第10話 知ってもらってた人
あなたには“大事なもの”があるだろうか。誕生日プレゼント、お気に入りのアクセサリー、同じ好きな漫画。
好きな人“桜野舞香(さくらのまいか)ちゃん”と読んでいる漫画が同じだということが、この前わかった。その日からというのもの。この漫画『しんぼく!』はただの漫画から『舞香ちゃんの好きな漫画』に変わった。
今僕はすぐにお金が必要だ。ゲーセンでカツアゲをくらってしまった和(かず)に貸すために。そして、今週の日曜。本田、吉田、そして舞香ちゃんと遊びに行くために。お母さんにお小遣いは貰えないし、今できることとすれば‥読んでいる漫画とやらなくなったゲームを売りにいくことだけ。だいぶ前に出された漫画は何十円にしかならない。となると最近の‥“しんぼく!”を売ることになる。でもこれは‥。これだけは‥!!!あぁ、竜の大冒険はまだラスボスを倒してないし‥でも、本よりかゲームの方が売れるだろうから‥。くぅぅぅ‥。
この漫画を売りにいくと、なんとなくだけど舞香ちゃんと離れてしまうような気がする。いや、最初から近づいてもないのに離れるもなにもないかもしれないけど。でも、しょうがない。売れそうな漫画とゲームをまとめて古本屋に売りに行った。それなりに覚悟を決めたけど、なくなってみると部屋もスッキリするし、意外と良かったかもしれない。
‥もちろん、しんぼくも売ってしまった。
色々売って6000円くらい。貸すぶんも合わせたら、余計なことに使わなきゃギリギリ足りるかなってくらい。ちょっと心配だけど。
なんで“しんぼく!”のことをここまで考えているのかというと、今日のお昼にちょっとだけ舞香ちゃんと話すことができたからだ。昼休み。図書室で本を読もうと(ほんとは偶然をよそおって会えないかなーって)廊下を歩いてたら
「き、き、昨日はありがとっ!」
「こちらこそ。あ、神庭くん。しんぼくの新刊は読んだ?」
「あー!いやー、実はまだで」
「あ!そっか。そしたらまだ言わない方がいいね」
「あ、ありがとっ!」
なんてやりとりがあった。和ならベラベラとしゃべってしまうけど、さすが舞香ちゃん。ファンの気持ちがわかっているし、ちゃーんと秘密にしていてくれる。
売り終わり家に帰るとお母さんが
「漫画売っちゃったの?」
と聞いてきた
「あ、うん。ちょっとお金が必要で」
「前あげたじゃん」
和がカツアゲにあって、僕が貸す約束をした話をした。
「和くん大変じゃん」
「そうなんだよ。日曜は本田とかと遊び行くから」
「そうなんだ。そういうことなら、はい。少しあげるから」
「うん‥って、えっ!?いいの!?」
「こればっかりはね」
「ありがとっおぉぉぉ!!!」
なんと5000円も!!!うっひゃー!いつもならすぐ漫画を買いにいっちゃってたけど、今回は違う!いやああぁぁぁほんとに助かった!!!‥て!そしたらしんぼく売らなくて済んだじゃん!!お母さん、ありがたいけどちょっと遅いよ!!!
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