第9話 勇者一行

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勇者Side……(九十九 勇翔Side)


「では、みなさんには今日から我が国の兵士との訓練に臨んでもらいます。その後、レベルを上げて魔王軍との戦いに挑むのです。」


 筆頭神官であるベサルンさんはそう告げた。俺たち19それぞれに一人づつの手練れの兵士がついて俺たちに剣や魔法、戦闘の仕方などを教えてくれるらしい。一刻も早く強くならなければいけない以上、今すぐにでもレベルを上げに行った方がいいのではないかとも思うが、技術が身につかないままレベルを上げてステータスだけが上がっても簡単にやられてしまうのだという。確かにそうだなとも思ったので俺たちはベサルンさんに従った。


「違う、剣の振りが雑になってるぞ。何事も基礎が大事だからな、素振りもう十本!」


 俺についたのは王国騎士団の騎士団長だった。俺が勇者だからというのもあるのだろう。この騎士団長は基礎トレーニングばかりを命じてくるが、俺は特に嫌だとは思っていない。この騎士団長に習った騎士が多いから周りも俺と似たようなトレーニングを課せられているみたいだが、みんな悪態ばかりついている。俺たちは剣なんて持ったことがないのだからこういうことから始めるのは当然だろうと思う。俺が頑張って取り組んでいるのを見て周りのやつらも熱心に取り組み始めた。もっともっと強くなって魔王軍を倒すんだ!


………………


…………


……


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スキル:【勇者I】

効果:扱う全ての武器に補正が入る。魔王と戦うときステータス大幅アップ。光魔法が使用可能。

   共に戦う味方の士気とステータスアップ。精霊に愛されやすくなる。レベルが上がりやすくなる。


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 これが俺のスキル、【勇者】だ。色んな効果が盛られているが、やはり最初の扱う全ての武器に補正が入るってやつが今は一番ありがたい。訓練を始めて2週間が経った今、基礎トレーニングは少しとなり、騎士たちとの模擬戦が増えてきた。それと同時に俺は魔法の練習もこなしている。たまたま適正のあった四大属性のうちの一つ、火魔法に加え、【勇者】によって使えるようになった光魔法を使えるようになるためだ。魔法において今一番一番俺たちの中で上達が早いのはスキル【賢者】を持つ秋本あきもと なぎだ。なんでも、四大属性全ての魔法に関する適正があるらしい。ここで魔法について説明をしておこう。


 魔法の中で一番強いのは四大属性と呼ばれ、火・水・風・土魔法だという。他にもあるにはあるが、消費MPが多くめったに使えないんだとか。俺たちの中にも使える奴はいるが、四大属性に少しでも適性があればそちらの練習を進めていた。俺の光魔法は魔王特効の魔法で、練習しておいて間違いないんだという。もっともっと強くならねば……


………………


…………


……


 今日は訓練が始まって1ヶ月が経ったころ。俺たちはレベル上げを開始した。近くに拠点を構えているゴブリンたちの殲滅に来ている。こんな感じの魔物を倒してレベルを上げた後はダンジョンと呼ばれる地下迷宮に潜ってレベルを上げるんだと言われた。


「みんな!行くぞー!!」


 俺の掛け声で近距離タイプの味方が一斉に突撃する。後ろからは魔法使いたちの魔法攻撃とダメージを食らった味方に対する回復魔法が飛んでいく。回復魔法は俺の光魔法みたいなスキルによって使用可能となるスキルで、神官たちはスキルの【神官】によってこのスキルを持っているんだと言っていた。


「《我が体に宿る魔力よ、火となれ、矢となれ、敵を穿て!》『ファイアアロー』!!!」


 俺は火魔法の詠唱をしてゴブリンに向かって『ファイアアロー』を放つ。『ファイアアロー』を飛ばしてゴブリンを攻撃したが、大ダメージとはなっていない。なら剣で攻撃するまで!


「ハアアアアア!!」


 騎士団から与えられた剣でゴブリンを攻撃すると、スパッとゴブリンは真っ二つになった。え、剣の方が普通に強いじゃん。いや、ステータスにINTがあるからそれの差ってやつか。ダメだダメだ。もっともっと強くならなければ……


………………


…………


……


「ククククク……そろそろ効いてくる頃、ですかねぇ……代々勇者は殺し合いの経験がなく精神が弱いと聞きますからねぇ……それをワタシも実際に見ましたし、ワタシが全て上手く利用して差し上げましょう……ククククク……」


………………


…………


……


「では、行って参ります。ベサルン様。」


「よろしく頼みましたよ。騎士団長ルイスよ。そして勇者、勇翔。」


「ハイ、ワカリマシタ。ベサルンサマ。コノオレタチガカナラズマオウヲタオシマス。」


 勇者一行の目からは光が消え、口調も完全に片言となっていた。しかし、その洗脳が効いていない者がただ一人……そう、【聖女】のスキルを持つ水谷みずたに ひじりだ。


「一体どうしたらいいの……?助けてよ、翠ィ……」


 助けを求める声は果たして翠に届いたのだろうか。聖は自分が洗脳されていないことを悟られないよう、ゆっくりと勇者一行についていったのだった。

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