第4話 じゃあボクが二人を助けるよ



「へぇ、1層はモンスター出ないんですね」


「おう。出ないわけじゃないんだが、すぐに潰すって感じだ。ここは医者がいるからな」


 カースドーさんを先頭にボクたちは迷宮をいく。

 1層は人の手が入ってて、簡単な病院みたいのがある。スキルは地上じゃ使えない。特にプリーストの回復魔法は怪我を治すことができるんだ。だから第1層がこんなことになってる。

 というわけで勝負は2層からだね。



「さて、ここからが本番だ。心だけでいいから構えとけ」


 階段をつかって2層に降りた。

 石でできた床、壁、天井がアシーラさんの魔法『ファ=ミルト』で照らされてる。アシーラさんってソードマスターなのにウィザードもできるみたいなんだよね。

 迷宮って斜めになったりぐにゃってしてないんだよ。とにかく真っ直ぐ。曲がり角も直角って感じだ。


「きたぜ」


 カースドーさんがぼつりと呟いた。

 たしかになんかいる。四つかな、ちっちゃい緑色のモンスターが二本足でこっちにくる。


「やるかあ」


 ウォムドさんが一歩を踏み出した。とたんボクたちの周りを薄青い膜が包む。これが『バトルフィールド』かあ。とにかく初戦闘のはじまりだ。



「『ダ=リィハ』」


「うわぁ」


 ボクたち三人にとって初めてのモンスター、レッサーゴブリンだったけど、アシーラさんの魔法一発だけで戦いは終わっちゃった。魔法の炎が消えてすぐ、バトルフィールドが消えてく。


 バトルフィールドっていうのはモンスターと戦闘になったときに現れる変な膜だ。これが現れると外から手出しができなくなる。入れるのはパーティを組んだ最大六人。だからこれが冒険者パーティの基本になるんだね。


「へへっ、ざっとこんなもんっすよ」


「アシーラさん、かっこいい!」


「ひひっ」


 アシーラさんを褒めちゃった。笑い方は微妙だけど、強さは正義だよ。


「フォンシー、シエラン、すごかったねえ」


 あれ? いつの間にか二人は後ろに下がってた。ボクたちは後衛だったけど、そのまた後ろだ。

 顔色を悪くして、震えてる?



「こりゃまいったな」


 カースドーさんが頭をボリボリかきながらこっちを見てた。なんかマズいのかな。


「シエラン、フォンシー。怖いか?」


「えっと、……はい」


 シエランが素直に答えた。フォンシーは黙ったまま。

 そっか、怖かったんだ。しかたないよね。ボクなんかは村で色々やってきたから平気だけど、街で育ったらそうもなるかあ。あれ?


「シエランはわかるけど、フォンシーってエルフの里からきたんだよね?」


 エルフの里って山の中じゃなかったっけ。


「む、昔から苦手なんだ。ごめん」


 ごめんってフォンシーらしくないなあ。大丈夫かな。



「その内慣れるさ。そういや二人ともMINが低かったな」


 慰めるみたいにカースドーさんが言ったけど、たしかに。たしかフォンシーが9でシエランが10だったかな。

 ボクは19。これってもしかして凄い?


「MINが高いっつっても、色々だ。気合が入ってるヤツや、のんびりしてるのやら」


 ううっ、たしかにウォムドさんの言うとおりかも。村でものんびり屋さんだって言われてた。

 で、でも、それが迷宮で役に立つならそれでいいじゃないか。そうだ!


「じゃあボクが二人を助けるよ。難しい話じゃ二人に敵わないけど、戦うのはまかせて!」


「……おう」


「ラルカ、ありがとう」


 そうだよ。前衛とか後衛だけじゃない。みんなの得意や不得意を混ぜればいいんだ。助け合うのが冒険者でパーティってやつだよね。


 ところでおじさん三人はなんで笑ってるんだろ。こっちは覚悟決めてるんだけど。


「こういうのは場数だ場数。それとラルカラッハ、デカいこと言うならレベルアップしてからだ」


「はいぃ」


 カースドーさん、そりゃそうだけどさあ。これは決意だよ、決意。



 ◇◇◇



 それから何回か戦闘があった。あったけど、ボクたち三人は後ろで見てるだけ。

 今日は見てるだけでいいって言われてるけど、ちょっと物足りないかな。


「あれ?」


 四回目が終わったすぐ後、銀色の光がボクを包んだ。


「お、きたか」


「カースドーさん、これって」


「おう。レベルアップだ」


 あわててインベントリからステータスカードを取り出した。


 ==================

  JOB:THIEF

  LV :1

  CON:NORMAL


  HP :11+3


  VIT:14+1

  STR:11

  AGI:19+5

  DEX:16

  INT:8+2

  WIS:9

  MIN:19

  LEA:15

 ==================


 ふおぉぉ!


