第1話 召喚

 ここ……は?確か俺たちはさっきまで学校にいたはずじゃ……

 まさかこれって……


「無事に成功してよかったですな。―おっと、申し訳ありません。勇者の皆様。私はこの国、マレニア王国の筆頭神官をしております、ベサルンと申します。いきなりお呼びして困惑していることかと思いますがまずは現状を説明させてください。」


 俺たちもいきなり情報をぶっこんで来られて頭がパンクしてる状態だが説明されたことを要約すると今この国は魔王軍に攻め込まれているらしい。そして一か八かで伝説とされてきた勇者召喚を行ったというわけらしい。そして召喚されたのが俺たちのクラス20名というわけだ。


「それではみなさん、『ステータスオープン』と、そう唱えてください。」


 定番の言葉に歓喜する俺たち。早速唱えてみる。


「『ステータスオープン』!」


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名前:夜桜よざくら すい レベル:1

スキル:なし

HP:100/100 MP:100/100

STR:10 VIT:10 AGI:10

INT:10 MIN:10 DEX:10

称号:【異世界からの来訪者】


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 これはどのくらいの水準なんだ?


「ステータスはHP、MPともに100、そのほかは10が平民の平均となっています。しかし、異世界から来た皆様なら多少ステータスが低くともスキルがありますから心配なさらないでください。」


 え……?俺のステータスは全部平均だって……?それにスキルだってない……い、一体これでどうしろっていうんだ……?


 俺が絶望している間に一人の生徒の周りから歓声が上がった。


「おお!このスキルに称号!そして圧倒的なステータス!あなた様が今代の勇者様でありましたか!何卒、この国をよろしく頼みますぞ!」


 そういわれていたのはクラスの人気者、九十九つくも 勇翔ゆうとだ。そして次々にクラスメイトの持つスキルが明かされていく。


聖は【聖女】というスキルを獲得し、杏子は【剣姫】、瑠衣は【闘神】というスキルを獲得した。名前から凄さが伝わってくるようなものや【魔法使い】、【結界術士】など。所謂ファンタジーの世界やゲームの世界のようなスキルが続々と出てきた。そしてついにベサルンさんが俺のところへとやって来た。


「あなたのスキルは何ですか?」


 俺にとって、地獄のような言葉を告げに。しかしクラスメイトの視線やベサルンさんを含めた現地の人の圧に耐えられるはずもなく俺はついに言った。


「ありませんでした……」


「え?……今なんとおっしゃいました?」


「だから……スキルが、ありませんでした……!」


 この言葉を聞いた全員の表情がガラッと変わったのに俺は気づいた。それはまるで汚らわしいものを見るような表情へと。


「はぁ……勇者召喚を行うにあたり数回に一回こういうことが起こるんですが……仕方ありませんね。」


 そういうとパチンと指を鳴らした。すると、どこからか飛び出してきた屈強な大人が俺を連れ去っていった。そして次の瞬間、クラスメイトから俺の記憶は消え去っていた。とある一人を除いて……


♢♢♢♢♢♢


「はぁ、まあノースキルなのがあなただけでよかったです。処分する人が少ないことに越したことはありませんから。しかしあなたを殺すことはできないんですよねぇ。この召喚の都合上をしてしまうと勇者全員のスキルが意味をなさなくなってしまう。今回の召喚ではスキルの質が全体的に高いですから台無しにしたくはないんですよねぇ。なので、あなたはこれから死の森に捨てられることになります。いいですか?と言っても拒否権はありませんがね。」


 この目の前のやつは何を言ってるんだ?俺が捨てられる?死の森というところに?処分だと?いったいどういうことなんだ……


「おや、まだ理解が追い付いていないようですね。あなたは用済みなんですよ。スキルのない勇者に価値などない。一人当たりの貰える経験値が減ってしまいますし、なにより足手纏いだ。軽く見渡したら聖女はあなたに惚れていそうでしたから。まあこれ以上喋るのはやめておきましょうか。公爵一派に聞かれると困りますからね。お前たち、こいつを死の森に置いて来い。ただしお前らが殺すなよ?行け。」


