第2話 知りたかった人

 朝学校へ行くと、いつも通り上履きがなかった。靴下の裏が汚れるのが嫌だけど、今日はそんなことを言っている場合じゃない。なぜなら今日の僕は、刑事だからだ。あの人探さなくちゃいけない。依頼人は僕。


 「おっすぅ〜」


 アニメ好き仲間の小田 和(おだ かず)だ。僕がいじめられていることは知っているはずだけど、そこには触れずにいっつも一緒にふざけてくれる。


 「ういっ」


 と挨拶変わりに股間にタッチしてくる。僕たちはストロング小林と古舘伊知郎かっ。


 「神庭!!!見た!?ゆきちゃん可愛かったよなぁー!録画したから今度うちで見ようぜっ!」


 「マジ!?寝落ちしちゃったから助かるわぁー」


 学校だけじゃなく、そっちでも助けてくれるのかっ!


ーーーーーー


‥あぁ。和の連絡先聞いておけばよかった。一緒に飲みに行ったりしたかったなぁ。


ーーーーーー


 朝は空気がひんやりとして、時間が止まっている感じがする。いつもはうるさい学校。このまま時間が止まってくれたらいいのになんて思っていると、だんだん人が増えていく。ぶるっと身震いした。


 「ちょっと、トイレ。」


 「いっといれ」


 「つまんなっ!!!」


 つまんなくたっていい。こういう返しをしてくれるから和はいい奴なんだ。トイレの前まで来たときふと


「あっ。上履き」


 廊下はいいけど、トイレはさすがになぁ。しょうがない。借りに行くか。職員室に向かうのには、下駄箱の前を通らなくちゃいけない。あぁ、またうるさい学校生活が始まるなぁー、いやだなーと、嫌悪感と尿意を感じながら歩く。


 「失礼しまーす。2年4組神庭です。上履きをかりにきましたー」


 「ないの?」


 「いやー忘れちゃって、へへっ」


 「なんで持ってかえんだよ」


 「汚かったので洗ったんですけど、そのまんま忘れちゃって」


 「そこの段ボールに入ってるから、自分のサイズもっていきな」


 「ありざまーす。失礼しましたー」


 あんまり職員室に居たくない。あー、どんどん増えてきたなー。うわっ、あいつらも来たか。今日もなんか言われるんだろうなー、いやだなー。


 下駄箱の前を通ったとき、いい匂いがした。洗剤なのかシャンプーなのか止まって深呼吸したくなるような優しい匂い。女の子と手を繋いだこともない僕は、ちょっと恥ずかしくなった。ポッケに手を入れ、下を向きながら歩きを早める。歩いている人に軽くぶつかってしまった。



 「あっ、すいませっっ!」


 「いえっ。わたしのほうこそ」



 深く頭を下げたその人。あぁ、このいい匂いなのはこの人のなんだ。


 「あれ。え!?!?もしかしてっ」


 その人は、図書室へ入っていった。追いかけようと思ったけど、知らない人だ。でも、顔をちゃんと見ることができた。

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