第3話 条件なんだがドロップの八割でどうだ?




「ラルカはどう思う?」


「ボク? ボクはいいと思うけど」


「ならあたしも構わない」


「えー?」


 フォンシーがポンって投げてきたから思わず返しちゃったけど、こんなのでいいのかなあ。


「あ、ありがとうございます」


 ほら、シエランさんがキョドってるじゃない。


「ああ、いえいえ。ボクたちも仲間探してたから大歓迎です」


「ラルカ、言い方が気持ち悪いぞ。仲間にするんだろ? 普通に話せ」


「うん。うん、そうだね。よろしくシエラン。ボクはラルカでいいよ」


「あたしもフォンシーで構わないからな」


「は、はい。よろしくお願いします。あのわたし、いっつもこの口調なんです。ごめんなさい」


 ああよかった。シエランが引いたらどうしようかと思ったよ。

 これで三人パーティだ。次はジョブ決めかな?



 ◇◇◇



「……どうでしょう」


「うーん。フォンシーはどう思う?」


 ==================

  JOB:NULL

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :10


  VIT:12

  STR:15

  AGI:11

  DEX:11

  INT:12

  WIS:8

  MIN:10

  LEA:14

 ==================


 今の話題は三人のジョブだ。場所は事務所にある食事処。新人だからすみっこで。

 そこで見せてもらったのがシエランのステータスだ。WISがちょっと低いけど、ちょうどボクとフォンシーの間って感じ。


「いいじゃないか。前衛も後衛もすぐに出来そうだ」


「あ、ありがとうございます」


 シエランがちょっと嬉しそうだ。それで本題のジョブはどうしよう。



「まずあたしは決まってる。プリーストだ」


「ウィザードじゃないんですね。INTが凄く高いのに」


 うんうん、確かにそうだ。なんでプリーストなんだろ。


「パーティに一人は要るだろ。ラルカもシエランもなれないじゃないか」


「あー。そうだねえ」


「ごめんなさい」


 シエランは申し訳なさそうだけど、お互いに弱いとこを助け合うってパーティっぽくていいな。


「謝るな。あたしにも都合があるんだ」


「どんな?」


「あたしは前衛パラメーターが低い。プリーストならVITとSTRを上げられる」


「すごい。そこまで考えてたんですね」


 講習会のときから思ってたけど、フォンシーってこう頭いいよね。呑み込みが早いっていうか、ちゃんと理解して考えてるって感じ。

 ここは頼っちゃおうかな。仲間なんだからいいよ、ね?



「じゃあさ、ボクはどうしたらいいと思う?」


「ん? ラルカはどうしたいんだ」


「あうっ」


 ヤバイ。見透かされてる気がする。


「えっと。シーフでいいか、な?」


「……ったく」


 あー、フォンシーため息吐いたよ。シエランはなんかオロオロしてるし、こりゃ失敗した。


「ごめん。自分で考えて決めるのが冒険者だよね」


「わかってるならいいさ。で? どうしてシーフなんだ」


「えっとね、一番今のボクに向いてるのと、INTが上がるからかな」


「ちゃんと考えてるじゃないか」


 えへへ。そう、シーフはINTが上がるんだ。だからレベルアップしたらメイジやウィザード、エンチャンターにもなれる。一応将来を考えてるんだよ。



「だけど、もうひとつ追加して考えよう」


「なにを?」


 フォンシーがなんか言いだした。もうひとつ?


「講習聞いてて思ったんだ。冒険者を続けるなら、最初の内に弱点を少なくするのと」


 ごくり。


「前衛と後衛、両方できるようになった方がいい。そうしないと速く強くなれない」


「必要なのはポリアトンナ様が言ってた継戦能力ですね」


「そうだシエラン。ゆっくりしてたら『稼げない』んだ」


 そっか、そうだよね。お金を稼がないと冒険者を続けられないし、そのためにはその継戦能力? っていうのがないとダメなんだ。



「ついこの間ですが、第二次氾濫がありました。それのお陰って言ったら変ですけど、みなさんが強くなって探索が深くなったんです」


 浅いところだと稼げないってことかな。

 第二次氾濫はさっきの講習で習った。半月くらいまえにヘルハウンドが沢山出てきたらしいんだ。ベンゲルハウダーがすごく頑張って、他の迷宮街、ヴィットヴェーンやキールランターから応援が来てくれて、それでやっと鎮圧できたんだって。


