第9話 知って助け合う人

 朝の学校は好きなんだ。怖がらなくてもいいから。そのために朝早く来ていると言っても過言ではない。でも、その時間は短かった。本でも読んで大人しくしてるかー‥と、トイレトイレ。あぁ、昨日はここで舞香ちゃんと話せたんだよなぁ〜‥うへへぇー‥。


 ‥って、え?


 つま先でちょこちょこ走りをしながら廊下に出たとき、目の前からあの、優しくて、柔らかい匂いがしてきた。


 「え!?あ、おはよ、う。どうしたの?」


 「克樹くんっ!いいえ、克樹っ!」


 彼女が、胸に、飛び込んで、くる。優しく、柔らかい匂いが強くなる。


 「ちょっ!!あだっ!!えっ!な、桜野さんっ!?」


 「名前で呼んでくれなきゃいやっ!」


 「ええっ!?てか、そんなことされたらみんなに見られ!!」


 「関係ないわ!だってわたしたち‥」


 な、なんだなんだ。そんなに顔を赤らめて。て、おいおいおいおいおい。ち、近いぞ。なになになになに!!あぁ、ダメだって!!鼻の下が伸びているのがわかる。このままだと顔が鼻の下だけになってしまう!!


 「ま、舞香さん!?待ってえぇあぁぁぁ!!って?‥そ、その顔は!!!ええええぇぇぇ!!!」




 ‥ジリリリリリリという聞き慣れた音、そして見慣れた顔。


 「いつまで寝てんの、遅刻するよー」


 「あぅ‥」


 あんなシチュエーション、おかしいに決まってるもん。決まってる。決まってるけど‥もうちょっとだったのに!!!静かな朝の学校。先生から借りっぱなしの上履きを履いて教室へ向かう。新鮮な空気をいっぱいに吸って‥。いつもの朝。でも今日は珍しく和(かず)が来ていた。



 「あれ、和じゃん。早いね」


 「おうっ。なーんか早く起きちゃってさぁー」


 「あるある。寝たの遅かったの?」


 「おーん」


 「‥どうしたの?具合でも悪い?」


 アニメの話とか、バカ話とか、いつもならぐわぁーっと話してくる和が今日はおとなしい気がする。


 「いや、そーゆーわけじゃないんだけど」


 「???」


 「いやぁー実はさー」


 話を聞いていくと‥要は、いつも行ってるゲーセンでカツアゲをされてしまったらしい。


 「え!?店員さんに言ったり、あ、警察は?」


 「店員には言ったけどさー、て、言われましてもーって感じで。近くの交番には行ったけど、パトロールしておきます!で、終わりよ」


 「マジか‥」


 「だーから金無くなっちゃってさー。親にこういうわけだから少しちょーだいよって話したんだけど、小遣い欲しいだけだろとか言われて、ほんとだって言ってんだろ!って言い合いになって、余計もらえなくなっちゃったし」


 「いやーきついなぁ‥。」


 和にはいっつも助けてもらってる。こういうときこそ僕が何かで力になる番だ。‥って、いってもお金となるとなぁ‥。僕も困ってるし。今週‥の為に少しは貯めておきたいし‥んー‥。


 「なんか欲しいものあんの?」


 「そうじゃないんだけど、竹田に金借りてるからそろそろ返さないとまずくて」


 「いくら?」


 「3000」


 「おぉ‥借りたねぇ。んー、じゃあ貸そうか?」


 「マジ!?!?」


 「3000円くらいならなんとかなるよ。でも、ちゃんと返してくれよ?」


 「返す返す返す!!!!マジでありがと!!!まさかカツアゲされるとは思わなかったから!!!!」


 「その前に、お金借りてるのにゲーセン行くなよな」


 「えへへ。気をつけるよ。マジで助かる!!ありがと!」


 「うん。じゃ今日、うち来てよ」


 「わかった!ほんっと助かる!!!」

 

 カッコつけちゃったけど僕もお金はない。3000円も貸しちゃったらどうするかなぁ‥。漫画とゲームを売りにいく?お母さんにもらう‥んー、最近もらったばっかりだし。困ったなぁ。

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