときに結構ドロップしたんだけど、全部換金されちゃった。こういうのは自分たちで集めるのがいいんだって。
ところでボクは素手だよ。カラテカだからねえ。
◇◇◇
「いいかウル、最初だけ、最初だけでいいから我慢しろ。ラルカが魔法を撃ったら突撃だ。あとは好きにしていいけど、怪我したときは叫べ」
「わかったぞ!」
フォンシーがウルに教え込んでるのは、今のボクたちにできる精一杯の連携。
ウルよりボクの方がAGIがちょっとだけ高いから、パーティの先手はボクだ。だから開幕に魔法を撃って、あとはみんなの好き勝手って感じだね。
怪我したら自分で治す。ウルの怪我は誰かが治す。うまくいくかな。
「『ダ=リィハ』!」
迷宮2層でボクが叫ぶ。炎系中規模魔法だ。どぉんって音がしてモンスターを炎が包んだ。
「ウル、いけっ!」
「おう!」
すぐ後でフォンシーが指示をだした。ウルが突っ込む。突っ込んだんだけど。
「……敵がいないぞ」
ボクの先制魔法攻撃で敵が全滅しちゃったんだ。2層だもんねえ。
だからさウル、しっぽへにょんってさせないで。出番あるから、もうちょっとだから。
「速い魔法使いがいると、やっぱり楽ですね」
「先手が取れるのは大きいな。5層のゲートキーパーまでは問題なさそうだ」
「魔法は温存でも大丈夫ですね」
シエランとフォンシーが感想を言いあってる。
ボクとウルは警戒しながら、それぞれ後ろと前を担当だ。先頭のウルはすぐに戦闘になっても大丈夫なように、後ろのボクはシーフのスキルで不意打ちに注意だね。
迷宮の通路は広い。幅も高さも十メートルくらいある。
これが部屋とか広間になると、百メートル以上なんてことになるんだ。逆にこれくらい広くないと戦うのに窮屈になっちゃうんだよね。大きいモンスターだと三メートル以上なんてのもたくさんいるから、ぎゅうぎゅうになっちゃう。
ちなみにバトルフィールドは半径十メートルくらいのまん丸だから、その中で戦うのに慣れておかないと大変なんだ。
「やっつけたぞ!」
「おっ? きたか」
3層で魔法を出し惜しみしながら戦ってたら、フォンシーがレベルアップした。やっぱりソルジャーは経験値が軽いね。
「きたあ!」
「わたしもレベルアップです」
それから二回くらい、今度は4層で戦ったらボクとシエランがレベルアップだ。ファイター、ウォリアー、カラテカは必要経験値がだいたいおんなじくらいなんだよね。
これでジョブチェンジ組は全員レベル1。もちろんウルは上がんない。
「ウルもレベルアップしたいぞ」
「ウルは14だからしばらく先だねえ」
「そうか」
しっぽ垂らさないで。ウルは緩急激しいなあ。
結局今日は4層をうろついて、フォンシーがレベル3、ボクとシエランがレベル2になったとこで引き上げた。初日としてはいいんじゃないかな。
◇◇◇
「やあ、新しいお仲間かい?」
事務所の食事処で晩ごはんを食べてシエランの実家に戻ってきたら、フィルドさんとシェリーラさんが歓迎してくれた。特に新メンバーのウルを。
「ちゃんと食べてきたの?」
「ウルはまだ食べられるぞ」
「あらあら」
シェリーラさんとウルがそんな会話をしたもんだから、歓迎会ってことになった。
お酒やジュースと、あとちょっとした料理を出してくれたんだ。なぜかウルの前だけ大皿だけどね。
「シエランの両親はいいやつだな」
「そ、そう?」
ウルがなんか褒め称えてるけどボクは知ってるぞ。犬セリアンは遊んでくれて、ごはんをくれて、撫でてくれる人が大好きだって。まあ猫セリアンもたいした変わんないけど。
ボクもまだまだ食べるよ。おいしいよね。
「この部屋も四人でいっぱいだな」
「そうですね」
ボクたちが借りてる客室はベッドが二つ。今まではそれを三人で使ってた。今日からは四人だね。
さすがにこれ以上はムリだから、仲間が増えたらいよいよ宿に移らなきゃかな。シエランの部屋はそのままだからそっちに二人っていうのもアリだけど、それはなんか違うと思うんだ。
「ウルはみんなと一緒がいいぞ」
「わたしもです」
そうだよね。将来ウハウハになったらわかんないけど、今はパーティ全員で一つの部屋っていうのがかっこいいと思う。みんなも一緒でよかった。
「明日は5層でレベリングして、最後にゲートキーパーでもいいか」
「またゲートキーパー倒すの?」
「ああ、あそこは連戦にならないからな。それに連携の練習になる」
なるほど。さすがフォンシー、色々考えてるんだ。
「まあ連携というより、役割分担って感じだろうけど」
「たしかに」
チラっと反対側のベッドにいるシエランとウルを見たら、もう二人とも寝てた。
ボクもそろそろ眠たいかな。
こうしてボクたちは正真正銘の新人パーティってことで動き始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます