第14話 知らなかった笑顔を見せてくれた人
大丈夫だって確信を持てたときしか自分の考えをはっきり言えなかった。
例えば“告白”とか。
相手に気を遣わせるくらいなら“それならしょうがない”と理由をつけて、話しかけないようにしてきた。こうやって言い聞かせた方が“自分の情けなさ”を見つめないで済むからだ。そこもわかっているからこそよりダサい。でも、そういう人なんだ。僕って。
桜野さん‥舞香への告白は“勘違い”からの勢いで言うことになったけど、付き合いたい気持ちはあったしよかった。あの勘違いがなかったら、成功する告白のタイミングを、いつまでも待っていたかもしれないから。考えてきたことは全部忘れてしまう。んー、忘れると言うより実行できない?かな。だって、相手がどんな話するかなんてわからないし、その日の顔色であーしたほうがいいかな、こーしたほうが‥なんて考えているうちに、用意してきたことがどっかいっちゃうから。
自分でも白状だなーって思うけど、気になる人に付き合ってる人とか、好きな人がいるとわかると話しかけるのをやめてしまう。でも舞香に関しては、仮に付き合ってる人がいたとしても、もっと知りたいと思ってた。その人と別れさせても自分の方へ‥と、昼ドラの悪役みたいに。考えてもできるはずないんだけどね。こんなことをベッドの上で振り返りながら眠りについた。明日は初めての、2人っきりデートだ。
目覚ましよりも早く起きた。寝たんだか、ずっと目を瞑っていただけなのかわからない。8時に改札前で待ち合わせ。ゆっくり準備しても間に合う時間だ。ぬくぬくとベットから這うように出て、少し汗ばんだ顔を冷たい水で洗う。着替え終わると、外に出るぞという気持ちになって、心なしかキリッとする。玄関を開けるとムワッとした生暖かい空気。
「何時ごろ帰ってくるのー?」
「わかんなーい」
「それじゃご飯いつ作っていいかわからないじゃない」
「じゃーいらないからー」
「外で食べてばっかりだと‥」
「あーもう!だからいらないって!いってくる!」
いつもの慣れた道のりは、春の陽気のように心がソワソワしていた。待ち合わせの15分前。舞香を待つ。10分前、5分前‥3分‥2分。前屈みになっていた姿勢をスッと伸ばす。ボヤーッとした視界がだんだんハッキリしてきて、一息、フッーッ。
「おはよ!
「おはよう!さっ、行こっか!」
歩いていると、僕の右手が舞香の左手に何度かコツコツあたる。ペースに合わせながら歩くことに慣れてないので、どのくらいの距離感と速さで歩いていいのかわからない。手を繋いで歩いたら、合わせられるのかなぁ‥なんて。
「朝、おうちを出るときね?妹に『何?デート?』って言われちゃったんだ」
「あはは。え、そうだよーって言ったの?」
「ううん。恥ずかしくて言えなかったんだけど、多分わかってると思う。えへへーとしか、言えなかったから。」
デート‥。暑さとは違う汗が頭のてっぺんからジワっと出た。ホームで電車を待つ。隣を見ると舞香も汗をかいている。
「あ、なんか飲み物ある?」
「え?ううん」
「あ、そしたら買ってくるね」
自販機でお茶と水を一本ずつ。先に買ったお茶を取らなかったせいで、出しづらくてしょうがない。ガコッガコッと数秒格闘。ファーンというやかましい音と一緒に電車が来る。汗と気持ちを抑えてくれる冷房車。
「はい。お茶」
「ありがと」
「舞香、最初何乗りたい?」
何に乗りたい‥そう。これからいくのは、千葉の遊園地だ。好きな人と2人。行くことはないんだろうなーと思ってた場所に行けることになるなんて。苦手な早起きも、見栄と好きな気持ちがあるとなんとかなるもんだ。
「克樹、絶叫系平気?」
「もちろん!」
‥な訳ない。お金を払ってあんな危ないものに乗る人の意味がわからない。下手したら死ぬ可能性もあるんだよ!?それよりもコーヒーカップとか、船でゆっくり進むやつとかさ‥
「わたしジェットコースターとかすっごく好きで!」
絶叫系は面白い。そりゃそうだ。普段そんな刺激的な体験もできないし、お金を払ってでも乗りたいって気持ちになる。
「じゃあ最初はジェットコースター行こうか!」
「やった!」
ガッツポーズをして、そんな可愛い笑顔を見せられたら乗るしかないよ。舞香が乗りたいって言ったのは、スペース‥おっと。東京駅で乗り換えて、他愛もない話をしながら乗り続けていると、シンボルのお城が見え始めてきた。
「見て見て!」
景色ではなく、舞香を見てしまう。学校では見られない“彼女”の姿。同級生ではなく、彼女といる。最寄り駅は、ポスターやら道案内やらでキャラクターたちが散りばめられている。改札を出て、入り口に近づいていくとテーマソングが聞こえ始めてきた。自然と足取りも早くなり、あっちあっちと長蛇の列の後ろに着く。
「人すごいなぁ」
「お休みの日だからね。来るのすごく久しぶりなんだ」
「僕もだよ。低学年くらいのときかな?家族と車で来て以来かも」
本当はうほぉーいうほぉーいと言いたいけど、言葉と気持ちを抑えて舞香の前では「楽しもーねー」とかっこつける。それにしても思ったより人が多いな、はぐれないようにと思ったとき
「迷子になっちゃダメだよ」
彼氏と彼女が逆になったかのように、舞香が繋いでくれた手。
「えぇーっと‥舞香の乗りたいのは‥あっちから行った方が良さそうだね」
小学生に来た時の記憶でなんとなく脳内検索をかける。パンフレットもらってくればよかったな。風船をねだる子供、制服でわきゃわきゃしてる僕らと同じくらいの女の子たち、何か目当てがあるのがどこかに一直線に走っていく人。
「あれだね!」
「うん!あっちあっち!」
勉強をしたり、本を読んでたり落ち着いた舞香しか見てこなかったから‥なんか、すごくかわいい。
「もうたくさん並んでるね!」
「ほんとだ。すげー。すぐこっち来たのに。結構かかるかな?あ、待ち‥20分だって」
「早いよ!楽しみだね!」
「う、うん!楽しみ、楽しみだね!」
あと20分したら乗らなきゃいけないのか‥。で、でも隣には舞香がいるんだ。怖がってる姿なんて見せられるわけがない!だから大丈夫、きっと大丈夫、多分大丈夫‥。
「‥もしかして、怖い?」
「そんなことないよ!」
「よかった!」
「ド、ドシテッ!?」
「もしかしたら私に合わせてくれたんじゃないかなー?って思って」
「ううん!そんなそんな!楽しみよ!うん!」
「うふふ。あ、克樹は何乗りたい?」
「あの海賊のやつ乗りたいな!」
「そ、そうなんだ。あれも楽しいよね!」
「うん!海賊もかっこいし、ちょっと怖さもある感じでさ!」
「カッコいいもんね。や、やっぱり男の子だねー!」
「うん!」
舞香も好きなのかな?でもなんにしても、好きな人と一緒に乗れるならなんでもいいや!さ!今日は1日楽しむぞ!
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