第2話 わたしとパーティ、組んでもらえませんか
「どちらからにしますか?」
「えっとじゃあ、フォンシー、お先にどうぞ」
「ああ」
受付さんが白い石みたいな台の横にこれまた白いカードをぱかってはめた。それからフォンシーが台に手をかざす。それだけでカードが出来あがった。さあ、どんな感じなんだろ。
「はい、できましたよ。どうぞ」
お姉さんが小さくて白いカードをフォンシーに手渡した。
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JOB:NULL
LV :0
CON:NORMAL
HP :8
VIT:10
STR:9
AGI:11
DEX:12
INT:16
WIS:12
MIN:9
LEA:14
==================
これがステータスかあ。
「これってどうなんだ?」
「さあ?」
フォンシーは自分のカードを見て首を傾げてからステータスを見せてくれた。ボクもよくわかんないや。
「前衛パラメーターは低いですが、若い女性としては一般的ですね。ですがINTとWISがとても高いのでメイジはもちろん、このままウィザード、エンチャンター、プリーストになれますよ」
「へえ。後衛ってやつか。魔法スキルを使えるんだよな」
「そうですね。さすがはエルフです。ではラルカラッハさんもどうぞ」
おっとボクの番だ。同じく手を置いて念じる。ステータスでろでろでろ。
==================
JOB:NULL
LV :0
CON:NORMAL
HP :11
VIT:14
STR:11
AGI:19
DEX:16
INT:8
WIS:9
MIN:19
LEA:15
==================
ああ、これはわかる。フォンシーと比べたら全然違うもんね。
ボクはAGIとDEXが高いんだ。あとMINってなに?
「ラルカラッハさんはシーフかソルジャーですね」
「器用で速いんだな」
フォンシーの言うとおり。たしかAGIは反射神経で、DEXは器用さだったかな。
「MINも高いですね。初期ステータスでこの数値は中々見ませんよ」
「どういうことです?」
「精神的な落ち着きというか、動じないというか、そういうパラメーターです」
うーん、よくわかんない。いつものんびりしてるって言われるけど、そういうことかな。
「やるじゃないか、ラルカ」
「うん、ありがと」
まあ高くて損はないだろうし、前向きに考えよう。そうしよう。
「ジョブに就くのは講習後でよろしいですね」
「はいっ」
「ああ」
二人で元気に返事をして、講習会をやるって部屋に向かう。階段を登って2階へ。えっと3番講義室だったかな。
「ラルカ、ここだ」
すぐにフォンシーが部屋を見つけてくれた。
一緒に中に入ったら椅子と机が並んでて、えっと七人先客がいるね。ボクたちも適当な場所に並んで座った。どんな先生がくるんだろ。
◇◇◇
「わたしはポリアトンナ。今回の講師よ。よろしくね」
十分くらい経って登場した先生はそう言って挨拶してくれた。
金髪碧眼のヒューマンで濃い紫色の革鎧を着てる。いかにも冒険者って格好だけど、お顔は優しい。
だけどこの人、滅茶苦茶強い。さっきの受付さんも強かったけど比較にならない。しっぽがブワってしてるよ。こんな強そうな人、今まで会ったことない。
「ぽ、ポリアトンナ様!?」
誰かが叫んでから立ち上がった。なんかすっごい焦ってる。
フォンシーや他の人たちはポカンとしてるし、ボクも意味がわかんない。有名人なのかな?
「あらあら、知っている人もいたのね。じゃあご挨拶しましょう。わたしはポリアトンナ・ヴァフラ・フォウスファウダー。『フォウスファウダー一家』の一人よ」
『フォウスファウダー一家』。なにそれ?
「ねえねえフォンシー、知ってる?」
「いや、知らないな」
フォンシーも知らないみたいだった。
その後で説明されたんだけど、ポリアトンナさんはとんでもなく偉い人だった。ベンゲルハウダーの領主、フォウスファウダー公爵の娘さんらしい。
貴族様って生まれて初めて見たよ。
そいで『フォウスファウダー一家』っていうのは、その偉い人たちが作ったベンゲルハウダー最強のパーティなんだって。
「さあ、わたしの生まれはどうでもいいからね。講義を始めるわ」
どうでもいいのかなあ。口調も気にしないって言ってくれたし。
でも真面目に聞かないと後が怖い。気合を入れよう。
「──これをマルチジョブ、マルチロールなんて呼んでいるわ」
ほむほむ。ポリアトンナさんの説明が続いてる。
特に今説明してるマルチジョブっていうのが、新しい考え方なんだそうな。半年くらい前から広まったんだって。
だけど難しいなあ。たくさんジョブを取って、たくさんレベルを上げればいいのかな?
