第5話 知られた人

 吉田にLINEをする


 「本田と遊ぶ約束できたよ」


 張っていたのかと思うほど返信が早かった


 「マジでっ!!!?はやっ!!!舞香ちゃんとどんだけ仲良くなりたいんだよ」


 我ながら思う


 「そっちも声かけてよ」


 「わかってるって!で、どこ行くの?」


 「決めてないよ」


 「じゃ明日昼休みに舞香ちゃんとそっち行くから本田くんにも伝えておいて!」


 「わかった」


 ‥って。もう!?いやいやいや。待って待って。こっちにも心の準備があるんだよ!嬉しいけど、こんなにとんとん拍子に決まるものなのか?あ、え、じゃあ本田にも言っておかなきゃじゃん。


 「明日昼休み、うちの教室の前に来て!吉田もくるから遊びの話しよっ!よろしく!」


 布団に入る。特に変わったイベントがあるわけじゃないのに、なんだろう。寝ている時間なのに目がバキバキに覚めてる。


 「‥寝れんっ!!!」


 毎日舞香さんのことばっかり考える。どんな本が好きなんだろう?あそこの本を見てたってことは勉強かな?きっと頭のいい高校に行くんだろうなぁ。てか、遊びに行ったりするのかな?ゲーセン行ったり、秋葉行ってるイメージないな。って、僕と一緒にすんなよなっ。女の子が行くようなお店行くのかな?って言ってもどこだ?って、遊ぶとしたら誰と行くんだろ?誰と仲いいのかな?って、なんであんな吉田と友達なんだよ‥。きっと、断れない性格なんだろうなぁ。もしかして遊びに誘われても断れないんじゃないかな?だって本田も僕も知らない人なんだよ?そんな人と遊びに行こうって言われてもまず誰?って話だし。でも、吉田とも仲良くなるくらいだから、誰とでも話せるくらいコミュ力が高いんだろうな。そしたら来てくれるかも?あー、本田は大丈夫だろうけど、僕は意識しちゃうだろうから、あのあの‥とか言っちゃって変な奴だと思われるかもなぁ‥。そんなこと思われるくらいならいっそ、最初から知られない方がいいかもしれない。いや、でもそうするとずっと話せないままになっちゃうなぁ。話したいし知られたいけど、変な奴だと思われるのは嫌だし、えぇーどうしたら‥。




 けたたましい目覚ましの音で目が覚めた。妄想をしているうちに寝てしまったらしい。いつもよりも寝不足気味な気がする。


 今日は‥!!!昼休みにっ!!!楽しみと不安といとしさと切なさと心強さをぐちゃぐちゃにした気持ちのまま学校へ向かった。


 上履きはない。そんなことはどうでもいい。静かな朝の学校、ひんやりとする廊下。眠たさとドキドキで感情がおしくらまんじゅうしている僕。大きく息を吸うと、体の中にひんやりとした空気が入ってくる。落ち着けー、落ち着けー。昼休みはまだ先だぞー。


 教室へ向かう。階段をのぼり、踊り場のところでまた大きく息を吸う。また階段をのぼり右に曲がるとすぐに僕の教室がある。本でも読んでれば気が散るかな。あ、和(かず)から借りた本読んでなかったから読むか‥


 なんて、考えていたら死角になっている廊下の向こう側から来る人に気づかなくて、危うくぶつかりそうになってしまった。


 「だあっ!!!すいませっ!!!」


 「こちらこそごめんなさい」


 「と、とんでも‥」


 「大丈夫でしたか?」


 「は、はひぃ」


 「本当にごめんなさい」


 お互いに頭を下げる。ぶつかりそうになった彼女は、そう“舞香さん”だった。

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