 俺を連れ去った男たちが俺を担いで猛スピードでどこかへ向かっている。やっと俺の頭が冷静になってきた。俺にはスキルがなかった。だから捨てられるのだろう。殺さないのはそれにデメリットがあるから……なるほどなぁ。俺自身まだ実感がないのか特に何も思わない。思うとすれば弟たちはどうしてるかなぁってことぐらいだ。


 と、そうこうするうちに動きが止まった。俺は袋に入れて運ばれていたから外の様子は何もわからない。そして袋から溜まったゴミをゴミ箱に入れるみたいに捨てられる。捨てたのを確認した男たちは影に潜って帰った。


 ああ、俺は死ぬのか。


 目の前の森からは勇翔やあの男以上に力を感じる。これが死の森……か。俺の持ち物は制服にハンカチ、ティッシュ。これだけは常に持っておけと親から言われた二点だ。……これでどうしろと?諦めてる俺と諦めてない俺がいる。普通に考えたらここで生き残るのは無理だろうな。だが、クラスのみんなは?あの神官は?魔王軍は?さっきよりもさらに冷静になった今だからこそ思う。


 ……まだやるべきことがいっぱいあるだろ、と。


 あの神官には一発食らわせてやりたいしクラスのみんなの中には友達だっている。神官がクズだったからって国民がクズだとは限らない。……っは。俺ってお人好しなのかな。まあいい。取り敢えず今は目の前のこの巨大な竜から逃げる方法を考えないとだ。


♢♢♢♢♢♢


 そこから一分後、俺は追ってくる竜から全力を持って逃げ続けていた。すると、疲れているはずなのにだんだんと速度が上がってきているのを感じた。高校では陸上部の短距離走をやっていた俺だがこんな加速は経験したことがない。しかも俺にはこれだけを走る体力もなかったはずだ。だから短距離をやっていたのだから。そこで一つの仮説を立てた俺は巨体を持つ竜が通れないであろう大きさの洞穴に逃げ込んだ。この仮説が合ってないのなら死んでしまう。一縷の望みにかけて俺は叫んだ。


「『ステータスオープン』!」


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名前:夜桜よざくら すい レベル:1

スキル:なし

HP:100/100 MP:110/110

STR:27 VIT:23 AGI:42

INT:10 MIN:10 DEX:10

称号:【異世界からの来訪者】


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「おお!やっぱりだ!」


 ―そう、俺の仮説とは今、この時間にもステータスが上昇しているのではないか?という仮説だ。地球にいたときには出せなかった速度、持久力、以前はなかったステータス。そして俺を追う竜。これから導き出される答えは俺は敵と会敵しているとステータスが上昇する、ということだ。だが、今の上がったステータスでもあの竜に勝てるとは思わない。けどステータスを見る限りだとこの距離……半径15メートルくらいなら効果範囲になるみたいだ。現に今もステータスが上がり続けてる。だから俺がすることは……


 壁を壊して逃げ続ける!この竜はブレスとか使えないみたいだしあいつがここを破壊して俺に追い付く前に俺は逃げ切る!それしかないんだ!うおぉぉぉぉ!!!


♢♢♢♢♢♢


 ああぁぁ!!くっそ!そろそろ腕がボロボロだぁ!これじゃ追い付かれちまう……!なにか、なにかないのか!


『レベルが上がりました。ステータスが上昇しました。肉体の損傷を確認、損傷を回復します。』


 そんな無機質な声が脳内に響いた後、俺の体は光に包まれ、ボロボロだった腕は一瞬にして元通りとなった。


『今までの行動を参照……スキルを獲得します。スキル【肉体回復I】を取得。』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


スキル:【肉体回復I】

効果:体の損傷を徐々に回復する。病を治すことはできない。


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 お、おお?スキルを取得したのか?ま、まあいい。とりあえず逃げるぞー!!!

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