第21話 有名

「聞こえなかったか? 待てと言っているんだ。」


「なんですか? 今忙しいの見てわかりません?」


 少し苛立ちを含みながら答え、振り返る。見知らぬ人が俺に剣や槍、杖などを向けて構えていた。


「先ほどのことで少し話がある。ついてきてもらおう。」


「うるせぇっつってんだ。」


 ついてこいだ? うるせぇ、おめえらには冒険者の命がどうなってもいいっていいてえのか?

 俺は雷へと自身の体を変えてその場を離脱する。念力魔法のおかげで抱えていなくても安全移動である。


「すいません、この人たちの治療をお願いしてもいいですか?」


「わかりました! そこのベッドに寝かせておいてください!」


 街にある治療所へと運び込む。これで一安心だろう。あとはここを教えてあげればオッケーかな。


「ここに運び込んだので大丈夫ですよ。あなたもしっかり休んでから行ってあげてください。」


 すぐにあの場へと戻り伝えた。その男の人はポロポロと涙を流していた。


「うっ……うぐっ……あぁ……」


「戻って来たぞ! 捕らえろ!」


「うるせえっつったよな、俺。場所変えるぞてめえら。」


 付与魔法やらでAGIを上げて俺を捕らえようとしてくるやつらを全員引きずり人気ひとけのない場所まで連れていく。さあ、邪魔をしてくれたお礼はどの程度必要かな?


「く、くそうっ! 全員で捕らえるぞ! かかれー!!」


「指揮が粗末だな。流石に人殺しにはなりたくない。捕まえるくらいで許してやるよ。『植物創造プラントクリエイト』『茨の輪』」


 植物魔法で薔薇の蔦を創り出して手にかける。ほら、茨の手錠の完成だ。


「な、なんだこれ! おい! これ解けよ!!」


「あぎゃああ!! 痛いいいい!!!」


「ちょっと! なにしたのよ!!」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」


 三者三様の反応をしてくれるな。最後のやつ以外は茨の締め付けを強くしてやる。今この状態で反論出来るなんてすばらしい精神をお持ちのようで。


「うぎゃああ!!」


「あぎゃああ!!!」


「きゃああ!!!!!」


「で? 一応話だけは聞いてやるよ。―なんで俺を捕まえに来た?」


 俺は【威圧】を使いながら問いかける。【威圧】のおかげかこいつら全員ブルブルしてるし、顔が真っ青。今ならなんでも言うこと聞いてくれそう。


「は、はい! 魔物増殖スタンピードがあったって聞いて駆け付けたところ謎の魔物が戦っているのを目撃し、その魔物を貴方が指揮してたので……あとは舐められないようにあんな感じで……」


 お、結構受け答えきっちりしてる。恐怖に耐性でもあるんだろうか? と今はそんなことはいいんです。……なるほどなぁ、あいつら怖いしな。確かにわからなくはない。そんで冒険者は舐められたら負けみたいなのもわかる。うん、特に害はなさげかな。


「よし、わかった。けどな、お前らも冒険者なら同じ冒険者の命ぐらい考えとけ。助けてもらえなくなるぞ?」


「わ、わかりました!」


 俺はこれから冒険者協会まで行かないとだし、ここらでおさらばかな。


「ちょ、ちょっと! これどうにかしなさいよ!」


 ん? ああ、『茨の輪』か。ほいっとな。


「すまないな、協会行かなきゃだから。」


 俺はすぐに協会まで戻り始めた。


「お疲れ様ですジェイドさん! 冒険者の救出まで……ありがとうございました!」


「いえいえ……それでこいつなんですけど……」


「こいつって……ってこの人! 指名手配犯のゲイルじゃないですか!」


 え? 悪いほうに有名なの? こいつなにしてんだ……


「どこで捕まえたんですか!?」


「こいつが魔物増殖スタンピードを起こしてたんですよ。そしてなんか変な研究をしてたんでぶっ壊してきました。」


「なるほど……ゲイルは浄世教の幹部だったはずです。その研究でしょう。あとで懸賞金を振り込んでおきますね。」


「よかったです。あ、魔物の素材そのまま置いてきたな……どうしようか。」


「あ、それは後で我々が回収に行きますよ。手数料はすこーしいただきますが買い取り金額はジェイドさんのものになるはずですよ。」


「あー……そうですか。なら俺が助けたパーティに5割あげてください。」


「え? いいんですか?」


「はい。こいつ捕まえられたのはあのパーティを助けるために入ったからなので。」


 実際そうだろう。そんなことがなければただただ魔法で殲滅して終わりだったから。流石に俺もお金をためてる身としては全部はちょっと……おいそこ! ケチって言うんじゃねぇ! こちとら高校生ぞ? 最近お金めっちゃ稼いで金銭感覚バグって来てるんだから! 庶民的感覚を忘れちゃダメなの!


「わかりました。ではご協力ありがとうございました。魔物増殖スタンピードを解決した報酬もあとで振り込んでおきますね。」


「ありがとうございます。それでは。」


 俺は協会を後にしようと協会の5階にある応接室のような場所から出ていく。そして扉へ向かおうとするとなにやら話し声が聞こえてきた。


「おい、あれが新しいSランクだとよ。」


「おいおいマジか。俺らよりだいぶ年下じゃねーか?」


「ああ、最年少らしいぞ。そんでだいぶ久しぶりのSランクスタートだとか。」


「ひゃー、才能ってのはすげぇねぇ。俺も才能が欲しかったぜ。」


 ん?


「あれが《死霊術士》……不興を買ったやつは殺されてアンデットにされるらしいぞ。」


「えー! そうなの!? 顔は結構好みなんだけどなー。」


「なっ! ぐるるるる……」


 ほえ?


「きゃー! ジェイド様よ!」


魔物増殖スタンピードを一人で終わらせたんですって!」


「強くてかっこよくてお金持ち! はぁ、結婚できないかな……」


「あんたみたいなのが出来るわけないじゃない!」


「あんたこそ無理よ!」


「「キィー!!!」」


 ひえっ……色々恐ろしい話が聞こえてきたけど……い、いや、気にしちゃだめだな。帰ろう。


♢♢♢♢♢♢


「ただいまー。」


「「おかえりー!!」」


「あ、お帰り~。」


 シーナとグリムは元気いっぱいに向かえてくれる。アスタは……え? 俺たち夫婦かなんか? ま、まあいいや。時間は……だいたい昼の2時くらいか? 結構色々あったからな。昼前には帰るつもりだったんだが。


「お父さん知ってる!? 新しいSランクの冒険者が出たんだって! 俺も冒険者になりたい!!」


 そうだな、知ってるもなにもそれ俺だからな。それにしても冒険者か、魔法でも教えるのはありなんじゃなかろうか? 覚えたら護身用にもなるし、扱いに関してはアスタがいるから危なくはならんだろ。


「ねぇ……それスイでしょ? 聞いたけどなんで名前変えてるの?」


「ああ、いや別に……これこれこういう理由だからな。念のためってやつさ、念のため。」


「あぁ……それは確かにだね。そっちのほうが絶対いいよ。ね? 《死霊術士》ジェイドさん?」


 あっちょ、それここでいうの!?


「えー! お父さんが《死霊術士》なの!? すげー! かっけー!!」


「そうなの!? お父さんすごい!!」


「あは、あははは……完全にアスタに教えてもらった魔法のおかげだけど(ボソッ」


 でもシーナとグリムの笑顔が見れるなら! お父さん頑張っちゃうぞ!

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