第7話 ヴィットヴェーン直伝、ハイパーレベリングってヤツっすよお
「全員メイジ、ですか」
「……ああ」
呆れた顔の受付さんにちょっと口ごもってからフォンシーが返事した。
受付さんはチラッとボクの背中の方、多分おじさんたちを見て、ため息を吐いたよ。
「わかりました。大変でしょうけどがんばってください」
大変?
「それとカースドーさんたちに伝えてください。戻ってきたらお話があります」
「お、おう」
ちょっと目力強いよ。フォンシーがビビってる。
ジョブチェンジが終わったら、ぽてぽて歩いてみんなで迷宮を目指す。
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JOB:MAGE
LV :0
CON:NORMAL
HP :16
VIT:15
STR:11
AGI:24
DEX:20
INT:11
WIS:9
MIN:19
LEA:15
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メイジにジョブチェンジした三人だけど、まずはボクのステータス。
うん、AGIとDEXが伸びた。これくらいあったら10層までは、まず先手を取れるんだって。STRが低いからスキルを使わないと先制攻撃にならないけどね。
ボクが魔法を使えるようになったら、素早い魔法攻撃ができてすごくなれるらしい。そうやって聞くと、今回のメイジになる話は本当にありがたいね。
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JOB:MAGE
LV :0
CON:NORMAL
HP :13
VIT:11
STR:11
AGI:11
DEX:12
INT:22
WIS:16
MIN:11
LEA:14
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次はフォンシー。INTがすごいや。攻撃魔法の威力はINTで決まるらしいから、もしフォンシーがウィザードになれたらいいなあって思う。
それにWISもあるからこのままビショップにもなれちゃうらしい。エンチャンターにもなれるし、フォンシーはどれを目指すんだろう。
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JOB:MAGE
LV :0
CON:NORMAL
HP :17
VIT:14
STR:20
AGI:13
DEX:14
INT:12
WIS:8
MIN:12
LEA:14
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そしてシエランだ。STRが20になった。フォンシーと逆でいろんな前衛になれるみたい。
だけどINTも12あるし、メイジをやったら万能型? になれるんだってさ。
そんなわけでボクたちは強くなったらしい。まだまだ実感できてないけどね。
今回の件が終わって三人で戦ってみないと、これからやっていけるかどうかはわかんない。
「さて、これに乗って紐で身体を固定するんだ。荷物は前に抱えて一緒に縛れ」
将来を夢見てたらいつの間にか迷宮の入り口に着いてた。
カースドーさんが背中を向けたらそこに椅子みたいのがある。うん、足はついてないけど簡単な椅子っていうしかない。これに乗るの? 縛るの?
「ど、どういうことだ?」
ああフォンシーが後ずさってるよ。シエランも変な汗をかいてる。
「うへへっ、ヴィットヴェーン直伝、ハイパーレベリングってヤツっすよお」
ボクにはおじさんたち三人が人攫いにしか見えないよ。
◇◇◇
「うぉうらああああ!」
ウォムドさんの叫びが轟く。次の瞬間モンスターが真っ二つになってた。
ボクたちがいるのは迷宮の34層。ロックバイパー、ヘビースケルトン、アタックボアなんかがたくさん出る階層らしい。
そしてボクたち新人組なんだけど、椅子みたいのに括り付けられておじさんたちの背中にいるよ。
この背負子に乗って、何もしないで見てる間にレベルが上がる。それをハイパーレベリングって言うらしい。ホント、ヴィットヴェーンってどんなとこなんだろ。
「ここは稼ぎドコだし、お前らのレベリングにも丁度いい。両得ってやつだ」
カースドーさんがなんか言ってるけど、こっちはそれどこじゃないんだよ。
フォンシーは首ががっくんがっくんしてるし、泣いてる、泣いてるよ。シエランは目を回してグデってしてる。まともに起きてるのボクだけじゃん。なんとかしてあげたいけど、口を開けたら舌を噛みそうだし。
ついでに取り分なしっていうのもよくわかった。だってボクたちなんにもしてないもん。
