第11話
*
夜の森を抜け、静寂に満ちた草原を突っ切り、また鬱蒼と繁った森に入ったところで、今日は野営をすることとなった。
特殊な魔術が施されているらしい簡易テントを、ゼトムの指示通りに組み立てていく。ちなみに、このテントは周囲の環境に応じて外側の色が変化するらしく、王国軍でも使われているんだとか。「なんでそんなもの持ってるの?」とあたしが聞いたら、「いろいろと便利だからな」とはぐらかされた。
そんなこんなで野営準備を終える頃には、夜の陽はすっかりと落ちてしまい、辺りには闇が満ち満ちていた。
「それで、お前らはこれからどうするつもりなんだ?」
テントの天井から吊るされたランタンの灯りの下、ゼトムは短剣の手入れをしつつ訊いてきた。
「それは……」
現在直面している最大級の問題を突かれ、言葉に詰まる。あたしと同じくランタンを囲むようにして座っているマナは、顔を伏せていた。
正直、どうすればいいのかわからなかった。
一度孤児院にこっそり戻ってみることも考えていたが、出立前にゼトムに止められた。あたしが眠っていた二日の間に、採録での一部始終が国内に知れ渡っており、似顔絵付きの記事やらビラやらであたしたちは捜索されているらしい。当然、孤児院にいた子どもだということも突き止められており、ゼトムが偵察に行った時は、何人もの騎士たちが見張りをしていてかなり物々しい雰囲気だったとのことだ。
しかも、追跡のため諜報部隊や捜索部隊、暗殺部隊までが出動していて、今回の夜逃げもそれらの動きを加味しての行動だったらしい。
八方塞がりだった。勇者紋や魔王紋を持っているとはいえ、まだ十二歳の子どもだ。力もなく、知識もなければ、大人を頼らなければ生きていけない。そんな現実ゆえに、前世でもあたしたちは非道な親戚の下で苦痛に耐えなければならなかった。
涙がこぼれそうで、あたしは顔を膝の中へと埋めた。
理不尽だと思った。どうして世界は、あたしたちばかりに厳しいんだろう。
「……少し、訊き方を変えよう。ユナに、マナ。お前たちは、これからどうしたいんだ?」
しばらく黙って作業を進めていたゼトムは、再び口を開いた。さっきの質問には答えられなかったけれど、この質問にはすぐに答えが浮かんだ。
「マナと一緒に生きていきたい!」
「ユナとずっと一緒にいたい!」
ほとんど同時に顔を上げ、あたしたちは答えた。ランタンの仄かな光が、風か何かで小さく揺れた。
「……お前たちの運命紋の相性は最悪だぞ?」
「運命紋なんか関係ない。マナは双子の妹で、あたしとってかけがえのない大切な存在だから」
「私も……ユナがいてくれたら、魔王紋なんかに負ける気がしない。絶対に乗り越えてみせる」
あたしは少し前屈みになり、マナは胸の前でグッと手を握っていた。気持ちを一度口にしたことで、さらにその想いは強くなっていく。
「…………そうか」
一方のゼトムは、作業の手を止めることなく、ただそれだけを言った。声の調子は相変わらず平坦で、何を思っているのかはわからない。けれど、ゼトムの問いのおかげで、次に言うべき言葉があたしの中に浮かんだ。
「ユナ」
そこで、マナがあたしの方を見た。赤い瞳の奥には強い意志がこもっていて、きっとマナも同じことを考えているのだと思った。だからあたしは小さく頷き、姿勢を正した。
「「ゼトム」」
あたしたちは、同時に口を開いた。
「なんだ?」
そこで初めてゼトムが手を止め、顔を上げた。あたしはスッと息を吸うと、頭を下げた。
「お願い。あたしとマナを、助けてほしい――」
「お願い。私とユナを、助けてほしい――」
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