第10話 魔法少女の原点
「あー、もう。何で勝てないんだか」
頭を掻きながら独り言ちる。
とぼとぼと歩く彼の後ろでは、空が真っ赤に染まり切っていた。
あれからしばらく、ツネキチ老人と将棋に興じていたが、その結末はアカリの全敗、見事なまでのぼろ負けであった。
何分、娯楽の少ないこの時代の事である。アカリも将棋や囲碁といった遊びには些か腕に覚えがあるつもりだったが、その自負も自信も今日までの事。最早苦笑いを浮かべる他にない。
さすが、老いたとはいえ、かつて政治に関わり辣腕を振るっていただけの事はあると、素直にそう思った。
「やっぱ、頭使うのは向いてないんだな、おれ」
自分の後頭部を軽く叩いて、ため息を一つ。
こんな所まで師匠に似なくてもよかったのに、と心の中で続けた。
またしても独り言だった。旅が長くなれば、一人の時間が増える。そうすると孤独を紛らわすために独り言が増えるのも必然だ。
元々が、人と関わる事が好きな性分ならばなおさらの事。
おかげで久しぶりに楽しく会話が出来そうな人間に出会うと、つい饒舌になってしまう。
悪い癖だと、自分でもそう思う。
だが、治らないからこそ悪い癖なのだ。
「そういや、癖に関しちゃ、色々言われたっけか……」
空を見上げる。
どうにも夕焼けの茜色は人を感傷的な気分にさせるらしい。
老人との会話もあって、昔の事を嫌でも思い出してしまい、気づけばマントの下で、腰に下げた得物にそっと手をやっていた。
時代遅れの旧式拳銃。実用性なんて皆無としか思えない、出来の悪い装飾品じみたゲテモノ武器。
だが、この重さと見てくれはお守りとしては十分。こんなもの向けられて、ついでに威嚇に一発ぶっ放されて平然としていられるような奴はまずいない。いざとなれば鈍器として振るっても十分以上の威力がある。
それに、容れ物としても十二分に役目を果たしてくれている。
旅の相棒には持ってこいだ。
「んあ?」
前方、青い薄闇の中に何かが見えた。
目を凝らせば、道の先にある十字路に立つそれは人の形をしている事が分かる。
とはいえ、それにしたってぼんやりとである。顔かたち、容姿までは判然としない。
誰ぞ彼。転じて、黄昏れ。あるいは逢魔が時とも称される。
今この時こそ、人の時間の終わりと、人ならざるモノの時間が始まりが重なる中間にして曖昧な時間であった。
思わず腰の武器に手をやって、しかし彼は立ち止まることなく、ゆっくり、ゆっくりと足を進めていく。
彼の中で生じていた緊張の糸が緩むのは、間もなくの事であった。
「その……こんばんは」
「あー……や、こりゃどうも」
十字路にたたずんでいたのはメグだった。
カバンを両手で持って憮然とした様子で立ちつくす彼女は、アカリを視界にいれるなり、おずおずと挨拶をしてきた。
彼女から毎回向けられるとげとげしい敵意が感じとれれない事をいぶかしみ、戸惑いながらもアカリも挨拶を返し、
「こんなところでどうしたんですか? おれに、何か用でも?」
「うん、まぁ……」
メグが珍しく曖昧に頷き、アカリが不思議そうに小首を傾げる。
会話はそれっきり。二人とも黙り込んでしまう。
「えーと」
「あの、」
沈黙に耐え切れなくなるのも二人同時。
お互いに、何か会話のきっかけになる事を口にしようとして、けれど余りの間の悪さに再び口をつぐんでしまう。
「いや、そっちからどうぞ」
「ううん、あなたこそ」
挙句は会話の先制権を譲り合い、押し付け合う始末。
どちらの話も全く先に進まない。
どうしたものかと途方に暮れるアカリだったが、ふと、彼女の様子を見やり、思わず僅かに眉をしかめた。
昼間はまだ温かかったからだろうか、薄手のままの彼女は寒そうだった。