「すごいすごい。AGIが5も上がったよ!」


「うわあ、いいですね」


「やったな。もうメイジの条件満たしてる」


 三人で頷きあった。

 やっぱり迷宮は凄い。レベルアップは凄い。これだけでも冒険者になってよかったって思っちゃうくらいだ。



「きた」


「わたしも」


 次の戦闘で今度はフォンシーとシエランもレベルアップだ。


 ==================

  JOB:PRIEST

  LV :1

  CON:NORMAL


  HP :8+2


  VIT:10

  STR:9+2

  AGI:11

  DEX:12

  INT:17+1

  WIS:12+5

  MIN:9

  LEA:14

 ==================


 フォンシーはWISがすっごく上がった。

 本人はSTRが上がった方が嬉しいみたい。これでソルジャーもいけるんだって。


 ==================

  JOB:FIGHTER

  LV :1

  CON:NORMAL


  HP :10+3


  VIT:12+1

  STR:15+1

  AGI:11+2

  DEX:11+3

  INT:12

  WIS:8

  MIN:10

  LEA:14

 ==================


 シエランはファイターだから前衛パラメーターがまんべんなく上がる。


「がんばって前に出れるようになりたいです」


 どっちかっていうとMINが心配なんだけど。意気込みはいいと思う。

 うん、こうやって強くなってくんだ。まだ一回も戦ってないけど、見るのも経験だっておじさんたちも言ってたしね。


 その日は6層まで行って、ボクはレベル4、シエランとフォンシーはレベル3になった。



 ◇◇◇



「さぁて、乾杯といくっすよ」


 事務所にある食堂でみんながジョッキを持っている。打ち上げってことらしい。なんと、おじさんたちが奢ってくれるんだって。こりゃいつも以上にたくさん食べないと。

 フォンシーはチンピラっぽいって言ってたけど、実は優しい人たちだ。うん、メンターに恵まれた。シエランには感謝だね。


 飲んでるのはおじさんたちとフォンシーがエール、ボクとシエランはブドウジュースだ。お酒飲めるなんてフォンシーは凄い。大人って感じ。


「奢ってやるのは今日だけだからな。明日からは自分たちでキッチリ稼ぐんだ」


 カースドーさんが厳しいこと言うけど、口の周りにエールの泡をくっつけたままだよ。


「いいかあ、お前らは全員前衛だ。けど攻撃魔法は使えないんだ。だから考えろ」


「考える?」


「そうだぜ。三人なんだろ? なら三人でどうしたらいいかを考えるんだ。それがパーティってもんだぞ」


 考えるかあ。ウォムドさんがそう言うなら、ちゃんと話し合わないとね。



 ◇◇◇



 次の日もボクたちは迷宮にいた。ここは2層。

 昨日の内におじさんたちから言われた。ついに直接、敵と戦うんだ。


「『DBW・SOR』。やれっ」


 エンチャンターもできるウォムドさんが敵を弱らせてくれた。ボクたちはHPが低いからバフよりデバフなんだって。

 相手はコボルトパピーが三体。さあ、いよいよ出番だ!


「フォンシー、シエラン、あいつらボクたちより弱い。間違いない」


 景気づけなんかじゃないよ。本当のことだ。


「いくよっ。『忍び足』」


 今のボクが戦闘に使える数少ないスキルだ。気配を薄くして、全力で走りだす。

 右端から回り込んで敵の後ろに出た。できたぞ!


「えい」


 そこから短剣を振り回した。相手に当たればいい。別に倒さなくたっていいんだ。

 モンスターがボクに向き直った。


「いまだよ。やっちゃえ!」



「えいっ! 『斬撃』」


「『強打』ぁ!」


 二人がそれぞれコボルトの背中を攻撃してくれた。スキルを使えばやっつけられるはず。

 怖いはずなのに、それでも打ち合わせ通りボクを信じてくれたんだ!


「どうりゃああ!」


 あわててる最後の一匹に突撃だ。

 体当たりするみたいにして喉に短剣を突き立ててやった。どうだ。


「やったっすね。へへっ」


「へ?」


 アシーラさんがいつもみたいに変な笑い方してる。カースドーさんとウォムドも。

 途端、フォンシーとシエランが銀色に光った。ああレベルアップだ。てことは敵をやっつけ終わったんだよね? いいんだよね?



「あっ!?」


「お」


 さっそくインベントリからステータスカードを取り出した二人がびっくりしてる。


「どしたの?」


「MINが上がってるんだ」


「えー!?」


 見せてもらったら確かにそうだった。1ずつ上がって、フォンシーが10でシエランが11になってた。

 運動したり勉強したりして基礎ステータスを上げるって話もあったから、MINだってそうなんだ。本当にがんばったんだね、二人とも。



「サムライやニンジャになったらMINが上がるぜ」


 ウォムドさんまでMIN話に乗ってきた。でもそれって大分先じゃない?


「そうだ、カラテカのスキルでMINを上げるのもあるっすよ」


 アシーラさんも親切に言ってくれてるんだろうけど、考えることが沢山で頭パンパンだよ。こういうのはフォンシーに任せよう。そうしよう。


「ほらほら。それより今は三人の初勝利だ。よくやったな、お前ら」


 ニカッと笑うカースドーさんを見て実感がわいてきた。


「やったな」


「やりました」


「うんっ」


 軽く三人で抱き合っちゃったよ。



 こういうのっていいよね。みんなでモンスターをやっつけて、お金を稼いで、ジョブとかで盛り上がる。うん。冒険者だーって気がするよ。


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