第7話 知られてた人


 あれを話そう、これを話そうと思ってたけど、遅れてきてしまった罪悪感で全部忘れた。みんなが集合したから10分は経っていたらしい。違うんだ。言い訳をさせてほしい。少しでも盛り上げようと色々考えて。あぁ、神様。一生のお願いをここで使わせてください。時間を戻して。


 「おせーよ!ビリ太郎!」


 「ごめんてっ!いやっ!太郎どっからきた!?」


 「おうっ」


 「本田。ごめんごめん、ほんとに。」


 「いやっ、大丈夫だよ。それより」


 本田が顎で指した先には、1人の美少女が凛と背筋を伸ばして立っていた。僕の猫背が治る。初めましてというべきか、まずは遅れたことを謝るべきか、楽しいジョークでも言うべきか‥と、思っていたら、その第一声は舞香さんから。


 「あっ、あなたは、朝の」


 「え?舞香ちゃん、知りあい?」


 「ううん、今朝私のせいでぶつかりそうになっちゃった方で‥」


 「おまえっ!!どこに目ついてんだよぉっ!!」


 「ちがっ!!ぶつかりそうになったのは僕のせいで!!て、え、覚えられ‥、あ、いやっ。えっと、はじゃ、初めまして。か、神庭克樹って言います。よろしくお願いします」


 「初めまして。桜野舞香と言います。こちらこそよろしくお願い致します」


 「あり、ありがとうございますっ。えっと、みんなは‥?」


 「もー自己紹介は終わったよ!来るの遅いから!」


 「すびばせん‥」


 「で、どこ行く?」


 「うそんっ!そこまで話進んでるの?」


 「日曜日にねっ。このへんじゃーつまんないしぃ〜。神庭、どっかいいとこある?」


 「え!?あ、うーんと、お台場っ!お台場なら遊ぶ場所もあるだろうし、いい‥」


 「却下」


 「なんでっ!?」


 「普通すぎるもん。なんでそんなありきた‥」


 「私はいいと思いますよ。実はまだ行ったことなくて、いつか行ってみたいと」


 「いいね!お台場!決まり!神庭、たまにはいいこと言うね!」


 「おいっ!今却下って!!!」


 右足をぐっと踏まれ、おまけに3回くらいグリグリされた。


 「いぎっっ!」


 「舞香ちゃん、どこか行ってみたいところある?」


 「みんなは好きじゃないかもしれないんだけど、私の好きなアニメグッズを売ってるお店があって‥」


 「へぇー、舞‥桜野さんもアニメ好きなんだ、、、ですか?」


 「なにそれ(笑)おないなんだから、タメでいいじゃん」


 「あぁ、そ、そうだよね。えっと、桜野さんもアニメ好きなの?」


 「はい。しんぼくは毎週見ていて‥」


 「うそっ!?ほんとに!?僕も見てるよ!!!」


 和と話していたゆきちゃんが出ているアニメだ。まさか桜野さんも見ていたなんて‥!!!


 「そうなんですか!?しんぼくの話しをできる人がいなかったので‥!」


 「かたいかたーい!こんなやつにはタメ口でいーんだよ!」


 「こんなって!お前は僕をもっとうやまえ!!」


 「ふふっ。でも、たしかに敬語じゃ喋りにくいですもんね。‥あっ。」


 「そ、そうだよね。言ってもいきなりだとね。徐々に変えていきましょ‥って、僕もだけど」


 「じゃあ決まりね!あ、そういえば、室内遊園地もあったよね?ジャイポリスだっけ?そこもいこー!」


 「あー、あったね。いいかも。」


 「‥ほ、本田くんもいいかな?」


 「いいよ」


 おいっ!お前そんな乙女な話し方してたかっ!?!?上目遣いなんかしちゃって!!!


 「舞香ちゃんもいい?」


 「うん!」


 「本田は行きたいところないの?」


 「俺は別に」


 「思い出したら、いつでも言ってね」


 「うん。ありがと」


 いや!!だからお前誰だよ!!!!そんな顔をするな!!こっちが恥ずかしいっ!!と、心の中で突っ込んでいるだけありがたいと思え‥。


 「そしたら日曜日は、駅前の時計塔に12時に待ち合わせでっ!解散っ!」


 吉田の一言で散り散りになりそうになったとき、桜野さんから


 「あの、神庭君はしんぼくの‥誰が好きですか‥?」


 と声をかけられた。本田はみんなに背を向け歩き出していた。その後を追いかける吉田


 「あっ、えっと、ゆきちゃん。ゆきちゃんかな。」


 「私も!伊藤先生の漫画がそのまま動き出しているようで‥」


 「え!?漫画も!?僕も僕も!今新刊出て‥あっ(見惚れてて買い忘れてたぁー!)まだ買ってないけど、しんぼく以外の伊藤先生の漫画も買ってるよ!」


 「ゆきちゃんのお話を学校でできるなんて‥!!」


 「さっきお台場で行きたいお店って言ってたけど、もしかして?」


 「うん!ゆきちゃんのグッズがほしくて。お台場にしかないグッズだから行きたかったんだけど、ひとりで遠くまで行くのは不安だったから‥」


 「そんなのがあるんだ!そしたら、僕も買おっかな!あ、秋葉原のアニモイト限定のしんぼくグッズ知ってる?」


 「えぇー!」


 「あるんだよ!たしかぁー‥って、あっ。そろそろ休み時間終わっちゃう」


 「今日の休み時間はあっという間だったなぁ。いつも1人で本読んでるだけだから」


 「そ、そうなんだ!でも、本読んでるのっていかにも頭いいーって感じでかっこいい!僕なんて友達とアニメの話してるくらいだから(笑)じゃあ話の続きはライ‥」


 いつもの癖でLINEするからと言いそうになった。だけどもちろん、桜野さんのLINEなんて知ってるわけがない。


 「あ、ら、LINE聞いてもいい‥?」


 「うん。いいよ。そしたら香ちゃんに聞いてもらってもいい?」


 「わかった。ありがとっ」


 このときの“ありがとっ”は、いつもより声が低くしていた。

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