第13話 知って特別な関係になった人
観覧車は、全部の方向を見回せる位置にきた。ゴンドラに乗ったなら、遅かれ早かれ降りる時がくる。今は1番上だ。
「あ、ありがと。でもね、神庭くん、さっきの』
「こういうのは男から言いたかったから」
イマイチな顔でもこんときくらいは多少いけてるように見えるだろうと、ここの中でドヤ顔をした。でも
「あ、あのね、私、神庭くんは香ちゃんを好きだと思ってたの」
「うんうん‥ええっ!?どうして!?」
好きな人をついついいじめたくなっちゃうようなアレだと思ったらしい。たくさん話すし、お互いのことよくわかってるし、冗談も言い合ってるし。誤解があっちゃ嫌だなと思い、小学生の頃から遊んでて幼馴染みたいなものだと話した。
‥と、いうよりもちょっとした早とちりで、告白したことになるのか。情けない告白。でも、後押しがなかったら言えなかっただろうし、結果よかったのかも。
「いつからそう思っててくれたの?」
実は本屋さんで見かけてから‥と正直に全部話した。それが打ち解けるため第一歩のような気がして。考えてみればアニメ好き以外のことは何も知らない。
「そういえば、吉田とはどうして仲良くなったの?あいつアニメ好きでもないし」
「実は助けてもらったことがあってね」
「え?」
クラスの決め事があるときに、あれもこれも舞香ちゃんばっかりに頼られてしまったらしい。気持ちはわかる。学級委員気質の人に任されがちになっちゃうから。性格的に断りきれずにいたら吉田が
「これは私がやりまーす!」
と。想像がつく。あの馬鹿でかい声で舞香ちゃんの声はかき消されたんだろう。本田の件といい、あいつの行動力は確かにスゴイ。
「わたしも香ちゃんみたいに、しっかり言えるようになりたい!‥って、思ってて」
「かっこいいなー、そういうの。そういうところはすごいよね。ほんとに。僕も‥あー。まぁ、ちゃんと言えないからさー」
間がもたないので、なんとなくの会話で必至に話し続けた。友達から‥恋人になった日の会話って、どんな話をしたらいいんだろう。
友達‥じゃないし、やっぱり特別な話しをしなきゃいけないのかな。でも特別ってなんだろう。もう特別なのかな。観覧車は、心の動きとは違いゆっくり下がっていく。とにかく舞香ちゃんのことが知りたい。
「呼び方‥桜野さんだとなんか‥」
「舞香でいいよ。私は克樹くん‥って言ってもいい?」
「うん。ありがと。あ、えっと、あとで本田たちには言う?その方があっちも言ってくれると思うし」
途中からダブルデートになった。地に足がついてないふわふわした感じ。観覧車を降りたら合流の時間ギリギリになっていた。隣を気にしながらも、ふわふわした足を小走りにして、本田と吉田がいる場所へ向かった。
2人は先に着いていた。いつ言い出そうかタイミングを見計らっているうちに、舞香ちゃんから報告された。帰り道、僕らは何かしたのかと言うくらい事情聴取を(主に吉田から)された。
「神庭のどこがいいの?」
「おいっ!そんな聞き方!」
でも確かにそうだ。付き合う理由、好きになるきっかけがない。聞きたいけど聞きたくない!でも知りたい。その理由は、少し間を置いてから話された。
「一生懸命に伝えてくれたから‥」
「こ、これから!!!お互いのことを知っていければね!ねっ!」
それ以上は僕の心が持たなくて話を止めてしまった。知るチャンスだったのかもしれない。でも、恥ずかしさだったのか、傷つきたくなかったのか、なんとなく聞きたくなかった。知りたかったけど、怖かったから。
学校で話すことはあっても、舞香ちゃんの塾だったり、僕の居残りテスト勉強だったり、周りに知られたくなかったってのもあったりで、2人きりの初めてデートは、夏休みになってしまった。
体育の授業がプールに変わった午後。塩素の匂いと、プールの汗を乾かしてくれる夏の風、それと給食でお腹いっぱいになった僕は、コクリコクリと眠りそうになりながら授業を受けていた。
下校時間になる。だめだ、帰ったらとりあえず寝よう‥なんて思っていた矢先、眠気が吹き飛ぶ声と匂いがした。教室を出ると目の前には舞香ちゃん。まだまだドキドキする。
「克樹、寝てなかった?」
「あははー‥聞いてたようなそうじゃないような」
「もう、受験おっこっちゃうよ?」
「お母さんみたいなこと言わないでよー」
よそいきな声じゃなくなってきた。時間はかかっちゃったけど、退屈な時間も一緒に過ごせるようになれた。周りから何か言われたわけじゃないけど、僕たちのことは多分知られている。いつものように舞香の家の近くまで一緒に帰る。
「もーちょっとで3年生かー」
「行きたい高校決めてる?」
「え!?決めてないよ!」
「もうすぐ3年生だよ?」
「うーん。舞香は決めたの?」
「うん!まだ絞りきれてないけどね」
「すごいなー。やりたいことも決まってないしどうしよっかなー」
勉強もできて可愛くて。ちょっぴり運動は苦手だけど、いつでもしっかりしてる舞香。将来のことも今から考えているなんてさすがだなぁ。どこの高校に行きたいかなんて考えられないよ。とりあえずコーラでも飲みたい。
「夏休み、どこか行かない?」
「行きたいけど‥勉強は?」
「やるけど!!でもせっかくの夏休みだしさ!」
「うふふ。そうだよね。私も夏休みくらいは遊びに行きたいなー」
僕はいつも遊んでばっかりだ。この感じだと高校は違うところに通うことになりそうだし‥勉強した方がいいかなぁ。でも今からがんばってもね。とほほ。
「舞香はどっか行きたい所ある?」
「温泉、行きたいなー」
「温泉!?」
いや行きたいけどさ!何万円必要なの?行くところにもよるだろうけど‥3万くらい?いやもっとかな‥。え、てかさ、旅行ってなると泊まり‥っ!?ちょ!?どうすんの?!
「あ!遊園地もいきたいなぁ。小さい頃行ってから全然行ってなかったから」
「遊園地か!」
それなら行けそうだ。よかった。行ってみたい気持ちもあったけど、親もいないしさすがにね‥。
「行こう!千葉にある遊園地が1番近いかな?」
遊園地なんてデートっぽいじゃん!まだちゃんと決まったわけじゃないけど、行けることを妄想したらワクワクしてきた。
「じゃあいつ行くかはLINEで決めよっか!その方が予定も立てやすいし」
「うん!ありがと」
舞香の家に近づいてきた。この帰りの20分は、どの20分よりも短く感じる。楽しい時間はあっという間だ。
「じゃあね。いつも近くまでありがと」
「いいんだよ!じゃ、帰ったらLINEするね。バイバイ」
舞香に背中を向けて歩き始めようとしたときに呼び止められた。なんだろう?と思って振り返ったとき、舞香は想像していたよりも近くにいた。
「バイバイ!」
僕はびっくりしたと同時に右足を一歩後ろに下げ、しばらくそのまま固まってしまった。
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