まだ冬本番には程遠いが、秋も終わりとなる今日日、日が遠ざかるにつれ、瞬く間に気温は下がる。いつからここに立っていたのか、彼女の体は冷え切っているらしい。本人は堪えているつもりのようだが、微かな震えが見て取れた。
アカリは所在無さげに帽子を目深にかぶり直し、
「その、立ち話もあれだし、おれの……借りてる家に来ません? もてなしは出来ませんが」
「……ううん」
眉間に皺を浮かべて小さく首を振る彼女。どこかバツが悪そうに見えるのは夕闇の所為だけではなさそうだった。
「私の、うち。来て」
「は?」
口を開いて固まる少年の姿は阿呆そのものだった。
「どうぞ」
アカリが間借りする家から五分とかからない場所にメグの家はあった。
二階建ての一軒家、少女が一人で暮らすには幾分広すぎるように見える。
玄関を開け、先導するメグは下駄箱の上にカバンを置くと、そのまま暗い家の中を進む。
ただいま、と。小さくメグは挨拶を口にするが、当然静まり返った部屋の中から返事は返って来ない。
黙ったまま廊下を進み、メグに通されたキッチンで、席につく。
そのまま失礼にならないようにそっと周囲を伺って観察していると、間もなく食卓の上に湯気の立つ湯飲みがおかれた。
「粗茶、だけど」
「いいえ、ありがとうございます」
出された茶を一口飲んで、アカリは些か大げさなくらいにため息をついた。彼自身、気づいていなかったが体が冷えて熱を求めていたらしい。
それはメグも同じだった。
余程体が冷えていたのだろうか、自分に淹れた茶を一口飲んで心地よさそうに息を吐く。彼女の口元には心なし微笑みが浮かんでいるように見えた。
しかしそれも一瞬の事、彼女はすぐに眉根にうっすらと皺を寄せ、アカリの顔をじっと見つめる。何か、言いたい事があって、でもどう切り出せば良いのか分からない。そんな雰囲気だった。
「その、」
「昨日は、すみませんでした」
おずおずと、メグが何かを言い出す前にアカリが先に頭を下げた。
「え?」
「その、そちらの事情も考えずに適当な事言っちゃって」
正直な話をするのであれば、何が良くなかったのか、アカリには分からない。
何が原因で彼女があんな行為に打って出たのかは、恐らく彼女本人か、あるいは付き合いの長い他の魔法少女達くらいしか分からないだろう。
それでも唯一彼にも分かったのは、彼の不用意な一言が、彼女の触れてはならない場所に触れてしまった事だ。
魔法少女も魔法戦士も、人間である限り悩み、苦しみ、過去に囚われる。ならば他人が容易く踏み込んではならない場所もある。それがその場所が人の心の、核ともいえる所に近ければ近い程、深ければ深い程に、知らない人間が触れてしまった際の衝突は避けられないものとなるのだ。
今回はたまたま、メグのそれをアカリが踏み抜いた。だが、その逆だってあり得た話なのだ。
「え? いや、あの……昨日は私こそ、その、」
アカリの急な謝罪に驚いたのか、しどろもどろになりながらもメグが続ける。
もっとも、最後の方は尻すぼみで、良く耳を澄まさなければ聞き取れないような声。
自分が謝ろうと心を決めてきたところを、逆にアカリに謝られてしまった事で、予定が完全に狂ってしまったのだ。それに加え、彼女にしてみれば、アカリにつられて頭を下げるようで、居心地の悪さもあった。
「どうにもおれは、頭が良くなくて……」
メグの心の動きを気にせず、少年はがしがしと、頭を掻いて視線を彷徨わせ、
「どうにか上手く立ち回ろうとするんですが、難しい。いつもいつも、ロクな事にならない」
「あんた、」
メグが何か言おうとして、口をつぐむ。
見て、気づいてしまったのだ。
虚空を彷徨うアカリの目に宿る、深い闇に。
歳こそ然程離れていないと言うのに、一体どれほどの物を見れば、一体どれだけの命の終わりを焼き付ければ、こんな風になるのか。