「──スキルを多く持てること、それのお陰で前衛も後衛もできるようになるって感じね。さてこのあたりで質問あるかしら」
「いいかな?」
「あなたはえっと、フォンシーさんだったわね。どうぞ」
なんと手を挙げたのはフォンシーだった。そのまま立ち上がる。
「一度就いたジョブを変えたら二度と同じジョブにはなれない。だったよな」
「そうね」
「なるほど。ジョブを重ねてスキルを積むのはわかった。合計レベルが上がり易くなるのもわかる」
え? ええ? そうなの? フォンシーわかってるの?
ポリアトンナさんも嬉しそうに頷いてるし。
「弱点パラメーターを無くせるのもわかるんだけど、突き詰めたらみんな一緒にならないか?」
ほへー。
「そうね。究極的にはそうなるかもしれないわ。だけどそれをするには時間がかかるわね」
「それはそうかもな。だからパーティの仲間で得意分野を作る、か」
「そういうこと。弱点を補って、得意はもっとできるようにする。それが今、強いっていわれてる冒険者よ」
すごいよフォンシー。ポリアトンナさんと会話できてる。かみ合ってる感じするし、なんかすっごい。
「ん、じゃあ最初のジョブは……。ああ、状況次第ってことか。ありがとう」
そう言ってフォンシーは席に座った。
ってか、ええ? あれだけで最初のジョブまで決めれるの!?
「いえいえ。新人冒険者のやり方はこの後で説明するんだけどね」
フォンシーって説明前に判断できちゃったんだ。ポリアトンナさんが苦笑いだよ。
「他はあるかな?」
「……は、はいっ!」
次に手を挙げたのはヒューマンで黒髪の女の子だった。ボクと同じくらいの歳かな。
「シエランさんだね。どうぞ」
フォンシーの時もそうだったけど、ポリアトンナさんってなんで名前知ってるんだろ。自己紹介とかしてないのに。
「あの、その、レベルアップって大変だって聞きました。それなのに沢山ジョブを取るって……」
うん、ボクもそう思った。強くなるのって時間かかるんだろうなあ。
「そのとおり、レベルアップは大変よ。だからこそジョブチェンジをするの」
んん?
「レベル0を20にするのと20を40にするの、どちらが大変かわかるわよね?」
「は、はい」
ああ、なるほど。そゆことか。
「だからレベル20でジョブチェンジをして、別のジョブにするわけ。しかもその時はスキルがあるし基礎ステータスも伸びるから前より楽になる。それを繰り返すの」
さっきの説明で出てた話だ。
ジョブチェンジしたらレベルアップでもらえた補正ステータスの十分の一が基礎ステータスに足されて、それでスキルは回数ごとそのまま残る、だったかな?
「……でも、そのレベル20にするのが大変なんじゃ」
あれ、ちょっと食い下がってるのかな? 大人しそうな子なのに。
「そうね。なので今まさにレベル20までを、どうやって効率的にできるか模索中なの。それこそベンゲルハウダーの総力を挙げているわ」
「わ、わかりました」
まだちょっと不安そうだけど、シエランって子は座った。
「じゃあ次はお話に出たレベルアップについて。どうやったら効率よくできるか、色々な要素があるから頑張って憶えてね」
◇◇◇
その後もポリアトンナさんの講義は続いた。
レベルアップの仕方ひとつをとっても、敵の種類や適正階層、パーティの構成なんか。もっと言えばどういう立場でやるか、つまりクランや互助会に入ったり、育成施設を使うなんてのもあった。
ちょっと頭から煙出そうだよ。
「さて、今日はここまでにしましょうか。こういう講習会は何回も受けられるから、詳しいことは協会の教導課に問い合わせてね。それじゃ、お疲れさまでした」
「ありがとうございました!」
最後はみんなで立ち上がってポリアトンナさんを見送った。
なんとなくだけど、ここにいるみんなが仲間みたいに感じるよ。
「ねえねえフォンシー。ここで仲間集めるのってどう?」
「それも悪くないな。ん?」
フォンシーも頷いてくれたし誰かに声をかけようとしたら、みんな出て行っちゃった。ああ、そっか。
「最初っから六人パーティだったんだね」
冒険者パーティは最高で六人。これは絶対なんだ。
「みたいだな。だけど、アイツ」
うん。さっきの黒髪の子、たしかシエランさんが一人だけ残ってた。しかもこっち見てるし。
あ、立ち上がってこっち来た。
「……あ、あの、わたしシエランって言います」
「うん。ボクはラルカラッハ」
「フォンシーだ」
ここから彼女がなにを言うのか、想像できちゃった。これは期待で胸が膨らむよ。
「も、もしよければ、わたしとパーティ、組んでもらえませんか」
だよね、うん。
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