第8話 ウルを仲間にしてくれ!




「再確認だ。ラルカはカラテカ、シエランがウォリアー、あたしはソルジャーってことでいいな?」


「うん」


「はい」


 翌日ボクたちはジョブチェンジをしに事務所に向かった。


 次のジョブをどうするかは、昨日の夜に話し合っておいたんだ。けっこうもめたっていうか、みんなが納得するのに時間がかかった。

 誰かが嫌がったっていうのじゃないよ。どうしたら強い三人パーティになれるかって話だったんだ。



 ◇◇◇



「わたし、がんばります」


 まずシエランがウォリアーになるっていうのはすぐ決まった。ボクらで一番硬くて攻撃力があるから、後衛にする理由なんてない。

 気弱なシエランだけどだいぶん慣れたみたいだし、立派に最強アタッカーだ。


 シエランは将来ハイウィザードとソードマスター両方できるようになりたいんだって。両親が喜んでくれるといいね。それとも驚くかな。



 悩んだのはそこからだった。つまりボクとフォンシーがどうするか。

 ボクがエンチャンターになるって話も出た。もちろんフォンシーがウィザードかビショップっていうのもだ。


「ウチは全員が攻撃魔法と回復を使える。今は硬くしておいた方がいい」


 次に決まったのはフォンシーがソルジャーになるってことだった。

 彼女はプリーストで前衛をやってたけど、ファイターやウォリアーになるにはステータスが足りないんだ。だからソルジャーやって前衛パラメーターを引き上げるんだって。


 前衛は苦手だけどがんばるなんて言っちゃってさ。

 それを聞いたシエランはウルウルしちゃうし、思わずボクは二人の頭を撫でちゃったよ。



「じゃあ最後はボクだね」


「ああ。ラルカはどうしたい?」


「二人を前にだして後ろにいるっていうの、性に合わないかなあ」


「ラルカはそうですよね」


 ボクが素早くエンチャントするのも手だって言われたからさ、だからそれも考えたんだよ。

 けどやっぱり二人だけを前にだすのは心配だ。ボクが敵を混乱させて二人がトドメ、今はやっぱりそれがいいな。


「二人が硬くなったら後衛もやる。けど今は前でひっかきまわすのがいいかな」


「ネコだけに?」


「そうだよフォンシー。ボクは走り回るんだ。しゅばばばってね」


 ==================

  JOB:MAGE

  LV :25

  CON:NORMAL


  HP :16+71


  VIT:15

  STR:11

  AGI:24

  DEX:20+38

  INT:11+74

  WIS:9+69

  MIN:19

  LEA:15

 ==================


 これがボクのステータスだ。


 STRが足りてないからファイターやウォリアーになれないんだよね。だからカラテカ。

 敵のすぐ近くで大暴れするジョブって聞いて、ボクに合ってるって思ったんだ。



 ◇◇◇



「あ、丁度いいところに」


 事務所に到着してステータス・ジョブ管理課に行ったら、受付さんが歓迎してくれた。


「サジェリアさん、ちょうどいいって?」


 サジェリアさんっていうのは受付さんの名前だよ。


「ほら、ウルラータさん。来ましたよ」


「おうっ!」


 サジェリアさんが横を向いて声をかけたら、なんか凄い勢いで女の子が走ってきた。しゅばばじゃなくて、ずばばって感じ。


「こいつらがそうか。ウルを仲間にしてくれ!」


 なんだろこの子。



「それでな、育成施設を出てきたんだ。だけどずっと一人じゃムリだって言われたから、仲間を待ってたんだぞ」


 待ち伏せだったんだあ。

 ボクたちは事務所にある冒険者食堂のすみっこに集まってお話し中だ。ここって最近、指定席みたいになってるね。


「サジェリアが言ってたぞ。ウルと同じ年くらいの仲間がいるって」


 まだ仲間って決まったわけじゃないけど、それがボクたちだったんだ。まあたしかに仲間探しはしてたけど。


 テーブルの向こうに座ったウルラータのしっぽがブンブンしてる。

 彼女は犬型セリアンだ。ハスキータイプなんだって。おっきな青い目をして、腰まで伸ばした髪は銀に濃い青が混じってる。ちょっと親近感わくね。

 ピンってした耳と、ふさふさのしっぽを見るとびしってしたくなってくる。ボクは三毛猫セリアンだからしかたない。

 15歳なんだって。フォンシーと同じくらいの背丈で、ボクより結構おっきい。



「育成施設のままじゃダメなのか?」


「たくさん食べたいって言ったら、自分で稼げって言われた」


 微妙に口調が似てるフォンシーが訊いたら、そんな返事がきた。なるほど、いっぱい食べたい気持ちはわかるよ。


 育成施設っていうのは最近できたらしくって、ベンゲルハウダーの孤児たちを集めて住むところと食事をだしてあげてるところだ。希望者にはレベリングもしてる。ウルラータはそこにいたんだって。

