第6話 冒険者は気ままに生きる!




「やりました。コンプリートです!」


 珍しくシエランが大きな声を出した。ついに彼女もコンプリートだ。

 ボクがレベル23、フォンシーは21、そしてシエランが22になった。フォンシーは21でコンプリートしたんだよね。ボクは22でコンプだったけど、みんなに付き合ってたらレベル23になってたんだ。


「まあこんなもんか」


 カースドーさんの声が迷宮25層に響く。ここまでくるのに結局、メンターをお願いしてひと月くらいかかっちゃったね。



 ◇◇◇



「うえへへへ」


 今日はホントの意味で打ち上げだ。微妙に気持ち悪い笑い声はアシーラさんだね。


「25層までのモンスターは把握できてるか?」


「ああ」


「はい」


 ウォムドさんがフォンシーとシエランに確認してる。ボクには言わないんだよね。どうせ覚えられないよだ。


「むくれるな。お前は鼻がいい。知識と直感、両方揃えば万全だ」


「うん」


 カースドーさんが慰めてくれたけど、多分本気なんだろうって思う。目がマジだもん。



「いよいよ三人パーティか。稼がなきゃな」


 しばらく雑談してたら、ふとフォンシーがお金のコトを言い出した。


「生き急ぐことはない。歩くのを止めなきゃいいさ。お前らはもう冒険者なんだからな。ちなみにここの探索深度は75層だ」


 それに返事したウォムドさんが言ってるのはベンゲルハウダーの現状だ。つまりボクたちはまだまだってこと。

 別に最強を目指してるわけじゃないけど、フォンシーが言うようなウハウハするためには40層、ううん50層くらいは行かなきゃダメなんじゃないかな。しかもボクたちまだ三人だし、20層だって危ない。



「実はあたし、あんたらのこと最初怖いと思ってたんだ。ごめん」


 いきなりフォンシーが頭を下げた。いやそれ、みんな知ってたよ。


「へへっ、あっしらは強面っすからねえ」


 アシーラさんは強面っていうか、チンピラっぽいけどね。

 だけどおじさんたちは強いし優しい。取り分が八割だけど三人だけならもっと稼げるはずだ。それでもボクたちに付き合ってくれたし、時間をかけて強くしてくれた。



「さてそろそろかな。おい、そこらの連中! 三人パーティの門出だ!」


 いきなりカースドーさんが声を張り上げた。ざわざわしてた事務所の食堂が静かになっちゃう。あ、前に絡んできたなんとか村のパーティまでいる。


「ラルカラッハ。腹に力入れて叫べ」


 うんっ。なにを言えばいいかは知ってる。受付さん、ポリアトンナさん、おじさんたち、みんなから教わったんだ。


「『冒険者は諦めない』!」


『冒険者は諦めない』!!


 ボクの叫びにその場のみんなが返してくる。すっごい熱い。しっぽがピンと伸びちゃった。


「フォンシー」


「ああ、『冒険者は見捨てない』!」


『冒険者は見捨てない』!!


 フォンシーが続く。

 そうだ。冒険者は見捨てない。冒険仲間だけじゃない。最強のステータスを身に付けたみんなは、ベンゲルハウダー全部を守るんだ。


「シエラン」


「ぼ、『冒険者は気ままに生きる』!」


『冒険者は気ままに生きる』!!


 最後にシエランが精いっぱいの大声を出した。

 これって最近、ベンゲルハウダーの偉い人が付け足したらしい。冒険者は諦めないし見捨てないけど、だからってカチカチに縛られちゃダメなんだって。

 普段の冒険のやり方だけじゃなくって、流行のジョブチェンジもひっくるめて、自分たちで考えて自由にするんだー、って意味らしい。


 ボクたち三人が叫んだあと、食堂はさっきよりにぎやかになった。

 ジョッキを打ち鳴らす音や拍手だったり、ボクたちに声をかけてくれる人もいる。これが冒険者なんだ。いつかボクもこうなれるかな。



「明日は休め。それと明後日から三日空けといてくれ」


 いよいよお開きかなってときにカースドーさんが変なコト言いだした。なんだろ?

