第4話 知るための人

 注目されてこなかった人生だった。勉強もできないし、運動もできないし、イケメンでもないし、ゲームも上手くない。夢もやりたいこともなく、友達とアニメについて話すのが楽しみなだけの僕。


 でも、初めて「あの子と喋ってみたい」っていう夢(?)ができた。学校に来たいと思える理由ができた。なんとなく行っている学校が「あの子がいる場所」になった途端、楽しみになった。大袈裟かもしれないけど、希望の光っていうか。楽しみが増えるとこんなにも変わるもんなんだ。いっぱい話して仲良くなって‥僕だって男だから考えなくもないけど、まさかね。話せるだけでもいいだっ。


 ‥でもまずはなんにしても、知り合うところから始めないと。


 生暖かくなってきた季節。廊下は相変わらず冷たいけど、心はあったかい。希望の光のおかげなのかな。2階の廊下の窓から校庭を見る。校庭には、給食で蓄えた元気をフル活用して遊んでいる同級生たちが駆けずり回っていふ。サッカーをしたり、大縄をしていたり、半分のタイヤのやつに座って話していたり。本田はサッカー部だ。多分、あの中にいるんだろうなー。


 探しにいきたいけど、あの中にわざわざ「ねえねぇ」と話しかけに行くのは変だよなぁ。でも話しかけにいかないと‥。あ!LINEすれば‥って、あっ。そういやあいつと交換してなかったっけ。どうしようかなー。冷たい廊下をとぼとぼ歩く。


 すると「おうっ」と声をかけられた。


 「おんっ‥ん?あれ、本田?」


 「昼休みなのに中にいんのかっ。遊びいけばいいじゃん」


 「そういうおま‥って、え、手どうしたの?」


 「あぁ、部活で」


 本田の左腕は包帯でつられていた。1週間前、サッカーの試合で相手とぶつかり打ちどころが悪く、転んだ時に変な手のつき方をしてしまったらしい。利き手じゃなかったのが不幸中の幸い。生活に支障はないらしい。本田いいところにっ!と思ったけど、この状態じゃ。


 「あんさっ、久々に遊び行かねっ?」


 「え?平気なの?」


 「サッカーはできないけど元気だからね。気使ってくれてんのか誘われなくて。どーせ暇だろ?」


 「どーせって。まっ、そうだけど」


 「そしたら、今週どう?」


 「うん。いいよっ。あ、」


 「ん?」


 「ダ、ダレカ、サ、サイマスカ‥?」


 「いいけど。誰誘うの?」


 「えっと、あっと。よっ。吉田と遊びいこーって言っててそんで誰か他にも誘おーってなってたんですけど、だからあれで遊ぼーみたいなそれで」


 「吉田?お前らって」


 「違う違う違うっ!!!!そうじゃなくてこーかん条件、あっ。じゃなくて、まぁ。えっととにかくさっ!!!ね!」


 熱のこもった圧と語気に、単なる遊びの誘いとは違うものを感じたのか、いつもは淡々としている本田が少し動揺しているように見えた。


 「あっ、そうだ。そういえばLINE交換しておこうよ。


 「あれ?してなかったか。うん。いいよ。じゃあ放課後、神庭ん家行くわ」


 「わかった!ありがとー!」


 この日がきっかけになったのかもしれない。心がワクワクしているのを感じた。

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