「多分フォンシーさんの言いたいことがわかりました」


「どんなだい?」


 おお、シエランはわかるんだ。すごいや。


「『メンター』ですよね」


「おう。アテはあるかい?」


 三人で自己紹介したときに聞いたんだけど、シエランはベンゲルハウダーに住んでる。両親は元冒険者で今はパン屋さんなんだって。

 なのでココの事情に一番詳しいのは彼女だ。メンターつまりレベリングに付き合ってくれる人を知ってるとしたらシエランってことだ。


「あります。それと宿ですけど、当面はわたしの実家に泊まってください」


「えぇ? それはどうなんだろ」


「節約です。ちゃんと宿賃は貰いますから、いいですよね?」


「うう、わかったよ」


 最初だけだからね。しかたないよね。

 フォンシーも頷いてるし、シエランはちょっと嬉しそうだ。それならまあいっか。



 ◇◇◇



「やあ、いらっしゃい」


「おかえりなさい」


 そう言って出迎えてくれたのは、シエランの両親だ。

 お父さんはフィルドさんでソードマスター。お母さんはシェリーラさん、ハイウィザードだって。すごいや。



 あれからボクたちは教導課に行ってメンターの予約をした。もちろんシエランのツテだね。

 明日には会えるみたい。自分たちでちゃんと契約して行動しなさいって言われた。


 冒険者をやるんだから、食事と泊るところ、装備やメンターなんかにかかるお金もキッチリしないとダメなんだ。

 はやく六人パーティになりたいなあ。


「じゃあシエラン、宿代は半額で食事は全部外ってことでいいね」


「うん。ありがとうお父さん。冒険者になるんだから頑張るね」


「でも今日だけはお客さんよ。シエランの新しいお友達ですもの、沢山食べてゆっくり休んでね」


「ありがとうございます!」


「ありがとう」


 素敵な家族だな。ちょっと村を思い出しちゃったよ。父さんと母さん、元気してるかな。



「シエランはね、僕たちのせいで冒険者に憧れていてね」


「お父さん……」


 シエランがムスって顔してる。初めてみた。


「お金を稼げるようになるのって大変なの。だけどいうこと聞かなくて」


「お父さんとお母さんだって冒険者でお金を貯めて、この店始めたんじゃない」


 なるほど。冒険者でお金を貯めて、別のことを始めるってのもアリなんだ。


「わたしはまだわかんない。わかんないけど、冒険者になって強くなって、自分の力で稼いでみたいの」


「ということなんだ。シエランをよろしく頼めるかい」


 フィルドさんとシェリーラさんが頭を下げた。シエランが心配だけど、夢をかなえてあげたいっていうのが伝わってくる。


「はいっ、もう仲間ですから」


「そうだな。シエランは仲間だ」



 その日は客室に三人で相談しながら夜を過ごした。

 ジョブとかはけっきょく明日、メンターに会ってからじゃないとねって感じになったよ。どんな人たちなんだろう。



 ◇◇◇



「おう、俺はカースドーだ。フィルドさんとシェリーラさんの娘なんだってな」


「あっしはアシーラ。よろしく頼むっすよ」


「俺はウォムド。任せてくれや」


 次の日事務所に行ったら、なんかすっごいゴツいおじさんたちがきたー!

 カースドーさんがベルセルクのレベル34、アシーラさんがソードマスターのレベル31、ウォムドさんはモンクでレベル29だって。しかもみんな後衛もできるマルチジョブ。


「で、条件なんだがドロップの八割でどうだ? それでコンプリートまで面倒みてやる」


「……い、いいのか?」


 フォンシーがそう言うってことは、いい条件ってことなのかな。

 それよかフォンシー、なんかちょっとビビってない?


「普通はマスターレベルまでなんですよ。それに二割貰えるってことは、わたしたちが食べていけるようにだと思います」


「なるほどぉ」


 シエランが小さな声で教えてくれた。

 マスターレベルっていうのは固定で13。全部のスキルが覚えられる。

 コンプリートレベルは大体20から24くらいだったかな。全部のスキルが最高の九回ずつ使えるようになるレベルだ。


 スキルを使える回数はジョブチェンジしても残るから、ジョブチェンジはコンプリートしてからがお勧めだって昨日習ったよ。



「ひひっ、あっしらは恩を返すだけっすから」


「恩? ああ、お父さんとお母さんですか」


「それもあるっすけどねえ」


 アシーラさんの口調って面白い。でもなんか続きがあるのかな。


「俺たちはお前らくらいの娘っ子たちにコテンパンにされてなあ。それで鍛え直すことにしたんだ。だから恩返しさ」


 ウォムドさん、それって仕返しっていわない?


「ウォムド、それじゃあ誤解をされるぞ。俺たちはヴィットヴェーンで育てられたんだ。だからココでお前らを鍛える。それが冒険者だってな」


 カースドーさんの目が優しい。強面だけど、うん大丈夫。



「ボクは賛成。みんな強いし、信用する」


「ほう? なんで俺たちが強いって思った?」


「えっと、なんとなくです」


 いやだって、三人とも凄く強いでしょ。特にカースドーさん。さすがにポリアトンナさんには敵わないだろうけど。


「面白いな。ラルカラッハだったか、強さが見えるか」


「はぁ」


 褒めてくれてるのかな。でもわかるのって強いか弱いかくらいで、弱点が見えたりするわけじゃないんだけどなあ。



「ほれ、さっさとジョブチェンジだ。装備借りてくるのを忘れるなよ」


「はいっ!」


 カースドーさんの声に背中を押されて、ボクたちはステータス・ジョブ管理課に向かった。


「ねえフォンシー、結局ボクとシエランどうしよう」


「ラルカはシーフ、シエランはファイターだな」


 フォンシーはすぐに言い切った。


「コンプリートまでの約束ですから、経験値が重たいのにするってことですね」


「そうだ」


 なるほどー。そういう考え方もアリだね。



 そうしてボクはシーフになった。教導課に移動して借してもらった装備は革鎧と短剣。フォンシーはプリーストで、革鎧とメイスそれと丸い盾。バックラーっていうんだって。シエランはファイターで、革鎧とショートソード、それとバックラーだね。

 茶色の革鎧は三人一緒でお揃いだ。


「お待たせしましたー!」


「おう、いっぱしだな。じゃあ行くぞ」



 えへへ、いっぱしだってさ。ジョブも取ったし、これでボクも冒険者だ。やるぞお。


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