 アシーラさんとウォムドさんは悪い顔で笑ってる。これってなんかイタズラする気でしょ。期待して待ってるね。



 ◇◇◇



「ひと月でコンプリートかい。時代も変わったね」


「そうねぇ」


 宿代わりにしてるシエランの実家に帰って報告したら、フィルドさんとシェリーラさんがしみじみって感じでため息を吐いた。


「わたしたちの頃はマスターレベルで一流、コンプリートなんて年単位だったの」


「五年以上冒険者をやって20層。その辺りで色々あって引退する人が多かったんだよ。僕たちの場合は結婚したのと、この店だね」


 なるほどそれじゃあ、ため息も出るね。

 迷宮にステータスカードが現れたのが二十年くらい前だったはず。フィルドさんたちが冒険者をやってたのは、ホントにできたばっかりの頃だったんだ。


 最初の頃は手探りばっかりだったらしい。ステータスカードの意味から始まって、パラメーター、ジョブ、レベル、スキル。全部が全部、試して試してそれでも試してわかっていったんだって。


「僕たちが引退したときの最高到達階層は25だったかな。それが今では70を超えた」


 手元のジョッキをくるりと揺らしてフィルドさんが遠い目をしてた。

 あれ? 最初の講習のときシエランがレベルアップが大変だって言ってたの、もしかして両親のことだったのかな。



「シエランは僕たちの血を引いている。だけどそれだけじゃない。ベンゲルハウダー冒険者全員の経験を引き継いでいるんだな」


「そうね。とても素敵ね」


「そ、そうかな」


 そっか、そうだよね。シエランは両親だけじゃなくってベンゲルハウダーの娘なんだ。

 シエランは冒険者に憧れて冒険者になった。恋に恋してみたいだ。本人はまだ目標が見つかってないって時々言うけど、そんなのこれからだよ。



 ◇◇◇



 昨日はシエランの案内でベンゲルハウダー探索だった。ちょっとの貯金を使って買い食いなんかをして、結構楽しかったよ。


 武器屋さんもひやかしてみた。ボルタークラリス商店っていうんだって。

 ボクたちの装備は最初のジョブがレベル13までは無料で、そこからは借りるのにちょっとだけどお金がかかるんだ。だけどボクたちはこれからジョブチェンジの予定だし、武器を買うのはちょっと待てっていうのがフォンシーの言い分だ。たしかにそのとおりだね。



「おう、来たか」


 それでもって約束通り事務所にきたら、おじさんたちが待ち構えてたんだ。なんか変なのを背負ってる。荷物載せ?


「じゃあジョブチェンジしてこい。三人とも『メイジ』だ」


「メイジですか?」


 シエランが訊き返すのも当たり前かも。

 メイジ。ウィザードやプリーストの魔法が使えるけど、それは弱いのばっかりだ。INTとWISが上がるから、ウィザードやエンチャンター、プリーストになりたい人が腰掛ジョブに使うって聞いたことがある。ボクたちがメイジ?


「メイジを舐めちゃいけねえっすよ。パラが上がるのは当然っすけど、基本の魔法スキルが大事なんでさあ」


 アシーラさんが時々村に来る胡散臭い商人みたいな顔で説明してくれた。



「いいかあ、二泊三日だ。迷宮にこもって三日でコンプリートさせるぞ。お前らの取り分はナシだからな」


 キツいよウォムドさん。たしかに三日くらいなら貯金があるからなんとかなるけど、その間稼ぎ無しなんてさ。

 っていうか、三日でコンプリート!?


「本当にいいんですか?」


 あれ? シエランが目を潤ませてる。どうして? そういえばフォンシーもなんにも言わない。

 もしかしてコレって好条件なの?


「ああ、断る理由がない」


「そうなんだ」


 フォンシーが言うならそうなのかな。

 ボクはインベントリからステータスカードを取り出して、チラッとだけ見た。


 ==================

  JOB:THIEF

  LV :23

  CON:NORMAL


  HP :11+59


  VIT:14+13

  STR:11

  AGI:19+59

  DEX:16+49

  INT:8+30

  WIS:9

  MIN:19

  LEA:15

 ==================


 ここひと月の成果だ。

 AGIが高いから先手は取れるんだけど、STRが低くて速くないし、力も足りない。


 実は新人三人の中で直接モンスターを倒した数は、ボクがダントツで少ないんだ。ボクのやったことはスキルを使って牽制、かく乱がほとんど。トドメはフォンシーとシエランにお任せだった。

 おじさんたちはそれでいいんだって言ってくれるけど、やっぱり悔しいときもあるんだよね。



「あたしたちは次のジョブで迷ってた」


「そうだったね」


 フォンシーの言う通りで、ボクらは迷ってた。できるならウィザードとエンチャンターが欲しいんだけど、そうなるとボクとフォンシーが後衛で、シエランだけが前衛になっちゃう。

 だったらボクとシエランが前衛っていうのもアリだけど、シエランがアタッカーでボクが牽制だと、誰がフォンシーを守るんだってことになるんだよね。


 結局パーティの人数を増やすまでは、三人とも前衛ジョブかなあって感じになってたんだ。


「そこでこの話だ」


「全員が初級の攻撃魔法と回復魔法が使えるようになるんです」


「ああそっか」


 メイジをやれば初級だけど魔法スキルが使えるようになる。コンプリートしてから前衛を選べば、魔法が使えるパーティになれるんだ。

 やっとおじさんたちの親切がわかったよ。これはもう頼るしかない!



「よし、全員でメイジになろう!」


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