魔法少女として、第一線で戦ってきたつもりのメグからしても、この魔法戦士の少年が抱える物は計り知れなかった。
「私の方こそ、ごめんなさい」
けれど、彼女はすぐに心を決め直して謝罪を口にした。
真っすぐに、魔法戦士の少年の目を見つめて逸らさない。
少年のよく磨かれた黒曜石のような瞳は丸く開かれて、鏡のようにメグの姿を写していた。
「あんたにも、何か事情がある。そんなのは分かりきった事なのに。昨日はあんな事を……」
「あれは、強烈でした」
アカリが苦笑する。
普段通りの冗談めかした様子だが、今なら分かる。それは明らかな演技だ。
「まぁまぁ、そんなに気にしないでください。こう見えてもおれ、結構旅暮らし長いんです。そんでこんな性格なもんだから、こういう揉め事もしょっちゅうなんです。こうして和解出来るんなら御の字ですよ」
楽しそうに歪んだ口元とは裏腹に、彼の瞳はまるで笑ってなんていやしなかった。
思えばいつもそうだ。
おどける時、ふざける時、笑う時。彼の目は笑っていなかった。
それでも彼は一通りの空虚な笑い声を上げてから、ふと我に返ったように真顔に戻ると、視線を彷徨わせ始める。
話題が望まぬ方向へ行くのを、無理にでも修正しようとしているらしかった。
「えーと……その、」
きょろきょろと、家の中を見て、
「ここ、メグさんのおうち……ですよね? あ、いや、失礼。何でも」
彼女が言っていた事を思い出しながらアカリは尋ねて、すぐに手を振って質問を取りやめる。
少し、気になっていたのだ。
家を借りているという事にこだわりを見せる彼女が、自分の暮らす場所だけは自分の家と断言した事。先日見せた町に対する感情の一端。
そして、アカリへの奇妙な敵意。
所詮は勘でしかないが、それらは全て一本の線でつながりそうに思えてならなかった。
その真意を知りたい気持ちはあるのだが、それを尋ねるのは些か無遠慮すぎる気がした。それに、尋ねたところでばっさりと切り捨てられるのがオチで、悪くすればまたしても逆鱗に触れかねないと思ったのだ。
「えぇ。ここは私の家……実家よ」
メグの答えに、少年は目を見開いた。
彼女の答えそのものに対する驚きであるとともに、彼女が答えてくれたという事実そのものへの驚きでもある。
一瞬固まってしまったアカリの沈黙をどうとったのか、彼女は意を決したように、ぽつり、ぽつりと話を始めた。
「私は、この町の出身なの」
「それは……?」
硬直から間もなく回復したアカリは首を傾げてしまう。昼間、ツネキチ老人が言っていた事を思い出したのだ。
この町の九割の人間は、元々は別の出身であると
「昔、この町にはもっと人が住んでた。でも、もう、ほとんど誰もいない」
「それってもしかして、祠都奪還作戦の後のアレですか?」
七年前の祠都奪還作戦はその作戦中も作戦後も、世界に様々な傷跡を残した。
奪還後に都を追われた魑魅魍魎による被害は勿論の事、昼間に老人と話したばかりの政治的なごたごた、そして人間による犯罪行為。
質の悪い事に、それらは全てが一度に訪れた。
「あの時は酷かった……」
七年前と言えば、アカリもメグもまだ子供とは言え、物心は十分についている。
奪還作戦への徴兵によって起きた、多くの魔法戦士の不在は、各地に魑魅魍魎の台頭を許した。
権力の奪取による急激な政府の混乱は統制の乱れを生んだ。
その二つに乗じて、良からぬ事を企み、しでかす者まで現れた。
祠都奪還作戦の二次災害ともいえるそれによって起きた被害の規模は大厄祭によるものには及ばぬまでも、それに継ぐほどの大混乱を世間に巻き起こしたのだった。
そこまで考えて、アカリはふと思い至る。
目の前の魔法少女が自身に向けていた敵意の正体。それは、アカリ個人に向けられたものではないのではなかろうか?
