第8話 知りすぎてた人

 午後の授業はいつも以上に頭に入らなかった。先生に指されたときも、問題どころか名前を呼ばれたことにすら気づかなかった。


 いつもなら「やばっ!」って思ってたけど全然やばいって感じがしなかった。家族とご飯を食べてるときも、ポットのお湯を並々まで入れてしまって右手はお祭り騒ぎ。左手は冷静に、ちょっと馬鹿にしているようにも見える。おい、僕の左手。やるか?このぉ。お祭りのあと、やけどをした右手で吉田にLINEをする。

 

 「桜野さんに、吉田からLINE聞いてって言われて」


 この返事もまたすぐにかえってきた。


 「(^ω^)」


 「んだよ」


 「やったやん」


 「うるせー」


 (QRコードが送られてくる)


 「ありがと」


 「日曜デートだね」


 「違うわっ!」


 「なんで?」


 「だって付き合ってないし」


 「あ、わたしら付き合うことになったから」


 「はっ!?」


 「だからダブルデート」


 「だから付き合ってないから!てか早くね!?」


 「みんなで話したあとに、LINE交換したんだよね」


 「学校にスマホ持ってきてたのかよ!」


 「まじめすぎんのも損だぞー」


 「真面目とか不真面目じゃなくて決まりだからな!」


 「さーせんしたー。とりあえずがんばれよ。わたしも応援するからさ」


 「そんなこと言われてもな。無理だろ」


 「打つのめんどいから電話していい?」


 「うん」


 「もしもし、克樹くぅん〜?あたし、実は克樹くんのことがぁ〜」


 「切るわ」


 「あーあー、ウソウソ!」


 「てかお前ら早くね?いつそんな仲良くなったん?」


 「あのあと一緒に帰ってさー、告ったんだよね」


 「はぁっ!?」


 「最初は断られたんだけど、もー好きって分かられちゃったらさーどうにでもなれーみたいな感じで」


 「おん」


 「そしたら、今はまだ好きとかわかんないけど、まずは仲良くなっていこって。イケメンだよねー」


 「お前の圧が怖かったんだろ」


 「いいのっ!そーいう付き合い方もあるんだって!」


 「よくグイグイいけるよなー」


 「ちょぉーと強引だったけど。でも神庭もそれくらいいかなきゃ、舞香ちゃんは無理だよ。たぶん、そんな恋愛経験ないと思うし」


 「僕もないし‥」


 「あ、舞香ちゃんにはまだわたしたちのこと言ってないから」


 「え!?そうなのか。まぁわかった」


 「そっちが2人になる時間も作るからさ」


 「はっ!?無理無理無理!!」


 「がんばれって!」


 「いやいや!無っ‥」


 「だぁもうっ!だからそんくらいしないと無理だって!!マジでさぁーっ!付き合いたいんじゃないのぉ!?」


 「いや、ま、そ、そりゃ‥」


 「次、いつ遊びにいけるかわかんないんだよ!?付き合うのは無理にしても、ちょっとはいいところみせとこーよ」


 「うぅーん‥」


 「アニメ好きなんでしょ?ほら、お店行きたいって言ってたし話し合うじゃん。そこで別行動するから」


 「あぁ、まぁアニメの話なら」


 「たくみと繋いでくれたのもあるし。次はほんとにダブルデートしようよ」


 「が、頑張るよ」


 「とりあえず舞香ちゃんにLINEしてあげな」


 「な、なんて送りゃいいかな」


 「えー、んー日曜楽しみにしてるねーとかでいいんじゃない?知らん!それくらい自分で考えて!じゃ!」


 「えっ!?ちょ!」


 電話が切れる。夕陽に照らされた僕の部屋にカラスの声が響く。


 「嘘だろぉー‥」


 吉田以外となんてまともに話したことないし、ましてや最初が桜野さんって。とりあえず友達追加をする。でも、そのあとのフリック操作が進まない。


 「こんばんは。神庭です。吉田に教えてもらいました」


 いやいや、かたすぎるだろ。


 「神庭です!吉田に教えてもらったよ!」


 いやいや、いきなりラフすぎないか?


 「神庭っす!日曜楽しみだね!」


 いやいや、馴れ馴れしすぎだろ。これじゃ‥あっ!!!やべっ!!


 間違えて送信を押してしまった。メッセージ取り消しは、えっと、あれ?どうすんだっけ。空中で親指をワタワタさせているうちに既読がついてしまった。


 「読まれた‥」


 返信が来るまで親指の時間が止まった。そしてその時間はすぐにきた。


 「今日はありがとう!しんぼくの話ができて楽しかったです。日曜日楽しみにしてます。」


 「こちらこそ!また学校で!」


 「(スタンプが押されました)」


 可愛いクマがお辞儀をして「ありがとうございます」と書いてある。


 この返事だと明日も話に行くからみたいになってない!?‥話に行ってもいいのかな。

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