全然実戦経験になってないけど、メイジは純粋魔法職だから後で練習しとけだって。
「またMINが上がった」
「そ、そう。よかった? ね?」
フォンシーの目が死んでるって。確かにぎゅんぎゅんレベルはあがるんだけどね。まだ初日なのに、もうレベル11。
ボクのじとっとした視線を受けてカースドーさんが困った顔で頭を掻いた。
「いやなあ、このやり方は気を使うんだよ」
そりゃ人を背負えばねえ。気を使ってもこれだけ揺れるんだ。
「いつもならもっとギリギリを責めるんだ。けどまかり間違ってもお前らに怪我させられないだろ。だから普段より大きく避けるんだよ」
違った。ボクたちがいるから揺れが大きかったのか。
たしかにボクたち三人はHPが低いもんね。当たり所が悪かったら、これくらいの深層だと一撃で死んじゃうかもしれないんだ。だから安全に大きく避けてたんだ。安全ってなんだろう。
「あいつらならもっと上手くやるんだろうけどなあ」
それって多分ヴィットヴェーンのすごい人たちだよね。どんだけなんだろ。
だけどあれ? なんかモヤモヤした気持ちもあるんだ。同年代の女の子たちって聞いてたからかな。ボクもがんばったら、そんな風になれるのかな。
◇◇◇
戦ってる最中は大変だったけど、ごはんの時間は結構楽しかった。
「これが迷宮メシってやつっすよ。へへっ」
道具とか食器はインベントリに入らないから持ち込みだけど、お肉は迷宮産だし、なんと炭までそうだ。もちろん凝った料理じゃなくって塩と香草をかけてから焼いただけだけど、なんか美味しい。流石にお酒はナシだよ。
「沢山食ってデカくなれ。特にラルカラッハはちっちぇえからなあ」
うるさいよウォムドさん。ボクはまだ14歳なんだからね。
でも迷宮で食べるごはんも美味しいし、会話も楽しいから許してあげよう。
こうやって騒いでるけどこれから二泊三日、おじさんたちは寝ないで過ごすらしいんだ。VITが高いから平気らしいけど、心配になっちゃうよ。
「さてお休みの時間だ。『ピフェン』」
迷宮のしかも不釣り合いな深層で横になるなんてできるわけないと思ってたら、魔法で強制的に眠らされた。なんて恐ろしいことをって思ったけど、氾濫なんかのときにスキルを回復させるためにこういうこともするんだって。
ベンゲルハウダーは最近二回連続で氾濫が起きたって話だったもんね。
「あの時は街中がピリピリしてて大変でした」
「あたしたちも急がなきゃならないな。逃げるなんてマネ、したくない」
ココが故郷のシエランは守る理由がある。だけどそうじゃないフォンシーまでその気になるって、やっぱり冒険者だからかな。かくいうボクだって、もし迷宮異変が起きても逃げてなんてやらないぞって考えてるくらいだし。
「うん、強くなろう」
「だな。そっちのほうがウハウハになれるしな」
そういうトコ、かっこいいよフォンシー。
そうして三日後、ボクたちはレベル25になった。ほんとにコンプリートしちゃったよ。
時間が余ったからって、オマケで二つレベルを上げてくれた。得した気分。
◇◇◇
迷宮を出たところでおじさんたちは背負子を外した。ここでお別れらしい。
今日は事務所に顔を出したくないんだって。
「俺たちがしてやれるのはここまでだ。これ以上は教導課に睨まれるだろうな」
そっか、普通なら最初のジョブをマスターまでっていうのがメンターのお仕事だ。でもおじさんたちは二つもジョブをコンプリートしてくれた。取り分を全部っていったって、えこひいきって言われても仕方ない。
ボクたちは宿代が半額で、しょっちゅう晩ごはんを奢ってもらってるからやってられるけど、やっぱり恵まれすぎかもしれないなあ。
受付さんが後で話あるって、そういうことか。
「なあに、この後も別の新人育成依頼はきてる。そっちを受ければまあいいだろうさ」
ウォムドさんはそう言うけどさ。
「恩に思うならお前らが強くなれ。いつか俺たちみたいに新人を鍛えれば、それでいい」
「うん、がんばります!」
「へへっ、こんどは迷宮で会うっすよ。同じ冒険者仲間っすからね」
「ああ」
「はいっ」
フォンシーはイタズラっぽく笑って、シエランはちょっと涙目だ。
そうだね、ここにいる六人全員が冒険者なんだ。いつだって会える。
◇◇◇
「メイジをコンプリートした……っ!?」
「三日で!?」
シエラン家に戻って報告したら、フィルドさんとシェリーラさんが絶句した。
「いつかは娘に追い越される。悪い気はしないけど、いくらなんでも早すぎるよ」
「まだお父さんの方が強いよ!?」
「そ、そうだね」
フィルドさんがにへらってしてるけど、ファイターからソードマスターだったよね。次のジョブで追いつかれるんじゃないかなあ。
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