その敵意の向く先は?
「魔法戦士……の、ニセもんか」
絞り出すように呟く。心底忌々しそうな声だった。
「えぇ」
同じく、険しい顔でメグが肯定してみせた。
「この町も、当時、化物の被害に悩まされていたの」
「あー……なるほど。話が、見えてきましたよ」
盛大なため息をつくアカリの顔には落胆と、悲しみ、それから少しばかりの憤怒の色が滲んでいた。
何故ならそれは、彼にとっては同類がやった事。あるいは同類を真似た者による事。
どちらにせよ、彼らの誇りと名誉を傷つける行為に他ならなかったのだから。
「そんな時よ、あいつらがやってきたのは」
大厄祭の後に年々増加する化物に伴い、影に生きるしかなかった者達の需要は一気に増加した。
かつて拝み屋や霊能者と呼ばれた中でも特に力の強い本物達。彼らは魔法戦士と総称され、様々な場所でその存在が必要とされた。
そこにつけ込む輩が現れるのも、ある意味当然のことと言えよう。
元来、人は、際限のない欲を持ち、その為なら何でもする生き物だ。人類存続にさえ関わりかねない混乱のなかでもそれは変わらず、かつて排斥し、白い目で見てきた者に対し、掌を返してすり寄り、もてはやし、金になると分かれば骨の髄まで利用しつくす。
都の奪還が成し遂げられたとの報が伝わった際、国中が安堵と歓喜に包まれていた。
魔法戦士と魔法少女という存在の活躍と、彼らが正式に国の管理に入り、さらに活動規模を広げていくというニュースは、大厄祭の爪痕と終わりの見えない化け物どもの台頭によって滅びさえ予感していた人間たちにとってはまさに蜘蛛の糸にも等しい希望だった。
故に、人は差し出されたそれに縋り付く。その内の何本かが、偽りのモノとも知らずに。
そして、それはこの町も、当然例外でなかった。
「魔法戦士を名乗る、数人組だった。この町を守るために都から派遣されてきたって、そう言って、町に住み着いたのよ」
大厄祭から今日に至るまで、まともな通信手段は回復しておらず、さらに都市部からも距離のあるこの町では情報の伝達も遅く、また、その真偽を問う事も出来なかった。
勿論、彼らを疑わなかったわけではないだろう。だが、そのような悪事を働くものは総じて人をだます知恵には長けているもので、いかなる手段を講じたのか、あるいは本当に彼らが何かしらの魔術を齧ったことがあるのか、今となっては不明ではあるが、深い絶望から一転しての戦勝ムードによって些か警戒心の薄れていた住人たちが彼らを受け入れてしまったのは当然の流れとさえ言えた。
「最初は住処を要求しただけだった。それから食事の要求。徐々にそれはエスカレートしていった」
曰く、未だ政府は先の作戦で金欠に陥っているため、住人の協力が必要、と。
金や嗜好品を要求し、断れば権力を笠にし、あるいは町から去る事をチラつかせ、やりたい放題に振舞ってきた彼らだったが、終わりは案外に呆気なかった。
「ある時、町に久々に大物の化物が現れた。今までなら逃げるしかなかったけど、その時は奴らがいるって、そんな安心感があった。でも、」
「胸糞悪い話だ」
心底嫌そうに、アカリは吐き捨てた。
メグの言う話の続きは容易に想像がついた。
奴らは、紛い物の魔法戦士たちは町を救うどころか、見捨てて逃げ出したのだ。
その結果、彼らの活躍に期待していた分、初動の遅れた町は未だかつてない、壊滅的な打撃を受ける事になった。
「被害の中には、私の親もいた」
アカリが息を飲み込んだ。続いて、彼の口の中から鈍い音がする。
ぎりり、と。
歯を噛みしめ、軋ませる音だった。
「用心棒まがいの事を買って出るモグリだの詐欺師だの、あの時は結構いたからな」
「後で、知ったわ。あんな奴ら、吐いて捨てるほどいたって」
「ッ……」
アカリは片手で自身の目元を覆い隠した。
