第2話 遭遇

 来る日も来る日も……というには短い時間。大体時間に直すなら3時間に満たないくらい、俺はひたすらに壁を壊し続けた。あの竜から逃げるために。


『レベルが上がりました。ステータスが上昇しました。肉体の損傷を確認、損傷を回復します。』

『今までの行動を参照……スキルを獲得します。スキル【対物強化I】を取得。』


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スキル:【対物強化I】

効果:無機物に対するダメージが上がる。無機物を投げられたときは受けるダメージが下がる。


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 レベルがまた上がり、新たなスキルも手に入れた。【対物強化】というそうだ。体がまた治った俺はまた壁の破壊に取り掛かった。新しいスキルのおかげで壁の破壊が楽に進んだ。


♢♢♢♢♢♢


 あれから10分ほどしたあとも俺は壁を壊し続けていた。すると、突如として壁は無くなり、その先には小さな小屋が一軒建っていた。そして、そこには150㎝くらいの、角を生やした少年がいた。


「はぁ!?なんでこんなとこに人間が……ってかなんだよその登場の仕方!壁壊すって何!?普通に考えておかしいでしょ!?」


 少年はたいそう驚いているようだった。そりゃそうだなと、俺も思う。俺だって見知らぬ人間が壁壊して入ってきたら似たような反応するもん、と。いや、それよりも大事なことがある。


「ねえ君!俺の後ろにいる竜!どうにかできないか!?」


 あの竜をどうにかできないか聞いてみることだ。少なくともこんな魔境に住んでるのであればなにかしら自衛の手段があるはずだ。俺はそれにすがるしかない。


「あ、そいつならもう倒したよ。」


「…………え?」


 振り返るとそこには俺が追われていた竜が血を流して横たわっていた。

 ……え?あの一瞬の間に!?あの少年も俺に対して驚いていたはずなのに!?どうやったんだ!?


「そんなことよりも君だよ!質問いいかな?いいよね?えっと、じゃあまず君は人間?だとしたらなんでこんなところにいるの?なんで壁を壊して入ってきたの?というかなんでここに入れたの?ボクが怖くないの?あと、他には……」


「いや、ちょ、ちょっと待って!ゆっくり!ゆっくりお願いします!」


「ゆ、ゆっくり?わかったよ。最初からいこうか。君は人間?」「うん。俺は人間だよ。」


「そうか。ならなんでこんなとこにいるの?」「えっと、かくかくしかじかで……」「かくかくしかじかじゃわかんないけど?」「あはは……それはご愛嬌ってことで……」


「なんで壁を壊して入ってきたの?」「あの竜から逃げるにはそれしかなかったから?」


「なんで君が疑問形なのさ。まあいいよ。なんでここに入れたの?」「?? ……特に普通にというかなにもなかったけど……」


「へぇー!じゃあ次の質問で最後にしよっか。―ボクが怖くないの?」「当たり前だろ?命の恩人だしそうじゃなくても怖がる要素なんてあるか?」


 俺は少年がする質問に答えた。特に最後の質問に関しては自信をもって答えた。すると少年は笑い出した。


「アハハハハ!!そうか、ボクが怖くないか!ハハハハ!!!」


 なんで笑ってるかわからない俺はひたすら戸惑い続ける。


「いやぁ~ごめんごめん。ボクを怖がらない人って珍しいってか見たことなかったからさ。さてと、改めて自己紹介をしようか。ボクの名前はアスタロト、悪魔だ。気軽にアスタって呼んでよ。」


 あ、悪魔ぁ~?ああ!この角は悪魔の角なのか!うぉぉ!!かっけぇ!え、魔法とか使えんのかな。見せて欲しんだけど!ええー、でも初対面だしいきなり頼むのも悪いのかな?いや、でも見たいしな~!


「ね、ねぇ君。ボクは悪魔だよ?怖くないの?」


「え?そうして?かっこいいじゃん!……あのさ、いきなりで悪いんだけどさ。魔法とか使えたら見せてもらえないかな~って……ダメ?」


「ククククク!わかった、見せてあげるよ。《我が体に宿る魔力よ、炎の矢となりて敵を穿て!》『ファイアアロー』!」


 アスタが手をかざすと、かざした手の前に炎の矢が現れる。アスタが、ファイアアローと言うと、炎の矢は目の前にあった木に向かって飛んで行き、木を破壊して消えた。


「うおぉぉぉぉぉ!!!すげぇー!!!アレが魔法!?詠唱!?使ってみてぇー!!!」


♢♢♢♢♢♢

アスタSide


 ボクは目の前の人間の男の子が望んだから魔法を見せた。普通なら一日に限りのある魔力を使ってまで撃つなんてことはしなかっただろう。この子がボクを怖がらなかったから、というのはあるかもしれないな。何せ、あの壁を壊してボクの結界の中に入ってきた子だ。これから面白くなるぞ!……そうだ!


「君の名前は?聞いてなかったでしょ。」


「そうだな、俺の名前は夜桜 翠。翠って呼んでくれ!」


「スイ、スイか……変な名前だけどいいね!ボクは気に入ったよ!」


 ヨザクラ スイ。この辺の名前じゃないのかもだね。ボクがはそんな名前は聞かなかった。まああれから100年は余裕で経ってるはずだし仕方ないか。


「これからよろしくね!スイ!」



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