5


 視界に浮かぶポップアップ通知は、日に日に激しくなっていく。

 警告、警報・・、不安感を煽るような字面が浮かんでは消える。

 否が応でもタイムリミットが近いことを知らされる。


 最終爆撃まで──、残り一日。


 明日の明け方には作戦が開始される。


「・・・」


 この国からの脱出はもう叶わない。時間がないし、長距離を移動できる電力ももう残っていない。だが、やれることがないわけではない。

 残る可能性は意識データのみをネットワーク上に逃がす方法だ。身体を捨てなければいけないという問題はあるが、辛うじて死は免れることが出来る。

 というより、これ以外の方法はない。生命維持のために残された選択肢は存在しえない。

 行動指針を提示してくれるオプティマイザも、意識の書き出しを速やかに実行するよう促してくる。アンドロイドもそれは重々理解していた。


「・・・」


 本来、考えるまでもないことのはずなのだ。生物として、もとい人間としてすら逸脱した蛮行を、それに逡巡していることが生命としてバグを起こしている。


 自分を突き動かす衝動が命令やプログラムによるものではないことを、彼自身も理解し始めていた。出どころの分からない感情、それを解き明かすために命を投げ出すなど、全くもって合理的ではない。


「・・・本末転倒だ」


 呟いた言葉はすぐに夜闇に溶けて消えた。辺りは何も見えないほどに深い夜だったが、不思議と自分の五体が在るということは強く感じた。


 彼は何時間も問答を繰り返した。

 自分が逃げない理由、男への妄執の非合理性、生命維持の原則、なぜ、なぜ、なぜ・・・。

 やがて空が白みだす頃、彼の中に残った思いはただ一つだけだった。


「・・・殺さなきゃ」


 ──彼は心に赴くまま、殉じることに決めた。

 




最終爆撃、開始。

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