 氾濫以来、強い冒険者が沢山いた方がいいって話になって、それでできたのが育成施設だ。ステータスカードが無料になったのもそういうことだって。


 当然ウルも孤児だった。両親の顔も知らないらしい。それでも彼女は笑ってる。


「施設じゃいっぱい食べれない。ウルはもう15歳だし出てきた」


「思い切りがいいですね」


 シエランが感心してるけどフォンシーはちょっと難しい顔だ。ボクはどうなんだろう。

 これまで大変だったのに、それでもこうやって笑えるってすごいと思う。


「たくさん食べたいって、ラルカと一緒じゃないですか」


「むむっ」


 たしかにそうだ。シエランの言うとおり。


「お前もウルと一緒なのか?」


「そうなんだけどね」


「仲間だな!」


 ウルラータが身をのり出してきた。目がきらっきらしてるし。しっぽがさらにブンブンだ。

 そこの二人、笑わないでよ。



「決まりだな」


「そうですね」


 え? どういうこと?


「だってラルカ、笑ってるじゃないか」


 えー、そうかなあ。ボクも笑ってたんだ。……じゃあ、しかたないね。


「よろしくウルラータ。ボクはラルカラッハ。ラルカでいいよ」


「ウルはウルだぞ!」


「わかったよ、ウル。これからよろしくね。ウルはお腹いっぱい食べたいだけなの?」


「恩義があるから、施設に仕送りしたいぞ」


 いいねえ。



 ◇◇◇



 フォンシーとシエランが自己紹介してから遅めの朝ごはんにした。ウルも一緒に食べたけど、ちゃんと自分の分は手持ちで払ってたよ。偉い。でもこれからは一緒だからね。


「じゃあウルのステータス見せてもらえるか」


「おう」


 ごはんを食べ終わって一服してから、そこでフォンシーが切り出した。


 ボクなんかは勢いだったけど、ステータスを見ないで仲間にするってどうなんだろ。フォンシーはわかってたはずだよね。そこがかっこよくっていいとこなんだけどさ。多分シエランはなりゆき。優しいから頼られたら断れない。

 うん、二人とも自慢の仲間だ。


 ==================

  JOB:WARRIOR

  LV :14

  CON:NORMAL


  HP :12+51


  VIT:15+33

  STR:16+36

  AGI:13+8

  DEX:11+19

  INT:6

  WIS:7

  MIN:15

  LEA:17

 ==================


「へえ、いいじゃないか」


「そうなのか?」


 フォンシーが腕を組んで感心してる。シエランもふんふんと頷いてるし。

 そうなんだよね、いままでウチにいなかったバッチリ前衛なステータスだ。シエランは万能型だからちょっと違う。

 でもさ、これならもしかして。


「これならボクがエンチャンターか、フォンシーがウィザードってアリだよね?」


「アリだな。一緒にシエランがシーフまでアリだ」


「ですね」


 なるほど、シエランがシーフは考えてなかった。


「アリなのか?」


 ウルはわかってないでしょ。



 ◇◇◇



「ぐるあぁぁぁ!」


 迷宮2層にウルの声が響きわたる。


「ナシだね」


「ああ、ナシだ」


「ですね」


 ボクたちの意見は一致した。


「ナシなのか?」


 ああ、戦闘終わったんだ。それとウル、やっぱりわかってないでしょ?



 あの場で決めるのもあれだったから、一度ウルの戦い方を見せてもらうってことになったんだ。ボクらの経験値はちょっともったいなかったけどね。


 そしたらもうすっごかった。

 みんながメイジっていうのもあるけど、それにしたって速すぎる。ウルひとりだけ別格だった。


 それはそれでいいんだけど、もうひとつが大問題だ。

 ウルってば全然連携できてない。一度目は好きにやらせたけど、二回目はみんなが魔法を撃ってからねって言ったんだ。だけど待たずにひとりでつっこんで行っちゃった。なんとなくそんな気がしたんだよね。



「もしかして、ウルはダメなのか?」


 ボクたちが悩んでたら、ウルが心配そうに訊いてきた。こっちの雰囲気が伝わっちゃったかな。


「ダメじゃないですよ」


「ああ、連携はこれからでいい。原因はむしろレベル差だ。あたしたちがウルに合せられない」


 あ、シエランの言葉でちょっと復活しかけたけど、ウルのしっぽがまたへにょんってなってる。


「大丈夫。大丈夫だから、元気だしてウル」


「そうなのか?」



 こうしてボクたちは四人パーティになった。

 繰り返しになるけど、ウルはホントに頼もしいんだからね? 大丈夫だからね?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る