彼がやったことではない。どころか、まともな魔法戦士……彼の仲間がやったことですらない。それでもアカリはメグに合わせる顔がなかった。
「……だから、メグさんは、魔法少女に?」
かろうじて、彼が尋ねる事が出来たのはそれだけだった。
彼は知っていた。
頼ろうとした希望に裏切られ、己には何の力もない。そうなった時に人が取る行動は二つしかないと。
全てを諦めるか、さもなければ、
「私は力が欲しかった」
黙って、アカリは手元の湯飲みを傾ける。
だが、既に茶は飲み干され、器はすっかり冷たくなっていた。
「それで、ようやく念願の力を手に入れて戻ってきたけど、故郷はもう、こんな有様。笑っちゃうわよね」
言って、メグは自嘲気味に笑む。
あいにくアカリはそれを笑えるほどに悪趣味にはなれなかった。
「で、アカリは……その。何で魔法戦士なんてやってるの?」
再びの訪れた沈黙の中、時計の秒針の刻む音に耐え切れなくなったメグがそう切り出した。実の所、彼女が自身の生い立ちを語ったのは、偏にそれが聞きたかったからなのだ。
昨日の彼の発言は嘘なのは分かっている。
だからもう一度、本当の所を聞いてみたかった。何で、そんな事が気になるのかは彼女にも良く分からない。
でも、彼の事を聞くためには、こちらも本当を見せなければならない事だけは分かっていた。そうしなければ、筋が通らないと、そう思った。
「あー……」
アカリは、うめき声とも何ともつかない意味のない言葉を口にし、項垂れる。真正面から見つめてくる少女の瞳に淀みはなく、どこまでも真っすぐだった。
いつものような冗談や韜晦で返すわけにはいかなかった。
「別に隠す事じゃ、ないんですがね。大した理由じゃないですよ?」
深いため息をついて、意を決したかのように彼は続ける。
「まぁ、おれがこんな因業な稼業やってる理由ったって……まぁ、おおまかな所はメグさんと同じっすよ。何もかんも失って、どうしようもなくなって、そんな時におれが何とか掴んで縋れたのがこの道だっただけです」
いつのまにか、魔法戦士は両の目を閉じ切っていた。
瞼の裏側に広がる無間の闇に思いを馳せる。そこだけが、彼にとって唯一の安らぎを得られる場所だった。
「おれは、この生き方以外知らないんですよ。他の事をやろうにも、そんなわけにもいかなくて」
かつて、大きな戦いがあった。
多くの者が、数えきれない程のモノを失った。
傷つき、それでも歯を食いしばり、血と汗と涙を流しながらも進み続けた先で、さらにかけがえのないモノを失った。
いつだって、少しのきっかけがあれば否が応でも思い出せる。目に焼き付き、耳にこびりつき、五感に刻み込まれた記憶はいつまで経っても消える事は無い。その代わりに失った物は忘却の彼方に消え去っていく。
「それ以外に理由はないんです。ホント。昔は戦う理由もちゃんとあったし、やりたい事だってそりゃまぁ、人並み以上には色々ありましたよ。昔の漫画で見たヒーローに憧れたことだって。でも、そんなんも全部なくなっちまった。燃えて焼けて、灰になった。そんで、後に残ったのは、空っぽの抜け殻とすっかすかの灰塵、それから呪いみたいなもんだけです。進む理由はなくなって、でも、止まる事も引き返す事も許されない」
先ほどメグがして見せたように、アカリが自嘲気味に口元を歪めた。それはとても笑みとは、表情とすら言えない酷いものだった。
「……そう」
アカリが黙り込むと、一拍も二拍もおいて、メグは小さく頷いた。
それ以外に出来る事が何もなかった。
「や、真面目な話なんてするもんじゃないっすね」
脱いでいた帽子を目深にかぶり直し、彼はいつもの口調で締めくくる。
帽子に隠れた目元には、深い悲しみが湛えられているように思えて仕方なかった。
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